姫榊 花奏side
「うわ……すごっ」
「ね〜?」
「……………………」
SIDEROSの4人がスマホの画面を凝視している。
そこに表示されているのは私のコンクールの成績をまとめてあるサイト……らしい。
「なんでこんな超大物がシモキタでバンドやってるんすか?」
『後藤さんにハメられて』
「ぴゃう!?」
「おっぢさん……」
長谷川さんの冷たい視線が後藤さんに向けられる。
まあ、ウソはついてないからね。
「そもそも私たち、花奏ちゃんが有名だって知らないでバンドに誘ってたしね〜」
「運命の出会いってヤツだよ」
そんなに言うほど運命的な出会いでも無かった気がしますよリョウさん……。
「……大事なのはピアノじゃなくてキーボードの腕前でしょ」
大槻さんがそう言った。
それはそうだ、今の私はピアニストじゃない。
結束バンドのキーボーディストだ。
『私は世界一のキーボーディストを目指す、それだけです』
結束バンドのみんなを……私の友達を、支え、共に歩んでいく。
それが私の夢だ。
「姫榊さん、もうピアノは弾かないんですか〜?」
本城さんに視線を向ける。
喜多さんとはまた違った、笑顔が眩しい人だ。
「私、あなたの演奏を結構気に入ってたんですよ?」
私は本城さんの目をしばらく捉える。
そしてペン先を走らせる。
『もう表舞台に立つつもりはないけど趣味で弾いてます』
「この前もピアノの演奏、いっぱい聞かせてくれたよね〜」
「ふーちゃん、ピアノやってたんすか?」
「昔、ちょっとだけね〜?」
「……………………」
ふと、突き刺さるような視線を感じた。
その方向へ視線を向ける。
視線の正体は……内田さんだ。
そして私と視線がぶつかった内田さん……いや、よく見るとその視線は私の目を捉えてはいない。
その横の……虚空を眺めている、そんな内田さんがゆっくりと口を開いた。
「結構なのが憑いてますね」
ついてる……?
……ああ、埃とかが肩に着いてた?
私は肩をパタパタと手で払う。
小林さんがきちんとクリーニングしてくれているバズだけど……長距離移動で汚れてしまったのだろう、身嗜みは大切だ、気をつけないと。
「常世の契りと言わんばかりの……ふふっ〜」
「……?」
何を言っているんだろう、この人は。
「幽々ちゃんは『視える』人なんすよ」
みえる?
もしかして……
『幽霊が?』
「そういう事っす」
『そんな非科学的な存在、いるわけないじゃないですか』
「そうよね! そもそも幽霊だのオカルトだの、そんなのは物理化学現象に過ぎないのよ!」
なんか大槻さんが早口で捲くし立て上げてきた。
なんでこの人、こんなに食いついてくるんだろう。
「……あっ、2人の肩に色白い手が」
「ひぃぃぃぃぃっ!?」
「ぷぷぷっ」
「こーら、リョウ!」
なんだか……うん、思ったよりも賑やかな人たちだ。
「姫榊ちゃん、楽しそうね?」
私は喜多さんに視線を向けて、小さく頷いた。
こういうのも……悪くない、かも。
「あ、あの……そろそろ、練習……しませんか……?」
「あっ、そうだね!」
そういえば、合同練習の為にここに来たのだった。
……忘れるところだった。
「天才ピアニストさんの腕前、見せてもらおうかな〜」
本城さんが満面の笑みを向けてきた。
……やっぱ、本名を明かさなきゃ良かったな。
後の祭りだけど。
そうこうして、結束バンドとSIDEROSの合同練習が始まった。
音は聞こえないけれど……この人たちの、SIDEROSの実力は即座に理解できた。
私たちよりも……ずっと上の存在だ。
特に……大槻 ヨヨコさん、彼女の音楽に賭ける姿勢は『貪欲』そのもの。
私たちには……一番足りてない物、そう感じた。
「姫榊 花奏」
練習がひと段落ついて、大槻さんに話しかけられた。
私はジッと視線を向ける。
「あなた、ライブの時は合わせられてたのに……さっきはなんでリズムが乱れてたの?」
「……………………」
私は何も言わず、視線を向け続ける。
……いや、何も言えなかった。
「仕方ないんじゃないっすか? 耳が聞こえないんじゃあ」
「他の人の手元を見て、それで自分のリズムが崩れてちゃあ世話ないでしょ」
「……………………」
耳が聞こえない事を言い訳にするつもりはない。
単なる私の力不足、それだけだ。
「このままじゃあ、あなた……結束バンドのお荷物よ」
「っ……!」
わかってる。
そんな事、私が一番わかってる。
他の人に言われなくても……分かってる!
「いくら技術があったって……」
「あっ、あのっ!!!」
後藤さんが大きく口を開いた。
そして大槻さんをしっかりと視線で捉える。
「姫榊さんは……お荷物なんかじゃない、です……私たちの! たっ、大切な……仲間、なんです、結束バンドの演奏に……ひ、姫榊さんは……ひっ、必要だから!」
後藤さんを視線で捉える。
……普段は頼りないのに、この人はなんでこういう時はカッコいいんだろう。
あの時……路上ライブ時も、文化祭の時も、ライブの時も……いつも、私の世界を開いてくれたのはあなただった。
「……まあ、もっと他のメンバーを信用してみたら?」
大槻さんはそう言って椅子に腰掛けた。
他のメンバーを……みんなを信用……。
……大槻さんは大槻さんなりに、アドバイスをしてくれようとしたのだろうか?
「この合同練習、言い出したのヨヨコ先輩なんすよ」
「ちょっ!?」
「結束バンドをFOLTのライブに、って提案したのもヨヨコ先輩なんですよね〜」
「あ〜〜〜!!」
……うん、ちょっと怖いし何か訳わかんない絡み方してくるけど……良い人だ。
「あ……はふ……」
後藤さんは力尽きたのか、グッタリとヘタリ込んでいる。
私は後藤さんの前に歩み寄り……両手でギュッと後藤さんの手を握る。
「ふえ……?」
後藤さんは目を逸らす。
それでも私は後藤さんをジッとこの目で捉える。
……ありがとう、私の大切な友達。