妖夢は走っていた。
主に与えられた使命を遂行しようと期限ギリギリまで粘っていたが、結局間に合わず太陽は既に西の空に沈み掛けている。
「どうしてこんなにも『春』が少ないのかしら。普段ならもっと集められているはずなのに……」
妖夢の手には桃色に輝く桜の花びらの入った瓶があった。
普段はこの瓶一杯になるまで、少なくとも8割程になるまで『春』を集めることができる。しかし今は半分にも満たない。
『春』をとりすぎた?
それはない。今は春に近づいているから『春』が日に日に増えていくことはあっても、こんなにも一度に減ることはない。
妖夢が突然立ち止まる。その額には一筋の汗が流れている。
誰かが『春』を集めている?
幻想郷の春がこんなにも来ないのなら、異変と捉えられ『巫女』が動き出しているのかもしれない。
もう一筋先程よりも大きな汗の粒が妖夢の額を流れる。
白玉楼までそう遠くない。もしかしたら……
妖夢は最後まで考えることなく、先程よりも速く、強く走り出した。
~~~~
「ルールは簡単。飛ぶのは禁止、他は何でもあり。オーケー?」
「問題ねぇよ」
霊夢とムゲンが向かい合う。その距離は遠くない。一歩飛び出せば届く距離である。
上空では魔理沙と咲夜が二人の様子を見て賭けを始めていた。
「どっちが勝つと思う?私はサムライにキノコ半年分だ」
「それじゃあ私は赤白黒に赤ワイン二日分ね」
「なんだ?いつもなら『ワイン一年分かけても構わないわ』って言うところだろ?」
「今回は実力的に拮抗しているからあんまり大きく賭けたくないのよ」
「どっちが勝つかわからないから盛り上がるんだろ?」
「人生楽しそうね……」
「お前はギャンブルをもっと楽しむべきだな」
「結構よ」
二人の話に耳を傾けることなく二人は身構える。
「私から行くわよ」
霊夢が飛び出す。二人の距離は一瞬で縮められる。
お払い棒を最小限の動作で振り下ろす。
様子見の一手としては十分だ。
ムゲンはその一撃を刀で受け、弾くと横凪ぎに空を切り裂いた。
~~~~
「なぁ、咲夜」
「何よ」
「この場合賭けはどうするんだ?」
「無効に決まっているじゃない。
乱入者は賭けの対象外よ」
……
霊夢とムゲン、二人とも肩で息をしておりその呼吸が闘いがまもなく終えることを告げていた。
「しぶといわね」
「そりゃあどうも」
戦闘開始当時の活力が二人からは消えていた。短い言葉のやり取りを繰り返す。相手よりも余裕であることを見せつけるための精一杯の悪足掻きである。
日はまもなく沈む。二人が戦い始めてから一時間以上経っていた。
「なぁ」
「何?敗けを認めるの?」
「負けてねぇし、認めねぇ」
「じゃあ何?」
「太陽はいつ沈む?」
「夕方よ」
「夕方はいつだ?」
「今よ」
「悪いが俺の勝ち逃げ…だ……」
ムゲンが倒れる。
その時、霊夢の脇を小さい影が走った。
「ムゲンさん!!」
銀髪のボブカットに黒いリボンつきのカチューシャをし、緑色のワンピースを着た少女ががムゲンを支えていた。