里抜けエルフの放浪録   作:KK

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剣と魔法

┌────────┐

└───家庭───┘

 

 僕の家はこの里では一般的な方だろう。良いか悪いかで言えば多分悪いと当時から思っていたし、今も思っている。

 

 ただ言えるのは、特に僕の家はドライであった。家での会話は少ない。親との会話もそうだし両親同士の会話もあまり多くは無い。長年寄り添っているからか。僕はそうはなりたくないなと思う。

 

 僕の一日はあまり変わり映えしない。

 幼い子供が殆どいないこの里で、僕に予定と言える予定は存在しない。だから大抵の日は親の許可を受けて、一人で外に出ていた。この年齢の子供も出歩けるのはこの里の長所なんだろう。

 

 行くあても無くて、目的地は日によって違った。

 中でも今日は聖木に行こうと考えて真下へ行った日が一番多かったかもしれない。

 聖木は里の北部に位置しており、本当に大きな樹だ。周囲には里の行政機関たる元老院が存在しており、周りにも里唯一の店がある。里の中心地と言えるだろう。

 

 その頃の僕は聖木の周囲を散歩することが好きだった。あまりにも閑散としている中で聖木の周りは活気があったし、楽しげな雰囲気があったからだ。当時は人と話すことが少なく、そのせいで常に寂しさを感じていたのかもしれない。結果的に自然と活気を求めていたのだろうと思う。

 

 その他にと言えば、あまり思い出せることはなかった。

 あれだ。子供の頃というのもあるし、本当に何も無かったのだ。

 一応この里の外へ出る方法も探していたりしたのだが、何も収穫は無かった。何も。

 里の外に出られたなら話は違ったかもしれないけど、魔物と戦える力を持っていないので無理な話で。

 

 この期間の僕は子供ながら、最も時間を無為にしていた。

 

 

 

 

 

 

┌──────────┐

└───騎士団へ───┘

 

 

 7歳になると僕は近くにある騎士団に連れていかれた。

 

 騎士団とは里の治安維持組織である。たった300人しかいない里にしては随分仰々しい名前が付いているなと心の中で思う。口にはしない。団員の表情が真顔だったからだ。

 

「俺の子供のエミオールだ。見てやってくれ」

「はい。分かりました。エミオール、こちらへ」

 

 久しく話していない父親から珍しく来いと言われて連れられてきたものの、僕は事情を掴み切れていなかった。我が家のコミュニケーション不足は壊滅的だ。

 

 僕はきびきび動く団員を見遣る。岩みたいな静かな顔をした女性だった。髪は藍色で腰元まで垂れ下がり、如何にもといった格式高そうな騎士団の制服をぴしりと着こなしている。容姿はエルフ産らしく見目麗しい。その長所を台無しにしているのが表情だ。彫りは浅いのに、醸し出されている無骨さが巨大な岩石を思わせる。多分独身だろうなと考えていたら「何か?」と言われたので内心慌てながら顔がお綺麗ですねと答えた。我ながらプレイボーイすぎる。

 

「子供に言われても嬉しくありません」

「大人に言われないのですか?」

「大人に言われても嬉しくありません。揶揄うのは止めてださい」

 

 エルフの証、尖った耳が赤みを帯びた。怒ってるのか。怒ってるだろうな。僕は反省した。

 気を取り直すように息をつく音が耳を掠る。

 

「私はメールです。若輩ですが、50年ほどこの里の警邏を務めています。よろしくお願いします」

「はい……あのメールさん。僕は何のためにここへやって来たのでしょうか?」

「……ご両親から何も聞いていないのですか?」

「来い、とだけ」

 

 溜息が聞こえた。呆れられたのだろう。対象は僕へなのか、はたまた僕の両親へなのか。論理的に考えれば普段から僕とあまり話そうとしない両親が悪い、メールさんが論理的に考えられる人物であることに期待しよう。

 

「七歳とは何も出来ない幼児から、物を覚え実行できる少年へ、成長の一つの区切りであると里では考えられています。七歳の子供を騎士団へ二週間預け、訓練を積むのもその区切りのためです」

「良く分かりません」

 

 しょうがないとばかりに語った言葉は右から左へと耳から抜ける。本当に良く分からなかった。というか僕はこれから二週間ここに預けられるのか。それくらいは教えて欲しかったんだけども父よ。

 

「理解は重要じゃありません。そういうものです」

「もしかしてメールさんも余り理解されてないのですか?」

「エミオール、こちらへ来てください。二週間の予定から説明します」

 

 声音がまた下がる。また怒らせてしまっただろうか。せめて置いてかれないように僕は早足に付いていくことにした。

 

 騎士団の詰め所は木造平屋で、外見こそ古色蒼然とした装いだったが中身は意外と綺麗だった。入口すぐに受付があり、その先へ進めば廊下がある。先が見えないと言うほどでもないが、それでも長い。

 歩いていく最中に大きな部屋が三個、四個とあり、どの部屋にも角に小さな苗木が植え付けられていた。その部分だけ床の板材が剥ぎ取られていたから、凄いこだわりだと思う。聖木を象っているのかもしれない。僕なら絶対にしない。地面から虫が入り込んでしまう。

 

 廊下では何人かの他の団員とすれ違った。皆顔が整っていて、僕の事を少し珍しげな視線をしつつも特に何も言わず通り過ぎた。僕も何も言わなかった。そう言えばメールさんも何も言っていない。騎士団と言うからには上下社会が厳しそうなものだけど、案外僕の想像より緩かったりするのだろうか。

 

 6つ目の部屋を過ぎたと思えば下り階段があった。木造平屋と思っていたのだが違ったみたいだ。

 

「この建物には地下があります。楽しい場所じゃありませんよ。地下牢です。小さな里ですので殆ど入っていることはないのですが、今は一人収容されています」

「そうだったんですね」

 

 僕が物珍しそうな眼で階段を眺めていたからか、メールさんはそう解説をした。地下牢か。お世話になりたくないものである。

 

 階段を過ぎてすぐのところの小さな小部屋に入る。部屋には長机一つと椅子が四つ、黒板が壁に据え付けられていた。

 どうぞと着席を促す声に僕は反抗せず素直に座り、メールさんも座る。

 そうしてこれから二週間という短くも長くもない日々の予定をレクチャーされたのだった。

 

 

 

 

 

 

┌──────────┐

└──騎士団の日々──┘

 

 この二週間は里の子供の義務教育のようなものだそうだ。

 この里に学校みたいな教育機関は無い。その代わりを騎士団が担ってるだとか。ただ騎士団も自分たちの職務がある関係上、七歳を超すと成人するまで一年に一度泊まり込みでこのように詰め込み教育をするのだそうだ。最初からそれくらいの説明はしろよ両親と思ったりしたがさておき。

 

 早速ながら、僕のここでの二週間は割とルーズなものになりそうな予感がしていた。

 

 朝、日が昇ってから起きる。眠気眼を晴らす間もなく騎士団員の人たちと一緒に朝の準備運動をする。身体がスッキリした後は寝具を整えて、メールさんと合流。メールさんは本当に付きっきりで二週間、僕を指導するらしい。

 合流したあとは走ったり、剣を振ったりと運動をする。

 

 剣を振るのは初めてだったけど、そこまで苦労は無かった。理由は分からない。でも手に馴染む。不思議な感覚だ。まあ最初だからと、姿勢をメールさんに手取り足取り指導されたけど。表情に反して意外と人肌が嫌いじゃないのかもしれない。

 

 特に決まった単位時間はないみたいで、メールさんは適当な匙加減で休憩を取ったり運動自体を切り上げたりと、かなり気を利かせてくれた。おかげで慣れないことをしても疲労困憊で倒れることはない。

 

 昼になると騎士団員に混ざって食堂で昼餉。メールさんは隣で、仏頂面で硬いパンをスープにぐっしょり浸して嚙みちぎる。会話がないのが心地良い。話しかけたらきっと気まずくなるだろうから。そう、これは相対的な話なのだ。

 

 昼飯を食べ終わったら今度は座学だ。エルフの里では魔法は算数とか国語以上に基礎教養になるらしい。

 

「魔力とは内なる力です。我々エルフは元来その素養が高いとされます」

「ちょっとだけ知っています。魔法を使うと消費されるんですよね」

「違います」

「えっ」

「魔力が多ければ大規模な魔法を使えますが、魔法を行使することで魔力が無くなるなんてことは起きません」

 

 僕の知識が敗北した。いや、これは知識と呼べるものだろうか。考えてみればこの認識は僕が現実に知覚して刷り込まれたものではなく、多分元から持っていたもの。つまり混在した魂の記憶だ。いつかはこの魂の不正確な事実によって致命的に踊らされる気がしてならない。扱いには気を付けた方がいいのかもしれない。そうは言っても僕も元から知っている気分で言葉を発し、指摘されてから初めて気付いたから無駄な努力かもしれないけど。

 

 冷や汗をつーっと垂らした僕には一切気付かず、いつもの能面のまま僕を見つめる。

 

「これから初歩の初歩だけ教えます」

「初歩は教えてくれないんですね」

「二週間しかありませんから。それに私も大して魔法には通じていません」

「じゃあ何故メールさんが魔法の授業を?他にもっと通じている人もいるのでは?」

 

 そう言うと恥じらうように身をよじって僕から視線を切った。

 

「騎士団は常に多忙で人材難なんです」

 

 素振りから嘘だと確信したが、追及は止めておいた。特に理由はない。

 

 魔法の授業は午前身体を動かした時間の半分程度で終わると、そこからは自由時間だった。相変わらず横にいるメールさんと暇つぶしに騎士団詰め所を歩いて回る。

 

 所詮300人規模の里の騎士団だと思っていたが、本物を見てみれば活気に溢れている。所々で鍛錬に力が入っているのか凄まじい轟音が耳朶を打つ。何かしらの魔法だろうか。そう思っていれば「アレは恐らく剣筋で地面を叩き割った音ですね。後で所長にボコボコに怒られることでしょう」とメールさんからの補足が。剣筋で地面が割れるとは、マジモンのファンタジーというのはとんでもないなと一人慄きそうになる。是非犯罪者になっても僕には振るわず、魔物だけに振るって欲しいものだ。

 

 そうして日暮れまで適当に過ごすと、食堂で夕餉を摂り、夜は割り当てられた自室へと帰還。

 僕の部屋は個室だ。詰め所とは隣接する騎士団寮の一室で、非常に簡素な造りをしている。なにせベッドと机と椅子くらいしかないのだ。

 

 部屋が貧相な理由には容易に想像がついた。この里の掟からして、団員たちはみんな自分の持ち家がある。夜は普通に帰るのだろう。だからこの騎士団寮を使うエルフは殆ど存在しないし文句の出ようもない。

 でも正直言えば、この簡素さが騎士団らしさを感じなくも無い。減私奉公ではないが徐々に騎士団への頼もしさを感じる内装に思えてきた。使ってる団員はいないのだが。

 

 そうして僕は目を瞑り一日の終わりを享受する。

 

 

 

 

 

 

 

┌──────────┐

└───剣の才覚───┘

 

 騎士団での三日間が過ぎ去って、詰め所の廊下を歩くのに何ら緊張もしなくった時のことだ。

 

 朝の一連の作業が終わり、さあ訓練で使用する剣を倉庫から見繕ってこようという段階で僕は見知らぬエルフに手招きされた。騎士団にいる以上団員には間違いないのだが。

 

「名を名乗れ少年」

「エミオールです。僕に何か用でしょうか」

 

 そう切り返した僕の声は平坦としていただろうか。不安である。

 何故なら目の前の男、巨漢だ。筋肉がムキムキと見たことが無いくらい隆起して山脈を築き上げており、人相もあまり良く見えない。

 エルフ遺伝子が作用してか良く見ればカッコいい、ハードボイルドな人物に見えるのだが、それ以上に悪人面が前面に出過ぎている。ホントは何十人殺している大量殺人犯ですと言われても僕は驚かないだろう。寧ろその程度かと拍子抜けする。この人はもっと、犯罪者を数万程率いて幾つもの大国を国盗りするようなスケールの違う極悪非道をやってそうだ。

 

「俺はハヴァーニ。お前の剣が少し気になったからこうして呼んだまでだ」

「剣、でしょうか」

「ちょっと振ってほしい。勿論俺からは何もしない」

 

 目を白黒とさせている間にもハヴァー二さんは腰に吊った鞘から剣を引き出した。言葉足らずな箇所を保管して想像するに、打ち込んでこいという意味だろうか。

 突然の展開+稀有な人相の悪さにへっぴり腰になりつつも、幾何の思案のうちに僕は遠慮なく斬りこむことに決めた。決め手は反撃しないという発言。これが嘘なら僕は泣いてやろうと思う。泣く前に切り捨て御免とされそうだが。

 

 試しに肩から股下に掛けて袈裟切り。僕の身長が低いために、またハヴァー二さんの体躯がデカすぎるために、これは腹から足下への斬撃になった。当然ながら剣を簡単に合わせて防がれる。僕は全力だと言うのに、壁みたいにミリも押し込めない。身体能力のギャップがありすぎる。分かっていたけど真正面からの勝負に勝ち目はないみたいだ。

 

 振り下ろした後にそのまま僕は振り上げると見せかけて、ステップを踏む。グンッ!と視界が加速で歪む。それでも経験からハヴァー二さんは冷徹に目だけで僕の姿を追いかけるのが分かる。

 

 移動しながら腕の位置を上げて横切り。勿論防がれる。

 更に続けざまに攻め立てる。メールさんに教わっているとはいえ僕は初心者の剣。ハヴァー二さんは余裕をもって防ぎ、時には微細な動きで避ける。崩して隙を作るのも無理そうだ。ハヴァー二さんはこの騎士団でどのくらい強いのかちょっぴり気になった。もしこれで一番下の実力とか言われたら僕は絶対に騎士団には就職することはないだろう。

 

 剣術でも力でも勝てない。いや分かっていたし、何でこんなことになっているんだろうとも思うけど、折角の機会だ。やれるだけやってみよう。

 僕にもし勝ち目があるとすれば立ち回りだろう。要するに発想だ。それも飛びぬけて奇抜な発想だ。

 

 縦に斬ろうとして剣が激突し、僕は足を動かす。入れ替わってせめて体勢を優位に持ち込むことが出来れば最良。

 

「有望だな。剣筋も鋭い、機転もある」

 

 僕は答えなかった。答える余裕が無かった。口を動かすより足を動せと自分に命じていた。

 

 ふと、僕はさり気なく相手の足へ剣を差し込んだ。

 ハヴァー二さんは驚いたはずだ。足を狙うなど僕は一度もしなかったのだから。それでも硬直は少なく、大股に足を開くことで剣を避ける。

 僕が勝てるとしたらここだ。ここが勝ち筋だ。

 

 大股に開いた足の隙間に僕は南無三ッ!と転がり込んだ。勝手に口から出た南無三とはどこのどういう意味の言葉だろうとふと思う。すぐに今は関係ないことだと思考の端へと投げ捨てた。

 今度こそハヴァー二さんから驚愕した気配を感じた。剣を持った相手の足元へ転がり込むなど正気じゃない。

 でも勝算はあった。なにせこれは実戦じゃない、それにハヴァー二さんは自分から攻撃しないと宣わっていた。つまりカウンターされる可能性はゼロということでリスクは皆無、僕がこの手段を取らない理由は存在しない。

 

 立った状態から剣を持ちつつ前転するのは人生で初めてだったが上手く行ったようで、僕はハヴァー二さんの背後へ転がり込んだ。決定機だ。振り向き様に剣を横へ薙ぐ。不意に、これが当たったらハヴァー二さんが大怪我するなと予感が過った。これは後から言語化できたのだが、ハヴァー二さんだし致命傷は防ぐだろうと、最悪でも治癒魔法で治してくれると、そういう僕の直感が働いた結果、剣を鈍らせることなく鋭い一風となりハヴァー二さんを襲う。

 

 今度は僕が驚く番だった。

 ハヴァー二さんは空いていた左手を使い鞘を取り出して、僕の剣を防ごうと太刀筋の前に構えた。利き手じゃないのに、どういう反射神経だ。

 

 しかし僕だって考えなしで振るう訳がない。防がれても問題にならないよう、弥縫策はあった。所謂、二の先だ。

 

 鞘と剣がぶつかり、軽い手応えが返ってくる。直前力を抜いたから当たり前だ。ハヴァー二さんから目を見開いた気配がした。いや、気配というのは八割方嘘で。本当にびっくりしてくれたらなという願望がそんな予感を僕に与えた。賭けと言っても良い。

 今、僕の剣は地面と平行に保たれていて、ハヴァー二さんは鞘を垂直に受けている。何が言いたいかと言えば、僕は横切りは捨てたのだ。本当はそのまま横切りで終わらせたかったのだけど、防がれた以上計画を変え、ハヴァー二さんから力を抜いたと見抜かれないままに剣を合わせ、そこから刺突をするのが目的だった。

 

 僕はハヴァー二さんの背中に遠慮なく剣を突き刺そうとする。しかし流石現役騎士団員というべきか、ハヴァー二さんが化け物染みた実力なのか。剣先が腹に届く前に鞘を力尽くに振るい、背後を向いた状態のまま素早く僕の剣を弾き飛ばすことで難なく致命的な状況を回避した。

 

「やはりな」

 

 獲物を失った僕が前髪を弄りながら気まずさを感じていれば、ハヴァー二さんは一人そう零した。

 何がやはりなのだろう。結局のところ僕は惜しいところも無く、誰の目から見てもコテンパンにされた訳だけども。

 

「エミオール。お前はかなりの才覚を持っている。もし騎士団に入れば若くして上の地位に就けるだろう」

「はあ……」

 

 気のない返事をしてから気付き、目の前の男にとんだ無礼を働いたな、殺されるかなと内心てんやわんやの大動乱だったのだが、僕の心情など毛程も関心が無いのかハヴァー二さんは僕の頭を優しく叩く。親みたいに。

 

「成人したらいつでも来い。団員として鍛えてやる」

「き、気が向いたら来ます」

「気が向かなくとも来て良い。里のエルフが強くなるのは大歓迎だ。魔物への自衛手段を身に着けるのはいいことだからな」

 

 意外と良い人らしいとこの時、漸く思い至る。僕は見た目ばかりに気を取られていて全く言動には注意していなかった。見た目と中身は必ずしも一致しないことを学ばないといけない。僕の他所なる魂は見た目と中身は大概一致するという意見を持っていたみたいだが、ここは僕の心だ。よって無理矢理掌をひっくり返えさせることにした。反例を示してから僕に意見するように。よし。

 

「ハヴァー二さん。エミオールは私が面倒を見ている子です」

「むっ……」

 

 僕が釣られた挙句、剣劇をしていることを見かねたのかメールさんがこちらへ駆け寄ってきた。渋い顔でハヴァー二さんは剣を鞘へ仕舞う。

 

「だが良い剣を持っている」

「ですが私の管轄の子です。ただでさえ子供向きの顔でないのですから、ハヴァー二さんは普段の業務に戻ってください」

「そうか……」

 

 そう言って肩を落として、とぼとぼと歩くハヴァー二さんは全く悪い人に見えなかった。偏見という名の悪い心を持っているのは僕だったようだ。

 

「ハヴァー二さん?何で戻って───」

 

 そのまま去っていく、恐らくこの隣にある鍛錬場へ向かうんだろうなと思っていると、不意に踵を返して僕の傍までやって来て。

 

「……メールは子供好きだ。用心するように……」

 

 良い笑顔、見ようによっては悪どい笑顔を浮かべながら小声で言いたい事だけ言って今度こそ去った。流石にそれが悪とはもう思わないけど。

 子供好き。確かに子供好きなんだろうと思う。僕みたいな子供に付きっきりで二週間過ごすと言うのだからそれ以外の表現は無い。動かぬ表情筋が欠点とは言え、メールさんのような美人に親切にされて惚れる子供も過去に居たのかもしれない。確かに用心は大事だ。

 

「何か言われましたか?」

 

 普段に増してメールさんの表情は硬い。岩を通り越して鉄みたいだ。何か悪口でも言われたと勘違いしているに違いない。

 

「メールさんは可愛いから勘違いするなと言われました。道草食ってごめんなさい、戻りましょう」

「え、ええ……はい……」

 

 また赤い。熱する前の肉みたいに耳が赤い。照れさせるつもりで言ったわけじゃないけど、メールさんの中でもそういう意味になってるかもしれない。でも僕は包み隠さず伝えたまでで、この状況の責任は僕に無い。

 僕が照れるメールさんを無視して先導するのは必然的だった。

 

 

 

 

 

 

 

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