神社の庭で紫と向かい合う。そして、霊夢はその様子を縁側に座り眺めていた。
まず、紫が口を開く。
「では、あなたに与えるハンデを決めましょうか」
紫はムゲンの力量を舐めきっている。しかし、それはムゲンの力量を見誤っているのではなく、単純に自分の方が上だと確信していたからである。
「ハンデなんているか、ボケェ!」
「そうですね。私が行える攻撃は戦闘中に2回までとしましょう。そして私に一太刀でも浴びせることができたら貴方の勝ちで構いません。これでいいですか?」
ムゲンの汚い挑発に乗ることもなく淡々と自分のペースで物事を進める。八雲紫はそういう女である。
自分が無視され、しかも有り得ないハンデを与えられた。ムゲンは、よく言えば真っ直ぐ、悪く言えば猪のような男である。走り出せば止められない。
……本人でさえも。
「止めときなさい。紫は避けるだけの勝負なら本当にチートなんだから」
霊夢が横槍をいれる。勝負の結末に興味を抱いている様子もなく、心底どうでもよさそうな態度で頬杖をついている。
「うるせぇ!ガキは黙って見てろ!!」
「チートって貴方が言っても説得力無いわよ」
二人が反応を見せる。
霊夢が言ったことは事実である。紫が『主に境界を操る程度の能力』を遣い、スキマに隠れれば刀など当たるわけがない。そして、ムゲンは見たところ幻想郷に来て日も浅くここの妖怪が、八雲紫という妖怪がどのような戦い方をするのか理解していない。
(まぁ、刀を振り回してる限りムゲンの勝利は無いわね)
というのが霊夢が導きだした結論である。
「二人とも用意はいい?」
「おう!」
「私はいつでも」
「それじゃあ……始め!」
「どぅおらっしゃぁ!!」
ムゲンが大振りで飛び込み、斬りかかる。
紫は小さく笑うと足元にスキマを展開し消えた。
「どこ行きやがった!?」
ムゲンは大声をあげる。
「ここですよ」
すぐ右側から声がする。そして、ムゲンがそちらを向くと紫が首だけの状態で浮かんでいた。
ムゲンは一歩左へ退き紫のいる方向へ再び飛びかかる。
「それでは、貴方が何故負けるのか、一から説明してあげましょう。まず、私の力を見誤ったこと……」
ムゲンの刀が届く前に紫は消えた。
「次に、魑魅魍魎が住み着くこの幻想郷で相手がどのような能力を使うのかもわからずに戦闘を始めたこと……」
紫はムゲンの真後ろに現れたが、横凪ぎの一撃が届く前に消えた。
「そして最後に……」
紫の言葉をムゲンが投げた小刀によって遮られる。
「誰が誰に勝てないって?」
ムゲンがゆっくりと口角を上げた。悪魔のような微笑みに霊夢はそこらの妖怪よりも妖怪らしいと感じた。
「すみません。私も貴方の実力を見誤ったようです。小技などはできないと思っていました」
紫の目が鋭くムゲンを睨む。
「今さら取り決めを変えるつもりはありませんが、少しだけ本気になりますね」
「そりゃあどーも」
紫とムゲンが再び構える。
ムゲンは腰を低く構えるスタイルである。
一方の紫は自然体でじっとムゲンをにらみ続けていた。
「そういえば、貴方が勝てない最後の理由を言っていませんでしたね」
「まだ俺が負けると思ってんのか?」
「難しい質問ですね。どう答えても貴方を傷つけそうで答えの選択がとても難しいです。」
紫の言葉にムゲンがキレた。
右足の膝が僅かに屈曲し、ふくらはぎに血が溜まる。ATPやクレアチンリン酸、Ca 2+などの複雑な説明を全て省き、目の前の現象だけを語るとするならば……
ムゲンが跳んだ。
今までのどの跳躍よりも速く、遠く、強く跳んだ。刀を振り上げ、着地と当時に振り下ろす。
紫はそれをスキマにかくれることなく迎え撃つ。振り下ろされた刀を自分の日傘で弾いた。
「これで一回です。そして……」
そして刀を弾かれ顕になったムゲンの胸元へそっと近づいた。