ムゲンは独り、座禅を組んでいた。
八雲紫を斬るため、妖夢の手本であり続けるため、強くなければならない。誰よりも。
襖が緩やかに開く。
「ムゲン、ここにおったか」
魂魄妖忌。ムゲンと妖夢の師であり、妖夢の祖父である。今はその役をムゲンと妖夢の二人に託し、趣味と無限に来る退屈と戦っている。
「なんだ、じいさんか」
ムゲンを探していた。妖忌は確かにそう言っていた。
「なんか用か?」
ムゲンが足を崩す。
「仮にも昔の師の前だ。足は正せ」
ムゲンは渋々と足を正す。
ムゲンは妖忌に教えを請うていた間、一度たりとも勝てていない。
「俺が勝ったらテメェの指図は受けねぇ」といった手前、妖忌に逆らうことはできない。それとに加え、「強いものには逆らわない、逆らえぬほど強い」という思いが妖忌に逆らわさせないでいた。
「紫嬢に聞いた。手前はこれからどうするか?」
これからのこと。紫を斬る、強いやつを斬る。それしかなかった。
「強くなる」
ただ一言、たかが一言、されど一言。
静かに強く、確かにそう言った。
妖忌はその言葉に満足した様子で、長く延びた髭を撫でる。
「かく言う儂も、強くなりたいが為に刀を振った。しかし、じゃ。手前は長ごう生きてあと四十、刀を触れるのはあと二十。その後はどうする?」
ムゲンは言葉に詰まる。刀を持てなくなったら……等ということは産まれてから考えたこともない、物心着く頃から何かしらの刃物を持ってきた。
「わからねぇ。だが……」
先程よりも弱い声。ムゲンの無尽蔵な自信は姿を見せなかった。
「だが、はなしじゃ。いい言葉を教えてやろう。『人世をば一夜と見し頃、人も又、星の瞬きと見つけけり』。わかるか?」
ムゲンが口を開こうとする。
知らないと伝えるために。
そして、遮られる。
「まぁ、手前にはわからんじゃろうな。人の世を一つの夜と見れば人の一生など星の瞬きとそう変わらぬという意味じゃ。人など儂らに比べてしまえばつい先日まで赤ん坊同然よ。そして、手前の何倍も生きてきた儂の孫は手前の何倍も妖を斬ってきた。そして、儂は孫の何十倍も生き、何十倍もの妖を斬った。そして、紫譲は儂の何倍も生き、何倍もの妖と闘ってきた」
一呼吸置く。
「ムゲン、紫嬢を斬ることはできるか?」
単純な問いである。
しかし、ムゲンは答えることができない。
八雲紫を斬る想像ができない。
刀が当たったと思えば消え、背後に突然現れる。
斬れたと思えばそこには既にいない。
「斬ればわかる。斬れればそいつは斬れるやつだ」
自身を持ってムゲンが答える。
ムゲンらしい、単純な答え、そしてムゲンの心髄。
「斬ればわかるか……。手前らしいのぅ」
妖忌はただ、これから起こるであろう娯楽を楽しみに髭を撫でた。