「今日のお昼ご飯は『ウドン』よ!」
「またおかしなものを押し付けられましたねアウラ様」
以前フリーレンが立ち寄ったとある街の端に、新生活をスタートさせた魔族が二人。
一人は元七崩賢のアウラ。
そしてもう一人は元首切り役人のリーニエだ。ドラートとリュグナーは普通に死んだ。
『服従させる魔法』により自害を命じられたアウラだったが、泣いて全力で命乞いをしてみたところなぜか見逃された。ご丁寧に『アウラ。自炊しろ』という命令を残して。
「仕方ないじゃない。買い食いができないんだもの」
「だからと言って馬鹿正直に従うのも魔族として……」
「お昼ご飯抜きにするわよ」
「申し訳ございませんでしたアウラ様」
買い食いを禁じられた二人、異国の地へフリーレンの口利きで飛ばされた彼女らは思いのほか好意的に迎え入れられた。
以降、町民らの計らいで食べやすいものをもらったりしている。
「聞けば、極東の地ではローカルフードとして親しまれているそうよ」
「アウラ様にそう言ってこの前は『オコノ……ヤキ?』を作ろうとして炭錬成してたよね」
「じゃかましいわよ」
「私もう炭食べたくないです」
そう。彼女ことアウラはめちゃくちゃ料理が下手なのである。これまで火を使った料理はことごとく炭と化し、油物は発火した。しかし、今回の彼女は一味違う。
「フフフ……今回は何と、レシピを紙に書いてもらったのよ!!」
「はぁ」
「500年生きた魔族であるこの私に簡単な料理……そして詳細なレシピ!!失敗する要素がないじゃない!!」
何度黒焦げになったか分からない鍋を取り出し、水を溜め、火にかける。幾度目かもわからない、彼女の『戦い』が始まった。
「聞いて驚きなさい。なんとこの『ウドン』、茹でるだけで完成するのよ!!」
「それならアウラ様でも作れそうだね」
「毎度やかましいわね」
恒例の漫才を挟むと、焚火の上にぶら下げられた鍋がゴボゴボと音を立て始めていた。
「アウラ様。お湯なくなる前にそれ茹でてください」
「う、うるさいわね!ちゃんと沸いてるか確認するのが先よ!!」
「アウラ様遅いので私がやるね」
言い終わらぬうちに何のためらいもなく指を突っ込むリーニエ。
第一関節ぐらいまで浸かったあたりでビクリと体を震わせ一歩後ろに下がった。
「アウラ様熱い」
「見ればわかるじゃない。どうして指を突っ込んだのかしら」
ぶつくさと小言を言いつつ、町民のおじさんからもらった麺を鍋に放り込む。
「えっと……4分茹でる……だから、この砂時計八割ぐらいね」
手元にあった5分の砂時計をひっくり返し、ここまでの工程を何事もなく行えたことにほっと一息。
「ところでリーニエ」
「何。アウラ様」
「人が私が料理している隣でリンゴを食べるのはやめなさい」
熱湯に突っ込んで真っ赤になった指を冷やし、ついでに棚からリンゴを取り出したリーニエがしゃくしゃくとおいしそうに頬張っていた。
「でもアウラ様どうせ失敗するし」
「うまくできても絶対ちょっとしかあげないわ」
砂時計の落ちるうちに皿を用意しておくため、いそいそと台所を歩き回るアウラ。を、リーニエはリンゴの芯をゴミ箱に叩き込んだ。
「取り出すのは……パスタ用のコレでいいわね。えっと、あとは少し水で冷やしてお皿に盛って……よし」
「アウラ様、つゆ」
「わ、わかってるわよ!!水に薄めるだけならすぐできるわ!!」
アウラが取り出したるは『水に溶かすだけでめんつゆになる魔法の粉』。コップ一杯分の水で適当に溶かして小さい皿に注ぐ。テーブルに並べて完成だ。
「……できたわ!」
「私の分もある……嬉しい」
「心にもないこと言うんじゃないわよ」
また軽く漫才をしながら、木のテーブルに着く。今回はリーニエも一緒だ。
「「いただきます」」
パスタと同じ要領で食べてみると、もちもちとした食感と優しい小麦の香りが口の中に広がった。
「なかなかおいしいじゃない」
「アウラ様が作ったにしては」
「それは余計よ」
突貫で作ったつゆも、冷水で溶かしたのが唯一の懸念点だったが、それもちょうどいいエッセンスとなって晴れの陽気で少し火照った体を冷やす。
「食べ終わったら、ちゃんとお礼を言いに行くわよ」
「またもらえるかな」
「気に入ったのは何よりだけれどがめついわね……」
以降、二人の間には会話はなく、ただうどんを黙々と啜る音だけが響く。
リーニエの中でのアウラの評価が1ミクロンほど上がった昼食だった。