どうすりゃいいってんだ。このままじゃ俺達は食人族にジュージュー焼かれてジューシーな肉になってしまう。頼みの綱だったフェンリスは失敗した。後頼れるのはアンジェかカンナな訳だが…………アンジェは無理そうだな。今見た感じ必死に縄を引き千切ろうとしてるみたいだけど、期待は出来そうにない。カンナは――
「ん?」
あれ、カンナがいない。おかしいな。これは、もしかするともしかするか? と、期待したのもつかの間、包丁を研いでいた男がこう言った。
「あの、すいません。そろそろ準備出来たんで切らせてもらえます? ちゃんと美味しくいただくので」
「美味しくいただくので、じゃねえよ! 今ならまだグーパンで許してやるからさっさと解放しろ。さもないと、あれだ……あれ。んーと、丸焼きだ」
「そうですかぁ。じゃ、まずは右肩から綺麗に切り分けますからねえ。うるさいの嫌なんで布噛んでてください」
「むごー! むごむご!」
おいおいおいおい。これはやばいんじゃないか、為す術なしとはこの事だ。どうにもならん。まあでも、右肩切られたら一緒に縄も切れるから、最悪そっからなんとか状況を好転させるか。
包丁がどんどんと近づいてくる。それと共に心臓がバクバクしてきたが、包丁を持った男の顔が妙にニヤニヤしているのを見たとたん、なんか苛立ってきた。こいつ腹立つ顔してるんだよな。
「じゃあいきますねえ。せーのっ」
その時を受け入れるため、俺はキツく目を閉じた。
…………あら? 一向に痛みが襲ってこない。代わりになんか焦げ臭い匂いがしてきた。恐る恐る目を開けると、包丁男の髪の毛が燃えていた。
「ああ! ああああ! 私の残り少ない髪の毛があ!」
なんて美しい光景だ。ムカつく野郎の髪の毛が燃えていく様はまさに壮観。とっととハゲ散らかしちまえ。そして、この素晴らしい光景を創りだした当事者であるカンナはなんか黒いオーラを身にまとっていた。俺だけの目に見えるやつとかじゃなくて、誰の目にも見えるはっきりとしたやつだ。ゆらゆらと揺れ動くオーラと共に、食人族達を燃やしながらゆっくりと俺に向かって歩いてくるその様はさながら死神といったところだろうか。オーラのせいか知らんが、歩いた後が恐竜の足あとみたいにへこんでいた。
「公平、遅くなってごめんなさい……」
「いや、いいんだ。助かったよ。でも、なんでカンナは捕まってなかったんだい?」
カンナが俺の縄をほどきながら答え始めた。
「……食べ物の中に毒が入っているってわかってすぐに、解毒の呪術を使って毒を吐いたんだけど……思うように体が動かなくて……。なんとか私1人で逃げ隠れていたの。…………ごめんなさい公平。私、あなたを見捨てるような真似をしてしまったわ」
カンナの手によってすっかりと自由を取り戻した俺は、カンナの肩に手をおきながらこう言った。
「大丈夫。結果としてカンナのおかげで助かったんだ。感謝こそすれ、責めたりなんてしないよ。ありがとう」
「……公平」
「さ、他の人の縄を解こう」
「……ええ」
そうして、仲間の全ての縄を解き終えた俺達は、すっかりと髪が焼け焦げてチリチリになった包丁男を筆頭に、食人族を俺達がされたように縄で拘束してやった。先程のカンナの攻撃で、一部焼け死んでしまった食人族もいるが、まあ自業自得だ。
「お前らに選択肢をやろう。今ここで俺に服従を誓えば今までの事は水に流してやろう。誓わない場合、ここにいる怖いお姉さんがお前らに呪いをかけるそうだ」
俺達がそうされたように、縄で拘束され、地面に座らされている食人族の前に腕を組み立ち、俺はそう言った。
「……はい。誓います……」
カンナに恐れをなした食人族達は意外にもあっさりと要求を飲んだ。いい心がけだ。こっちとしても無用な殺生はしたくなかったからな。更に、素晴らしい事に奴隷が30人くらい手に入った。こいつらはこき使ってやろう。
「では、とりあえずお前らの資財は全部没収な。俺様が有効活用してやる」
「キチィィィィィィィ!」
「何か問題でも?」
「……いえ、なんでもありません」
「よろしい。隊長命令! 改めてここで一泊した後、我々は竜人族の巣へと向かう! 各自解散!」
解散といったところで、俺は今回の出来事の後始末をしなければいけないんだけどね。こいつらを服従させたり、被害の確認とか色々。
「しかし……」
今回の遠征は一筋縄ではいかないなあ。今までのスムーズさが嘘みたいだ。ホーリーのお墨付きとはいえ、ここまで苦労して味方に引き入れるような部族なのだろうかという疑問を抱かずにはいられない。
竜人族の巣まではまだまだ遠い。この後もこれ級の面倒が待っているとしたら、俺の心は折れざるを得ないだろうなあ。なんていう悩みを知ってか知らずか、カンナが馬車へ向かって歩いている俺をストーキングしていた。アンジェやフェンリスみたいに普通に隣を歩けばいいのに、なぜ彼女はストーキングを好むんだ……。