ムゲンが白玉楼につくと、霊夢と幽々子が弾幕ごっこを繰り広げていた。
妖夢と魔理沙の闘いを気を失って見逃したムゲンにとって初めての弾幕ごっこであった。
ムゲンにとって闘いとは血生臭いものであった。
刀を振り、相手に当たれば相手の血と臓物の臭いが一面に広がる。自分に当たれば自分の血と臓物の臭いが一面に広がる。それだけであった。
しかし、目の前で繰り広げられている弾幕ごっこは美しさを追求した新しい闘い方である。そこには血の臭いも飛ぶ血飛沫もなく、七色に輝く光弾が夜空をところ狭しと飛び交っていた。
ムゲンは言葉を失い、暫しこの闘いの行く末を見守ることにした。
空にムゲンの居場所はなかった。
ムゲンが空を見上げ、闘いを見守ることを決めた頃、妖夢は石段を駆け上がろうとしていた。
「待ちなさい」
咲夜に腕を捕まれ、止められた。妖夢は尚も上へ向かおうとしていた。自分に力が残ってるならば咲夜を引きずってでもムゲンのいる白玉楼へ、主が闘う白玉楼へと向かいたかった。しかし、自分にそれだけの力が残っていないことを悟り、走るのを止めた。
「貴女が行っても足手まといよ。主もサムライも助けられない。わかるでしょう?」
咲夜の言葉が胸に刺さる。言い返したくとも言い返せない。正論であった。
「私はそこの魔法使いに勝ったわよね?」
妖夢はうつむき加減で小さく呟いた。
「そうね。貴女はそこで横になっている脳筋魔法使いに勝ったわ。それは事実。でも私に勝ったサムライが貴女を休ませるように命令したことも事実。そうでしょ?」
言い訳もでない。ムゲンの妖夢を思っての行動を無下にすることは出来ない。しかし、直ぐにでも上に行きたい。
「貴女にできることは今は休んで、気持ちを落ち着かせることよ。それ以外は許さない」
咲夜が妖夢を睨む。ムゲンの鋭い目付きを意識してみたが、あの強く、恐ろしい目付きの鋭さはどうも無理なようである。咲夜の睨みは強い目をしていたが、どこかで相手を諭す優しさのある目であった。
しかし、今の妖夢にとって目の前で睨む咲夜はさほどの意味を持たない。妖夢は咲夜に対し睨み返していた。
「考えを正さないなら何度でも教えて上げる。今の貴女じゃハクレイの巫女をどうすることも出来ない」
「それでも……」
妖夢は咲夜の腕を振り払おうとする。しかし、強く捕まれた腕は振りほどけなかった。
「勇者の愚行はまだ許せる。しかし、愚者の愚考の果ての愚行は許さない」
そう言われ、妖夢はその場に座り込んでしまった。
「わかりました。せめて貴女の腕を振り払えるようになってから上に向かいます」
「それが賢明よ」
咲夜は座り込んだ妖夢を見て腕を離した。
「ところで……」
「何かしら?」
妖夢が咲夜を見上げながら話を切り出す。
「貴女達どうやってここまで来たの?普段、ここは顕界とは結界を挟んで断絶されているはずなんだけど?どうやってここを見つけて、どうやってここに入ったの?」
「ここの結界を抉じ開けたのはあの巫女。ここにはこれを辿って来たわ」
そう言って咲夜は懐から小瓶を取り出す。
小瓶に入っていたのは輝く桜色の花びらであった。
「それは」
妖夢は咲夜が取り出したものを見て飛び上がった。
「そこの優秀な魔法使いによるとこれは春の欠片みたいなものだそうだけど。そうなのね」
妖夢は無言で頷いた。
「こんなものを集めて何をする気?まさか、どこかの巫女や魔法使いと同じように花見がしたいからなんて言わないでしょうね」
妖夢は何も言い返せず、ただ、俯いていた。
しかし、その頬は薄く赤に染まり、図星であることが明らかであった。