嫁を育てて世界を救え!~異世界転移物語~   作:妖怪せんべえ

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9話 good bye crysis

 やっぱり、というか当然というか、スフィーダ王国に戻った俺は救国の英雄として扱われた。中にはわざわざ俺の前に来て、膝をついて礼を言う者までいた。

 

「すごいわねー。皆嬉しそう」

 

 深夜にも関わらず、街の至る所に篝火の光が見える。取り戻した食料を皆で分けあっているんだろう。俺達もご相伴に預かるかな。

 

「戻ったか。皆大喜びだ。よくやってくれた」

 

 騎士長が背後から俺の肩を叩きながら言った。騎士長も喜んでるみたいだな、笑みを隠しきれてないぞ。

 

「ええ。王様はどうしてます?」

 

「王宮で飯を食べてるはずだ。何か用があるなら後の方がいいと思うが、急ぎか?」

 

「そうですね。急ぎでもありますし、込み入った話しでもあります」

 

「わかった。俺が話しをつける。救国の英雄だしな。王も無下にはしないだろう」

 

「助かります」

 

 騎士長は走って王宮へと向かって行った。足取りが軽く見えるのは獲ってきたご飯を食べたからだろう。元気になったみたいでよかった。

 

 そうして待つこと10数分、騎士長が戻ってきた。その間アンジェはしきりに俺の事を心配していた。俺が何かをやらかすと思っているのだろうが、その通りだ。最悪首が飛ぶけど、アンジェがなんとしてくれるだろう。

 

「話し合いの場には俺も同席させてもらう。悪いな、こっちにも色々あるんだ」

 

「いえ、その方が話しが早いので問題無いです」

 

 王のいるという食堂までの道すがら、王宮の内装を見たが、ゲームなんかで見るような豪華な感じは無かった。むしろ質素とすら言える。

 

 王や貴族なんかが、服飾に凝っていたり家の内装を豪華にするのには意味がある。自分はこれだけの力と財力を持っていますよ、だから私を敬いなさいといった風に、自分と一般人とは隔絶された存在である事をアピールさせる意味がある。それには自分よりも上の人間なのだから従いなさいという意味も含まれる。

 

 それが無いという事は私はあなた達と同じ立場ですよと公言しているようなものだ。それでは身分の低い学の無い者が勘違いし、舐められる。かと言って一般人との差を開かせ過ぎると今度は反逆が起きる。治世というのは難しい。俺もシュミレーションゲームで何回反逆された事か。

 

 それらとは違う治世の方法も無いわけでは無いが、かなり難しい。ベリーハードだ。仮にそれをスフィーダの王がやっているのだとすればかなりのやり手だ。

 

「気になりますか? 公平様」

 

 俺が内装に目を奪われているのに気がついたのだろう。アンジェが笑みを浮かべながら聞いてきた。

 

「ん、そうだな。王宮にしてはずいぶんと質素だな」

 

「カルド王は飢饉に際して自分達だけがいい思いをするわけにはいかないと、王宮の食料を民に分け与えたんです。それ以外にも王宮にあったものを売り払ってお金にして、他国から食料を輸入したりしてくれたんです」

 

「へー。ちゃんと統治してんだな。道理で王宮なのに何も無いわけだ」

 

「それだけじゃないぞ。王は最低限の食事しか取らずに、むしろ戦争に駆り出される俺達に食料を与えたんだ」

 騎士長がアンジェを補足した。

 

 なんてこった。この国は王を中心にすげえ絆で結ばれてんじゃん。ここまで来ると国っていうよりも一種の村だな。こういう国は溶かそうと思っても溶かせない。こことだけは敵対しないように立ち回ろう。

 

「ここだ。カルド王! 里中公平をお連れしました!」

 

「うむ。入りなさい」

 

 広いな。軽く20人くらい座れるんじゃないかという程大きなテーブルでカルド王は1人食事を摂っていた。食べているものは下で食べてたものとそう代わりが無かった。アンジェが言ったように本当に良い王なんだな。にしても、従者の姿が見えないな。他の場所で飯でも食べてるんだろうか。

 

「公平殿。まずは礼をしなければならないな。礼を言う。此度の貴殿の働きは本来ならば勲章ものだが、何分この状況だ、何も出せない。すまないが、許してくれ」

 

「いえ、カルド王からのその言葉が何よりの勲章です」

 

「それで、騎士長から用があると聞いてるが。話してみろ」

 

「はい。俺はこの国の人間ではありません」

 

「それは知っておる。確かプレハブ王国の商人と言っていたな」

 

「いえ、もっと言えば俺はこの世界の人間ではありません」

 

「……」

 

 俺以外の人間の時が止まった。流石にメアリーも俺がここで正体を明かすとは思っていなかったんだろう、羽の動きまで止まって落下し始めている。間抜けな光景だった。

 

 もちろん優しい俺は落下するメアリーを優しく手のひらで受け止めたぞ? その辺はちゃんとするさ。

 

「公平様それは……」

 

 いち早く硬直から立ち直ったアンジェが俺に耳打ちをしてきた。その際に耳を暖かな息が襲った。不意の出来事に少しゾクッとしてしまった。

 

「大丈夫さ」

 

「こーへー! 何を言ってるのよー!」

 

 パタパタと俺の目の前まで来たメアリーがピーピーとわめき始めた。うるさいから手で掴んで肩に乗せたら、今度は扱いに不満を持ってピーピーとわめき始めた。話しがややこしくなるから君は出てこなくていいんだよ。

 

「王様、取り引きをやり直しましょう。俺がこの世界の人間では無い事を前提として」

 

「仮にお主がこの世界の人間で無いとして、ならばお前は何者だ?」

 

「知識を司る悪魔、とでもいいましょうか」

 

 こんな事を真顔で言うのは難しいな。元の世界でこんな事を言えば中二病のスタンプを押されてしまう。

 

「ほう。して? そう言ったからには何かあるのだろう? 申してみろ」

 

「騎士長には何度も言いましたが、俺はドミーナ王国を滅ぼします。その過程で周辺の国々も救う事になるでしょう。それはひいてはこの国を救う事にも繋がります。俺に手を貸してください」

 

「何を望む?」

 

「領地とその統治権」

 

 まずは地盤を固める。その上でドミーナ王国を溶かす過程で解放していくモントーネ村とウォーム王国に恩を売る。それらと貿易を行い、領地をスフィーダに被らない形で広げていく。

 

「お主は何を持って自身を悪魔と評する?」

 

 俺はハウトゥーファンタジーを取り出した。俺が持つ唯一にして無二の切り札。

 

「ハウトゥーファンタジー。これにこの世界の事が書いてある。未来の事も。今回の食料奪還も全部これがあったから立てられた。俺に出来ない事はない」

 

 嘘でーす。現段階で出来る事なんて限られてるよーん。先を知っていたって対処法が無いんだよ。逃げる事は出来ても、立ち向かう事が出来ない。それじゃ意味が無い。

 

「まさか、お前が本当に悪魔だったとはな」

 

 騎士長はいつの間に剣を抜いて油断無くこちらを睨んでいた。あの時を思い出すな。ドミーナ兵撃退の時も騎士長はこんな目をして俺に剣を突きつけていたっけ。

 

「おかしいとは思いませんでしたか? 俺はあなた方と同じ様にこの国にいたのに、何故俺だけがドミーナがこの国に攻め入ろうとしている事を知っていたのか。それだけじゃない。食料庫奪還もそうです。俺は最初から食料庫が近くにある事も知っていた。捕虜の口から聞かなければ信じてもらえないからわざわざ捕虜を捉えたんです」

 

「それがあれば、スフィーダ王国を存続させる事が出来るか?」

 

 王は目を閉じて、穏やか声で言った。

 

「カルド王!?」

 

 騎士長がうろたえていた。この局面で王がそう言うとは思っていなかったんだろう。でも残念。俺は王がこう言うしか無いのを知っていました。悪魔と取り引きしないともうすぐこの国は滅んでしまうのです。

 

 騎士長は兵の上に立つことは出来るかもしれないけど、民の上に立つ事は出来ないな。国というものを理解していない。

 

「はい。出来ます。と、言っても信用出来ないでしょうから証拠をお見せします。騎士長をお借りしても?」

 

「わかった。連れて行きなさい。騎士長、この者が嘘を吐いているようなら斬って構わん」

 

「だ、そうだ。妙な真似をすれば斬る」

 

「勘弁してください。いくら悪魔って言ったって剣で斬られたら普通に死にます」

 

「随分と人間臭い悪魔だな。いいさ、俺だってお前の事は斬りたくない。この国を救ったのは事実だからな。それに、個人的にはお前の事は気に入っているんだ」

 

「俺もあなたの事は好きですよ。悪魔と取り引きした事、後悔はさせません」

 

 それじゃ、我が12畳のキングダムへと行くとしますかね。早い事護衛を付けてもらわないと野盗とかに襲われる可能性が無いとは言えないからな。

 

 家に着いたら久しぶりにライフガードを飲もう。部屋に備蓄しておいてよかった。菓子類も結構な数備蓄してるからな。しばらくはそれも武器にするさ。

 

 

 

「メアリー思うんだ。こーへーって時々魔王みたいだなって」

 

 食堂を出て少しも歩かない内にメアリーが言った。

 

 心外だな。スフィーダ王国の救世主に向かって事もあろうに魔王とは。確かに振るまいは魔王ぽかったけど、それは信ぴょう性を持たせるために仕方無くやっていたというのに。

 

「そして、魔王みたいな時って大抵こーへーはとっても楽しそうにしてるのよー?」

 

「マジかよ。なんてこった。今度からは顏に出さないようにしないとな」

 

「本当に肝を冷やしました。公平様は意地悪です。先に言っておいてくれれば、あんなに心配しなかったのに」

 

「悪い悪い。でも、大丈夫だったろ? 結果オーライだ」

 

「次からはちゃんと何をするか教えてください。心配のし過ぎで倒れてしまいます」

 

「ごめんって」

 

 俺の事を自分の身を案じるかの言うアンジェを見て思い出した。尽くす人がいないと死んじゃう戦乙女。ハウトゥーファンタジーにはそう書いてあったな。

 

「お前さ、本当は悪魔でもなんでも無いだろ」

 

 騎士長が妙に親しげに話しかけてきた。さっき食堂で見せた殺気は何だったのかと言いたい。人の事思いっきり睨んでたくせに。

 

「悪魔では無いですね。でもこの世界の人間では無いことは本当ですよ」

 

「なんでカルド王の前であんな態度を取った? もうちょっとやりようがあっただろ」

 

「優しいと便利は似た言葉です。俺は善人ではありませんし、便利な人間になるつもりもありませんから」

 

 人のために何かをしたいという気持ちは素晴らしいと思うけど、お願いされたからといってなんでも言う事を聞いていれば他人に良いように利用される人間になってしまう。本人にその気があろうと無かろうと。

 

 俺はそんなのは嫌だ。俺の目的はあくまでも、キングダムを作って嫁さん囲って楽しく暮らす事だ。

 

「カルド王はそんな事を考えはしないさ」

 

「だとしてもです。……? なんか辺な音しません?」

 

 グニュグニュぐちゅぐちゅ、駄菓子屋に置いてある小さなバケツに入ったスライムを潰すような、そんな音。

 

「公平様下がってください。スライムです」

 

 あー成る程。道理でスライムみたいな音がする訳だ。そりゃスライムが出してる音だもんな、スライムだわな。

 

「あ、ホントだ。スライムだ。まあグニョグニョと。こっちに向かってくるな」

 

「スライムの駆除は私がやります。騎士長は公平様をお守りしてください」

 

「わかった。公平の事は俺に任せろ。スライムは任せた。戦乙女の力見せてくれ」

 

 アンジェは一度大きく頷いて素早く走り去っていった。

 

 ところで、スライムスライム言っていると、何がスライムなのかわからなくなってきたのは俺だけだろうか。きっと俺だけなんだろうな。俺以外駄菓子屋のスライム知らないもんな。オニーサンちょっと寂しい。

 

「見て、こーへー。アンジェすごいわよー」

 

「え……」

 

 俺は言葉に詰まった。視界の先には当然アンジェがいる訳だが、そのアンジェの動きが信じられなかったのだ。

 

 少し近づいた今は見えるが、さっきの場所からではスライムがいるなくらいにしか見えなかった。しかし、結構な数がいたようだ。アンジェの周りには既に広範囲に死んだスライムが広がっている。それをアンジェは俺が少し目を離した隙にやってしまったのだ。

 

 だが、アンジェの動きを見れば納得だった。素早い動きで接近してハルバードの一振りでスライムを倒す。

 

 いくら最弱だろうスライムが相手にしても強すぎる。いつの間にこんなに育った? やはり、救国の英雄となった事が大きいのか? 

 

 そういえば、食料庫奪還の後にアンジェの育ち具合を見ていなかったな。俺はそう思いハウトゥーファンタジーをメアリーから借りた。

 

『戦乙女アンジェ 愛情度26 レベル5 育成度250』

 

 嘘だろ? レベルはともかくとして、確か最後に見た時の育成度は125だったはずだ。それが倍になっている。俺は?

 

『里中公平 育成能力60 経験値600』

 

 しょ、しょっぺえ。こっちは対した変わらんな。やはり、救国を行った事がデカイのか? 

 

「公平様。ただいま戻りました。ん? どうされたんですか? 何か考え込んでいるようですけど」

 

「アンジェが随分と強くなったなーと思ってさ」

 

「こ、公平様にいっぱい育てていただきましたから」

 

 頬を赤らめてもじもじと恥ずかしそうに言うアンジェは反則級に可愛かった。背が高くスタイルの良い彼女がやるとギャップがあって、それがまた素晴らしい。

 

「そ、そっか。ところで騎士長、スライムってスフィーダ王国の兵が何人いれば一体倒せるんですか?」

 

「大体2人くらいだな。食料が戻ったからもう少し鍛えれば1人でもなんとかなるか、といったところだ」

 

 マジかよ、アンジェすげえ。やっぱり最初に戦乙女選択してよかった。強すぎる。アンジェさえいれば村の解放くらいチョロいじゃん。流石神族、流石神話に出てくるヴァルキリー。

 

「あー。こーへー、また悪い顏してるわよー?」

 

「おっとっと」

 

 お菓子の事じゃないぞ。勘違いしたらダメだ。

 

「何にしても、この時点でお前は悪魔では無いと言い切れるんだがな」

 

 騎士長は安心したように笑いながら言った。

 

「なんでです?」

 

「戦乙女は関わる人間によってその姿を変える。アンジェはどう見ても黒く無いだろ? つまり、お前は本質的に善人だという事だよ」

 

「勘弁してくださいよ」

 

「戦略や戦術が絡むと途端にゲス顔になるがな。ま、俺は良いと思うぞ。その方が付き合いやすい」

 

 騎士長にまで言われるとは。ホントに気をつけないとヤバいな。昔からポーカーフェイスって苦手なんだよなあ。

 

「お、あれか?」

 

 騎士長に言われて下げていた頭を上げると、我が12畳のキングダムが見えた。しかし、ホントいつ見てもプレハブ小屋だ。見てて悲しくなってくる。立派だった我が家はどこにいったんだ。

 

「そうです。ようこそ、我が12畳のキングダムへ」

 

 俺は騎士長を家に招き入れた。

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