姫榊 花奏side
クリスマスは結束バンドの自主企画ライブを行う。
……らしい。
らしい、と何故他人事のような独白なのかと言うと、私はこの件に関して無関係を貫くつもりだからだ。
自分勝手と言われようが身勝手と言われようが知った事か。
適当に理由をつけて、欠席する旨を伊地知さんに伝えたらジト目で見つめられた。
そんでもって「分かった」と言った。
多分、心の内を見透かされてる。
それでも止めなかったのは……まあ、そーいう事なんだろうな、と思う。
奇妙な形になった、私と結束バンドの対決。
私のソロvs私を含めた5人の結束バンド。
だからといって《どっち側に立っても》手を抜くつもりは無い。
どの道、どっちが勝ったって……
「なに辛気臭い顔してんの」
顔を上げる。
大槻さんが怪訝な面持ちでこちらを窺っている。
私は今、銀座のFOLTにいる。
特に予定がないから遊びに来た。
気分転換になるかな……と思ったけれど、特に気分は晴れなかった。
「なんだか元気ありませんね〜?」
本城さんが隣に座る。
私は顔を伏せたままでいた。
何もしたくない、そんな気分だった。
「おはようございまーす。……あっ、姫榊さん遊びに来てるんっすね」
長谷川さんの声が聞こえた。
声の聞こえた方を向いて、私は咄嗟に立ち上がった。
「あ……」
「ちょっ、あなた何帰ろうとしてるの!?」
ダッシュで逃げ出そうとしたら大槻さんに肩を掴まれた。
寄りにもよって、なんであなたがいるの。
「あくび、なんで後藤ひとりと一緒なのよ?」
「クリスマスライブの宣伝をFOLTチャンネルに協力してもらいたいそうで」
「要するに、コラボって事ですか〜?」
「そうなるっすね」
よし、帰ろう。
ありがとうございましたSIDEROSのみなさん!
「待ちなさいって。……あなた、驚くぐらい力ないわね」
逃げられない。
大槻さんに肩をガッチリと掴まれて身動きが取れない。
「ひ……姫榊さんも、FOLTのみなさんに協力を……?」
そんな訳ないでしょ。
私はクリスマスライブがどうなろうが関係ないのだから。
「まあ、どうしてもって言うなら協力してあげなくもないけど」
なら私を帰らせてください。
「なんで頑なに逃げようするのよ?」
ダメだ、抵抗しても全く歯が立たない。
「イライザさんの動画に姫榊さん、しょっちゅう出演してますしコラボは別に問題ないですよね」
「結束バンドの名前と顔は出して無いけどね〜」
「あ……私だけで宣伝しますので……」
そうしてください。
そして私を早く解放して。
「……姫榊さん、ぼっちさんと喧嘩でもしてるんですか〜?」
「っ!?」
「は? あなたたち、喧嘩なんてしてるの?」
「えっ、いや……そういうわけじゃ……」
「でも明らかに姫榊さんはぼっちさんの事を避けようとしてる〜」
逃げたくもなる。
今の私は、彼女の敵なのだから。
「……とにかく、後藤ひとり! やるからには完璧な動画を撮るからね!」
「えっ、あ……う……」
大槻さんの手が私から離れた。
今がチャンス……!
「幽々、出入り口塞いでおいて」
「了解で〜す」
無理でした。
「自分用に考えてある企画があるから、試しに何本か撮るわよ」
「あっ、はい……」
とりあえず、大槻さんと後藤さんのコラボ企画の撮影を見学する事になった。
ここから逃げられない以上、仕方ない。
「メントスコーラ!(2リットルver)」
「えっ」
大槻さんがお菓子とコーラのペットボトルを自信満々の面持ちで取り出した。
『メントスコーラって何ですか? 新商品のコーラ?』
「まじか……」
撮影係の長谷川さんにそう聞くと、引き攣った表情をされた。
「見てればわかります」
長谷川さんの言われた通り、見ている事にした。
色々と2人が手間取っていたので「あの2人を手伝ってくるんで撮影お願いするっす」と長谷川さんにカメラを渡された。
まさか撮影する事になるなんて……まあ、私が出演するわけじゃないし……。
そう思って適当にカメラを向けていた時だった。
ブシャー!!
コーラが噴水のように勢いよく噴き出した。
お、おぉ……これは凄い……!
これがメントスコーラ!
どんな原理でこうなるんだろう……!?
「オートミールを目の当たりにした時と同じぐらい目をキラキラさせてる……」
「ウソだろ……」
その後も色々と面白い動画を何本か撮っていた。
後藤さん、みんなの為に頑張ってるな……それに比べて、私は……。
「ふっふっふ……」
「……?」
内田さんがこちらを見つめている。
……いや、この目線。
最初に合った時と同じだ。
『憑いてます?』
「ええ、この前とは比べ物にならない特級のが」
幽霊なんているはずがない。
私は自分の見た物しか信じない、オカルトなんて以ての外だ。
最後に大槻さんと後藤さんのセッションを撮ってコラボ企画を終えるそうだ。
2人の奏でる音色が聞こえてくる。
「……………………」
なんだろう……2人の演奏している姿を見ていると、心の中にナニカが渦巻いてくる。
凄く……イヤな気分になる。
……ああ、今なら、ここから逃げられる……
「はいOKです」
「撮影切ったわね? ……それじゃあ姫榊花奏」
「ん……?」
大槻さんがこちらをジッと捉えていた。
「なにボーッと突っ立ってるの、あなたも加わりなさい」
「えっ、あの……?」
「いいわよね、後藤ひとり?」
「あっ、は、はい……」
「んっ」と言って大槻さんは私の目の前に譜面を差し出してきた。
あのバンド-メタルver……と書いてある。
結束バンドの楽曲だ。
しかも、ちゃんとキーボード用の譜面。
『わざわざ用意してくれたんですか?』
「悪い?」
悪くない。
悪い気は……しない。
キーボードのセッティングとチューニングを行い、譜面を立て掛ける。
大槻さんに視線を向けて小さく頷く。
指先を鍵盤に押し当てる。
私と大槻さんと後藤さんの旋律が重なり合う。
大槻さんの力強く引っ張る音色が、後藤さんの不安定ながらも自分を強く主張する音色が……私の音色に乗って歌う。
心が中で燻っていたナニカが、次第に薄れていく。
「何があったか知らないけれど、アレじゃあ張り合いがないのよ」
大槻さんは不器用な人。
けれど決して悪い人じゃない。
FOLTに遊びに来る私を、何だかんだ言いながらも迎え入れてくれる。
「後藤ひとりはあなたの何?」
後藤さんは、私の……
「敵? ……違うでしょ、音楽に敵も味方もないって言ったのはあなたよね?」
いつか、私が大槻さんに言った言葉。
そうだ……私は後藤さんの……
大切な、友達。
「……………………」
「……………………」
コラボ動画と宣伝の撮影が全て終わり、解散となった。
私は後藤さんと共に電車の中で揺れている。
『ごめんなさい』
「え……?」
「……………………」
距離を取れば、突き放せば……辛くなくなる。
そう思っていた。
今の私に、あなたと一緒に居る資格なんてない。
でも、もし……あなたが望むのならば……
「あっ、あの!」
「……?」
「クリスマスライブ……それと、クリスマスパーティー……一緒に、参加しましょう」
「……………………」
私は何も言えなかった。
後藤さんを真っ直ぐに見られない。
でも、それがあなたの望みなら……
『何も手伝ってないのにいいの?』
「いっ、いいんです! 私は……姫榊さんと一緒が、いいんです……みんなには、私が説得します、から……!」
「……………………」
私はやっぱり、幸せ者だ。
あなたはいつも闇の中に堕ちて沈みそうな私を、光へ掬い上げてくれた。
その恩を……想いを、無碍になんてできない。
したくない。
『わかった』
「……!? あっ、ありがとうございます……!」
お礼を言わなくちゃいけないのは私の方なのに。
やっぱり変な人だ。
後藤さんの目を捉える。
彼女の大空のような瞳には……薄っすらと涙が浮かんでいた。
「これからも、ずっと一緒に……居てくれるんですよね……?」
それは……
「結束バンド、辞めるなんて……ウソなんですよね……?」
「……………………」
「私たちが勝ったら……約束、ちゃんと守ってくれますよね……?」
きっと、出来ない。
あなたの頬を伝う一筋の光を、私は拭う事が出来なかった。
したくても……出来ない。
それでも、あなたなら……あなたたちなら、《姫榊 花奏》を打ち破り、私を結束バンドに引き戻してくれる。
そう信じている。
その時は……その時こそは、あなたの想いに応えよう。
残るは2話となります、最後までお付き合いしてもらえると幸いです。