204日目
ユグドラシルを出発して2日、竜人族の巣へはまだまだ遠い。やっと3分の1といったところか。その間幾度も戦闘があった。癖の悪い事に魔物のレベルが高く、辛勝とはいわずとも一回一回それなりの損害を被っている。
こちらのレベル平均が60。対して魔物は70前後が多く見られる。しかも、こちらは俺の嫁さん達が平均レベルを上げているから実際にはもう少し低い。
厳しい。状況はこの一言に尽きる。もう少し時期を見計らうべきだったかもしれない。装備にしてももっとなんとかなったように思う。
ダメだな……。一度後悔し始めると泥沼にハマってしまう。トップがこれじゃダメだ。とりあえず、態勢を整えるためにも、近くの村に滞在させてもらおう。
まったく、ハウトゥーファンタジーさまさまだ。これがなかったら、村なんて絶対に素通りしていた。
それにしても、こんな魔物がうじゃうじゃ生息している場所に住んでるってのが気にかかるな。皆筋肉モリモリマッチョマンなんだろうか。にしたって限度があるよな。こっちは曲がりなりにもドワーフが作った最高級の装備で固めてこれだけ苦労してるんだから。
やっぱり何かがひっかかるけど、贅沢は言えないよな。皆それなりに疲弊している。まだ道程は長い、強行するのはやめるべきだ。
「伝令! これより我々はバインド村へ向かう! 伝達員は直ちに各馬車隊の隊長にこの旨を伝えろ! 場所はここから東に5キロだ!」
情報を制した者が勝つとは誰が言った言葉か、まさにその通りだ。情報を得るとはそれすなわち状況ひいては戦況を知るという事だ。人を動かして戦う俺からしたら、情報伝達がリアルタイムで行えないというのは非常にマズイ。せっかくファンタジーなんだから魔法でなんとかならんもんかね。
「フェン、膝枕ー」
「はいはい」
俺様達用に特別にこしらえた巨大馬車はちょっとした家だ。6畳ちょいの広さに、床材に布団並の柔らかさを持ったものを使用しているおかげで、枕と掛け布団があればすぐにでも寝れるようになっている。
これ程の大きさのものを引くには普通の馬では力不足なので、その辺を走っていた馬みたいな魔物を捕まえて調教してひかせている訳なのだが、まあそんな事はどうでもいい。
座布団の上に座るフェンの太ももに頭を乗せて、俺はハウトゥーファンタジーを読む事にした。最近、何かと忙しくて嫁の成長具合を見ていなかったのだ。どれどれ。
『里中公平 育成能力1300 経験値1260万 ダスクエリア侵入スキル ダスクポイント80』
うひゃひゃひゃ。経験値うめえ。経験値1260万って円に換算したら126万じゃねえか。うひゃひゃ。買い物し放題だね。育成能力も上がってるし、意味わからん隠し方されてたスキルも表示されとる。ダスクポイントがなんだか知らんが、今度ホーリーに会った時に聞けば問題なかろ。お次はお嫁さん。
『戦乙女アンジェ 愛情度720 レベル91 育成度1560』
うん、まあ順調に成長してるね。特にコメントはないが、あえてするなら育成度がすごいねってくらいか。
『呪術師カンナ・クロサレナ 愛情度1600 レベル82 育成度910 特殊スキル???』
お前もうホントおかしいだろ。俺特になんもしてないぞ? なんで愛情度そんなに高いんだよ。俺その内刺されるんじゃねえの。
まあそれは置いといてだ。ホーリーに話しを聞いたからか知らんが、隠されていた部分が表示されてきとるな。特殊スキル。なんなのやら。
『人狼フェンリス 愛情度360 レベル101 育成度310』
うんうん順調順調。好感度も愛情度にランクアップしたし、育成度もそれなりに上がってきてる。
レベルが一番高いな。ハウトゥーファンタジーにはレベルは育成度や愛情度よりも優先度が低いと書いてあったけど、高いに越した事はないからなあ。
そうそうレベルといえば、この調子だと竜人に会う前に隊全体のレベル上げをする必要があるな。
ハウトゥーファンタジーに竜人族の具体的な強さは書いてなかったけど、巣の周辺ですらこの調子だ。今のままじゃ足蹴にされる未来しか見えない。最低平均80くらいは欲しいな。
「んー弱い!」
「そんなに唸って、何が弱いのですか?」
フェンが俺の頭を撫でながら問うた。
「兵が。そりゃ単体で見たらそこら辺の傭兵より強いけどさ、フェンリルを除いて、所詮人間プラスアルファの強さでしかないから、竜人族みたいに魔族に近いのには到底及ばない。そして、何より数が足りない。数さえありゃなんとかならん事もないんだけどなあ」
こっちに来てからずっと兵士の数が足りない足りないと言ってる気がする。今までの戦闘を思い返してみろ。一度でも数で優っていた事があったか? いや、ない。そんな状況でも勝ちを引き寄せる俺の天才っぷり。もう超人だね。
という冗談はさて置き、数が足りないのなら質で勝負するしかない訳だが、今回のように質が違い過ぎると勝負にならない。
道中魔物と戦っていてはっきりわかった。このままでは数で勝ってても竜人族には絶対に勝てない。それこそ、周辺の魔物を狩り尽くす勢いでレベル上げでもすれば別だが、何日かかるかわからない。俺達にはそんな猶予はない。
「過日戦ったトロールのように1対1の状況を作り出せれば、少なくとも私達は勝てるのですが……相手は竜人族ですものね、トロールと違って知性がありますから、そううまくはいかないでしょう」
「……私なら2体同時でも問題ない……」
「いやカンナさん、そこ張り合わなくていいから。アンジェは? なんかいい案ない?」
「……難しいですね。フェンリスさんの言う通り、竜人族に知性がある事も問題ですけど、何より竜になられたら私達は手も足も出ませんし」
「うーん……。なんか、もうここまで答えが出てきてるんだけどさ、いまいち後一歩足りないんだ。もっかいハウトゥーファンタジー読んでみるかあ」
騎士長も連れてくればよかったかも。3人集まれば文殊の知恵っていうし。…………いても大して変わらんか。
俺の頭を撫でていたフェンの手が止まった。フェンの視線を追うと、窓を覗きこんでいた。「何?」と俺が目で問うと、フェンはこう言った。
「伝令係の人が来ましたよ。きっと、バインド村が見えてきたんだわ」