【完結】沈黙のピアニスト   作:高科奈紗

10 / 44
すれ違いの音色

 姫榊 花奏side

 

「出過ぎたマネをして! 

 まことに!! 

 申し訳!!! 

 ありませんでした……!!!!」

 

 STARRYにて、後藤さんの土下座が見事に炸裂した。

 その様子を眺める4つの視線。

 

「姫榊さんと二人で路上ライブをやって、そこでファンの人に姫榊さんを新メンバーだと発言しちゃった……と」

「既成事実を作って囲い込み、ぼっちってば策士だね」

「大胆な事するわね〜、ひとりちゃん」

 

 みんな、面白がってる。

 

「やややややっぱりクビでしょうか!? 独断専行の罪で死刑……!?」

 

 大袈裟な。

 

「まあ、独断で動いたのはいただけないけど……リョウと喜多ちゃんは、姫榊さんが入るのはどうなの?」

「異議なし」

「大歓迎ですっ!」

 

 いいんだ。

 

「ってわけで、姫榊さんを結束バンドのキーボードに任命します!」

「わ〜ぱちぱち」

「これから一緒に頑張っていきましょう、姫榊ちゃん!」

 

 軽い。

 すっごく軽い。

 大事な事をこんなに軽く決めていいの……? 

 

「よ、よかった……」

「あっ、ぼっちちゃんには罰として来月、フルタイムでバイトに出てもらうからね」

「そっ、そんな……!?」

 

 冗談だよー、と笑い飛ばす伊地知さん。

 

「まあ、ぼっちちゃんがメンバーとして誘わなくても、サポートメンバーとして誘おうかなって思ってたからさ。ある意味ではちょうど良かったかな〜」

「でも、正式なメンバーに加えるとなると話をちゃんと通さなくちゃいけない」

 

 そう、リョウさんの言う通り。

 結束バンドは《ストレイビート》というレーベルに所属している。

 どういう契約になっているのかは(現状では)部外者である私には知る由がない……が、勝手にそんな判断を下していいハズがない。

 

 で、ストレイビートのスタッフが今日、私たちを訪ねて来るそうだ。

 その人が私の正式加入を認めるかどうかを見定める……らしい。

 ダメと言われたら、大人しくサポートメンバーで落ち着くしかない。

 ……出来るのならば、彼女たちと同じ立場で肩を並べたいものだ。

 

「姫榊ちゃんの腕前ならきっと大丈夫よ!」

 

 喜多さんが私の両手を握ってきた。

 笑顔がすっごく眩しい。

 

 先日の件もあって、後藤さんが謝罪会見(?)を開く前に私は伊地知さんたちに、私の耳の事を話した。

 打ち明け終わった時、みんな「それがどうかしたの?」って表情をしていた。

 

「姫榊さんが姫榊さんである事に代わりはないからね〜」

「聾唖のバンドマン……ロックだね」

「やっぱり姫榊さんって只者じゃなかったのね〜!」

 

 みんな、いい人たちだ。

 こんな風に、遠慮なく、気負わずに接してくれた人たちは今までいなかった。

 結束バンドのみんなと、ずっと一緒にいたい。

 そう思う気持ちが、ますます強くなっていった。

 ……それと同時に、別の感情が心の奥底で渦巻いているのを私は見て見ぬ振りをした。

 

「そろそろ来る頃だね〜、ほらぼっちちゃん! いつまでも土下座してないで!」

「あっ、はっ、はい」

 

 いったいどんな人が来るのだろうか……怖い人だったらイヤだな。

 声と音を失っている音楽家なんて論外だ、なんて言われたらどうしよう。

 

「大丈夫、どうせ来るのあの人だろうし、姫榊が何か言われたら私がベースでポムってするから」

 

 何が大丈夫なのだろうか。

 っていうか「ポムっ」ってなに? 

 ……でも、まあ、うん……そうだね。

 

なんとかなるなる、な〜るなる

 

 サムズアップ。

 

「あの二人、おちゃらける方向性が似てますよね」

「類友ってやつでしょ」

 

 褒められてる気はしない。

 リョウさんは嬉しがってるけど。

 

 スタジオのドアが開いた。

 中に入ってきたのは……

 

「どうも〜、ストレイビートから来ました、ぽいずん♡やみです〜」

 

 めっちゃ胡散臭い格好した人だった。

 

「お待ちしてましたー、やみさん。

 彼女が話してた子です」

 

 私は軽く頭を下げて『姫榊 花奏です』とメモ用紙に書いて見せた。

 

「ほ〜……へ〜……」

 

 すっごくジロジロ見られてる。

 

「とりあえず、演奏してみてちょうだい?」

 

 *

 

 喜多 郁代side

 

 姫榊ちゃんを交えて、5人で演奏をする。

 最初よりはマシになってきたけど、まだ姫榊ちゃんのリズムは不安定さが拭えない。

 リョウ先輩もそれを見越して、なるべくキーボードが前面には出ないようにスコアを書き直したらしいけど……やっぱり、あの時の実力とは程遠い。

 

 演奏が終わる。

 やみさんはしばらく考え込んでから口を開いた。

 

「……やっぱり《本物》! まさかこんなところに《消えた神童》がいたなんて!」

 

 ……え? 

 ……本物? 

 ……消えた神童? 

 

「な、何の話ですか、やみさん?」

 

 私はやみさんに詰め寄った。

 やみさんはキョトンとした表情で言葉を返す。

 

「えっ……あなたたち、この子の事を知らずに引き入れてたの?」

 

 視線が姫榊ちゃんに集まる。

 姫榊ちゃんは、訳も分からないといった面持ちで首を傾げている。

 

「5歳の時に未就学部門のピアノコンクールでデビュー、そこから結果を出し続け、5年前に忽然と表舞台から姿を消した天才ピアニスト《姫榊 花奏》……そこでキーボードを弾いてるのは、その人よ」

 

 姫榊ちゃんの表情が少しだけ、険しくなった。

 まるで、開いてはいけない扉に手を掛けている……そんな感覚に襲われた。

 

 やみさんは姫榊ちゃんの目の前に立つ。

 

「演奏中、他の人の手元ばっかり見てるのはどうしてです?」

 

 姫榊ちゃんは一瞬だけ顔を背け、すぐに向き直りペン先を走らせた。

 

耳が聞こえないので

「あ〜、なるほどなるほど〜。……観客側から見るとすっごく悪目立ちするから、ライブする時はやめた方がいいですよ」

 

 姫榊ちゃんがメモ用紙を仕舞い、俯く。

 

「あっ、あの……!」

 

 ひとりちゃんが声を上げた。

 

「さっきのは……本当ですか……?」

「本当も何もないですよ、ギターヒーローさん。ネットで調べればすぐに出てきますから」

 

 スマホを取り出してたぷたぷと操作し、画面を見せてくる。

 ピアノコンクールの入賞者……それも、最優秀賞の欄に彼女の名前があった。

 他の年度でも、同じ場所に名前が載っている。

 

 知らなかった。

 姫榊ちゃんがそんなに凄い人だったなんて……。

 ……ふと、前に受けた言葉を思い出す。

 

《だから、何も知らないと言うんです》

 

 そして、彼女は他に何と言った? 

 

《それじゃあ、遅いんですよ》

 

「とりあえず、加入の件は合格ってこ」

「……姫榊ちゃん!」

 

 やみさんの言葉を遮り、姫榊ちゃんの両肩を強く掴んだ。

 姫榊ちゃんの表情が強張る。

 

「郁代、待って」

 

 リョウ先輩の制止する声を無視して、私は言葉を投げかける。

 

「あなたに……何があったの?」

 

 姫榊ちゃんは、何も言わない。

 姫榊ちゃんは、何も語らない。

 そして……

 

「…………!」

 

 姫榊ちゃんは私の手を振りほどき、逃げるようにスタジオから走り去った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。