嫁を育てて世界を救え!~異世界転移物語~   作:妖怪せんべえ

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48話 ヴィーナスとジーザス

 やたらとデカイ馬車を連れて戻ってきたセラムとタレンを伴って、俺達はユグドラシルへと戻った。

 とりあえず、偉い人会議に使う家に2人を案内したが、余程肝が座っているのか、ともすれば敵ですらある俺達の前で彼らはとても寛いでいた。

 

 俺達がいきなり斬りかかるという可能性を全く考えていないようだった。いや、実際に微塵も考えていないんだろう。奴らは自分達の立場を俺達に理解させた上で寛いでる。

 

 先の発言で、セラムはなんでも手に入れると言った。それは自分達の貿易力のアピールだし、セラムは俺の名前と先行投資、爆弾というこの世界に存在しなかったはずの存在を口にした。これは情報収集力のアピールだ。

 

 これらは全てバカ相手には通用しない手法だが、理解出来る相手にやれば、非常に有効な揺さぶりだ。実際、俺は揺さぶられ、2人をユグドラシルに招き入れるはめになっている。俺達の中でそれを理解出来たのは、俺を除くと恐らくカンナだけだろう。

 

 今回の交渉は非常に危険だ。場を任せる事が出来るのはカンナと、沈黙を貫く事が出来るアンジェだけだな。

 

 全く、こんな奴らはノーセンキューだ。とっととお帰り願いたいもんだけど、あちらさんはやる気満々だし、タダでは帰らないんだろうなあ。痛む頭を抑え、2人の待つ部屋の扉を開いた。

 

「おや? 2人しか連れて来なかったのかい? さっきの怖いお姉さんはどうしたの?」

 

 セラムは部屋に入った俺を見てすぐにそう言った。2人しか連れていない事もそうだが、両方とも女だという事に疑問を感じているようだった。でも残念でした。2人共人外の強さを誇ってます。

 

「怖いお姉さんはお前らが変な事をしないかどこかで見てるんじゃないか?」

 

「怖い怖い。冷たい美人ってのはどうしてこうも惹かれるんだろうね。そういえば彼女はフェンリルだったね。他にも亞人達、おっとこの表現はよくなかったね。部族達と暮らしているのかい?」

 

「まあな。あれは俺の嫁さんだ。手出すなよ」

 

「出そうと思っても無理だよ。彼女はガードが固すぎる。手を出せばその手がなくなってるさ。そういうタイプだよ、彼女は。ね、タレン?」

 

「知るか。……連れがすまんな」

 

「いや、いい。それよりも話しを進めよう。取り引きがしたいって言ってたな。何とだ?」

 

「それはね、サトゥナカ・コーヘー。君だよ。僕は君という存在が欲しい」

 

 ……こいつはホモか? そういえばなんか妙にタレンとかいう奴との距離が近いし、言葉使いもそういう風に感じ取れない事もない。こええよ。

 

「言いたい事は色々あるが、とりあえず俺の名前は里中だ。サトゥナカじゃない」

 

「これは失礼。サトゥナカ……む。すまない、どうやら僕らには難しい発音みたいだ」

 

「さいですか。俺の交渉相手はセラムだったか? お前でいいんだよな?」

 

「ああ。改めて自己紹介するよ。セラム・ウィストリア。セラムと呼んでくれ。でね、さっき君が欲しいって言ったのは、正確には君の生み出す概念が欲しいんだ」

 

「何を言っているのかさっぱりわかりません」

 

「そう突っぱねないで欲しいな。君にとっても利益のある事だろう?」

 

 セラムの言う通り、利益はある。が、こいつと取り引きするのはハイリスクハイリターン過ぎる。こいつに余計な知識を吹き込むと世界を変え過ぎるかもしれない。

 

 騎士長の言う事が本当なら、セラムを引き込む事が出来たらユグドラシルは進化する。だが同時に、彼らは商人だ。こっちが渡したものを元手に新しい商売を始める気だ。

 

 既に先行投資という概念が奴の手にある今、これ以上新しいカードを切る訳にはいかない。元々存在するカードで戦うしかない。

 

 現状あいつが持ちえている情報は先行投資と俺、それと爆弾という未知の存在があるという事だけだろう。

 

 そして、肝心のカードだが、穏便に事を運ぶための貿易力の提供というカード。強引に事を運ぶために傭兵を雇い、ユグドラシルを襲撃し、俺を拉致するというカード。

 

 うーん。こうして考えるといかにこちらが不利な状況にあるかがわかるね。セラムは序盤、中盤、終盤、隙がないね。だけど、俺は負けないよ。

 

「単純にお前らが怖い。君らのしたい事は概ねわかるさ。だけどね、君らの規模でそれをやられると困るんだよね、多くの人が」

 

「僕から言わせてもらえば、怖いのはむしろ君の方だ。何をしでかすかわからない。20年生きてきたけど、こんなに頭を使う交渉は久しぶりだ」

 

「そりゃどうも。感謝ついでにお前のカード一枚潰さしてもらうわ。傭兵雇っても俺らは負けないよ。今回どうして傭兵が来る事がわかったと思う?」

 

「斥候せっこうを出していたんだろう? 軍事は専門外だけど、それくらいはわかるさ」

 

「残念違います。予知能力を持った奴とかでもない」

 

 セラムはしばらく考える素振りを見せていたが、やがて諦めたのか、小さく溜息を吐いた。

 

 わからなくて当たり前だ。どう頭を捻ったところでハウトゥーファンタジーなんか出てくる訳がない。

 

「参った。全くわからないよ。流石だね。でも、次は僕の番だ。君が懇意にしているウォーム王国、あそこは食料の自給率は高いけど、それ以外はてんでダメだよね? あ、でも最近はドミーナを手に入れたから鉱山資源はマシになったのか。まあ、とにかく、君が頼りにしているウォームは、セルフィナと密接な関係にある」

 

 ……この野郎。ユグドラシルを揺すれないとわかったらウォームを人質に取りやがった。ここは敵陣ど真ん中だぞ? なんつー男だ。鋼鉄の金玉でも持ってんのか。しかもちゃっかりドミーナを獲った事まで知ってやがる。

 

 どうする? カードが一枚封じられてしまった。セラムの狙いは概念。適当なのを教えてお引き取り願うか? ダメだな。セラムなら見破ってしまうだろう。何より、こっちが不利益を被るだけだ。便利なコマが現れたと思って、利用してやらなければならないのだ。

 

 先を考えろ。商人が求めるのは金。セラムは概念を元手に新しい商売をしようとしてる。先行投資から生まれる商売は金貸しといったところだろう。

 

 この程度ならそこまで大きな影響を与えないな。日常的に行われる事の延長だ。それと同程度のもの。何がある? あるにはあるが、こいつらに与えるのは危険なものばかりだ。

 

 しょうがない。アプローチを変えよう。

 

「爆弾が見たいって言ってたな。セラムは爆弾というものをどう見る?」

 

「これは僕の推論になるけれど、君はなんらかの方法を使って少人数でドミーナを落とした。この時点ではバクダンはまだ登場していない。違うかい?」

 

 俺は無言で肯定した。セラムの推論は間違っていない。淹れたばかりにも関わらず、白湯とさして変わりがないように感じられるお茶を飲み、続きを促した。

 

「ドミーナを落とす事には成功した。だけどここで問題が出てきた。スフィーダとウォームではドミーナを維持する事が出来ないんだ。さて困ったぞ。そこで君は少人数の兵士でも防衛、運用出来る兵器を開発した。さしずめ、誰にでも使える魔法ってところかな?」

 

「正解だ。だけど、別に爆弾が欲しい訳じゃないんだろ? お前ら金持ちだもんな。爆弾に頼る必要ないじゃん」

 

「その通り。だがセンコートーシは別だ。僕は理解した気になっているけれど、考えだしたのは君だ。正しい使い方を出来るのはこの世で君1人だ。何度も言うが僕は君が欲しい」

 

「お断りだ。身の毛のよだつような事を言うんじゃない。時に、セルフィナはどこにある?」

 

「どこってのは?」

 

「とぼけるなよ。セルフィナの位置だよ。どうせ海の近くにあるんだろ?」

 

「どうしてわかったんだい? 確かにセルフィナは海に程近い場所にあるんだ」

 

「商業で成り立ってる国なんだろ? だったらより貿易に有利な場所に拠点を置くのは当然の事だ」

 

「そこまで言うからには僕が求める概念も、もうわかってるんだろう?」

 

「海を安全に渡るための何か」

 

「そう! そうだよ! 一応別の大陸とも取り引きはしてるんだけどね、どうもうまくいかない。利益が全然出ないんだよ。あっちにはいい奴隷やこっちには無いものが沢山あるんだけどね」

 

 こいつコロンブスかなんかかよ。結局こいつは俺に安全に大陸の向こうの人と貿易出来るようにさせたいだけだ。いやこの場合してもらいたいのか。だからここまで低姿勢なんだ。そうだよな、成功したら洒落にならん利益が出るもんな。そりゃ低姿勢にもなる。

 

「尚の事断る。お前の手に渡ればろくな事にならないのが目に見えてる」

 

 ぶっちゃけてしまえば新大陸にはかなりの魅力を感じている。だけど、こいつらを架け橋に新大陸と取り引きするのは怖い。どんな結果になるかが見えないからだ。

 

 現在の状況を大航海時代と仮定しよう。セラムはコロンブスだ。とすれば全体像が見えてくるはずだ。

 

 いい奴隷というのはインディアン。とすれば当時宗教という概念なんかが欠落している彼らはコロンブスに喜んで物品を差し出す。そうして出来るのは植民地。

 

 更にその先に待っているのは植民地での不満爆発。原住民の大量虐殺。奴隷化。広大な国土の獲得。仮定だが、俺の推察があっていればこんなところだろう。

 

 ……危険過ぎる。絶対協力しねえよ。下手すりゃ終わる事のない戦乱だぞ。戦国時代よりも質が悪い。

 

「待った。それじゃダメなんだ。僕らはお金も大事だけど、それ以上に先を見てる。君だってそうだろ? だから、僕らに教えるのを渋ってる」

 

「そこまでわかってて何故粘る? お前自分が同じ立場に置かれたら絶対教えないだろ」

 

「サトゥナカは途中だけど、僕はもう国を作り終えた。後僕がやるべきなのは国をどれだけ存続させるか、繁栄させるかだ。わかるだろ? そのためにはカードが必要なんだ」

 

 なんてこった。こいつ国主としても優秀じゃねえか。ちゃんと仕事しやがって。一番やりあいたくないタイプだ。

 

 あーもう萎えるなあ。こういう上に立っても私利私欲に権利を使わないタイプは苦手で仕方ない。無能なら楽なのに。ドミーナが懐かしい。

 

「1つ確認したい。セルフィナはどれだけユグドラシルに擦り寄れる?」

 

「そうだねえ。僕としては同盟を結んでもいいと思ってる。条件もそっちに有利で構わない。だけど、その分概念はきっちり頂く。つまりは、全部君次第という事さ」

 

 セルフィナを味方につけられる千載一遇のチャンス。セルフィナが味方の内はいい。問題は裏切られた時だ。

 

 現状じゃあ立場はセルフィナが上だ。にも関わらずセルフィナはユグドラシルの下につこうとしている。このアンバランスは危険だ。

 

 更に先程の可能性。今すぐにどうなるという話しではないが、大航海時代の二の舞いになる可能性も孕んでる。

 

 阻止する術がない訳でもないが、そのための国力がユグドラシルにはない。阻止するための国力を手に入れるにはセルフィナと同盟を結ぶしかないという矛盾。

 

「……少し考える時間をくれ」

 

「いいよ。僕らはいつまでも待てる。馬車にいるから、決まったら教えてくれ。ああそうだ。ウォームを人質にとるのはやめるよ。ゆっくり考えてくれ」

 

 そう言ってセラムとタレンは部屋を出て行った。残された俺達はすっかりと冷めてしまったお茶を飲んだ。ズズッという、俺のたてる音がやけに響いた。

 

 先程は神経を尖らせていたせいで、白湯とさして変わりがないように感じられたが、ちゃんと味わえば、とても美味しいお茶だった。

 

「どうしようカンナ。あいつ怖いんだけど。僕頑張ったよー。よしよししてー」

 

 カンナにスリスリしながら俺は言った。こーでもしないと吐きそうだ。あいつと喋るのは相当神経を使う。

 

「……ここに来てユグドラシルの弱点がはっきりと露呈しちゃったわね……」

 カンナは俺の頭を撫でながら言った。

 

 全くもってそうなのだ。ユグドラシルはこの世界において異質な存在だ。故に強いが、同時に脆い。強さなら負けないが、人海戦術でこられたら為す術がない。悲しいね。

 

「あー! どうすっかなあ」

 

 

『セルフィナの2人』

 

 公平の許を離れ、馬車へ戻る道すがら、タレンは例のごとく水でゆっくりと喉を潤した後、セラムにこう切り出した。

 

「よかったのか? ウォームを開放して」

 

「うん? いいんだよ。どの道彼には無駄な策さ。遅かれ早かれそのカードは彼に潰されてた。有効な時にカードを切って、有効な内にカードを捨てた。ただそれだけの話しさ」

 

 セラムの先読みには目を見張るものがある。彼が言うならば、それはきっと正しい事なのだろう。自分の役割は別にある。タレンはすぐに頭を切り替えて、セラムの片腕としての仕事をする事にした。

 

「今回サトゥナカが連れてた2人、片方はクロサレナだ。噂で聞く容貌とぴったり一致する。もう片方はわからないが、この間の戦闘を見るに人ではないな」

 

「あ、やっぱりタレンもそう思った? 2人共とっても可愛かったんだけど、僕的には銀髪の子かな。なんか従順そうなところがいいな」

 

「お前の好みなんて聞いてない。俺が言いたいのは生半可な数の傭兵じゃ攻めても返り討ちにあうって事だ」

 

「なんで傭兵が出てくるんだい?」

 

「奴が折れなかった時のためだ。武力で攻めてあいつだけを拉致する。考えていなかった訳ではないだろ?」

 

「うーん。それは無理だよ。今日話してみてよくわかった。それをやってしまうと僕らも相当な被害を被っちゃう。彼ね、相当怖いよ」

 

 タレンの目にはとてもではないがそうは見えなかった。確かにセラムと同じテーブルで話しを出来る人間は限られる。だが、セラムは公平を怖いとまで評した。

 

 今まで使える、と評された人間は何度か目にしてきたが、それすらも少数だった。それを怖い、とセラムは言った。未だかつてなかった事だ。

 

 タレンは人の心を読むのには長けていたが、頭の中で何を考えているかまではわからなかった。反対に、セラムは頭の中を読むのは得意だったが、人の心は読めなかった。

 

 奴は一体何者なのだ? 自分の中で絶対の存在だったセラムを脅かしかねない存在。タレンは知らずの内に喉に渇きを覚えていた。

 

 いつもの癖で水袋を取り出し、ゆっくりと喉を潤す。そうして、表面だけは取り繕い、やっとの思いで口を開いた。

 

「じゃあ、どうするんだ?」

 

「彼はきっと僕らと同盟を結ぶよ。そして僕らを利用する。僕はそれで構わない」

 

「なら、尚の事武力を持って攻めるべきだ。お前は利用されるのが何より嫌いだったじゃないか? どうしたんだ?」

 

「彼の場合は別だよ。彼は利用しようとしても利用出来ない。なら、仲良くするしかないんだ」

 

「そこまでして……」

 

「あるよ。彼を引き入れる価値は多いにある。僕らに出来るのは彼のご機嫌をとって少しでも多くの知識を手に入れる事だ」

 

「それなら人質をとってやる事だって出来ただろうに」

 

「タレンや、君は少し発想が物騒過ぎる。気を付けないといつか大怪我をするよ?」

 

「そうならないためにお前がいる」

 

「ハハハ。違いない。サトゥナカは女好きみたいだからなあ。綺麗な奴隷でも買い漁ってプレゼントしたら喜ぶかな?」

 

「やめとけ。それこそあいつの怒りを買う」

 

「それは困った。彼を怒らせたくはない」

 

 それきり2人は公平の話しをやめ、今晩の夕食はどちらが作るかの話し合いを始めた。2人共壊滅的なまでに料理が出来ないのにも関わらずだ。せっかくの材料も彼らの手にかかればゲロに生まれ変わる。

 

 故にユグドラシルまでの道中、彼らは料理と呼べるものを口にしていなかった。もっぱら干し肉などで空腹を満たしていたが、今日に限って何故か温かいものが食べたくなった。

 

 きっと2人はマズイ料理を笑いながら食べるのだろう。そんな姿を公平が見たら、彼はどう思うだろうか。きっと、笑ってその輪に加わるに違いない。




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