【完結】沈黙のピアニスト   作:高科奈紗

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それでも私は。(後編)

 後藤 ひとりside

 

『放課後、STARRYで待ってます』

 

 そのメッセージの後、姫榊さんからの返信は無かった。

 彼女が何を考えているのか……何を言おうとしているのか、私たちには何も分からなかった。

 けれども、1つだけ分かる事はある。

 

「本当に良かったの、ひとりちゃん?」

「……いいんです、こうしなかったらきっと、後悔します……から」

 

 喜多ちゃんが心配そうにこちらを窺う。

 私は今日、補修をサボる事にした。

 ここで姫榊さんに会わなかったら……彼女を失ってしまう、そんな予感がした。

 それだけはダメだ。

 

 STARRYへの足取りは重い。

 けれども、行かなくちゃ。

 姫榊さんに会わなくちゃいけない。

 

 STARRYに到着すると、虹夏ちゃんとリョウさんは既に来ていた。

 私たちが来たのに気付いた2人はこちらを一瞥した後、視線を元の位置へ戻した。

 2人の視線の先にいるのは……いつもの無表情フェイスで佇んでいる姫榊さん。

 そして、その横には店長さんとPAさんが居た。

 

「これで全員揃ったな。……ほら、みんなに言うことがあるんだろ?」

 

 店長さんがそう言って、姫榊さんの背中を軽く叩く。

 PAさんはいつものような穏やかな表情、店長さんはいつものような怖い表情。

 私たちは……どんな表情をしているのだろうか。

 

 1歩前に出て、姫榊さんが私たちの顔を見渡す。

 そしてメモ用紙とペンを取り出した。

 

私と勝負してください

 

 そう書いたメモ用紙を、堂々とした面持ちで見せつけてきた。

 

「おいっ! 姫榊、お前……」

「まあまあ、店長」

 

 PAさんが店長さんを窘める。

 姫榊さんと……勝負? 誰が? 

 

「花奏ちゃん、どういう事?」

クリスマスライブの後の年末ライブ、そこであなたたち結束バンドに勝負を挑みます

 

 訳が分からない。

 姫榊さんと私たちが……勝負? 

 何のために? 

 

私が勝ったら、結束バンドを辞めさせてもらいます

 

 結束バンドを、辞める? 

 姫榊さんが、結束バンドを辞めると言った? 

 

「姫榊ちゃん! 冗談もいい加減に……」

私は本気

 

 無表情だけど、眼差しは真剣そのものだった。

 彼女は冗談やイタズラが好き、けれどこと音楽に関しては一切ふざけたりはしない。

 もちろん、妥協も一切しない。

 

 彼女は、本気なんだ。

 本当に結束バンドを辞める気でいるんだ。

 

「そんなの認められないよ! 花奏ちゃんは私たちの大切な……」

「いいですよ、その勝負受けて立ちます」

 

 私は虹夏ちゃんの言葉を遮り、姫榊さんの前に立つ。

 私と彼女の視線がぶつかり合う。

 人と目を合わせるのは苦手だけれど……この時だけは、臆する気持ちは全くと言っていいほど湧かなかった。

 

「ぼっちちゃん!? 何を言って……」

「虹夏」

 

 リョウさんが虹夏ちゃんを制止して、私に視線を送る。

 任せたよ……リョウさんの目が、そう語ってる。

 

「ひとりちゃん……」

 

 喜多ちゃん、大丈夫。

 私が……彼女を引き止めてみせます。

 

「あなたが勝ったら、結束バンドを辞めればいい。その代わり……」

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちが勝ったら、あなたは私がもらいます」

え゛?

 

 *

 

 姫榊 花奏side

 

「私たちが勝ったら、あなたは私がもらいます」

え゛?

 

 声を取り戻してから、1番大きな声が出た気がする。

 だって、そうなる。

 

「んぷぷっ……!」

 

 リョウさんが笑いを堪えて肩を震わせている。

 

「……………………」

 

 伊地知さんは呆然とし過ぎて明かりの消えた電球と化している。

 

「ひ、ひとりちゃん?」

 

 喜多さんはこれ以上ないぐらいの困惑した表情を浮かべている。

 

 この人……本気なの? 

 いや、悪い気はしない……じゃなくて、この人、自分の言った言葉の意味を分かってるのか? 

 私をもらう、って……そんなの……

 

「いいですよね、姫榊さん?」

「ぁ……ぅん……」

 

 うん、この人、絶対に理解してない。

 ……なんだかムカつく! 

 

「本当にいいんですね? 私たち結束バンドと勝負するって事で?」

「…………?」

 

 私はコクンと頷く。

 さっきそう言ったのに、何を念押しする必要があるのか。

 

「言いましたね?」

「…………???」

 

 彼女の意図が読めない。

 絶対に勝つ自信があるのか? 

 それとも何か、別の考えが……? 

 

「私たち《5人》であなたの勝負、受けて立ちます」

「ぇ?」

 

 はっ? 何を言って……? 

 

「あなたはまだ、結束バンドの一員です。なら、こうなるのも当たり前じゃないですか?」

「……………………」

 

 そういう事か。

 ならば、私は……

 

いいですよ、その条件で

 

 私は、私だけの力であなたたちを越えてみせる。

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