里抜けエルフの放浪録 作:KK
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└───実戦デビュー───┘
剣を抜いて構えれば、既に魔物はすぐ近くまで迫っていたことに僕は一瞬慄く。先程以上により立体的な恐怖に身を竦める。
「あれはボアールですね」
「だろうな。突進しかしてこない、楽な相手だ」
「我々のように戦闘を生業にしているエルフならです。危険と思ったら私はすぐさま手助けをします」
二人の会話を背後に、僕は整理する。
戦いにおいて最も大事なことは何だろうかと自身に問う。平常心だ。錯乱しても駄目、高揚しても駄目だ。とにかく平常心を保たなければならない。生死を預けるならばギャンブル的思考よりも冷静な判断力の方がより分の良い賭けなのは自明の理。そのために平常心。僕は心を落ち着けなければならない。
目の前の魔物はボアールというらしい。猪みたいだな、と思って猪ってあんな感じなのかとハッとする。僕はまた見知らぬ知識を基に思考を組み立てようとしていたようだ。普段ならいいが、一歩踏み外したら奈落に落ちる状況で異なる魂からの情報を鵜吞みにするのは良くない。あまりにも良くない。気を付けねばならない。そうは言っても上手く行かないのが現状なんだけど、どうしたらいいだろうか。今は一旦置こう。
ただ、このボアールという魔物はハヴァー二さんの話によれば猪突猛進しか能がないようだ。きっとあの口から生えた、僕の足の長さくらいはある牙。あれがメインウェポンなのだろう。上に向いている牙をこちらへ向けて、突進。そうして僕の腹を突き刺したままその辺の樹に叩き付ける算段でも付けているのかもしれない。
観察しても他に明白とした武器のようなものはない。ただ身体は大きいからぶつかり、蹴られるだけでも致命傷を負いかねない。でもまあ、それくらいだ。
確かに行けるような気がしてきた。相手の行動パターンが型に嵌り切っているならば誘導する必要性もない。相手の習性を利用してやればいいだけの事だ。
視線をボアールへと投げかけて、固定する。一挙手一投足を見逃さない。向こうもそれは同じようで、三人いる中で僕だけを視界の中心へ納めた。一番小さく弱そうな僕へ狙いを定めたらしい。
じりじりと互いに距離を詰める。
勝負は一瞬だ。瞼が一度閉じる間に終わる。僕は魔物と長い間相対して内なる恐怖心と真っ向から対面したいと思わないし、何よりあの脂塗れの汚いドブ色毛玉を出来る限り触りたくなかった。
気が重くなるような数秒の後。
じれったい状況に耐えられず、弾かれたみたいにボアールが動いた。僕の方へまっすぐ、脇目を一切振らずに牙を向けて突撃してくる。思っていたより遅い。でも体重を考えれば、当たった瞬間に僕の短い人生は終わることになる。
「エミオール!」
「いや待てメール。アレは違う」
僕は動かなかった。後ろが少しうるさい。恐怖で動けなくなってると思われているかもしれない。でも僕はそんなんじゃなかった。寧ろいい気分だ。思考は晴れ切っている。冷静に、平常心を保てよ、そう心の中で諳んじていたのにいつの間にかドーパミンが分泌されていた。どうでもいい。
後から思えば未熟だったと思うが、この時の僕は浮かれていた。人生最初の命のやり合いだ。意識して冷静になれるはずがない。
目前。ギリギリの緊張感。あと一歩動くのが遅ければ串刺しされて致命傷を負うという確信が神経を研ぎ澄ます。死の臨界点。
そこまで引き付けて僕は初めて行動を取った。視線と体幹を崩さず、左斜め前へステップして飛ぶ。今までいた場所には刃を残した。
仄かに獣臭い風圧に口元を縛ったのと同時、刀身へ重い衝撃が走る。僕のやることはすれ違いざまに斬り捨てる。それだけだった。
予定ではこのまま交差して斬り去る予定だったのだが───不味い、負ける。想像以上に皮が厚いのか、肉質が固いのか。刀身が一定の深さまで入ったは良いものの、そこから動かない。伊達に魔物は危険視されてないということか。
だけど、僕には弥縫策がある。必ずだ。
「フレア……!!」
叫ぶ必要性は一切なかった。何なら魔法の名前を言う必要すらなかった。だから声が出てしまったのは、力んでいる証拠なのだろう。
ボオッ!と炎が燃え盛った音。「ブギャアアア!」とボアールの痛みを訴える声量が段違いに大きくなる。
僕は先日使えるようになったばかりの魔法を刀身に纏わせることに成功した。ぶっつけ本番だけど、上手く行った。杖無しでフレアが使えるよう自主練習しておいて本当に良かった。
僕のフレアはフレアと言うには火力が強すぎるらしい。日常生活では少々困るかもしれないそれは、こと今日この場面において非常に有用な働きをしている。
火力が強ければ強いほど、僕の命が助かる可能性が高くなるのだ。
結果を述べよう。
刀身が高温になったことでボアールの皮と筋肉を焼き切ることに成功し、何とか討伐に成功した。
そうして初めて魔物と対峙して思った感想。
「当然だな。だがよくやった」
「私が教えました」
師匠面をかましてるこの二人を僕は絶対に許さない。
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└───告発───┘
と、言うわけで。
「すみません、メールさんとハヴァー二さんに言われて無理矢理ボアールと戦わされたんですけどこれって何かしらの懲罰に問えませんか?」
「あー。やったかーあいつら」
騎士団詰め所へと帰った僕が最初にしたことは告発だった。
ご丁寧に、どうぞ告発してくださいとばかりに詰め所には受付スペースがあったので、話す場所には困らなかった。本来ならば住民が騎士団へ相談事を持ち込んだり、或いは暮らす上での事務的なやり取りを履行する場であったりするのだが、パワハラを告発するのもここで問題ないようだ。
受付の男は金髪に緑色の瞳をしていて、かなり話しやすそうな雰囲気を醸し出している。困ったように僕の顔と、等身を確認して口を開いた。
「にしてもボアールとその歳で戦ったのか?一人で?」
「ええ、まあ」
「怪我とかあったらあいつら普通に干されるぞこれ……」
「いえ怪我は幸いなく、討伐は出来ました。ただ嗾けられたのが気に入らなかったのでチクってやろうかと」
「君も大概大物だな」
呆れるように言うと、それから書類を用意し始める。
「えーっと。確かに君の言う通り騎士団子供教育期間で、魔物と対峙させるのは職務上監督不行届として問えるだろう。でも怪我が無い以上証拠は君の証言だけ、つまりこちらとしても加害者に課せるのは最低限の罰則程度だ」
今更だけど騎士団子供教育期間っていうのか。僕の今受けているやつ。
「構いませんよ。メールさんにも、ハヴァー二さんにもお世話になっています。僕も重い懲罰になるのは望んでいませんし、一日どこかで反省してもらうくらいで」
「何と言うか……随分と子供らしくない子供だな。いややられたらやり返す分健全なのか……?」
迷うように受付の人は書類にすらすらと必要事項を記載して、それじゃあ受理するからと奥へ持っていった。そうしてメールさんとハヴァー二さんは一日、自宅謹慎となった。
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└───朝の運動───┘
翌日。メールさんが職務に当たることが出来ないとしてやって来たのは昨日の受付の人だった。昨日と違うのは髪が無造作な部分だ。7:3の比率で分けられていた前髪が、今日は力無く全体に垂れている。髪の隙間から見える瞳からは超気怠いですと主張しているような気がした。
「エミオール。昨日ぶり。まだ名乗ってなかったね、俺はライアンだ。今日だけ受け持つことになったから宜しく」
「はい、お願いします…因みに一つ聞いても?」
「なんだい?」
「昨日とは随分様子が違って見えますけど……」
「あー、別にやる気がないわけじゃないんだ。ただほら、受付って印象仕事だろ?里の人と直接話すのにだらしない格好したら批判くるし。普段はこんなもんだって」
そう言って愛嬌良くにへらと笑う。全く嫌味というか負の感情が湧かない。人柄だと思った。ただそれはそれとして、やる気がないのも本当なんだと思う。声に昨日のようなハリがない。
「で、特にメールから引継ぎを何も受けてないんだけど、何してたの?この一週間は」
「午前中は体力作りと、午後は魔法を学んでました」
「体力作りねえ。飛んだり走ってたり?」
「それから剣も少し」
「まあそんなもんか、なるほど。大体理解したよ」
理解したよ。そう言う傍らで腰元に吊るされた剣を抜き出したのは何故だろうか。これまでに則るならまずはランニングとか、往復ダッシュとかだろうに。
「折角一日だけ別人がやるんだから、その日くらいは別メニューのほうがメリハリあるでしょ?」
「なるほど……?」
「受付係ばかりで丁度俺の剣も鈍ってたし、偶に身体を動かなさないとな」
ぐいーっと身体を伸ばし始めるライアンさんに、僕の予感は危険信号を発する。
予感を確定させるために、恐る恐る聞く決意を僕は固めた。
「因みに何をやられる気で?」
「騎士団名物、知ってるか?特別防御訓練、略して特防っていうんだけど、要するに新人がすぐに死なないためにひたすら攻撃して、新人が受けて捌いて弾いて生き残れるようにするための訓練だ。本来なら入団しないと味わえないからな、貴重な機会だぞ」
「あの何を言ってるんですか?」
この人も告発すべきかもしれない。そう思う僕は何か間違っているだろうか。
「まあ落ち着いて。俺はあのバカ二人とは違う。程度を知っている。無茶無謀を唆すことはしないって」
「手加減してくれると?」
「当たり前だ。てかそれが普通なんだよな。普通」
頷きながらライアンさんは言う。僕も同意した。あの二人、特にハヴァー二さんは大事な何かが焼き切れている。倫理観とか道徳が。そしてメールさんはその一歩手前だ。
「じゃ、構えてみなよ。軽く打っていくぞー」
「わ、分かりました」
剣を構える。僕は前を見据えた。本当に力を抜いた様子で、ライアンさんは実剣ではなく木刀を手にこちらへ踏み込んできた。
一合目を手元で受ける。ライアンさんの剣は軽かった。意図的に軽くされていた。子供ということで手加減されている。二回、三回と弾いては。あ、今のは避けれるな、と態と体幹を右斜め後ろへ崩して避ける。なるほど。これが本当の初心者レベルというのかもしれない。
とか思っていたのも束の間のこと。
「出来るじゃん。なら速度あげてくぞー」
ええっとか声を上げる暇もなく木刀の軌跡が鋭くなる。振った後の風音もより鋭利だ。斬撃が飛んできたような錯覚すら感じるくらいに。
それでも僕が付いていけているのは手加減されているからに違いない。相変わらず、合わせれば簡単に防げるような軽石のような剣。僕が当たっても重症にならないよう配慮されている。それ以前に当たるようなら寸止めしてくれると僕は予想していた。なんかマトモだ。とてもマトモだ。
僕の限界値の天井を擦りつけるみたいに、徐々にフェイントが織り交ざるようになった。胸を打つふりをして右腕、首を狙うふりして左肩。必死に食らいついて防ぐが、早い。ただただ早い。付き合うだけで腕が千切れそうだ。神経がぶちぶちと悲鳴を上げている気すらする。棒立ちのハヴァー二さんへ仕掛けた時より疲れる。よっぽど疲れる。
「本当に七歳かよ。天才っているんだなぁ」
「これでも、精一杯、なんですけどね!」
「言っとくけど俺、300歳は超えてるから。七歳の精一杯に追いつかれちゃ世話ないんだよな……」
「ご老体には、お辛いですか」
「若者だっつの」
僕が絶え絶えで返事をするのに対してライアンさんは余裕そうだ。剣を振る姿勢が一切ブレていない。
暫くして、反応が出来ずに僕の首元へ木刀が当てられた。陽を浴びた木刀は仄かに温かい。
「想像以上にやるね。凄い。二人が無茶を強いるのも理解はするよ、尊敬はしないけど」
へたり込む僕にライアンさんは感嘆するようにそう言って、頭に手を乗せられた。ガシガシと撫でられる。兄がいたらこんな感じなのかもしれないなと僕は意味の無いことをふと思った。
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└───地下の囚人───┘
一日が終わると、割り当てられた僕の部屋に戻る。既に仮宿となっているこの部屋には慣れてしまった。おかげで狭い一室の中に入ると、自然と心が落ち着く。
詰め所の夜は静かだ。僕以外に誰もこの騎士団寮を使用していないから当然だ。一応、詰め所では宿直の団員が働いているらしいけど僕は日が暮れた後に行ったことがない。推測だけど殆どいないと思う。こんな人の流動性が欠片も存在しない小さな里で、真夜中に犯罪するエルフなど滅多に存在しないと思う。一度でも犯罪を犯せば一生そのレッテルが消えない。さぞ狭い里では暮らしづらくなるだろうことが容易に想像が付く。
……そう言えば。僕は思い出す。この詰め所に唯一、地下牢に収容されているエルフがいるとメールさんは言っていた。
何をしたのだろう。盗みを働いた、にしては地下牢は行き過ぎな気がする。きっと何か重大な犯罪をやったに違いない。内容は分からないが。
想像を重ねると興味が湧いてきた。この里での一生にとんでもない不利を背負うことを構わず、どんな犯罪をやったのだろうか。
気になった僕は出来心から地下牢へ行ってみることにした。
夜の詰め所は月明かりに照らされているのみで、基本暗い。覚えたてのフレアを使い、指に日を灯し、廊下を進む。宿直室はどこだろうか。出来れば避けていきたい。疚しいことをしているつもりは無いとは言え、夜に出歩いたことを知られるのはあまり好ましいことじゃない気がする。いざとなればメールさんから詰め所内は歩き回って良いと言われたことを盾にするつもりだ。
階段はあった。臆せず降る。
地下は詰め所内の暗さとは別種の、暗澹とした粘着質な暗闇に感じた。籠もり切った空気と微かな埃の臭いがそう脳に印象付けるのかもしれない。
階段が終わった。そう深くは降りてない。普通の2階建て住居くらいの高さしか無いのだと思う。
フレアの光を頼りに室内を把握しようと、少し火力を調整する。魔力を込めすぎると制御を失うらしいけど、幸いその能力は僕にはあるようで、僕の体内の7割までの魔力までなら注ぎ込んでも制御下を離れることはなかった。
出力を上げれば室内は小さな太陽に照らされ、部屋が一気に輪郭を持った。
石造りの壁に囲われた、あまり広くない地下牢のようだった。机や椅子の置かれた廊下というには大きな長方形な空間に、鉄格子の扉が4つ、5つか。ここが牢屋らしい。
試しに耳を澄ませる。物音も寝息も聞こえない。ここに一人囚われているという話は嘘だった?
……いや、立ち上がる音が聞こえた。寝てなかったのか。
「見事なフレアだ。こんな時間に誰だろうか」
歌うような流暢で美しい声音が密室に響く。右から二つ目の牢屋に入ってるみたいだ。
吟遊詩人だろうか。ともすればその一芸だけでとてもお金が稼げそうなほど域に入っている。
「数日前に教わったばかりです。エミオールと言います、初めまして」
「これはこれは。もしかして騎士団の教育のやつかい?泊りがけの」
「はい。そうです」
子供とは思わなかったのか、そのエルフはとても驚いたように僕の姿を視認した。
反対に、僕も鉄格子の扉の隙間からその容姿を目に入れる。明るい茶髪を長く伸ばし、眼鏡はそこはかとなくレンズが煤けている。エルフだ。当たり前だが。性別は分からないけど、多分男だと思う。自分の事を指して僕と呼称しているからそうだと思うだけで、実際のところは分からない。男か女なら男に見えるというだけの判断だ。
しかし、薄く浮かんだ柔和な表情は地下牢には似合わない気がして軽く違和感を覚える。
「私はティンバー、宜しくでいいのかな」
「それはこれから決めます」
「手厳しい」
ティンバーの演技かかった手振りに僕は鬱陶しさを感じた。好奇心に少し後悔する。
「それで、何の用かな少年」
「……この地下牢に一人いると聞いてきました。捕まった理由を知りたいと思ったんです」
名前でなく少年と代名詞で呼ばれたことにティンバーの世界に巻き込まれた気がして、その内僕までその劇中の言動を求めて来られそうで嫌だなと純粋に考えていたら返答が一拍空いてしまう。
質問してから、ちょっと直球に行きすぎたなと反省。雰囲気こそ全然だが、目の前の男は犯罪者。気分を害したら何をするか分からないのだと肝に銘じなければならない。
「もしかして、私がここにいる理由を聞くためだけに人目を避けて態々夜に地下まで?」
「そうです」
「変わった少年だね」
「そうかもしれないです」
「肯定するんだ……本当に変わってる」
まあ彷徨われる魂が入ってるせいで僕の精神は早熟している。自分で言う事でもない気がするけど。
「僕が逮捕されてしまった理由ね、はは、良いよ話そうじゃないか。あれは200年前のことさ」
「できれば捕まった前後の時系列から話してもらえると」
「逮捕されたのが200年前なのさ。大体だけどね」
なるほど。既にこの地下牢に200年間投獄されているらしいぞこのエルフ。それだけの期間が経過しているならば最早この地下牢は自室のようなものなのかもしれない。悲壮感も無く自然体でいられるのはそれが原因かと独りでに納得する。
「こう見えて僕は魔法の研究が趣味でね。あの時の僕も研究に没頭していた。ああ、仕事は別だよ。ただの農民さ。才能が無かったみたいで2年に1度は作物を枯らしたけどね」
ああ、話が逸れてしまったね、とティンバーは苦笑した。
「僕はその時、戦略系魔法をね。試していたのさ」
「戦略系魔法ですか?」
思わず聞き返す。初めて聞く魔法だ。いや、魔法の種類だろうか。
「簡単に言うと一度使えば地図を大きく変えることになるような大規模な魔法の事だね。ロマンだと思わないかい?」
「そんな危険なものを試していたんですか?」
「まあね。当然里の外、森で試したさ。人道主義でね。被害もなかった。でもどうもコイツは危ないことをしていたとバレてしまったようでね、懲役800年。残りはまだまだ長そうだ」
森でブッパしたという言葉も気になったが、それ以上に懲役800年だ。その人生のおおよそ半分を、この欝々しい空間で過ごすのだろう。想像すると同情に値する気がした。
「そうでしたか。因みに具体的にはどんな魔法を使ったので?」
「落雷だよ。それも太いやつ。そうだね、この里の聖木よりも太い」
となると相当な規模だ。聖木の幹の最大断面積は里の面積くらいになる。それを、例えば街とかに落とせばその街は光の明滅と共に地図上から消滅するだろうと、恐ろしい青写真を脳裏で立ててみる。落雷だけで街を覆い、地面を媒介してその半径幾何かにも影響が出そうだ。木々に落ちれば忽ち火災となる可能性だってある。そうか、それが正しく戦略系魔法と言う名が意味することなのか。
考えてみれば懲役800年。割と妥当……どころか温情を掛けられているくらいに緩い。僕からすれば死刑でもおかしくはないだろうと思うが。里を滅ぼしかねない魔法を使ってるんだから気狂いとしか言いようがない。手のひらを返さざるを得ない。
僕の冷めた視線に対して、前置きをするとだね、と僕に理解を求めるような言い草で話す。
「ただ研究の上で試してみたかっただけだよ。魔法に対して実直なんだ僕は。誰かを害する悪意も、何かを破壊する行為も嫌いだしね。安全性を確保した上でやってるから問題はない」
「でもその規模の魔法を使うのはどうかと思いますけど……」
「魔法の発展にリスクは付きものだよ」
反省の色は無いらしい。研究者とは誰もがこんな感じなのだろうか。もしそうならもっと多くの研究者がいる外の世界は世紀末に違いない。そうじゃないことを願うばかりである。
「それで、知的好奇心は満たされたかな」
「ええまあ、はい。ありがとうございます。地下牢に投獄されるだけの所業はやっているんだなってことを納得しました」
「そこまでのことじゃないと思うけどな。僕も久方ぶりだったから話し過ぎた。またいつでも来なよ、まだ600年は僕はここにいるから」
「用向きがあれば来ます」
「ああ是非。僕もほぼ毎日退屈してるからね、ありがたいよ」
ティンバーは微かな笑みを押し出して言った。オブラートに包んだ表現はどうやら伝わらかったようだ。
ここまで書きました。
評判良ければ続きを考えます、いま作品二つ持っているので……。