ムゲンは焦っていた。しかし、主の命を守れなかったこと等というものは強敵を見つけたムゲンにとってはどうでもいいことではある。ただ、強いやつがいた。それだけでムゲンの体は動いていた。
肩で息をする。視界が霞む。音が頭で響く。指先の感触が鈍る。それでも立っていた。
「しぶといわね。そろそろ倒れてくださると私としてもあの巫女からいいとこを取られなくて助かるのだけど?」
ナイフを両手に持ち、肩を大きく揺らしながら咲夜が尋ねた。
霊夢はそろそろ上に着いただろうか。
魔理沙はそろそろ銀髪を倒しただろうか。
共に来た悪友の心配をしながらも、そんな余裕もなくなりつつあった。
「貴方に尋ねてみたいものだわ。突如目の前に現れるナイフをどうやって見切っているのか」
余裕を見せる。苦しい姿を見せてはならない。
何故ならば、満月は完璧でなければならないから。
何故ならば、満月の名をもらった御嬢様に見せる顔がなくなるから。
何故ならば、完璧な『十六夜咲夜』でい続けなければならないから。
追い込まれていく、自ら追い込んでいく十六夜咲夜に対してムゲンが口を開く。
「知るかよ。目の前に刃物があれば避けるし弾く。それだけだ!」
猪突猛進、唯我独尊、自己中心、軽挙妄動……ムゲンを蔑む言葉はいくらでも頭のなかに思い浮かぶがどの言葉も彼の性質を示す、彼自身を構成する言葉でしかなかった。
「貴方は馬鹿ですね」
咲夜はそう呟いたが、ムゲンという男はそういう男であった。
頭足らず、考え足らず、我慢知らず、自分のやりたいことのみを全力でする。そういう男であった。
そうして、十六夜咲夜の中で結論が出た。
両手に合わせて10本持っていたナイフを太股のナイフホルダーに直すと、十六夜咲夜は微笑みを浮かべながら両手を上に挙げた。
「降参よ。打つ手なし。相性が悪すぎる。突然、現れるナイフを全て見切ることが出きるなんて聞いていないもの」
そう言うと咲夜は突然消え、再び現れた。
その腕には緩く目を閉じた魔理沙の姿があった。
胸部が動いていることから気を失なっただけのようだ。
「貴方のバディの御嬢さんも勝ったようだし、これ以上の足止めも必要ないわね」
妖夢が勝ったと聞き、ムゲンは慌てて空を見た。
肩で息をさながらも、右膝を手で支えながらも、全身に傷をおいながらも、必死に立つ妖夢の姿があった。
「ガキ!!」
ムゲンが空に向かって叫ぶ。妖夢は左手を小さく振りながら笑った。
その笑顔は妖夢の幼い見た目には合わない、弱々しく、ひきつったような笑顔であった。
「おい」
ムゲンが咲夜の方を向き声をかける。
「ここでは、負けたものは負けた事実を真摯に受け止めることが決まりよ。負けたものは負けたものらしく振る舞うことがマナーでありルール」
ムゲンの意思を汲み取り咲夜が答える。先程までの殺伐とした十六夜咲夜はもはやいなかった。
「それじゃあ、あのガキを少し休ませてやってくれ、動けるようになったら上に来るようにいってくれ」
「意外と紳士なのね。情でも湧いた?」
「兄弟子だからな」
それだけを伝えると、ムゲンは長い石段を上へ上へと登っていった。
西行寺幽々子のいる白玉楼へと続く石段を、博麗霊夢のいる白玉楼へと続く石段をかけ上がっていった。
うまい人は戦闘描写だけで数話書けるんだろうな~、と思いながら、自分の力不足を痛感する今日この頃です。