嫁を育てて世界を救え!~異世界転移物語~   作:妖怪せんべえ

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8話 さまよえる蒼い弾丸

 ツキが回ってきた。月が雲に隠れて周囲が暗い。火を付けずに行動しているおかげで、闇に紛れている俺達に対して食料庫周辺は大量に篝かがり火びを焚いているせいで丸見えだ。完璧なまでに綺麗に夜襲をかけられる。

 

「第1陣、構え! 放てえ!」

 

 俺の指示で兵が弓を放つ。山なりに放たれた矢は雨となって食料庫へと降り注いだ。

 

「放て! 弓を撃たなければ飯が無くなるぞ! 撃てえ!」

 

 俺の叫びに急かされ兵がありったけの矢を撃っていく。この様子だとしばらくもしない内に食料庫はハリネズミになるだろう。馬肉を食べたのが予想よりも効果的だったようだ。兵の動きが格段に良い。当初の予定よりも早く事が進んでいる。

 

「第1陣やめ! 第2陣突撃! 第1陣準備!」

 

 第1陣の弓兵が後方に回り、食料を詰め込む準備を開始し、第2陣がアンジェを先頭にハリネズミとなった食料庫へと突撃し、残敵を掃討しに行った。

 

 何故こんな周りくどい事をしなければならないのか。溜息が吐きたくなってくる。だってさ、70人欲しいって言ってんのに30人って半分以下じゃん? 作戦たてるしかないじゃん? って事で俺は兵を効率良く運用する事にした。

 

 まず30人を20と10の2つに分けた。20の方を弓兵に、残りの10を突撃隊に。

 

 最初に第1陣として弓兵が矢をありったけ撃つ。それである程度の敵を倒し、その後第2陣が安全確保と残敵掃討のために食料庫に侵入。第1陣はその間食料を詰め込む準備をし、第2陣の合図と共に食料庫へ行く。

 

「あー。アンジェが心配」

 

 戦乙女である事を公表したためにアンジェを先頭に置かざる負えなかった。戦乙女だと公表した事で確かに士気は上がったけど、その分アンジェは人の前を行く必要が出てきた。

 

「アンジェならきっとだいじょぶよー」

 

 メアリーが俺の頭をなでなでしてくれた。なんだかんだと言っても、こいつも結構可愛いな。メアリーが人間サイズになったらさぞ魅力的だろう。

 

「あ! ほら見てー。終わったみたいよ」

 

 準備の手を止めて食料庫の方を見ると狼煙のろしが上がっていた。安全が確保された合図だ。

 

 現在時刻は20時30分。いいぞ。予定よりも30分も早い。これは食料を多めに確保するチャンスだ。

 

「準備が終わった者から食料庫へ行って食料を積み込め! 優先順位は穀物! 次いで果物だ! それ以外は後にしろ!」

 

 俺も急いで食料庫へ行かねば。腹が減ってその場で食べ始める者が出ないとは限らない。重要なのはスピードだ。ここで余計な事をする兵が出てくれば必要量をスフィーダ王国に持って帰る事が出来なくなるだけでなく、交代に来た兵にこちらが全滅させられる可能性まで出てくる。だからこそ、急がねば。

 

 食料庫に着くとアンジェが俺を待っていてくれた。見れば、持っているハルバードには血が付いていた。

 

「アンジェ、大丈夫か?」

 

「はい。3人程残っていましたが、片付けました。その際に、1人負傷してしまいました。すみません。私のせいです」

 

「アンジェのせいじゃない。その怪我したって人は?」

 

「あそこで休んでます」

 

 アンジェが指した方向を見ると、壁に背を預けて座り込んでいる兵がいた。表情が見えないが、よくはないだろう事は雰囲気でわかった。

 

「大丈夫か?」

 

 近づいて見ると、結構な重傷である事がわかった。右足と左肩から血が流れている。恐らく剣によるものだろう。

 

「俺はもう、無理です。国にいる女房と子供に食事を。俺の分も……」

 

「バカ。犠牲は出さないってアンジェも言ってただろ? 掴まれ、台車で国まで運ぶ」

 

 俺は傷ついた兵を肩に担いで、食料を乗せるようの台車にそっと横にさせた。

 

「急いで運べ! スフィーダに着いたらすぐに治療するように言うんだ。行け!」

 

 これで台車一台分の食料が減ってしまったが、時間が早まった分、それでも当初の予定よりは多い。問題は無い。

 

「アンジェ、後始末の準備を手伝ってくれ」

 

「はい」

 

 予定よりも早く食料庫を占領出来たとはいえ、時間に余裕が無いのには変わりがない。往復1・5回が関の山だろう。それでも、少しでも可能性を上げるために散らばった木矢を片付けて、道を作る。その上で食料庫を燃やす準備も進める。

 

 食料庫自体は燃えるだろうが、中にある食料は焼け残ってしまう。それではダメだ。連中に少しでも食料をやるわけにはいかない。

 

 果物類はなんとしても全部運ばせる。栄養失調の人にとって最適とも言える食べ物だからだ。豊富なビタミンに加えて体を動かすのに必要なカロリーも含んでいる。更に、果物類は水分を多く含んでいる。残してしまうと食料が焼け残る原因になってしまうしな。

 

「それにしても……」

 

 ドミーナ王国は水もあまり採れないようだな。水まで備蓄されてる。どんだけ食料自給率低いんだよ。これも急いで運んで食料庫の外に捨てなければ。

 

「水がめを1つここに置いておく! 喉が乾いた者はこれを飲め!」

 

 よし。次は木矢の配置だ。上手いこと燃えるようにしないとな。四方を囲む感じにして、後は最後に中に全部入れればいいか。

 

「アンジェ、木矢を四方に設置する。アンジェはそっちを頼む」

 

「公平様。疲れているでしょう? 少し休んでください。後は私がやりますから」

 

 アンジェがとても心配そうな顏で俺を見ながら言った。

 

 そんな疲れたような顏してるのかな? 確かに疲れたし、汗も出てるけど、動けないほどじゃない。

 

「だーいじょーぶだって。まだいけるさ」

 

「せめて果物の1つでも食べてください。スフィーダ王国の人に付き合ってあまり食べていないはずです」

 

「それはダメだ。今俺がそんな事をすれば全部台無しになっちゃう。本当に、大丈夫だから。ほら、急がないと時間がなくなっちゃう」

 

「疲れたらすぐに言ってください。私が全部やりますから」

 

 後少しなんだ。最初食料を運びに行った連中は戻ってきた。現在時刻は10時30分。これで最後だ。後は俺達が残って食料庫を燃やす。ただそれだけだ。それだけで終わる。

 

 

 

 

 最後の荷台がスフィーダ王国に向けて旅立った。

 

 出来る限りの事はやった。穀物と果物は全部運べたし、干し肉なんかも少量だけど運び出せた。これでしばらくは食べていけるはずだ。

 

「よし! 行ったな。後は残っている調味料を少し持って火をつけるぞ」

 

 残っているのは塩と砂糖か。確か甘いものは王様ですら口にしていないようだったな。優先して持っていくかな。疲労回復にいいしな。

 

 アンジェと俺、2人合わせて1キロぐらいの塩と砂糖を荷台に乗せた。これは可能な限り存在を隠そう。後々役立たせるさ。

 

 食料庫に篝かがり火びを投げ入れる。燃え残らないように沢山投げ入れてやった。これでこの食料庫とはおさらばだ。

 

「さあ、後ろに乗ってください。帰りますよ」

 

 アンジェに促されて荷台に乗った。調味料君達と相席なのはご愛嬌だ。

 

「盛大に燃えてるねえ。騎士長にも見せてあげたいよ」

 

 すごい勢いで燃えて無くなっていく食料庫は見ものだった。食べるものに困っている兵が見れば号泣ものだったんだろうけど、俺にすれば花火を見てる感覚だ。

 

「これでとりあえずは問題解決ねー」

 

「いやまだだ。これまで倒してきたのはあくまでも偵察隊みたいなもんだ。その内本隊がやって来る。次は……そうだな。2日後くらいに食料持ってモントーネ村の解放かなあ」

 

 モントーネ村を解放すれば流石に異常に気付いて、ドミーナ王国も本隊を送ってくるだろう。そうなる前にドミーナ王国を奇襲して王を倒す。やはりそれしか無いだろう。

 

「面倒ねー。さっさとお嫁さんを何人も確保すればいいのに」

 

「仮に確保出来ても、拠点が無かったらどうしようも無いだろ? 今は拠点作りの最中なの」

 

「どうせ作るならおっきいお城にしなさいよー?」

 

「そのつもりだよ。夢は大きく。国を作るさ」

 

 少なくとも他国と貿易が出来る程度の規模にはしたいな。輸出するのは剣だけで、自国で使うのは銃とかもいいな。この世界で最強の国が出来上がる。

 

「あの、公平様。お願いがあります」

 

「ん? 何?」

 

「私の他にも女の人を囲う事は構いません。ですが、私への愛は忘れないでいただきたいのです」

 

 事実上のハーレム容認じゃん。流石はアンジェ、懐が広い。そしてそれを恥ずかしそうに言うのは可愛い過ぎる。耳が真っ赤だから、後ろからでも恥ずかしがってるのがわかるんだよん。

 

「もちろんだよ。俺のお嫁さん」

 

「愛しています。公平様」

 

「俺もだ」

 

 ここから忙しくなるぞ。村と国の解放にドミーナ王国の王様殺害。やる事が山積みだ。でも、ドミーナ王国さえ溶かしてしまえばキングダムの設立に大きな一歩を踏み出せる。

 

「スフィーダ王国が見えて来たわー。メアリー疲れちゃったから早く寝たいなー」

 

 遠くに見えるスフィーダ王国の灯りが俺達の勝利を称えているような気がした。きっと今頃は多くの飢える人にご飯を配っているんだろうな。

 

 見え始めた光に到達するまでの時間はそう長くはないだろう。前の世界とは比べ物にならないほど綺麗な星空を眺めながらそんな事を思った。

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