結果から言うと、俺の家は無事だった。もちろん無傷で、という訳にはいかなかったみたいで、プレハブ状になっている家の側に少しヒビは入っていたが、まあ問題はないだろう。
人的被害も、アンジェの行動が早かったのが功を奏して、トマスが右手と左脚を骨折しただけに留まった。現在彼は俺達が乗ってきた馬車とは別の馬車に乗ってスフィーダに治療をしに行っている。
「それにしても……」
壮絶という言葉はまさにこういう時に使うのだろう。家の周りに散乱している魔物の死骸。辺り一面に飛び散った血液。ところどころにスライムのものと思われる粘液も見えるあたり敵は混成軍だったみたいだな。
恐らくは結構な規模だったはずだ。にも関わらず、家には血液1つ飛び散っていない。それが逆に不気味ですらある。
とてもじゃないがこれをアンジェ1人がやったとは思えなかった。本当に、キミはいつからそんな超人になったんだ。
「すごい事になってるわねー」
メアリーがどこか他人事のように言った。確かに他人事のように思いたい気持ちはわかるが、やったのは血まみれの鎧を着て、佇んでいるアンジェだ。つまり、間接的とはいえこれをやったのは俺達だ。
「頑張って公平様の家を守りました」
少し誇らしげにアンジェ。確かにアンジェは頑張った。百万年無税にしてもらってもいいくらいの働きをした。
「そうだね、アンジェは頑張った」
俺はそう言ってアンジェの頭をポンポンと撫でた。すると、アンジェは嬉しそうに目を細めた。
「ところでさ、この倒した魔物の肉って食べれるの?」
「どうなんだろうな。食った事あるのもチラホラ見えるけど、わからん。そういう時こそハウトゥーファンタジーだろ」
確かに騎士長の言う通りだ。そう思いメアリーにハウトゥーファンタジーを要求しようとしたが、既に用意されていた。
メアリーに礼を言って調べてみると、原型を留めていないからはっきりと断定は出来ないが、最低でも2種類の魔物は食用に出来る事がわかった。
これらはどれも結構な大きさだから、うまい事息の根を止めればスフィーダの食料事情が更に良くなるかもしれない。
問題なのは、恐らく現時点でこいつらを葬る力を持っているのがアンジェと、恐らく乗ってきた馬車に隠れているであろうカンナだけだという事だな。
「ま、焦る事は無いか。立ち話もなんだし、皆とりあえず中に入ろう。カンナも。どうせ馬車に隠れているんだろう? 出てきなよ」
俺が言うと、カンナは馬車の荷台からぬっと出てきた。そして、のそのそとこちらに向かって歩いてきて、最終的に俺の右隣の一歩後ろの位置に落ち着いた。
「そちらの方は?」
この中でカンナの事を知らないのはアンジェだけだったな。どっち道しばらくは一緒にいるんだし、いい機会だな。紹介しておくか。
「カンナ・クロサレナだ。えーと、そうだな……」
よくよく考えたらカンナの立ち位置がわからない。俺達の仲間として見ていいのか、あくまでもウォームの1兵士と見るべきなのか。
「……ウォームの呪術師よ。味方……」
「アンジェです。よろしくお願いします。ところで、ずいぶんと公平様に近い気がするんですが、気のせいですかね?」
「……きっと気のせい……」
「そうですか」
笑顔でそう言うアンジェ。気のせいか背後にはんにゃが見える気がする。
「そう……」
そんなアンジェに動じる事なく平然と答えるカンナ。何この2人。犬猿の仲ってやつなの? どうせ言葉のキャッチボールをするならもっと優しい球を投げようよ。そんな豪速球投げたら周りの人まで怪我しちゃうって。
「お、お互いあいさつも済んだだろ? 早く中に入ろう。確認する事は山程あるんだから」
「そ、そうだな! ほら、公平、またあのシュワーってする飲み物飲ませてくれよ!」
何も言わなかっただけで騎士長も不穏な空気を感じ取っていたのか、俺に乗って強引に話題を打ち切った。
「そうですね。時間がもったいないですし、中に入りましょうか」
「そうそう。あー、アンジェは鎧を脱いで入ってね。流石にそのままって訳にはいかないから」
アンジェが鎧を脱いだのを確認して、皆で家、というか部屋に入った。
「いつ来ても驚くぜ。何もかもがヘンテコだ」
部屋に入り、小さなちゃぶ台に全員分のライフガードを配り終えて、いざ話そうという時に、騎士長が独り言のように呟いた。
その姿を見て、この部屋に初めて入るカンナも驚いているだろうと思い見ると、さも自分の家に入るかのごとくに平然としていた。
「え、と。カンナってこの部屋に入るのは初めてだよね?」
「ええ」
「なんかおかしいと思わない? 置いてる物とかさ」
「ああ……その事ね。私はあなたがこの世界の人間じゃないって事を知っているもの……」
ん? なんか今衝撃の事実をさらっと告げられたぞ。
「それに、ハウトゥーファンタジーの事も知っているわ。……だから、説明する必要はないわ……」
「え、なんで知ってるの?」
「占いよ……。すごい力を感じて何事かと思って調べたら、何かがこの世界に落ちた事だけはわかったの。そして、あなたはこの間ウォームを訪れた。すぐにわかったわ。この人が落ちてきた人だって……」
おいおいおいおい。どんだけだよ。占い万能過ぎるだろう。ハウトゥーファンタジーの存在価値が若干なくなっちまったじゃねえか。
「そ、それはすごいっすね……」
「だから……あなたは運命の人……うふふ」
笑えねえよ。ただの痛い子だと思ってたらガチモンだったよ。
「ま、まあいいや。知ってるなら話しは早い。1つ確認したい。カンナは俺の味方って事でいいんだな?」
「ええ……どこまでもあなたに着いて行くわ……ふふふ」
なんだろう。アンジェも同じような事を言っていたけど、アンジェのとカンナのとでは意味が大きく違う気がする。まとっている雰囲気のせいだろうか。
「えーと、そうだな、そしたらメアリーお買い物スキルってやつについて教えてくれ」
「はいはーい」
メアリーはどこからかハウトゥーファンタジーを取り出し、お買い物スキルについて書かれたページを開いて皆が見やすいようにちゃぶ台の上に乗せた。と言っても結局読めるのは俺とメアリーだけなので、あまり意味はないが、雰囲気だ雰囲気。全員でやっているという状況が大事なんだ。
『お買い物スキルについて』
『お買い物スキルの行使にはパソコンが必要です。デスクトップの天使からのプレゼントアイコンをクリックすると、特設サイトが表示されます』
『特設サイトはあなたが使い慣れているネットショッピングサイトに近い作りになっています。検索欄にあなたの欲しいものを打ち込むと、商品が表示されます』
『ここでの支払い通貨は経験値となっています』
「え? こんだけ?」
育成度とかの説明の時はもっと長々と書かれてたじゃん。困るよ。これ超重要なんだからさ。
「まだ書いてるわよー。……あー見ない方がいいかも」
「なんだよ、そういう事言われると見たくなっちゃうだろ」
『お買い物スキルに関しては説明する事が多くて面倒なので後は使ってる内に覚えてね。1つ忠告しておくと、お買い物スキルを行使するにはパソコンが必須だから早い内に予備を買っておく事をおすすめしておくわ。あなたの天使より』
クソ天使が! ホント人の神経を逆なでするのを楽しんでるとしか思えない。わざわざ忠告を入れてくる辺り生かさず殺さずを楽しむドSだ。間違いない。
というかハウトゥーファンタジー書いてるの天使だったのか。これからはあまりハウトゥーファンタジーを過信しない方がいい気がしてきた。気まぐれで嘘を書かれたらたまったもんじゃない。
「……これ、使い方によってはこの世界の力関係が崩れるわね……」
「え?」
「見たところ、公平の世界は私達の世界よりも文明が進んでるわ……。当然、兵器関係も私達の世界よりも進んでいるんでしょう?」
「そうだけど……。カンナもしかしてこれ読める?」
「ええ……」
カンナさんあなた万能過ぎるんですけど。どういう事なの。本当に味方でよかった。これが敵だったらなんて事は考えたくない。
「カンナ、頼むから俺の敵にならないでね?」
「もちろんよ……あなたのためなら私は……ふふ、ふふふ…!」
「で? 結局そのお買い物スキルだかっての使えるのかよ?」
騎士長の疑問はもっともだ。とりあえずなんでもいいから買ってみようかな。まずは現在の所持金もとい所持経験値を確認しよう。ついでに、アンジェの成長具合も確認しておこう。最近見てなかったからな。
ん? なんかカンナのページもあるな。仲間になったからかな。
『呪術師カンナ・クロサレナ 愛情度400 レベル21 育成度10』
おかしいな。なんかバグってる。まあ、しょせん天使が書いてるものだからな。ミスの1つもあるだろう。
『戦乙女アンジェ 愛情度220 レベル18 育成度520』
ずいぶんと育成度が跳ね上がってるな。レベルに関しては、まあ、妥当なところだろう。ここのところ戦続きだったからな。これくらい上がってても違和感はない。
しかし、やっぱり育成度がすごいな。なんでこんなに上がったんだ。上昇条件がまるでわからん。まあ、上がってて悪い事はないし、いいか。
さて、次は俺だ。
『里中公平 育成能力210 経験値6235』
めっちゃ経験値入っとるやん。この前見た時が確か850とかだったからな。相当増えてる。
「んでー。物価はいくらくらいなのかなー」
早速パソコンを立ち上げ、デスクトップの天使からのプレゼントアイコンをクリックする。すると、使い慣れた密林のサイトに酷似したサイトが表示された。
そうだな……。最初だし、やっぱり好物のライフガードでも買ってみようかな。そう思い検索欄にライフガードと打った。
表示された価格は1000経験値。
「おい」
なんかの間違いだ。そう思い、次はポテチと打って検索した。
表示された価格は1200経験値。
もしもし? これ桁一個間違ってるよ。ライフガードとか普通100円で売ってるだろ。ポテチにしたって同じだ。精々120円くらいのはずだ。
頭が痛いが、認めよう。経験値が10あって1円だ。経験値は円の価値の10分の1しかない事がわかった。
「公平様? 落ち込んでらっしゃるようですが、大丈夫ですか?」
「あんまだいじょばない。好きなもの買うには相当の経験値が必要みたい……」