魔族の薬師が勇者一行に加わるまでの話 作:新人フリーレンファン
にわかフリーレンファンです。
ジャンプの方(ワンピースとか大好きです。零巻とかたまに読み返します)ばかり読んでいて、サンデーはほとんどノーマークでした。
今から遡ること200年前。
人類圏外、魔物領域のとある森にて。
生まれたばかりの幼い魔族が1人、木に隠れて生活していた。
魔物には子育ての習慣がない。
これは魔物の一種である魔族もまた同様である。
産み落とされた未熟な魔族はその多くの時間を孤独に過ごす。
そしてその長い放浪を生き抜いた魔族だけが人類の脅威足り得る強大な魔族へと成長することができる。
典型的な魔族の幼体であるレアラもまたその例にもれなかった。
ただ、少しばかり運がなかった。
(はやくどこかにいってくれないかな)
レアラの隠れている木の周りに人が集まっていた。
ただの人間ではない、鍛えられた身体に使い込まれた武装、いかにも冒険者といった風情の人間たちだ。
見つかれば、未だ人と戦った経験のない未熟な魔族になす術はない。
容赦なくレアラは殺されるだろう。
様子を見るに、魔族であるレアラを探しにここに集まったというわけではなさそうなのが幸いか。
つまり、偶然レアラの潜伏場所と人間の集合場所が重なってしまっただけなのだろう。
(ついてないなぁ。まあ、そのうちいなくなるでしょ。にんげんはいえのないもりのなかにながくいたりしないから)
そんな風に考えて、レアラが隠れて早数週間。
集まっていた人間達が周囲の木を切り小屋を建て始めた。
(………そーきたか)
家がないなら建てればいいじゃない。
なるほどその発想はなかった。
しかも建った場所がよりにもよってレアラが隠れている木の麓である。
声どころか迂闊に物音もたてられない。
(でもだいじょうぶ。いえはまだひとつだけだし、そのうちたべものとかもなくなるはず)
魔族は粗食に滅法強い。
どのくらい強いかと言うと、人を食べるのに人を食べずとも生きていける程に強い。
人間がわざわざ魔物の潜む森に長期間滞在する道理もなし、我慢比べはこちらに有利だ。
レアラがそう考えて、隠れて数ヶ月後。
家の数が増え、その周りに畑ができた。
(………なんで??)
ついでに人の数も増えた。
具体的には10倍くらい、レアラは困惑した。
ますます逃げることができなくなったのもそうだが、それ以上に意味がわからない。
何故人が減らない? 何故増える??
(………………だ、だいじょうぶ、まだいける。まだあとひとつきくらいはがまんできる)
隠れてからそろそろ半年、その間レアラは食事どころか水1滴すら飲んでいない。
いくら粗食に強い魔族といえど、限度はあった。
それでも、まだ耐えられる。
少しでも隙ができれば飛行魔法で逃げられる。
なんか時が経てば経つほどに状況は悪くなっているような気がするが、焦りは禁物だ。
チャンスは必ずくる………はず。
その時が来るまで、待ち続ける。
そしてその一ヶ月後。
(もうムリぃ………)
いつの間にかレアラの隠れている木を中心に人間の集落ができあがっていた。
とても、とても賑やかである。
人の目が途切れる隙など、もはやどこにも存在しなかった。
レアラは降参した。
もはや飛行魔法どころか、走る体力すら残っていなかった。
こうなったレアラに残された手段はただ1つ。
人間の振りをして騙すしかない。
欺いて殺すために人の振りをするのではなく、人に紛れるために、殺されないために人の振りをする。
断腸の思いで魔族の尊厳を捨て、角をどうにか隠す。
文字通り、命がけで弱った人間の子供の振りをする。
「たすけて………」
思いの外あっさり騙された。
いや、この場合は騙すも何も本当に弱っていたのである意味騙してはいなかった。
(あとは、すきをみて、ぬけだすだけなんだけど)
完全に子供の病人扱いで常に人に見張られて逃げ出す隙がなかった。
(からだがうごかない………)
身体の衰弱具合が思った以上に深刻で、仮に隙があったとしても逃げられなかった。
ベッドから起き上がることすら困難だった。
そして。
(うそでしょ? ………)
そうこうしているうちに集落の周囲に魔物を出入りを遮断する防護結界が張られた。
その後、脱出のチャンスが訪れることはなく気付けば200年の時が過ぎ。
集落はいつしか町になり、周囲に城砦が築かれて………―――
「………つまり、お前はこの都市に忍び込んだんじゃなくて」
「潜伏していた森の一画がたまたま開拓され街が出来た?」
「おまけに周囲に魔物除けの防護結界が張られて、そのまま出られなくなってしまったと」
「しかり。どうやって結界をすり抜けたか? そんな方法があるならむしろこっちが教えて欲しいくらいですよホント」
結界を掻い潜ってなんかいなかった。
むしろ結界に意図せず閉じ込められて以降200年間、ずっとレアラは街から出られなかったのである。
そんなバカな。
なんてバカな。
道理で逃げ方がおざなりだったわけである。
そもそも追いかける必要性すらなかった。
逃げ場なんて最初からないのだから。
わかってみれば確かにこの状況はレアラの言う通り、バカバカしい茶番そのものであった。
少なくともフリーレンはこんなお間抜けな魔族をほかに知らない。
「とりあえず、この街にもともと住んでいた本物のレアラ殿を殺してなり替わった魔族というわけではないのだな」
領主は極めて微妙な表情でそうこぼす。
どんな顔をすればいいのか物凄く困っている様子だ。
レアラの語った自らの来歴は、城塞都市ラカージュの発展の歴史そのもの。
すり替わった偽物などではない何よりの証拠だった。
自分が治める都市に魔族がずっと潜伏していたことに驚けばいいのか、犠牲者がいなかったことにホッとすればいいのか、領主ですら知らない都市の誕生秘話に感動すればいいのか。
なんとも微妙だった。
「………おかしいですね。思っていた反応と違います」
レアラの語ったあんまりな事実に一瞬思考が停止したことで生まれた微妙な空気の沈黙。
それを破ったのは件の魔族だ。
「自分で言うのもなんですし、私は私以外の魔族に会ったこともないので確かなことも言えないのですが。それでも私ほど滑稽な魔族はそうはいないでしょう」
(((それはまあ、うん)))
フリーレン含め、その場にいた全員が内心同意し首肯した。
「予想では、今頃あなた方は私のあまりのバカさ加減に失笑嘲笑爆笑しているはずなんですが」
「………ちょっと笑えないかな」
実際、場の空気は凍りつきはしたが冷たくはなかった。
レアラに集中したのは冷笑ではなく同情。
「ふむ、予想外です。蔑みの類いは覚悟していましたが、まさかの憐み。しかし、これはこれで屈辱」
非常に残念なものを見る、生温い視線にさらされてレアラは顔をしかめた。
「そうは言ってもよぅ………200年だぜ?」
「うむ。正直想像もつかん」
人間からすれば途方もない年月である。
「200年か………まあまあ長いね」
エルフからすればまあまあの年月である。
「いや十分長いんですけど? 少なくとも私にとっては十二分に長かったんですけど??」
魔族からすれば長い年月である。
特にレアラにとっては一生分だ。
「まあいいや。種は割れたことだし殺すね」
「いや、待ってくれフリーレン。僕も聞きたいことがある」
今度はヒンメルがフリーレンを止めた。
その顔には隠しきれない期待が浮かんでいた。
フリーレンはヒンメルが何を考えているのか朧げながら悟り眉をひそめる。
ハイターは「またヒンメルの癖が始まった」と首を振り、アイゼンは「まあそうするよな」と納得した。
「レアラだったかな? 君は200年この街で暮らしてきたんだよね? その間、人は食べたかい?」
「食べられるわけがないでしょう? 逃げ場がないのに事件を起こせばあっという間に正体が露見して退治されちゃいます」
「バレないようにしようとは思わなかった?」
「どうやってですかそれ。ただの事件ならともかく殺人をいつまでも隠し通せるわけがないでしょう。ましてや私は疑われるだけでも致命的なのですよ。身体調査されただけで正体が露見するのに、そんな危ない橋が渡れますか」
「強くなって街の人間全員を返り討ちにしようとかは………」
「日々魔物と戦っている城砦ラカージュの精鋭を、人間を舐め過ぎです。というか、仮にそれが可能だったとしても結界から出られなかったら結局待っているのは緩慢な衰弱死ですよ」
レアラの返答を聞くたびに、ヒンメルの笑みが深くなっていく。
臆病だった。
慎重だった。
そしてなにより賢明だった。
それ故に脱出の機会を逃したとも言えるが、だからこそ今の今まで生き残れたとも言えた。
(嘘はついてない………か。それにちゃんと会話になってる。人間を見縊ってもいない。厄介だな)
ヒンメルとレアラのやりとりを傍で聞いていたフリーレンは内心でそう呟く。
魔族がどれほど人に似た容姿をして流暢に言葉を話せても、その本質が人喰いの魔物であることに変わりはない。
多くの魔族にとって言葉とは人を欺くための道具でしかなく、それ故に言葉そのものは通じても言葉に込められた意味を理解できず会話が成立しないなんてことはよくあることだ。
もし過不足なく人と意思疎通ができる魔族がいるとすれば、それはそれだけ永く生き人間を観察し続けた大魔族の証。
およそ200歳というのは大魔族と称するには少々若過ぎる気がしないでもないが、重要なのは長さではないということなのだろう。
丁寧な敬語調も出まかせではない、その裏には人間に対する確かな敬意を感じ取れた。
たまたまラカージュに立ち寄った勇者一行に、フリーレンに出会うまでずっと正体を隠し通してきたというのは伊達ではない。
「まさかレアラさんが魔族だったとは」
「確かに、なんか角あるし見た目全然変わらないから妙だな〜とは思っていたけど」
「いや気づけよ」
隠し通せていなかったようである。
「なん………で?」
角が見られていたことに、見られた上でバレていなかったという事実に、他の誰でもないレアラ本人が1番衝撃を受けていた。
境遇の始まりは確かに不運な偶然だったのかもしれないが、それを差し引いてもこのレアラという変わり者の魔族は相当に抜けている。
「バカにしているんですか? そこまで気づいていたのに何故わからなかったんですか?」
「いや、そうは言われてもな」
「これまで魔族とは幾度となく交戦してきた。だからこそ言えるが、本物の魔族はなんというかもっとこう、凄みがあるというか」
「言動から人間なんてただの餌だぜ〜みたいな思考が透けて見えるよな」
口々に言い合う兵士たち。
ラカージュは人類圏の中でも最前線の城塞都市である。
所属する兵士は皆精鋭であるし、魔族が本来どのような存在なのかも十分に知り尽くしている。
だからこそ、かえって気づかなかった………のだろうか?
「人を見下さず、人を食べない魔族の存在なんて予想できるかよ」
そりゃそうだ。とフリーレンは内心納得せざるを得なかった。
何せ彼女自身、今の今まで人を食べたことがない魔族なんて見たことも聞いたこともなかったのだから。
「いやでも、角が見えていたのに気づかないのはさすがに………」
「てっきり、転んだ拍子にうっかり頭に木の枝がめり込んでぬけなくなっちゃったのかと」
「バカにし過ぎじゃないですか? どこの世界に頭に木がめり込んで抜けなくなる人間がいるのですか」
「俺は植物を育てる魔法が暴発して頭から生えてきちゃったって聞いたぞ」
「私は魔法修行の一環だと聞いた。東方には頭に蝋燭を生やす呪いがあるらしい」
「噂じゃ呪いにかけられたって………悪いことをしたら木が首を絞める呪いだっけ? あれ? 嘘をついたら伸びるんだったかな?」
「理由はなんであれ、本人は隠したがっているみたいだから皆見て見ぬふりをしましょうねって師匠が………」
「バカにし過ぎじゃないですか!?」
集まった兵士や住人たちのあまりの言いたい放題ぶりに思わず口をあらげるレアラ。
レアラがこれまでどのようにこの街で暮らしていたかが透けて見えるやりとりであった。
レアラは住人を舐めてはいなかったが、舐められてはいた。
何より溶け込んでいた。
ちなみにフリーレンはその時、ただ会話するだけでなくツッコミまでこなせるのかと妙なところで衝撃を受けていた。
「いや、そうは言うがねレアラ殿。戦場では出血を抑える為、刺さったままの槍を抜かずに治癒の魔法をかけたらそのまま傷が塞がって抜けなくなってしまうことがたまにあるらしいぞ?」
「それは腕とか脚の事例でしょうが。頭はないでしょう頭は。治癒する間もなく即死です。領主様、ひょっとしなくても私をバカにしていますね?」
「潜伏場所が偶然開拓地とダブルブッキングして外に出られなくなってしまった魔族はバカにされても仕方がないと思うが」
「それは………もっともです」
「納得するんだ………」
「アハハハハハ!」
対話して、確認して、確信し、ヒンメルはとうとう堪えきれず声に出して笑ってしまった。
紛れもなくそれはヒンメルが1度夢見て、しかし諦めてしまったもの。
確かな年月によって築かれた、人と魔族の絆だった。
子育てしない、親子の概念が存在しないという特徴は、魔族がいかに人間とかけ離れた存在であるかを印象付ける重要な要素です。
ただ、この子供もしくは卵を産みっぱなしで放置すると言う生態、知る限りでは主に子供や卵を1度にたくさん産む系の生物の習性なんですが………
エルフ並の桁外れの寿命を持ち、積極的に人を襲う習性のある生物が多産? ………
いや、その分幼体の時にもりもり死んで成体になれるのはほんの一握りなのでしょうが。
というか、そうでないと困る。
下手に魔族が人間との共存に成功しちゃったら、1度の出産数が多く異様に長寿な魔族が人間に退治されなくなって、魔族人口大爆発………いや、よしましょう。
魔族の生態に関する詳しい設定が原作でも開示されていないのに推論だけで先走りすぎました。