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「疲れた……」
初めてウォーム王国を訪れた際にカンナに案内された、飯のうまい酒場の机に俺は突っ伏した。
注文をとりに来たウェイトレスが不審な目で俺を見ていたが、今の俺にはそんなものになりふり構っている余裕はなかった。
ブリッツ王の追求から逃れる事が出来たのはカンナが現れてから時計の長針が1周半してからだった。そのせいで腹が減っていた俺はアンジェ達を飯に誘ったが、断られた。理由はアンジェが急に訓練をしたいと言い出したからだ。
何がそんなに気に食わなかったのか、アンジェは騎士長を強引に連れ出して、訓練と称してサンドバッグにし始めた。メアリーもそんなアンジェにビビってついて行ってしまった。おかげで俺はアンジェ達とは別行動を取らざる負えなくなった。カンナといいアンジェといい全くもって女心はわからん。
何故にこんなどーでもいい事で疲れなければならないのか。今の俺には疑問をぶつける相手がいなかった。
いや、正確にはいない事はないのだけど、彼女に疑問をぶつけても無意味だろう。だって、彼女とは問題を引き起こした張本人のカンナだからだ。
「なあ、なんで急にキャラ変わったの?」
俺は無駄だとは思いつつも、ついついカンナに聞いてしまった。これまでの流れを振り返るに帰ってくる言葉は恐らく罵倒に近い言葉だろう。
「は? あんた何言ってんの? 私は元々こうよ。あなたバカなの?」
嘘つけ。初見の時から君は一貫して、じめじめとした根暗ちゃんだったじゃないか。それがなんという事でしょう。以前身にまとっていた怪しげなオーラはどこかへと消え去り、今ではそんなものを一切感じさせない立派な気の強い女の子へと変貌を遂げました。
全く、どこぞのテレビ番組も驚きのビフォーアフターだよ。やりづらい事この上ない。どう扱えばいいんだよ。
「さいですか……。わたしゃもう疲れましたよ。さっさと飯食って風呂入って寝たい」
「そんなに疲れてるなら……私がま、マッサージしてあげてもいいわよ」
「へ?」
「い、今のは別に深い意味はなくて! そう! あ、あなたに倒れられると困るっていうか……んもう! うるさい、バカ!」
ホントもう、どうしたらいいんだ……。
構うのに疲れた俺は料理が運ばれてくるまでの間、話しかけてくるカンナに適当な相槌を打つに留まった。
「お待たせしましたー!」
この間来た時も見た、大量の皿を乗せたトレーを3つ持ったウェイトレスが俺達の飯を運んできた。
俺は前回の教訓を活かし、カンナにメニューのアドバイスを受けていた。おかげで、今回運ばれて来た料理は気分にぴったりの肉野菜炒め定食。うん、美味そうだ。ちゃんとした名前があったけど、覚える気がないから忘れてしまった。
カサミ鳥のナギリ海風はインパクトがあったので覚えていたが、あれはもう頼まない。あれはあれでとても美味しかったけど、ビジュアル的な意味で食べるの勇気がいるからあまり頼みたくない。
どうでもいいけど、こんな夜遅くまで働いているとは、ウェイトレスは一体いつ休んでいるんだ。住み込みで働いているんだろうか。だとしたら、大変だろうなあ。むさい男ばかりの酒場で女の子1人では色々と気苦労も多いだろうに。
「いてっ!」
不意に、右足のスネに痛みが走った。誰かにつま先で蹴られたような――いやその通りか。やったのは1人しかいない、カンナだ。
「痛いじゃないか……」
「ふんっ あんな女にデレデレしてるから悪いのよ」
「してないよ。ただずっと働いてるから住み込みなのかなーって思っただけだよ」
「あなたの事だから、どうせお風呂は混浴なのかーとか考えてたんでしょ? いやらしい」
「考えてないよ! 失礼な。俺は紳士だぞ」
「どうだか。なんでもいいけど、早く食べましょ。せっかくの料理が冷めちゃうわ」
話しの発端を作ったのはあなたなんですが、とは言えなかった。言えば本当に料理が冷めてしまう。
「はい、あーん」
無言でご飯をかっこんでいると、突然目の前に料理の乗ったスプーンが突き出された。
「え?」
「いいから。ほら、あーん」
とりあえず、言われる通りに食べさせられてみた。
カンナが頼んだのは、例のカサミ鳥の照り焼きだった。覚えのある食感と、甘じょっぱいソースの相性はバッチシだった。
「美味しい?」
「うん、美味しい……よ?」
「ふふ、良かった。今は私達だけの時間よ。他の女の事は考えちゃダメよ?」
そう言ってカンナは跳ねるように笑った。まさかカンナがこんな顏をするとは、夢にも思わなかった。とんでもない違和感がある。
俺の抱く違和感と疑問を他所に、目の前の料理はどんどんと減っていった。何か、嫌な予感がする。
俺とカンナが用意された宿を訪れた時には、別行動をとっていたアンジェ達はすでに床に入っているようだった。宿の主人に尋ねると食事もここで済ませたらしい。
俺はふと、騎士長の様子が気になって宿の主人に部屋の場所を尋ねた。主人に案内された先にいるはずの住人はしかし、俺の知っているものとはかけ離れているように見えた。
「これ生きてんの?」
「私も疑問に思ってますが、生きているようですな」
相当アンジェにボコボコにされたのだろう。顏が原型を留めていなかった。元々大したかっこ良くなかったお顔が、輪をかけて見るに耐えないものになっている。可哀想に。
「南無」
俺はそれだけ言って、カンナを引き連れて夜風に当たりに外へと出た。
今の状況は限りなくエルフの村シャラを訪れた際に、夜カンナと話したシチュエーションに近い。これならば、酒場では言えなかった事も言える。
「頼むから普段のカンナに戻ってくれよ。その、なんだ、色々と困る」
人気のない夜の草原で、カンナと2人でひとしきり無言の間を楽しんでから、俺はそう切り出した。
「え……」
「もしそれが素だっていうんなら今の言葉は忘れてくれ。カンナの楽な形で俺達と付き合ってくれればそれでいい」
「……なたが」
「え?」
「あなたがツンデレが好きだって言うから私頑張ったんだよ? 暗い雰囲気も振り払って明るいものをまとうようにしたし、言葉使いだってあなた好みにしたつもり。ねえ、何が足りなかったの? 教えて? 私頑張って悪いところ直すから」
い、いかん。これは中に誰もいませんよルートへと進もうとしている。なんとかして軌道修正をしなければ。軌道修正の神よ、俺に力を貸してくれ。
「お、落ち着け」
「落ち着いてるわよ? これ以上ない程に。ねえ、どうしたの? 早く教えて? 教えてくれないと、私あなたに嫌われちゃう……。そんなのイヤ! ね? だから早く……」
「ええ、とだな……」
どうすればいい。もはや何を言っても地雷を踏む気がしてならない。心情としては地雷原の中を全力疾走しているようなものだ。差し障りのない言葉でお茶を濁すしかない。
「そうだ。さっき酒場でさカンナ俺に食べさせてくれたよな? あれさ、よく考えたら22回目だよね。俺が風邪ひいて倒れた時もカンナはああしてくれた。そういうのは男してはすごい嬉しいかも」
「そう、わかったわ。一生あなたにご飯を食べさせてあげる。……そうよね、公平は私がいないとご飯が食べれないものね。ふふ……さあ、もっともっと教えて?」
これは……。差し障りない話題を振ったつもりだったが、どうやらしくったくさいな。もっとカンナの興味を惹く事で、危険な話題から離れられるもの。何かないか……。
「そ、そうだなあ……。そう言われても、俺からカンナに特別求めるものはないよ。普通でいいんだ。普通で」
「……いらないの?」
あ……。
今のは完全に地雷を踏んだ。やばい。さっきまでもやばかったけど、輪をかけてやばい雰囲気が場を支配している。
「違うよ! いらないなんて一言も言ってないだろ? 大丈夫だから。落ち着こう」
「ふふ……なあんだ。それならそうと早く言ってくれればよかったのに」
不穏な空気を感じ取ったにも関わらず俺は何も言えなかった。カンナに二の句を継がせてはいけない。そうわかっているのに、何も出来なかった。
「公平の愛は私を拒絶する事だったのね……。ごめんなさい。私、勘違いしてたわ。そうか……。今ならわかるわ。あの子達も私を愛してくれていたんだ……。あ! でもね、私が愛してるのは公平だけだからね? 私はあなたを見捨てない。私だけがあなたを理解してあげられるんだもの。昨日は寒かったよね? ごめんね。公平、馬車の中で何度もくしゃみしていたものね? ごめんね、私が温めてあげればよかったよね。あの時私はあなたにいっぱい愛してもらうために、あなたが好きだって言ったツンデレになるための練習をしていたんだ。でも、もうしなくていいんだよね? 今日からは寒くないよ。安心して?」
なんだ? 何が起こっている? 俺のちょっとした冗談で言った発言が原因でこうなっているのか? もはやこれは俺1人でどうこう出来るものじゃないだろう。
ジリジリとカンナは魔導書を片手に俺に近寄ってきている。いくら相手が女とはいえ、カンナだ。彼女は魔法を使う事が出来る。対して俺は何の能力もない人だ。男であるアドバンテージなどないに等しい。
「落ち着くんだ、カンナ。大丈夫だ。落ち着いて話し合おう」
無駄とはわかりつつも、俺はそう声を発する事をやめる事が出来なかった。
カンナは止まらない。一歩、また一歩と着実にこちらに近づいて来ている。いつの間にか、手に持った魔導書が黄色く光り輝いていた。
「どうして逃げるの? 大丈夫よ? 私は何も痛い事はしないわよ? 私はただ2人だけになりたいだけ。公平はいろんな人に好かれるから……。……あ、もしかしていやだった? ごめんね、ごめんね。私またあなたの事で間違っちゃったね。教えて? あなたはどうすれば喜んでくれるの?」
気がつけば俺とカンナの距離は重なっていた。カンナがもたれかかるように俺に抱きついた。鼻をくすぐる髪から甘い匂いがした。
「……私の事好き?」
熱い吐息が耳にかかった。意思に反して体がゾクゾクとする。
……終わった。多分、俺はこのままカンナと一生を過ごす事になる。ま、それも悪くないか。こんな美人と過ごせるんだ、いい事じゃないか。世界一幸せなヒモだ。
「……ああ。す――」
好き、そう言うのは簡単だ。けど、本当にそれでいいのか? 俺はもっとやりたい事があったはずだ。
崩壊寸前だったスフィーダを大国にする。この世界に技術革新を起こす。エルフやドワーフなんかの多民族別け隔てなく暮らせる国が作りたかったんじゃないのか? ちょっと考えただけでこんなに出てくるんだ。それに、忘れかけていたけど、ある国を滅ぼしてほしいだかなんだか天使が言ってたな。諦めちゃダメだ。
「こーへー! ブラッククリスタルが現れたわー! どこでもいいからこれを体に挿して!」
メアリーが今までに見た事がない程のスピードで俺達が見える場所まで飛んで来ていた。背後にはアンジェの姿も見えた。
メアリーは俺に向かって黒い宝石のようなものを投げてつけてきた。
黒い宝石は角錐の形状をしていた。メアリーは体に挿すとか言ってたな。まさかこの尖った角錐を体に挿せと。大量出血間違いなしじゃん。
「どうして邪魔をするの?」
「ええいままよ!」
俺は黒い宝石を右手に持ち、左手に突き挿した。予想された痛みはなく、宝石がどんどんと手の中に溶け込んでいっている。同時に、酩酊感と浮遊感を覚えた。
次の瞬間、俺の視界は白に包まれた。