まず手始めに向かったのドワーフが働く鍛冶工房。彼らはウォームとスフィーダに送る装備を作っている。それらの装備の中にはユグドラシルの防衛用の物も含まれていた。
今までは質よりも量をとるために一定の水準以上の物は全て完成品としてきたが、今回はユグドラシルの危機だ、そんな事は言ってられない。一時的に量産を取りやめさせ、飛び切り良い物を作らせる事にした。
余談だが、ドワーフはやたらと品質にこだわるため、質よりも量をとる方法を嫌っていた。なので、今回の指示は彼らにとっては喜ばしいものだろう。
そうして、フェンリルと騎士長が使う物を作らせている傍ら、俺はかねてより考えていたアンジェ用の武器を開発するために、特に腕の立つドワーフをエノキに集めさせた。
「で、だ。ぶっちゃけた話しさ、出来るの?」
「まあ待て。今回は新しく作る物が多い。順を追って説明しよう。まずはフェンリルどもに使わせる武器だが、ありゃもう出来とる。のこぎりの強度を上げたようなもんだからな、大した苦労はなかった」
俺がフェンリル用に開発させた武器。一般的な物よりも分厚く頑丈に作った刀身に、持ち手側に弧を描く様に屈折した小さな牙を多数付けた物。まさしくのこぎりの強化版。
切り裂く事よりも肉をズタズタにする事に主眼を置いた武器。フェンリル達の戦法が少しずつ獲物を切り裂いて失血死させる事から考案した。
「次にアンジェ専用の武器だが、これもなんの事はない。すぐに出来たぞ、ほれ。ホントにあんなひょろっこい女に持てるのか? 正直わしらでもギリギリじゃぞ」
アンジェ専用の武器。なんて事はない。純粋な鉄の固まり。アンジェの怪力に耐えられるようにとにかく頑丈に作られた大剣。もはや切るというよりも重さで断ち切るといった方が正しい。
「アンジェなら大丈夫でしょ……多分」
現物を見ていてたら自信がなくなってきた。こんなもん人間の大人2人いても持ち上げられるかどうかだ。
ちょっと持たせてみるか。俺は近くに控えていたアンジェを呼び、大剣を持たせる事にした。すると、アンジェはそれを軽々と持ち上げ、片手でブンブンと振り回した。
「これは良い物です。全力で使っても壊れなさそうです」
「だ、そうだ」
「そいつは良かった。作った甲斐があるというもんだ。さて、次はお前さんお待ちかねの火薬槌だがな」
「まさか出来なかったの? 理論上は問題ないって言ってたじゃん」
「まあ話しを聞け。わしらに作れんものは無い。火薬槌も完成した。じゃが、あんなもん使えるもんはおらん」
「というと?」
「試作品を振り回した奴が大怪我した」
「マジか」
「お前さんの言っとった火薬槌ってのはつまり、槌の中に火薬と火打ち石詰めて殴ると同時に爆発を起こして衝撃を強めるっちゅーもんじゃ。で、問題はここにある。そんなもんを近距離で振り回したら、自分まで爆発に巻き込まれるっちゅうんで柄の部分を長くしたんだが、そうしたら今度相手に与えるはずの衝撃が自分にも返ってきて、まあ端的に言うと試しに振り回した奴は腕が折れた」
「考えてみればそうかあ。殴った衝撃は自分にも返ってくる訳だしなあ。その試しに振ったって人には申し訳ない事をしたな」
「一ヶ月もしたら治っとる。気にするな」
うーん。新武器の開発ってうまくいかんな。これがうまい事出来てたら俺も近距離で戦えたんだけどなあ。そううまくいかんか。きっと昔の人も新しい物を作ろうとする度にこんな風に壁にぶち当たったんだろうなあ。
「それ、私に振らせてもらえませんか?」
「アンジェが?」
「はい。要するに、使う人が衝撃に負けなければいいんですよね? なら、多分私大丈夫です」
「むう……確かにあの大剣を軽々と振り回せる嬢ちゃんならいけるかもな」
「でも、今怪我をさせる訳にはいかないし……」
「大丈夫です。心配なら、肘に補助器具付けます」
「……アンジェがそこまで言うならやってみな」
「いいんだな?」
「うん。あ、でも火薬は少なめので」
「わかったわかった。ほれ。気をつけろ、衝撃がすごいぞ。わしらは避難じゃ」
アンジェが、鍛冶屋が使う槌の柄を長くしたような火薬槌を手にした。その身の全てを黒に包んだ火薬槌は、不気味に光を反射していた。
「ふっ!」
ドン! アンジェが火薬槌を振り下ろしたと同時に周囲に轟音が走った。
「アンジェ! 大丈夫?」
俺は急いでアンジェの許へと駆け寄った。
「はい。思っていたよりも衝撃少なかったですよ?」
アンジェの無事を確認した俺は、火薬槌を打ち付けられた地面を見た。綺麗に深くくぼんでいた。
普段アンジェが振り下ろして出来るものが広く浅くだとすると、火薬槌で出来たものは深く狭く。範囲自体は狭いが、穿たれた地面の穴に俺の腕を突っ込んでも、恐らく地面に手は届かないだろう。それ程深く抉れていた。
「衝撃少なかったって……本気で言ってるのか? 嬢ちゃん何もじゃ?」
「戦乙女です」
「ほう、どうりで。それならばその怪力にも納得出来る」
「アンジェには使えるみたいだな」
「裏を返せばアンジェにしか使えないって事になるがな」
「騎士長に言われんでもわかっとるわ。まあ、でも使える事がわかっただけいい。とりあえずアンジェ用に8本くらい作っといて」
「わかった。作っておく。で、最後に騎士長、お前さんようの武器じゃが、それももう出来とる。これだ」
そう言ってエノキが差し出したのは、俺がこっちに来てから何度も目にしている一般的な騎士の剣と変わらないように見えた。騎士長もそう思ったのか、疑問を口にしていた。
「見た目に騙されるでないわ! こいつはある意味では今回作った武器の中で最もお気に入りと言ってもいい」
「普通のと何が違うんだよ」
「何度も何度も叩いては練り叩いては練りを繰り返したんじゃ。こうする事で騎士の剣にありがちなぽっきり折れるという事がなくなる。そして、形状だ。見てみい!」
手にとって刀身を横から見ると、石机に置かれていた時には気づかなかったが、とても分厚かった。にも関わらず、剣は騎士長が普段しようしている物とさして重さが変わらなかった。
「わかったか? それにそいつは叩き潰すのではなくちゃんと切れるようになっとる。貴重な逸品じゃ。お前さんが使うにはもったいないぐらいじゃ」
「なんだか知らんがすごいというのはわかった。大切に使わせてもらう」
「当たり前じゃ!」
「しかし、流石ドワーフだ。人間じゃこうはいかないよ」
「褒め言葉として受け取っておこう。防具の方も今までの物よりも良い物を作ってやる。期待しとれ」
「ありがとう。それじゃ、後は頼んだよ。俺達は帰るから」
「うむ。装備はわしらに任せろ!」
「そうだ、今日はハルが国の皆に美味しいものを振る舞うみたいだから、作業が終わりそうだったら俺の家のとこに来て」
俺はそれだけ言って鍛冶工房を後にした。ハルの料理は絶品だとユグドラシルで有名だから、皆喜ぶだろう。