森の中腹まで着いた。騎士長は思わず驚きが口をついて出た。それもそのはず、開けたその場所には無数の生物の死骸飛び散っていたのだ。血のカーペットとでも表現出来るだろうか。イメージとしてはそんな感じだった。
「誰がこんな事を……」
詳しく調べていくと、血の量に対して死骸の数が明らかに足りない事がわかった。というよりも、散らばっていた死骸だと思っていたもののほとんどが内蔵だった。
では身体はどこに? 騎士長は周辺の探索に乗り出した。
倒れた木、えぐられた土、どれも何かが争った後だ。そしてやはり、そこかしこに血が飛び散っていた。
「助けて……」
森の奥から声が聞こえた。少女の声だ。
――まずい。こんな状況の森で聞く助けてという言葉は、騎士長を焦らせるのに十分過ぎる程だった。その声の主が少女であれば尚の事だ。騎士長は声のする方へ走った。
だからこそ――失敗した。もっと冷静になるべきだったのだ。
「な……!」
気付けば囲まれていた。身体のそこかしこから内蔵を垂らした魔物を含む動物達。アンデッドだ。先程の血のカーペットを作り出したのは彼らだったのだ。
「ふふふ……遊びましょ?」
アンデッドに守られるように倒れた大木に腰掛ける少女がいた。見た目だけで見るならば10代前半だろうか。不機嫌そうな表情に、黒と白で作られたゴスロリ調の服とチョーカーが印象的だった。
「クソ!」
ハメられた。助けを求めていた少女はネクロマンサーだったのだ。このままではアンデッド共の仲間入りだ、どうにかしなければ。だがどうする? とてもじゃないが1人で勝てる数ではない。
騎士長は舌打ちを寸での所で抑えた。こんな時公平がいれば……。彼ならば誰よりも早く状況を打破する案を考えつくはずだ。いや、そもそも彼ならばこんな状況にはなっていなかっただろう。
後悔したところでどうなるものでもない。騎士長はとりあえずこちらに向かってきている元は熊だったであろうアンデッドに斬りかかった。
首元から胴の中ほどまでにざっくりと剣が入った。わずかに残った筋のようなものが右肩から下を胴と繋ぎ止めていたが、通常ならば間違いなく致命傷。だが、熊型アンデッドはたたらを踏む事もなく歩をこちらに進めてきた。
「無駄よ。アンデッドは倒せないわ。諦めて仲間になりなさい」
「うるせえ! 幼女の言う事にいちいち耳を貸してたら日が暮れるわ!」
危機的な状況だというのに軽口を叩ける自分に驚いた。まるで公平だ。彼はどれだけ危機的な状況でも、悪態をつきながらも軽口を叩く。そんな彼にいつの間にか影響されていたという事実に気付いた騎士長はどうしようもなくおかしくなった。
「あら、人を見かけで判断するのはよくないわよ? 私、貴方の10倍は生きてるんじゃないかしら」
「嘘だろう!?」
ダメだ。軽口を叩く余裕はあるが、それはあくまでも精神的な余裕だ。状況はとてもではないが楽観出来るものではない。いつアンデッドに噛み付かれてもおかしくない。
「ほらほら、もっと踊らなきゃ食べられちゃうわよ」
「言われなくても……!」
少女に言われるまでもなく踊らざるを得なかった。切ったところで倒れる訳ではないのだ。自然、敵の攻撃から逃げ回るだけになってしまう。
何か。状況を打破する何か。こんな時、公平ならばどうする? 考えろ、公平は危機に陥った時いつも何をしていた? 攻撃が通らないという決め付けがダメなのか? いや、足を切ったり腕を切ったりしてみたが効果はなかった。情報が足りな――そうだ。情報が足りないならば知っている人間に聞けばいいのだ。
そうと決まれば話しは早い。騎士長は早速アンデッドとワルツを踊りながら少女に話しかけた。