海賊戦隊の世界で、天下御免の侍戦隊! 作:ウルトラマントリガー
俺の使命は終わった。
志葉家十八代目当主として、侍戦隊シンケンジャーのシンケンレッドとして、外道衆からこの世を護り、そして、やがて襲来する宇宙帝国ザンギャックから地球を護るという俺の使命は、本当の志葉家十八代目当主の志葉薫姫が表舞台に立たれたことで、終わりを告げた。
そう。俺は、影武者。偽物だ。大嘘吐きだ。
流ノ介達がこの世を護る為と、影武者の俺を守った結果、何度も死にそうになっても、それでも嘘を吐き続けてきた。
そんな俺が、あいつらを見殺しにしようとしていた俺が、影武者としての使命を終えた今、あいつらと一緒にいられるはずがない。
「何を考えている!?」
「っ!くっ!」
「余計なことは考えるな!お前はただ、俺と戦えばいい!それだけでいい!」
「ぐぁ!」
人から外道に堕ちたはぐれ外道でありながら、アクマロに本物の外道と評された腑破十臓が、彼の妻の変わり果てた姿である妖刀の裏正で容赦無い斬撃を繰り出してくる。
秘伝ディスクも、インロウマルも、モウギュウバズーカも無い今、ただシンケンマルだけで、鍛え続けてきた己の剣技だけで、その斬撃を受け、いなし、そして、反撃の斬撃を振るう。
「そうだ!それでいい!これこそが、究極の快楽!俺とお前の唯一の真実!」
「真実………俺の……」
十臓の剣はその鋭さを増していき、それに対応する為に、俺も必死に剣を振るった。そうして、俺はただただ十臓との戦いに没頭していく。
仲間達を騙していた罪悪感も、この世界を守る為に転生したという自分の使命を失い、生きる意味を失った虚無感も、何もかもを忘れて、戦いに集中していく。
「いいぞ!これほどの快楽!やはり、お前は最高だ!」
「っ!はっ!」
「なに!?」
極限までに研ぎ澄まされた集中力の賜物か、十臓の剣の鋭さが一瞬鈍ったのを察した俺は、その剣を受けると同時に弾き飛ばした。
「はあっ!」
「がっ!」
さらに、裏正を弾き飛ばされたことで、隙が生じた十臓に残った全ての力を込めた渾身の一撃を叩き込む。
倒れ込み爆発する十臓。それを見た俺は変身を解くと、膝をついてしまった。
「か、勝った……」
確かに勝った。俺は生きている。だが、何も感じない。勝利の喜びも、生きていることに対する安堵も、何も感じない。
むしろ、これからどうすれば良いのかと、何をすればいいのかと、十臓に出くわす前に悩んでいた問題に再び向き合うことになってしまった。
これなら、決着を着けない方が良かった………。
いや、いっそのこと、負けて死んだ方が………。
「まだだ」
「なっ!?バカな!?」
そんな風に考えていると、爆発したはずの十臓が起き上がってくる。倒した手応えは確かにあったはずなのに、こいつ、不死身なのか!?
「なかなか死ねない身体でな。手でなくば、足。でなくば、口。剣が持てる限り、この快楽は続く」
………続く?この戦いはまだ続けられるのか?
「所詮、この世のことはすべて、命さえ幻!だが、この手応えだけは真実!お前もわかっているだろう?何が、お前の真実か」
「……………」
真実かどうかはわからない。
だけど、俺は……俺は…………このまま何も考えずに、ただ戦って………。
「ダメー!」
「っ!?」
突然聞こえてきた声に振り向くと、そこには、茉子と千明とことはの姿があった。
「お前達、どうして?」
「丈瑠!」
「そんな話し聞いたらあかん!」
「お前には剣だけじゃないだろう!」
そして、気付いた。いつの間にか、俺と十臓の周りは炎と妖しい赤い光に囲まれていることに。
「余所見をするな!」
「っ!」
「まだ、終わっていな……?」
さらに、十臓の足に弾き飛ばした裏正が突き刺さっていることにも。
突き刺さる刀が、一瞬、着物姿の女性の姿に見えた。
「裏正?」
十臓は、一度呼び掛けた後、裏正を抜こうとするが、裏正はびくともしなかった。どれだけ、十臓が唸り声をあげても。
「裏正!ここに来て!いや、この時を待ってか!うーらーまーさー!」
今、わかった。こいつには200年寄り添ってくれた人がいたんだ。どれだけ、道を踏み外したとしても。
「十臓」
俺の呼びかけに、顔を上げる十臓。
「快楽ではなく、その人が、その人との絆がお前の真実だったんじゃないのか?だから、お前は裏正を……」
「違う!全て幻だ!この快楽こ……っ!」
そこから先は言葉にならなかった。なぜなら、そこまで口にしたところで、俺の喰らわせた斬撃の部分から、十臓の身体が崩壊を始めたからだ。
同時に、俺と十臓の周りの炎と妖しい光も強くなっていく。
だが、水の斬撃が迸ったかと思うと、その炎と妖しい光の中に通り道が出来る。
「流ノ介、お前まで……」
そこには、龍ディスクを装着したシンケンマルを構える流ノ介の姿があった。
「丈瑠!」
「逃げるぞ!」
「早く!」
「すまない」
流ノ介が作った通り道を通ってきた茉子、千明、ことはの肩を借りて、炎と妖しい光の中から脱出する。
脱出した後、振り返った時に見えたのは、十臓が完全に崩壊していく様子であった。
○
き、気まずい。
あの後、誰も何も言わない内に、夜が明けてしまった。
影武者だった俺が、何か言うのも違うからと黙っていたら、誰も何も話さずにいるし。
こういう時は、サブリーダーの流ノ介が何か言えよ!
うん。とりあえず、動けるようになったし。みんなからも何もないなら、俺はこの辺でお暇しよう。
「殿様!」
どこかに行こうと歩きだしたら、その瞬間にことはに話しかけられてしまった。しかも、話しかけといて、固まってるし。
「俺のせいで、悪かった。あと、助けてくれて、ありがとう。もう大丈夫だから、姫のところに………」
「嘘やないと思います!」
「え?」
「一緒に戦ってきたことも、お屋敷で楽しかったことも、全部ホンマのことやから、だから!」
「俺が騙していたことも本当だ」
ことはが言ってくれたことは素直に嬉しい。だけど、そのホンマのことの前提には、俺の嘘がある。
「ただの嘘じゃない。影武者の俺を守る為に、お前達が無駄に死ぬかもしれなかったんだ。しかも、そうなっても俺は嘘を吐き通すつもりだった。そんな嘘の上で何をしたって、本当にはならない」
俺の言葉に、うつむいてしまうことは。罪悪感が半端ないから、早く行こう。
「早く姫のところに帰れ」
「ったく!」
「っ!?がっ!」
そうして歩き出したところを、千明が殴りかかってきた。咄嗟に避けようとするが、まだ足元がふらつくせいで、モロに喰らってしまう。
「千明!」
「今ので、嘘はチャラにしてやる。だから、もう言うなよ。何もないなんて言うなよ!何もなかったら、俺達がここに来るわけないだろ!?」
倒れ込んだ俺を介抱しつつ、千明を咎めることは。すると、千明が声を震わせながら、そう叫んだ。
「志葉…丈瑠……」
千明の言葉に戸惑っていると、今度は流ノ介が近付いてきた。
「私が命を預けたのは貴方だ!どう使われようと文句は無い!姫を守れと言うなら守る!ただし、侍として一度預けた命、責任は取ってもらう!」
そうして、俺に向かってひざまずく流ノ介。
「この池波流ノ介!殿と見込んだのはただ一人!これからもずっと!」
「俺も同じくってこと!まだ、前に立っててもらわないと困るんだよ」
「うちも、うちも同じくです!それに、源さんや彦馬さんも!」
「黒子の皆さんもだ!」
そんなどうして?だって、俺は影武者で、偽者で、嘘つきで、志葉家当主じゃなくて、シンケンレッドじゃなくて………。
「丈瑠……」
困惑する俺の肩に、茉子が手を乗せて、話しかけてくる。
「志葉家の当主じゃなくても、シンケンレッドじゃなくても、丈瑠自身に積み重なってきたものはちゃんとあるよ」
俺に、俺自身に?
脳裏に過ぎるのは、この世界に転生してから過ごしてきたこれまでの日々。
ずっと、志葉家当主の影武者として、偽のシンケンレッドとして頑張ってきただけだと思っていた。
でも、違うのか?志葉家当主でも、シンケンレッドでもない俺に、俺自身に積み重なってきたものがあるのか?
「俺に、俺にも?」
そんな俺の問いに、笑顔で頷いてくれる流ノ介、茉子、千明、ことは。
そのみんなの笑顔を見た俺は、もう涙をこらえることが出来なかった。
○
「………ドウコク!」
流ノ介達との絆を確かめた数時間後、その余韻を吹き飛ばすかのように、外道衆総大将 血祭ドウコクが復活した。