速い……
妖夢は自身の放つ弾幕を尽く避け、反撃を正確に当ててくる魔理沙に対しそう感じた。実際妖夢の弾幕を避け続けている魔理沙は人間の中ではダントツで速い。天狗や吸血鬼など明らかな種族による差があるものを除けば、幻想郷の中でも上位にはいるだろう。
強い……
魔理沙は淡々と難易度の高い弾幕を撃ち、集中力を切らさない妖夢に対しそう感じた。実際妖夢は強い。幻想郷の中でも五本の指にはいるほどの剣豪であり、相手の懐に入るときの瞬発的な速さにおいては天狗をも凌ぐと言われている。
互いに僅かな気の緩みさえも許されない緊迫した戦いを繰り広げていた。そして、その様子を後方から見守る霊夢と咲夜にもその緊迫した空気が届いていた。
「ところで貴女は勝ったの?」
「当たり前でしょ?……って言えればいいんでしょうけどね」
霊夢は先程までのムゲンとの戦いを思い出していた。
結果的には勝ちだったのかもしれない。しかし倒れる寸前までのムゲンの目を思い出していた。獲物を狩る鷹の目……そう形容するのがいいのだろうか、鋭く睨み付けるような目だった。あの戦いにおいて自分は正しく狩られる側であり相手の斬撃を必死に避けながら、離れた位置から弾幕を張ることでしか攻撃ができなかった。
今回の勝利は弾幕ごっこという特異(得意)な戦いの状況を作ることができたからこそのものであり、弾幕ごっこを行わない男同士の決闘であれば勝てる保証などないと霊夢は考えていた。
「まぁ、私が男だったら負けていたかもしれないわね」
「あら、じゃあ勝ったってことは霊夢は女の子だったのね。驚いたわ」
「は?どこをどう見たら私が男に見えるのよ!」
「それだけ元気があれば十分ね」
ここで咲夜の目の色が変わる。言いたいことはわかるでしょうけどと前置きをし口を開く。
「恐らく、この戦いのどこかであの侍は目を覚ますわ。そうなったら私と魔理沙で真ん中を開けるから一番上まで駆け上がりなさい」
「わかったわ。それと、あの侍の名前はムゲンよ」
意外であった。霊夢はよく言えば中立の立場である。しかしそれは裏を返すと誰にも深入りしないということを表していた。
悪いことをすれば罰する、それだけの存在であるハクレイの巫女がただ数回会っただけの男の名前を訂正することは咲夜にとっては予想だにしなかったことなのである。
咲夜はその様子を見てそれほどまでに彼の存在は大きさについて改めて認識した。
「珍しいわね。貴女が人の名前をすぐ覚えるなんて」
「物覚えはいいのよ。ただ気にしないだけ」
「彼のこと気になるの?」
咲夜が僅かに口角を上げながら質問する。いたずらをする子供のような笑顔、実際咲夜もいたずら心から質問をしているようである。
「あんた、わざと答えにくい質問をしてるでしょ」
霊夢はそれ以降口を固く閉じ、魔理沙が妖夢に追い詰められる様子を眺めていた。