人里への遣いに行ってから一月が経った。気温も上がり、ところどころで桜の花が開き始めていた。
「幽々子様、そろそろですか?」
「まだ足りないみたいね。けど、もう少し……」
白玉楼の主である西行寺幽々子と庭師兼剣術指南役の魂魄妖夢は縁側に腰を据え、庭に広がる桜の林を眺めていた。
「何話してんだ?」
庭で刀を振っていたムゲンが幽々子たちに近づいてきた。その額には汗が滲み出ており気温が上がってきたことを報せていた。
何でもありませんよ、と幽々子と妖夢は答えた。
「妖夢、ムゲンさん。お願いがあるのだけど、いいかしら?」
幽々子が胸の前で手を叩き、ムゲンと妖夢に遣いを頼んだ。
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「なーんで俺がこんなことしなくちゃならねぇんだ」
「ムゲンさん、幽々子様の頼みですから文句を言わずにしましょうよ。第一、ムゲンさんは白玉楼の用心棒なのですからこういう仕事がメインじゃないですか」
ムゲンと妖夢は小言を漏らしながら顕界へと繋がる石段を下りていた。
以下が今回の遣いの内容である。
・今夜花見をするので客人が来たら通すこと
・妖夢は日没ごろまで他の遣いがあるため顕界へ行くこと
・ムゲンは顕界と白玉楼を結ぶ結界の側で客でないものを斬ること
・妖夢も外での遣いが終わり次第ムゲンの元へ向かうこと
「めんどくぇ」
「簡単ですよ。ムゲンさんは来た人をとりあえず斬ればいいんですから」
妖夢は頼みましたよと告げると、閻魔様の有り難い言葉のことを考え、溜め息をつきながら顕界へと向かった。
「さ、てと」
花見をするということは、自分が招待状を渡しにいった八雲紫も来るはずである。
今から楽しみでしょうがない。
そう思いながらムゲンは刀を振り上げた。
『貴方が私に勝てない最後の理由は……』
頭で過るこの言葉に何度悪夢を見させられたのだろうか。
その悪夢が今日晴らされるかもしれない……
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顕界では日が落ち始めていた。妖夢は予定より僅かに遅れていることを自ら責め、駆け足で白玉楼へと帰っていた。
ムゲンは未だに刀を振り続けていた。
「そろそろか?」
「そろそろね」
突如、赤と白の巫女装束を着た少女が現れた。ムゲンは彼女と会ったことがある。
彼女は不思議なことに空を飛んでいた。
「いつかのおめでたい巫女さんじゃねぇか」
「後半は合っているけど前半は間違っているわよ」
「あと、新顔が二人か……」
「役不足ね」
「そうだな役不足だな」
「どうする?命名決闘の規則上、一対一が基本なんだけど?」
「んな七面倒くさいことできっか!三人まとめてかかってこいや!!」
「霊夢」
ムゲンの啖呵を聞き、身構える霊夢を白黒の小さな魔法使いが遮った。
「何よ、いいところなのに」
「三人掛かりは私のポリシーに反するからパスでいいか?」
「仕方ないわね……」
「私も、やるなら正々堂々とやりたいのだけど?」
「あんたもなの、咲夜」
咲夜と呼ばれたメイド服の少女が当たり前でしょと言いながら一歩下がった。
「最初は私でいいの?」
一歩下がった魔法使いとメイドを見て、巫女とムゲンが一歩ずつ前に出る。
「あんた、確か飛べないのよね?」
「なんだ、文句あんのか」
「いいえ、飛んでくれた方がこちらとしても戦いやすいだけよ。……けど仕方ないわね、あんたに合わせるわ」
そう言って巫女は地上に降りた。