78日目
『商業組合国家セルフィナ』
およそ大半のやり手行商人が席を置く商業組合、それがセルフィナだった。そして、有象無象の金の亡者達を束ね、国としての体を保たせている男の名がセラム・ウィストリアだった。
セラムは、自らが築き上げた富によって手に入れた、王室にも引けをとらない自室の、最高の材料と最高職人に作らせた自分だけの椅子に座り、先程男から教えられた儲け話に頭を悩ませていた。
「ウォームがドミーナを奪った……か」
セラムにドミーナがウォームの占領下になった事を告げたのは、ウォームと鉄の取り引きをしていた行商人だった。
彼はウォームから直接袖の下を渡され、ウォームがドミーナを占領した事を黙っているように言われていた。
渡された金額は少なくないものだった。しかし、いつ頃からか、ウォームは鉄の輸入量を減らし始めたのだ。
このままではいずれ、自分はウォームとの契約を切られる。ならばいっそと自らが席を置く商業組合であるセルフィナの王、セラムに儲け話として提供したのだ。
見返りは多額の金と新しい安定した取引先の斡旋。以前からドミーナに興味を持っていたセラムは2つ返事でその取り引きに応じた。
そして今、セラムはその情報をどう活かすかを考えていた。が、どうにも腑に落ちない点がある。どうやってウォームがドミーナが奪ったのか。
ウォームは食料自給率が極端に高い。その代わり、軍事に関してはクロサレナだかいう呪術師に頼りきりだと聞いている。
だがまあ、ドミーナが戦争を仕掛ける理由が食料不足のものである事を考えると、ウォームとしてはドミーナが飢えて倒れるまで守りぬけば勝てるともいえる。しかし、それにしても腑に落ちない。早過ぎるのだ。
ドミーナとウォームの開戦が今から約3ヶ月前。ドミーナはウォーム以外にも戦争を仕掛け、食料を奪っている。とすれば、それ程早くウォームに戦況が傾く訳がないのだ。
これはどう考えても強力な第3者が介入したと考えていいだろう。恐らくこれは間違いない。
問題はその後だ。よしんばウォームがドミーナを獲ったとしても、維持が出来ないはずだ。兵が足りないのだから。にも関わらず、現実ウォームはドミーナを占領下に置き、着々と国力を増大させている。
多分、ここにバクダンだとかいう存在が隠されているはずだ。バクダンという物――物である確証すらないが、これが、何らかの鍵になっている。そう、セラムは確信した。
「これは楽しくなりそうだ」
セラムは1人静かに笑った。その声は、誰の耳にも届く事はなかった。
102日目
『ユグドラシル』
トロールの襲撃から大分経った。その間特に何もなく、順調に国作りを進めていたのだが、俺も戦闘に参加するのなら鎧を着てくれ! という皆の強い要望によって、ドワーフが一から俺専用に鎧を作成してくれた。
なんでも、大将の鎧だから特別なものにするとかで高い鉱石を買わされた。それを何日も何日も丁寧にどーたらと言っていたけれど、何を言っているのかよくわからんかった。要するに特別にこしらえたらしい。
世界に唯一つの俺だけの鎧。レイジングブルを使って戦う俺のファイトスタイルに合わせて、機動性を損なわないように、最低限のところしか守られていない。その分強度はとんでもない事になっている。
試しに、という事でアンジェに壊れてもいいハンマーで思い切り鎧を叩かせたのだが、鎧には傷一つつかず、逆に殴ったハンマーが粉々になった。
それを見た俺は自分の目を疑った。よほどマヌケな面をしていたのだろう、俺を見たドワーフ達が笑いながら仕事の出来を誇っていた。
しかも見た目も超カッコイイ。こりゃあクールだぜ。鎧なんぞいらんと思っていたが、これを見てしまうと、もうそんな事は口が裂けても言えない。
「流石エノキだ」
「当然じゃ。同じもんをもう一個作れと言われてももう出来ん。それ程丁寧に、念入りに作ったのだ。仮に作れと言われても、お前さん以外には作らん」
え、何このおっさん。デレてない? デレてるよね? うわーヤバイよー。俺は一体どこでおっさん相手にフラグを建てたんだ。誰かこの幻想をぶち壊してくれー。
「……なんじゃ、なんかすげー失礼な事考えてないか?」
「カ、カンガエテナイヨー。これっぽっちも失礼な事なんてカンガエテナイヨ。ホントダヨー」
「ええい、まあいい。それより今後の話しじゃ」
「ん? ああ。何をすればいいんだって話しだっけ?」
「そうじゃ。武器もなんもかんも全部作り終えたぞ。わしらは無職じゃ」
ドワーフの仕事ぶりには目を見張るものがあった。彼らが働き始めて僅か1ヶ月で必要な分の武器や鎧は作り終えてしまった。
しかもそれらは全て、今までスフィーダとウォームで使われていたものよりも遥かに質が良いのだ。言うだけあってとんでもない連中だ。
兵器の配備にはもっと時間がかかるものだと考えていたのだが、ドワーフのおかげで予定がとんでもなく早まった。おかげでやっとやりたかった事をやれる。
本当に思う、早い段階でドワーフを助けに行っていてよかったと。可愛い女の子の尻を追っかけてるだけじゃダメだという事がよくわかった。
「君らには前々から言っていた新しい物を作って欲しいんだ」
「じゃからその新しいもんってのは――」
「こーへー!」
メアリーが俺とエノキの会話を遮って、全速力でこちらに飛んできた。そして、その手にはハウトゥーファンタジー。今までの経験からいって、このパターンは良くない知らせだ。断言してもいい。
「穏やかじゃないですね」
「なんか変な傭兵がユグドラシルに近づいてきてるのー」
ほらな? 俺の予想は当たるから。もうね、百発百中って言ってもいいくらい当たるから。悪い時限定で。
「わかった。もうわかった。全てを理解した。必要な事だけ答えなさい。いつに何人来る?」
「明後日。200人よ。200人!」
「うーむ。傭兵って事は相手は人間か?」
「そうよ」
とすれば、まだマシか。話せばわかってくれるかもしれない。でもなんかなあ、臭い。なんか臭うんだよな。なんか一悶着ありそう。念のため、戦闘になった際の事も考えておくべきだな。
「おーけー。メアリーはこの事をフェンリスに伝えてきてくれ。俺はちょっと色々あるから任せた」
「任せてー」
そう言ってメアリーはスイーッと俺の前から飛び去った。
さて、俺は策士らしく策を弄するとしますかね。
このタイミングで傭兵が現れた事、俺はこれをどう見るべきだ? 傭兵とはつまり戦争屋だ。金で雇われて、戦争の最中にあるいずれかの組織に加担する。
それがここに向かっている現在、考えられるのは2つの可能性。単純にここを通るだけという楽観的なものと、なんらかの組織の手引によるもの。
仮に前者だとすると、傭兵達はここを通り過ぎた先に用があるという事になる。だが、ユグドラシルを通り過ぎた先にはスフィーダだ。あの国がどこかから恨まれるような事をしたとは考え難い。
とすれば更にその先にあるウォームか? いや、これもあり得ない。仮にあったとしても俺に何か一言告げているはずだ。この状況でウォームが裏切るとは考え難い。
ではウォームすらも通り過ぎるのか? それも考え難いな。ウォームの先にも国はあるらしいが、戦争を起こしているという話しは聞いた事がない。
とすれば後者という事になるが、どこがなんの目的があって傭兵を雇った? この世界全体で見た時、俺達の国が他国に与える影響は大きくないはずだ。
ウォームが食料の輸出という点で若干影響を与えていると考えられない事もないが、それでも食料自給率130%の内20%を輸出しているだけだ。それ程大きいとは思えない。
俺達の事を救国の英雄と考えているスフィーダの民が俺達に害を与える行動をとるとは考えられない。それはもちろんユグドラシルの皆もだ。
今スフィーダは実質的に俺が動かしているから、他国に目をつけられるような行動はとっていない。
やはりウォームか? 限られた選択肢の中で出てくる解がウォームしかない。だが、ブリッツ王がそんな事をするとは思えない。
ダメだ。ピースが足りない。きっと俺は何かを見落としているんだ。最適解に辿り着くためにはパズルのピースを探さねばならん。が。
「ダメだな。全くわからん」
せめてヒントの1つでもあれば頭の捻りようもあるんだけど、いかんせんなんもない。これじゃあ流石の俺様でも無理だ。
すっぱりと悩む事をやめ、顏を上げた俺の目に3つのおっぱいが写った。デカイ順からカンナ、フェンリス、アンジェだ。
「あらあらそんなに胸を凝視されて。欲求不満ですか?」
「いやさ、なんかわかりそうでわからない時ってすんげーモヤモヤするじゃん? 今あれと同じような感じになってんだよね」
「それで胸、ですか」
「そうそう。ところでフェンリス、おっぱいって言ってみて」
「おっぱい……?」
「違う! もっとこう、笑顔で!」
「おっぱい」
「ふおっ!」
ああ……フェンリスさん。あなたのその眩しい笑顔で僕はノックダウンだ。なんかさ、上品な大人のお姉さんがおっぱいとか言ってると興奮するよね。マーベラスだ!
「おふざけはこの辺で終わりにしましょう。私は大人の会話をしたいですわ」
「はいよ。そしたらば、また偉い人会議でもしますかね」
小説家になろう、ハーメルンと共にポイント、アクセス数が伸びなくなってきました。
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