姫榊 花奏side
伊地知さんとすっかり話し込んでしまった。
何か怪しまれたりはしないだろうか……まあ、後ろめたい事はしていないけれど。
……いや、後ろめたさは、ある。
私は伊地知さんにウソをついた。
5年前の自殺未遂事件、あの事件は新聞で小さくだが取り上げられていたのは知っている。
私は無関係ではない、むしろ当事者だ。
でも、自殺しようとしたのは……
「あら、2人ともやっと戻ってきた」
部屋に戻ると、喜多さんが椅子に座って寛いでいた。
……後藤さんの姿は見当たらない。
「あれ、ぼっちちゃんは?」
もしかして……また溶けた?
「ひとりちゃんなら、さっきトイレに行きましたよ。会いませんでした?」
「会ってないな〜、入れ違いになっちゃったかな?」
『迷子になってるかも』
「あー……その可能性はあるかも」
『探してきます』
その時、部屋の扉が開いた。
「あ……」
後藤さんが部屋に入ってきた。
どうやら迷子になっていたわけではなかったようだ。
「ひとりちゃん、お帰りなさい」
「は、はいっ、ちょっと迷子になりかけましたけどなんとか戻って来れました……」
そう言って椅子に腰掛けた。
……なんだか、後藤さんにチラチラと見られている気がする。
「まだ寝るまで時間あるし、何しよっか?」
「姫榊ちゃんのアルバム写真とかある? あったら見てみたいな〜」
アルバム写真……まあ、別に減る物でもないしいいか。
私は首を縦に振って本棚の前まで歩を進める。
そして一冊の本を取り出す。
それをテーブルの上に置いて広げる。
「おー……これがちっちゃい頃の花奏ちゃん」
「この頃からお嬢様って感じで可愛らしいわね〜」
本の中には私の幼い頃の写真が詰まっている。
ゆっくりとページをめくっていく。
「……なんかさ、1人で映ってる写真、あんまり無くない?」
「そ……そうですね、殆どの写真に別の女の子も一緒に……」
「……………………」
喜多さんが何かを考えている。
そして、口をゆっくりと開いた。
「この姫榊ちゃんと一緒に写ってる子、白雪さん?」
私は静かに頷いた。
そう、このアルバムに収められている写真の8割方はカスミと共に撮ったものだ。
「こっ、これが……白雪さん……?」
「だれだれ〜?」
「姫榊ちゃんの幼馴染らしいです」
「へー、なんだか姉妹みたいだね?」
ピクッと肩が動いた。
……気取られるな、隠し通せ。
『よく言われた』
「で、でも……」
後藤さんがこちらを見た、かと思えば顔を背けた。
「……………………」
後藤さんはそれ以上、何も言わなかった。
私はアルバムのページをめくっていく。
「2人とも仲良さそうだね?」
「ですね〜」
懐かしい気持ちになってくる。
あの時は……本当に幸せだった。
私の全てが彩り溢れて満ち足りていた。
……今はどうだろうか?
《今の私は、本当に幸せ?》
……幸せに決まってる。
カスミが今も生きていてくれて、結束バンドという居場所が出来た。
《結束バンドのみんなを、カスミの代わりにしてない?》
っ……!?
違う!
違うっ……!
《カスミの事はどうでもいいんだ?》
そうじゃない!
私は……私はっ……!
「花奏ちゃん……?」
意識が現実に引き戻った。
胸が苦しい、苦しいよ……。
「手、震えてるよ? ……大丈夫?」
意識がハッとなる。
言われるまで、左手が震えている事に気が付かなかった。
右手で左手を抑える。
「姫榊ちゃん、疲れちゃったなら休む?」
首を大きく、何度も横に振る。
「……………………」
後藤さんがこちらをジッと見ている。
いつもとは違う……何かが違う目をしていた。
『ちょっと肌寒いだけ』
「じゃあ空調の温度上げてもいいんじゃない?」
「私もいいですよ〜」
「あっ、はい……」
コクンと頷いて空調のリモコンを操作する。
そしてアルバムを閉じる。
「次は何しましょうか〜?」
「花奏ちゃんのオススメのボードゲームとか?」
伊地知さんにそう言われ、少し思考を巡らせてから……テーブルに手を伸ばす。
「Ludo……ルドー?」
「なんか聞いたことあるゲームかも」
「ど……どんなゲームなんですか……?」
『すごろくで追いかけっこするゲーム。駆け引きとかは殆どないから後藤さんでも安心』
「あぐっ……!?」
今のでダメージ受けるの?
「あ……4……」
「その先、私の駒がある場所なんだけど!?」
「でっ、でも……この駒以外に動かせるのがないので……」
「ひとりちゃん待って! まっ……あぁ〜!
で、でもスタートダイスで6が出れば……出ないっ!!」
「これ、結構な鬼畜ゲームだね?」
『ボードゲームってそういうもの』
「つ、次に1〜4のどれかが出れば……駒を1つゴールできる……」
「あっ、6」
「っ……!?」
「この駒を動かせば、ひとりちゃんの駒をスタートに戻せるのよね〜?」
「ろっ、6が出たのなら駒を出した方が、とっ、得策かとっ……!」
「だ〜め♪」
「あああああぁぁっ……!!」
「やってんねぇ」
『これがルドーの醍醐味』
「すっごく疲れた……」
ゲンナリとした様子の喜多さん。
まあ、ルドーって気力勝負なところがある。
「も、もっと気楽なゲームだと思ってました……」
後藤さんも疲れきった表情をしてる。
いつもより死にそうな表情だ。
『ボードゲームは遊びじゃないんだよ』
「いやいや遊びでしょ。……ふわ〜」
『そろそろ寝ます?』
「そうだね、そうしよっか」
『客用寝室まで案内します』
「そんな部屋まであるんだ……」