嫁を育てて世界を救え!~異世界転移物語~   作:妖怪せんべえ

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17話 invoke

カルド王が部屋を出て間もなく、俺も作戦室へと移動した。そこで、騎士長が来るまでの間ハウトゥーファンタジーを読み、情報を仕入れていた。

 

 情報とはもちろん、これからここに来るであろう魔物の情報だ。規模、種類、強さ、弱点、それら全てはハウトゥーファンタジーに載っている。だが、載っているだけだ。

 

 弱点が知れたところで精々が斬撃や刺突でしか弱点を突く事が出来ない。弱点が火属性ならまだなんとかなるしれないけど、間違っても光属性や闇属性なんて突く事は不可能だ。というかそもそもが光や闇と言われても一体どういったものなのかがピンとこない。

 

「おう、待たせたな」

 

 騎士長がノックもせずに部屋に入ってきた。付き合いが長くなってきたためか、最初はそれなりにあった礼節が、段々と礼を失していき今や礼節のれの字も感じられなくなっていた。

 

 悪く言えば無礼、よく言えば打ち解けたと考えられない事もないけど、やはり最低限の礼儀は守ってほしいものだな。部屋に入る時はノックぐらいして欲しい。

 

「ノックの1つでもして欲しかったよ」

 

「悪い悪い。で? どうなってる?」

 

 騎士長はハウトゥーファンタジーを指さして言った。どうなってる? とはこの先起こる事を聞いているのだけど、ハウトゥーファンタジーの存在を知らない人が聞いたら何の話しをしているのかさっぱりだろうな。

 

「規模自体は大したものじゃないみたいだけど、時間が時間だからなあ、視界が狭い」

 

 全くもって今日は多忙な一日だ。息を吐く間がない。このままでは今日一日が戦闘に始まり戦闘に終わりそうだ。興奮して眠れないっちゅーの。

 

「そればっかりはどうしようもないな。一応松明は焚かせているが焼け石に水だろう。戦法はどうする? また弓を使うか?」

 

「いや、今回は槍と剣を使おう。相手がスライムだから弓はほとんど効かない。こっちの戦力は?」

 

「練度の低いのも合わせて200ってところか」

 

「心許ないな……」

 

 確かスライムは練度の高い兵士が1人でやっと一匹とかそんな強さだったはずだ。練度の低いのを入れて200じゃ不安が残るな。これは何か策をたてなければ。

 

 ああ、面倒くさい。チートでボーンってやりたい……。なんでこんなにも手駒が弱いんだ。装備もしょぼいし誇れるところが1つもない。

 

 信長もこんな気持ちだったのだろうか。尾張の兵は弱兵で有名だったけど、信長はそれをうまい事活用して策を弄する事で強敵を破ってきた。長篠の戦いでも――

 

「――待てよ。いける。今から俺が指示するものを大急ぎで作らせて。構造は簡単だからすぐに作れるはずだ。後は時間だけど……到着まで2時間ある。大丈夫だ」

 

「また面白い事考えたみたいだな。で、何を作らせようってんだ?」

 

「車輪付きの穴空き盾。体が隠れるくらいの大きさのね。材料は木で構わない」

「なんじゃそりゃ?」

 

「簡単な話しだよ。盾を構えながら敵に接近して、穴から槍を突き刺す。距離さえ見誤らなければこっちは無傷で勝てる」

 

 要塞に設置されたバリスタに近い構造といえるだろう。盾をしっかりと地面に密着させて下部に取り付けられた車輪によって敵との距離を詰め、穴から槍を突き出す。

 

 バリスタが遠距離から攻撃出来るのに対して、こちらは近接のみに限られる。両者の違いはそこだ。一長一短。時と場合によって使い分ける必要がある。

 

 これも恐らくはこの世界にはない思考だ。今まで見てきた感じ、歩兵は盾と鎧を装備して突っ込むという固定観念に囚われている。美徳とかそういう意味合いもあるのかも知れないけど、俺はそんな事皆目知らん。興味もない。勝てばいいんだ、勝てば。

 

「成る程な。それならすぐに出来そうだ。今回は俺も出るが、お前はどうする?」

 

「んにゃ、俺は軍師だから戦いません。上から魔物が滅ぶのをゆっくりと眺めています」

 

「はいはい。そんじゃ軍師様を失望させないように精々頑張りますっと」

 

「うむ。苦しゅうないぞ。頑張りたまえ」

 

 俺達は冗談を言い合いながらも一定の緊張感は忘れなかった。当然だ。この後には人とは別の理に生きる魔物との戦闘が控えているのだ。これは、過度な緊張をほぐすための冗談。俺がそう理解しているのと同じように、きっと騎士長もそう理解しているはずだ。

 

「さあ、各々の持ち場に行こう。ここで負けるのはあり得ないからな? だから、俺は先の事をする。期待してもいいよね?」

 

 俺は挑発的に言った。これも、先程の冗談の延長線上だった。内容が内容だけに、砕けて言わなければ無用なプレッシャーをかけてしまう事になる。だが、だからと言って言わない訳にはいかない。俺達の意思は共通である事を確認する意味があるからだ。

 

 なぜならば、絶対という事はない。今この瞬間に地震が起きるかもしれないし、空気がなくなるかもしれない。これらは一見するとあり得ない、と思えるけれど、それらが起こる可能性はすべからく0じゃない。現実的な事を言うと今回の戦闘でスフィーダが滅びるかもしれない。

 

 俺達に出来るのは起こりうる可能性を少しでも0に近づける事だ。逆もまたしかり。人間の想いの力というのは確実にある。だから、俺は俺の見据えている未来を実現するために騎士長にこう言ったのだ。それが、勝利への一歩だと知っているから。

 

「当たり前だ。アンジェがいなくてもやれるってところを見せてやるよ」

 

 俺達は軽く笑い合って、一緒に部屋を出た。石造りの王宮に設置された窓から見える外の風景は、すっかりと暗闇に包まれていた。

 

 空に浮かぶ大きな月が放つ灯りは、どこか人を情緒的な気分にさせる魔力が含まれているように感じた。

 

「……綺麗だな」

 

「月か?」

 

 並んで歩いているにも関わらず、俺の注意が外の景色に向いている事に気付いたのだろう、騎士長は少し呆れた様子で言った。

 

「戦の前だっていうのにのんきなやつだな」

 

「そう言うなって。俺のいた世界には月見っていう風習みたいのがあってさ」

 

「ああ、それなら俺も知ってるぞ。月を見ながら酒飲んだりして騒ぐやつだろ? あれは楽しいよな」

 

「こっちの世界ではそうなんだ。俺の知っている月見はもっとしっとりとしたものだったよ。月を眺めながら団子っていうお菓子を食べるんだ。懐かしいなあ……」

 

 こっちに来てからは、あまりの忙しさにあっちの世界の事はあまり思い出さなかったけど、こうして、ふとした瞬間に思い出してしまう事はたびたびあった。

 

 アンジェや騎士長といった様々な人と関わりをもった今、俺は元の世界に全くもって未練がないかと問われたら、迷わずイエスと言えるだろうか。

 

 それなりに裕福な家庭に生まれ育って、特に不自由のない生活をしてきたけど、どこか毎日が空虚でつまらなかった。親はいつも家にいないし、友達もあまり多い方ではなかった。記憶にあるのは毎日家に引きこもってゲームばかりやっていた事だけだ。

 

 あれ? よくよく考えたら俺あっちの世界ではゲームしかしてねえじゃん。そりゃ空虚でつまらんわな。無駄な自問自答だった。最初から答えは決まっていたんだ。

 

 今度からもし元の世界に帰りたいかと聞かれたら迷わずノーと答えよう。こっちの世界は楽しすぎるんだ。だから不安になってこんな事を考えてしまう。やめよう。ネガティブイクナイ。

 

「やっぱり、元の世界に帰りたいのか?」

 

「ノー!」

 

 自問自答の答えが早速活きた瞬間だった。

 

 

 

 時は流れて2時間後。俺は執務室にいた。外ではもう戦闘が始まっているのだろう、厚い扉に閉ざされたこの部屋にも時折兵が発する怒号が聞こえていた。

 

 窓が1つしかない閉塞感にあふれた執務室で作業をしていると謎の喪失感に見舞われる。なぜ俺はこんな精神衛生上問題のある部屋を作業部屋に選んでしまったんだ。

 

 大量の資料を広げてしまった今、これらを片付けて別の部屋に移動するのは大変な労力を要する。従って、俺はここで文字通り執務にいそしむしかないのだ。

 

「んん……おお」

 

 伸びをしたら背中がぽきぽきと音をたてた。どうもここ2、3日体が凝って仕方ない。マッサージ屋とかないのか? あったらやってもらいたいな。

 

「疲れてるみたいねー。ん……しょっと。これを飲んで。一生懸命持ってきたのよ?」

 

 メアリーが背中の羽を必死に動かして俺にお茶を持ってきてくれた。姿を見ないと思ったらこれの準備をしていたのか。

 

 湯気がたっているあたり、一からメアリーが用意したんだろう。よくもまあこの小さな体でそんな事が出来るものだな。

 

 ありがたくいただくとしよう。メアリーの頭をひと撫でして、俺はカップを傾けた。熱い液体が食堂を通って空きっ腹の胃に広がるのがわかった。

 

 そういえば、夕食を摂っていなかったな。どうりでさっきから妙に寒気がする訳だ。体が燃やすものがなくて困ってるみたいだな。外で一生懸命戦ってる騎士長達には悪いけど、何か食べさせてもらうとしよう。そう思って立ち上がったのだが――

 

「あら……?」

 

 ――意思に反して、俺の体は前のめりに倒れこんでしまった。起き上がろうにも体が言う事を聞かなかった。

 

「ちょっと、こーへー何ふざけてるのよ?」

 

「いや……体が」

 

 そう言ったつもりだったが、実際に口から発せられたのは相当近くによらなければ聞こえない程の小声だった。

 

「ちょっと! うそ! こーへー! 起きてよ!」

 

  ――バタン!

 

 誰かが部屋に入ってきたな。この遠慮のなさは騎士長か? 

 

「大変……! すごい熱……早くベッドに寝かせなきゃ……それに……冷たい水とタオルも必要ね」

 

 額に当てられた手がヒンヤリとして気持ちよかった。

 

 ダメ……だ……意識を保てない。やっぱりアンジェの言う事を聞いておけばよかった……。

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