IS ~篠ノ之束へ転生したんですけどどうすればいいですか~ 作:フール1993
ここは何処だろうか?
そんなことを思いながら俺は見知らぬ場所に居た。
見渡す限り地平線の果てまで真っ白で上も下もなく、自然物も人工物もないただ白一色の世界。
まるでマンガやラノベでよく書かれるVRゲームの設定画面のようだ
「その認識は間違っていない、ニンゲン」
その言葉を聞いてその言葉を発した存在を確かめるために後ろへ向けて身体ごと勢いよく振り返る。
そして、俺の目に映ったのはおかしな存在だった。
その言葉を発したであろう存在は確かに人の形をしてはいた。
だが、まるで光を塊にしたような外見をしており、その人の形すらも輪郭はボヤけてしまいまるで陽炎のようであった。
「姿や形に意味など無い。生物としての階級が違えばなおさらに」
生物としての階級が違う……
額縁通りに受け取るのならば、人間よりもすぐれた生命体ということだろうか?
しかし、地球上に人間以上に優れた生命体などいない。
身体能力や五感などならより優れた生命体であるのならば人間よりも優れた生命体は存在する。
だが、人間以上に発達し、文化を持った生命体は地球上には存在しない。
もし、そんな生命体が存在するというのならばそれは……
神、というべき存在だけだろう。
「その認識は間違ってはいない。だが、分かりやすく言えば私たちはフラスコを揺らす者」
人の形をした陽炎がそう言い放った直後、陽炎がぶれた。
否、二つに分かれたと言った方が正しいだろう。
「様々な世界をフラスコとして回し、新たな結果と未来を見たいもの」
別れた方の陽炎がそう言い放つ。
二つの陽炎、その二つのどちらもが同じ個体であるかのような印象を抱かせる。
「「私はそういう存在、フラスコにできる世界においては全知全能。故にここでも全知全能になれる」」
そう言い終えると陽炎がぶれる。
そして、初めて見た時と同じように一つの個体となった。
「そして、全知全能故に死人を新たな世界で蘇らせることも可能だ」
「はっ?」
目の前の陽炎が言っていることが理解できず、口からはただ理解できないという意味を含んだ言葉が出た。
そして、俺が火葬される風景が頭の中に浮かんできた。
(俺が死んだ? 何で? まさか、こいつらのせいで)
俺は頭の中が怒りに燃えたぎりそうになった。
こいつらがフラスコを揺らすか、なんだか知らないがそのために殺されたからだ。
そして、俺は目の前の陽炎に殴り掛かりそうになり————
「それは違う。私はただ死んだ魂を呼んだにすぎん」
その拳を引っ込めた。
「まず、貴様の死因は自然死だ。寝ている所で心筋梗塞が起こって死んだにすぎん」
「つまり、お前が殺したわけではないと?」
自然死ならば道理は通る。
目の前の陽炎はただ死んだ俺の魂をここに呼んだに過ぎないということだ。
まあ、それならば理解するしかあるまい。
本当は納得できていないし、理解もしたくない。
この世でやり残したことは沢山あるし、見たいものも沢山あった。
だが、人間は死から逃れられない。
生きている人間はいつか死ぬからだ。
元気な祖母が寿命で大往生した時にそう思ったのだ。
「お前の世界の地球上で毎日何人の人間が死んでいると思う。思い上がるな、人間」
確かに、毎日何人もの人間が飢餓なり、なんなりで死んでいる。
その何人も死んでいる世界でたまたま俺が死んだ。
そして、たまたま転生する人間に俺が選ばれた。
つまり、死んだ人間の中から偶然俺が選ばれたに過ぎないということだ。
(考えを切り替えよう。俺は死んだんだ)
そして、こいつは蘇るさせるといった。
加えて、どこにとも言わなかった。
(ならば、元の世界に蘇ることも出来るはずだ)
「それはできん。俺は振れるフラスコを増やしたいのだ」
「そう、なのか……」
どうやら俺は元の世界には蘇られないらしい。
(まあ、両親は離婚したし、兄妹もいない。加えて、俺を引き取った母親はホスト狂い……元の世界に蘇らなくてもいいか)
よく考えると元の世界に未練はあまりなかった。
オタク友達はいたがみんな転勤でバラバラだし、恋人はいない。
見たかったものや、やりたかったことは転生先の世界ですることにしよう。
だからこそ、気になることが一つ。
「転生先は?」
「分からぬ」
「転生先の状況は?」
「分からぬ」
どうやら俺はこの陽炎にもわからない世界に行くらしい。
そういえば、目の前の陽炎は、「揺らせるフラスコを増やしたい」と言っていた。
つまり、最初から目の前にいるこの陽炎にも分からぬ世界に飛ばされるのは確定事項だったようだ。
「無論、タダではその世界には飛ばさん。同じステータスでは前の世界と同じ結果になるからだ」
(なるほど)
俺は素直に感心した。
確かに前の世界と同じステータスではレコードを再び再生するように同じ結果か、似たような結果が出るだろう。
そこで俺のステータスを弄ることでフラスコを増やすとともにフラスコ自体を揺らすのだ。
そうすれば、俺という存在で一度に二つの事を行える。
一石二鳥というやつだ。
「加えて、言うのであれば……転生先はお前が知っている仮空の世界という事だけだ」
この陽炎がいうことが本当ならば、俺は世紀末な世界や人類に敵対的なエイリアンに攻められている世界に転生する可能性があるらしい。
ということは、あらゆる世界で使えるスキルやステータスにしなければならない。
(やべぇ、結構気が重い……)
もしかすれば、死亡率が非常に高い世界や元の世界とはあらゆるものがかけはなれた世界に転生するかもしれないのだ。
最悪の場合、生まれてすぐに死ぬ可能性すら存在する。
転生先にいいビジョンが全く見えなくなった。
「俺からの依頼としての先払いで払う報酬と考えても良い」
(この陽炎……もしかして、ツンデレ?)
「では、何を望む」
俺が思ったことを遮るように、否、急かすように陽炎はそういった。
俺をはげまそうとしているのだろうか?
その行動でより一層ツンデレに見えるが気にしないことにする。
そして、僅かばかり考えた末に俺はとある結論に達した。
「じゃあ、出来る限りで天才的な頭脳と高い身体能力と魅力的な容姿をください」
「了解した」
転生先が分からぬのならば転生先がどこでも関係ないスキルやステータスにしてもらえればよい。
天才的頭脳も、高い身体能力も、魅力的な容姿も転生先に関わらないスキルとステータスだ。
だからこそ、どんな世界でも役に立つ可能性が高い。
「では、良き旅路をな」
そういって光に包まれながら俺は転生した。
※
(うん、ちゃんと転生した。転生はしたんだが……)
気が付いたら子宮に居た事はまあいい。
生まれた後、泣かなかったせいでケツを叩かれたこともまあいい。
「女の子ですよー」と言われたことは……良くはないが耐える事が出来る。
けど、その後のことが、その後のことが……
「お前の名前は束、篠ノ之束。俺の娘だ」
目の前にいる超巨大なやや渋めのおっさんがそう言った。
(こんなのって……こんなのって、あんまりだろォ!!)
どうやら、俺はIS世界ではマッドサイエンティストとして有名な篠ノ之束として転生したらしい。