里抜けエルフの放浪録   作:KK

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あらすじにも記載した通り供養投稿。一応頑張って書いた瞬間があったので。

明後日0時までで4話ほど投稿します。
評判良ければ続きを考えておきます……。


エルフの里

┌──────────┐

└───旅の前日───┘

 

 第一にこの森は外界と隔絶されている。全世界で最も多い種族である人間は古代から続く結界、それも何十層から織りなされた何者のも拒絶する結界によってこの森に入ることは叶わない。そしてエルフも例外じゃない。何人たりとも、この結界の内外を出入りすることは不可能だ。第二に魔物たちが森の中層をうろついている。半端な実力で森に入れば容易く屍と化すだろう。第三にこの森の盟主たるエルフ達だ。閉鎖的、かつ排他的な気質が強いエルフは他の種族に非常に強い偏見を持つ。それは時折偏見で収まらない。他種族を下に見、唯一上位種として自分たちエルフ族を置く。まあ他種族に接したことがないのも原因だろうが、ともあれエルフにとってそれが絶対の価値観だと言うことは言える。

 

 その種族の中で僕はかなり変わり者だった。好奇心が疼いてならないせいだった。外の世界への興味を示すエルフは少数ながらいるが、その急先鋒が僕である。

 

 そんな気分的には弾かれ者の僕の日課は兎にも角にも徹底的にこのド田舎を抜ける手段を模索する事であった。里抜けは現在の僕にとって唯一無二の目標である。聖なる森の守り人とか気取ってるだけの、何もしない長老共には好い加減飽きが来ていた。

 

「エミオール……またこんなところにいたの」

 

 里から森の開けた場所。名前も無いこの場所で僕は星見をしていれば、金髪碧眼の相貌が整った少女。エルフらしいエルフである5個上の少女、シィフィが木々の間から顔を覗かせる。5個歳違いとは言っても顔立ちからは僕とそこまで歳の差があるとは思えない。それは一般的にはエルフの特徴と考えられている長寿、これが起因している。他種族と比較して子供の内から成長が遅いのだ、成人が近くなるに連れて更に遅くなる。

 

「うん? ああシィフィ、星を見に」

「嘘でしょ。どうせまた外に行くことを考えてたんだよね」

「いいや本当だって。星を見てるんだ」

「ふーん」

 

 僕がこの森の外へ関心を疑懼に満ちた視線を真っ向に無視して僕は続ける。

 シィフィは僕の心がこの里には無いことを知っている。何を言っても疑われるんだろうなぁと、暫し心中で苦笑する。

 

「どうしたの、こんな時間にさ」

「別に何でもないけど……エミオールが里から出るのが偶然見えたから」

「それで。危ないから来ちゃダメだろ」

「それはこっちのセリフじゃないかな。私より弱い癖に」

「それを言われると痛いな」

 

 今僕がいるこの辺りは里の近くとはいえ、魔物の出没は良くあることだ。特に夜なんて夜目が効く魔物が最も活発化する時間帯。僕だって場所的に浅い、ここら辺の弱い魔物に負ける気は毛頭ないけどもシィフィが言うことも事実だ。何たって僕は彼女に何度も負けている。

 

「聖木祭の二回戦で負けたの忘れてないよね?」

「ああそんなことは当に忘れた……って冗談だから剣先を向けないで」

「今ここで再戦してもいいですけど?」

「僕、剣持ってないし。勝てないからね。No more暴力の精神は大事だと思うんだ」

「また変なことを言って……はあ」

 

 僕は何か変なことを言っただろうか。弱者を弄ぶなんて趣味が悪いだろう。

 シィフィは呆れるように溜息を夜風に馴染ませると、

 

「本当に野心ってものがないよねエミオール。枯れすぎ」

「言い方が悪いな。あんまり興味が無いだけだよ」

「私のおじいちゃんより枯れてる」

「御年1100歳を超してるよね。それと比較されるのはかなり遺憾と言っていいんだけど」

「100年違うから。1203歳」

「もうそんな行ってるのかあのご老体」

「でも毎日剣の修行じゃーとか言って朝から森に籠るし汚れて帰ってくるし、エミオルより余程元気だからね。自分がそれくらい枯れてるって自覚した方が今後のためだよエミオル」

「それ、あの爺さんが例外なだけだから」

 

 エルフの寿命は平均1800年と言われる。お爺ちゃんとシィフィが言っている人物だって、まだまだ600年は生きるんだ。そりゃ身体にガタが来ていないのは当然だと思うし、僕と比較するのも違うと思う。まだ16歳である僕と違って見た目だけなら完璧に後期高齢者に仲間入りしているのだが。

 

「最近は本当に強いんだ。私なんて何合も持たずに秒殺されるし。もしかしたらお爺ちゃん、次の聖木祭で勝っちゃうかもしれない。本人も狙ってるみたい」

「そりゃ凄い。1200歳で優勝なんてしたら大ニュースになるんじゃないの?」

「多分ね」

 

 取り留めのない会話を続ける。この場所に来た真意を言えば星を見るためじゃない。感傷に耽るためだった。僕は既に里を離れようとしていて、ここへ来たのもその心残りや未練、そういったものを断ち切るためでもあった。

 

「じゃあ帰ろうか」

「うん」

 

 お互いに確認を取って里へと踵を返す。

 これは僕がこの里から抜ける一日前の話だ。

 

 

 

 

┌─────────────┐

└───埃まみれの風習───┘

 

 僕ら、とか帰属意識を表面に出すのも何だか嫌な気持ちになりそうだが、この里のエルフは生まれて死ぬまでこの里で過ごす。幽閉されているようなものである。

 

 どうにも円環の森とこの森のエルフたちはこの土地のことを呼称する。世界の全てはこの森から始まり、この森で終わる。非常に形而学で──オブラートさを取り去れば根拠もクソッタレもない理屈の上、世界の中心にはここだと。ここが原初にして自分たちがその管理者だと信じ切っている。

 

 まあ、うん。

 馬鹿馬鹿しい。アホじゃねえの。

 

 幼心ながらそう思ったのが多分6歳の頃。元老会とかいうこの森でも権力を持った長老たちによる汚い罵詈雑言を聞いて深く僕は失望した。散々聖なる森の守り手にして〜だとか、原初の聖木を保護すべく〜だとか、薄っぺらな大義を主語に物を語り、来る述語は「だから貴方はその立場に相応しくない」だ。

 結局のところ権力闘争だったのだ。何が聖なるだよ。何が原初だよ。自己を特別視する割にやってる云為はまるで相応しくないじゃないか。

 

 すぐにこんなのがこの世界の全てという事実に僕は疑問を持った。僕の想像に収まる程度のものが世界の全てという事実に、人間が突然ドラゴンになって空を羽ばたいていくくらいあり得ないと思った。でも穿った視点を持とうとするには6歳の僕は矮小で、小さくて、無力だった。

 

 手初めに僕は家の書庫を漁り始めた。人は嘘を吐くし意見を矢鱈と反転させたがるが、本は絶対に意見を変えない。書かれていることが全てだ。それが真実かどうかはさておき。

 

 ただ書庫、と言っても棚一つに本が詰まっているだけだ。とても書庫という様相ではないのだけど、便宜上僕や僕の家族は書庫と呼んでいた。本当は本棚と表すのが正しい。僕はこの本棚の前で一カ月ほど、読書に耽った。

 

 一応、僕の家についても説明する必要性があるかもしれない。

 僕の家庭は一般的にエルフの仕来りに則って運営されている。僕はこの里のことしか知らなかったが、少なくともこの里のエルフはドライな家庭観を持っていると感じた。結構冷酷というか、情に薄いのだ。

 

 この里のエルフは子供を作り、出来が悪いと自分の祖父母に引き取らせる風習を持っていた。例えば4歳になっても言葉をあまり喋れない。魔法の才能に乏しい。そういった子供は育てるのが大変だからと夫婦どちらかの祖父母、つまりベテランに育児を委託される。つまりアウトソーシングだ。そう言えば何だか聞こえが言いようで、やっぱり良くない。手が掛かるから面倒だし投げようと言う魂胆が見えまくっていて隠れていない。後から考えてもとても教育に悪い。

 

 しかし、そこで終わるならばまだ良かった。

 仮に祖父母に委託されなくとも12歳になれば一人暮らしをしろと家を追い出される。これは祖父母に行かされた子供も同じで、12歳。この年齢が成人である。エルフは大体25歳前後まで身体の成長を続けるらしい。12歳というのはそんな成長過渡期の半分で、それでいいのかとも思ってしまった。そんな疑問が浮かべど思えど揺るがない事実がただ一つ。これがこの里の黴臭く熟成された常識だ。

 

 追い出された子供はじゃあ路頭に迷うのかと言えばそうではない。流石にモラル的にそこは不味いと昔のエルフ達も判断したのか、親が用意した家で一人暮らしをする。親は子供作る際、子供が成人した際に住む家を予め準備するのだ。里の掟でそうなっている。良いか悪いかは分からない。分からないが今の僕からすれば助かったという側面もあった。ストリートチルドレンには誰もなりたくないだろう。

 

 当時の僕はその点についてあまり認識していなかった。ただ僕が何かしらの見極めに合格して実家に居つけている自覚は存在した。何故ならその見極めに不合格の烙印を押された姉の存在があったからだ。

 姉の名前をシィフィという。僕の5つ上で、家を出されたのは言葉を操るのが少し遅かったのが原因だと後から知った。僕がちゃんと面と向かって話をしたのはもう少し先の事。その頃にはシィフィは普通の女の子に見えた。金髪碧眼、種族柄から顔面の造形は殊更良い。ただの女の子だ。

 

 話を線路に戻そう。

 僕は本を読んだ。知識を付けるための努力をした。その結果として、あまりにも僕は無知だという収穫を得た。今思えば当然で、ただ一部分を見聞きして十を理解した気になっただけの、僕は6歳の子供でしかなかった。

 

 書籍によれば聖木はただのオブジェクトではないらしい。

 聖木というのはこの里の中央に佇む、樹齢数万年とも数億年とも言われる大樹のことだ。僕はその植物を始めて見たとき、デカい木だなぁ、そう思った。次に、あの木の下で風呂敷を広げてご飯でも食べたらさぞ飯が上手いのだろう、いや葉から虫が落ちてきて豆のスープに着陸でもしたら最悪だからやはり止めておこう、などと酷く庶民的でつまらない感想を抱いたことを今でも覚えている。まあ身近な存在であることだけは確かだ。

 この聖木にエルフ達は信仰を抱いている。この里が一万年以上何事もなく続いているのは聖木のお陰だという宗教観がこの里では一般的だ。だからこの里のエルフ達は聖木を守護している。ウィンウィンな間柄という認識らしい。僕には良く分からないけど世の中にはきっとそういうこともあるだろうと上手く飲み込んだ。世渡り上手はきっと理解できる現実と理解の放棄をすべき現実を素早く見定められる達人なのだろう。ふと思った。

 

 それから、僕は恐らく彷徨われる魂というオカルトを身に宿しているらしい。というのも、僕は物心付いた頃から見聞きしたことのない単語や現象、知らない概念を当然のように有している。だから多分そう。本は言っていた。円環の森に引き寄せられた魂が、時折子供の魂に入り込むと。害は無いがその子供は有していないはずの見識、経験を獲得し、神童として里を牽引していくと。出来の悪いタブロイド紙みたいな一文に溜息が五回は落ちた。実際、僕はタブロイド紙などという書面を手にしたことも聞いたことも無い。だけど何か走っている。よって、余程酷い精神疾患に罹っていないという前提条件は必要だが、僕はどこかの誰かさんの魂に潜り込まれた状態なのだろう。まあ、だからといって僕の今後の有り様が変わるわけでもないし、何度脳内で反芻しても胡散臭いことこの上ない。話半分程度に思えばいいだろう。

 

 そして、更に大事なことを僕は知った。

 外の世界は2万年前に世紀末を迎えたらしい。なんでも人々が平和に暮らしていたところを魔王が侵略して、町々を炎の湖へ変えた。僕のご先祖様は現状を悲観して、この里を作り、そこから結界が引かれ、現在の里があるみたいだ。簡単に言えば魔王から潰走したのだ。随分ファンタジーな。

 

 この記述に関してはほぼ本当のことのように思える。何と言ってもそのように記載されていた歴史書には虚飾が少なそうだった。里の誰が活躍しただとか、この里の聖木が突然光って神託を授けたとか、そういう細かい脚色はあれど、ターニングポイントとなっている部分に目立った華やかさは無い。寧ろ全体的に泥臭いと言える。真面目な歴史家が書いたのだろう。

 

 だから内容においてはある程度の信用を置ける。でも現状もそうだという可能性は低そうだ。魔王が侵略したのは2万年前の話である。当時はそれこそ魔王が覇権を握り、異なる民族に対して暴力と搾取の限りの圧政を敷いたのかもしれないが、2万年もあれば話が変わる。エルフだって家系図の下に最低10回以上は加筆がされるような時間が過ぎた。魔王だって代替わりしているだろう。後継者がボンクラなら支配は終わっているし、そもそも他の種族から対抗できる新たな勢力が興るにしても十分以上の期間だ。でも僕はそこに関心は無い。重要じゃない。魔王に支配されていようが淘汰されていようがどうでもいい。僕は一回でも、外の世界を見てみたい。

 

  よし、そうだ。

 里を抜けよう。

 こんなクソタイプの錆びて腐った老害まみれの田舎なんて出るべきだ。

 

 幼くして僕は決意した。

 

 

 

 

 

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