202日目
ホーリーが世界が滅亡するというにわかに信じられない発言をしてからはや幾ヶ月。俺は彼女に言われた通りにユグドラシルの軍備を増強させる事に精を出していた。
具体的に説明すると、まず絶対に死守しなければならない俺の部屋の守りを完璧にするため、これまで木材で建設されていた防壁を鉄に作り変えている最中だ。
万一敵がここまで進行してきた事も考えて、バリスタの設置も出来るように設計している。
そして、相手が戦車やライフル等という超科学兵器を行使してくる可能性があるとホーリーは言った。ならば、我々は超科学に超魔法で対抗する。と、いう訳でセラムに頼んで各国の有力な魔法使いをセルフィナ経由で雇用して、スフィーダ、ウォームその他セラムに頼んで買ってもらった奴隷達の中から素養のあるものを魔法使いとして育てている。
兵器開発については、残念ながら俺には戦車などを作る知識はないので、構造の簡単な大砲を試作させている。順調に生産する事が出来た黒色火薬は有効に活躍していくべきだ。
もちろん軍備の発展にばかりかまけていた訳ではない。国を大きく発展させる活動も行っていた。
セラムに頼んで各国から大量に人を雇って、温泉街の建設、労働者のための宿泊施設及び住宅の建設、水車の設置に家畜小屋の充実。そして、商家街という商売を促進する区域の建設も行っている。どうだすごいだろう?
商家街は建設中だが、今後セラムに協力を仰いで、商人を誘致する。商家街で商いを行う者にはユグドラシルからの援助を与え、活気を煽る。要するに、小さなセルフィナを区域として作ろうという試みだ。
長々と説明したが、現在ユグドラシルで行われている活動を要約すると、俺の部屋の周辺を中心とした要塞化、魔法使いの育成、大砲の製作、温泉街の建設、宿泊施設及び住宅の建設、家畜小屋の増設その他、商家街の設置準備。うむ、実に精力的に仕事していると言えるな。
ここまでの流れを読むとわかると思うが、ユグドラシルの開拓が進んでいる要因はセラムによるところが大きい。とりあえず彼に頼めば人だろうと物だろうとなんでも用意してくれるからな。どこぞの青いタヌキも真っ青だ。
そうそう。真っ青といえば、最近あまりにも俺が大量の物資を要求するもんだから、セラムが青い顔しながら頬をぴくぴくさせていた。
まあ、俺に取り引きを持ちかけたのが運の尽きだ。しかし、俺も鬼じゃないからちゃんと契約を守って、インフラ整備の指導をしているし、安全に新大陸と取り引き出来るような方法を考えてもいる。イーブンさ。
そんな俺がこれからやろうとしている事、それは
「いいか皆、これより竜人族を仲間に引き入れに行く。道中は魔物との激しい戦闘が予想される。くれぐれも死人が出ないようにお互いをカバーしながら行動しろ。なお、物資は潤沢に用意したので、じゃんじゃん使って構わない。大事なのは皆で帰ってくる事だ。これは命令だ。死人は出すな! では各自、馬車に乗れ。出発だ!」
そう、竜人族を味方につけようとしているのだ。ハウトゥーファンタジーによれば、竜人族はその身を竜に変える事が出来るそうだ。
現在タクシー兼急ぎの宅配業を担っているトリさん達は竜人族が味方になればリストラである。運べる重量に余裕がないから色々と不便なのだ。
そもそもトリどもは文句が多い。やれ重いだの、やれ給料を上げろだのとピーピーやかましいのだ。トリだけに。
それに比べてドワーフのなんて素晴らしい事だろう。最新の工房と3度の飯、自由な休憩を与えるだけで嬉々として働いてくれる。俺の事もしっかり敬ってくれるしな。
とと、それはいいとしても、だ。大量の物資と人を運ぶにはやはりトリさんは使えない。今回のように、大規模での移動が必要な場合はやはり馬車になってしまう。
これでは移動速度が遅い。道中無駄な戦闘が増え、兵の損耗が避けられない。その上馬に大きな馬車作りと手間もかかってしまうとデメリットばかりだ。
「これだけの戦力で足りるのでしょうか……」
思考にふけっていた俺は、フェンの漏らした独白じみた言葉で現実に戻された。
フェンの言う事はもっともだ。フェンリルが80人に、新人魔法使いが30人、エルフが20人、スフィーダとウォームから借りた兵士50人とこちらの戦力は約180人。
ユグドラシルを含めたそれぞれの国の防衛を疎かにする訳にはいかないので、いささか数が少ない。これでも頑張って引っ張った方だ。
対して竜人族は50人程度。数だけ見ればこちらが圧倒しているが、相手は曲がりなりにも竜だ。戦闘力の桁が違う。ハウトゥーファンタジーにも正面から戦うのは危険だと書いてあった。だからこそ、小規模の竜人の群れに訪れようとしている訳だが、やはり不安は残る。
交渉で済めばいいが、まず無理だろう。竜人族はフェンリル顏負けなまでに好戦的らしい。その代わり、自分よりも強い者には忠誠を誓うというなんともありがちな部族だ。
「どうだろうな。フェンリルがどこまで頑張ってくれるか」
多分、黒色火薬も弓矢も対して効かないだろう。唯一まともに戦えそうなのは戦闘を得意とするフェンリルだ。だが、彼女達とて身体能力はともかくとして、所詮武器は人の域を出ない。竜人族の体に傷を付けられるかどうか。
「公平……不安……?」
カンナが覗きこむように、隈を浮かべた目を俺に向けながら言った。可愛いのだが、相変わらず表情が暗い。
「まあ、不安といやあ不安かな。今回は今までのどの相手ともレベルが違う。そもそも大きさが違うからな」
「大丈夫……私が守る……」
「そっか。頼りにしてるよカンナ。竜は雷が弱点らしいから、今回の戦闘は君が中心になると思う。くれぐれも怪我だけはしないでくれよ?」
「……わかった」
「なんでメアリー付いてきたんだろう? よく考えたらこーへーの側にいたら焦げちゃうじゃない」
「知らんがな。そもそもメアリーが焦げる時は俺も焦げてる。2人仲良くお陀仏だ」
「そんなのイヤよー! 最近私出番少ないのに焦げて退場なんて絶対にイヤ!」
「そうなりたくないなら竜人族が味方になってくれるように祈るんだな」
「もー! 天使さまは何やってるのよー!」
それこそ知らんがな。俺だって知りたい。言うだけ言ってどっかに行ってそれっきり。ちょっと寂しい。なんて言ったら調子に乗るからな、絶対に口にしないようにせねば。
竜人族の巣までの長い道程を思いながら、隣に座るアンジェに身を預け、俺は眠る事にした。