【完結】沈黙のピアニスト   作:高科奈紗

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結束バンドのキーボーディスト(前編)

 姫榊 花奏side

 

「次のライブは新宿FOLTでやることになりました!」

 

 というわけで、私たちはその《FOLT》というライブハウスへ打ち合わせと、別のバンドと合同練習の為に向かう事になった。

 STARRY以外のライブハウスに行くのは初めてだ。

 

『FOLTってどんなところなんです?』

 

 FOLTへ向かう道中、伊地知さんに聞いてみた。

 

「STARRYよりも大きい箱だね。未確認ライオットで優勝した《SIDEROS》ってメタルバンドが拠点にしてたりするところだよ。そこと合同練習するの」

 

 聞いたことないバンド名だ。

 ……いや、単に私がロックの世界に疎いだけか。

 

「あ、あと……この前、路上ライブした時に、機材を用意してくれたお姉さんも……そっ、そこで活動してます……」

 

 あぁ……あのお酒くさい……。

 ……そういえばあの人の名前、聞いてなかったな。

 それにちゃんとお礼も言えてなかったし。

 ……もし会えたら、お礼しなきゃ。

 

 そうこうして、目的地に到着した。

 確かにSTARRYよりも大きい。

 感じる雰囲気も全く違う。

 ……思わず、足が止まる。

 立ち尽くしてしまう。

 ……こんな感覚は初めてだ。

 

「花奏」

 

 リョウさんに肩を叩かれ、そして軽く揉み解される。

 気分が少し軽くなった、気がする。

 ……よし、行こう。

 意を決してFOLTの中に足を踏み入れる。

 

「……ん?」

「っ!?」

「ちょ、姫榊ちゃん!?」

 

 咄嗟に近くにいた喜多さんの後ろに隠れてしまった。

 ……いや、だって、厳つい雰囲気の男の人が……! 

 

「あら、結束バンドの子たちじゃない! いらっしゃい! ……その子が新しく入った子?」

「はい、そうなんですけど……ほら、花奏ちゃん、前に出て?」

 

 小刻みに顔を横に振る。

 

「もー……この人はFOLTの店長さん、見た目はちょっと……怖いかもだけど、いい人だから!」

「私は吉田 銀次郎よ、お嬢ちゃんは?」

「……………………」

 

 深く息を吸い込み、吐き出す。

 ……よしっ! 

 

『姫榊 花奏。結束バンドのキーボーディストです』

「あらあら……うふふっ、よろしくね〜?」

 

 ペコリと頭を下げる。

 ……悪い人じゃ、なさそうだ。

 

「おー、いつぞやのキーボード少女! それにぼっちちゃんたちも〜」

「あっ、おっ、お姉さん」

 

 あの時のお酒くさい人……今日も、お酒くさい。

 

『この前はありがとうございました。あの時ちゃんとお礼を言えずにごめんなさい』

「ん? ……ああー、いいのいいの、お礼なんて!」

 

 朗らかに笑うお酒くさいお姉さん。

 

「この前のライブ、見たよ。結構良かったじゃん」

 

 前の……あの時、居たんだ。

 ……そういえば、演奏に集中して観客の方は全然見てなかったな。

 

「……………………」

 

 そんでもって、お酒お姉さんの横にいる人……さっきからこっちを睨み付けてきてるんだけど……。

 

「大槻ちゃんも、良かったよね〜?」

「……可もなく不可もない、ですね」

 

 この人も観に来てたんだ……? 

 

「……………………」

 

 な、なんでこんなに睨んで来るんだろう? 

 私、何かしたっけ? 

 

「──────────────────」

 

 っ……!? 

 奥から3人の女子がやって来た……いや、それよりも……! 

 

「彼女たちがSIDEROSだよ」

 

 SIDEROS……合同練習するバンド。

 

「……大槻ヨヨコ」

「──、────────」

「私は本城楓子です」

「内田幽々です」

「っ!」

「またっ!?」

 

 私は再び喜多さんの後ろに隠れた。

 ダメだ……この人は、ダメだっ! 

 

「……──────────────────」

「あー……そっか、長谷川さんみたいな人は花奏ちゃんのある意味天敵なのかな……?」

「──?」

「……ねえ、姫榊ちゃん。事情話した方がいいんじゃない?」

 

 喜多さんが私に顔を近づけて、耳打ちをするようにそう言った。

 私としては、結束バンドやSTARRYの人たち以外には知られたくない事だけど……。

 ……目を閉じて、深呼吸をする。

 

『姫榊 花奏です。耳がまったく聞こえないので、よければマスクを取ってもらえないでしょうか』

 

 私がメモ用紙を見せると、マスクの人は目を見開いた。

 そして……

 

「長谷川あくびです、よろしくっす」

 

 私は大きく頭を下げた。

 そして顔をあげると、さっきまで私を睨んでいた人……大槻さんが詰め寄ってきた。

 

「あなた、耳が聞こえないのにバンドやってるの!?」

 

 思いっきり肩を掴まれた。

 な、なにごと? 

 

「聞こえないのに話が通じてるって事は、読唇術っすか?」

 

 私はコクコクと頷いた。

 

「……ねえ、花奏ちゃん」

「……?」

 

 伊地知さんに視線を向ける。

 

「本名、明かして……よかったの?」

 

 …………あっ! 

 そうだ、結束バンドの活動では『カナデ』って名乗らないといけないんだった! 

 

「姫榊 花奏……どこかで聞いたことある名前なんだよねぇ」

 

 本城さんに……勘付かれそうだ。

 

「き、気のせいじゃないですか〜? よくある名前ですし!」

 

 喜多さん、フォローになってないです。

 

「姫榊って苗字はよくある名前じゃないっすよ」

「幽々も〜初めて聞いた苗字ですぅ〜」

「思い出せないって事は、そんなに大した事じゃないってわけでしょ」

「う〜ん、そうかも?」

 

 なんとか……事なきを得そうだ。

 

「……それよりも!」

 

 再び大槻さんに詰め寄られた。

 こ、この人はさっきからなんなんだろうか? 

 

「耳が聞こえないのにあの演奏って……キーボード歴何年なのよ!」

『約2ヶ月です』

「ド初心者!?」

「ピアノ経験者とかじゃないっすか?」

「……あ〜! ピアニスト!」

 

 あっ。

 

「天才ピアニスト《姫榊 花奏》! 思い出しました〜!」

 

 ああ……バレた……。

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