TS魔女経営 桜温泉「命の湯」にようこそ!   作:破壊神アリエス

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強者こそ全て

「では、会議を始める」

 

 少し広めの部屋で、長方形の机を囲うように十数人の魔女が椅子に座る。その中で上座にいる女性…『冨士の魔境』のリーダー、シシハカルが宣言した。

 

 魔女の中には、シャードやジニーアス、ライミル、そして桜も含まれている。

 

「まずは改めての戦況報告だ。以前よりこの『冨士の魔境』付近にまで肉薄し、占領を目的としていた『魔女・徳川幕府』の部隊は殲滅、捕縛した。その中には、かの八大魔女が一人にして『魔女・徳川幕府』のリーダー…リサ・トクガワも含まれている」

 

「あ、あの…。リサ・トクガワをたった一人で倒したって本当なんですか…?」

 

 淡々と報告するシシハカルに、魔女の一人がおずおずと質問する。信じられない…という表情と声色で、ちらりと桜を見つめながら。

 

「―――正直に言えば、私も信じられん。あの化け物を、しかも正面から殴り勝つなど…。とはいえ、実際に倒されていたリサ・トクガワを見てしまった以上は、信じない訳にもいかん…」

 

 対して、あくまで淡々とした様子を維持して答えるシシハカル。ただ、言葉通りに彼女も信じるのが難しいのか、微かに声が震えている。

 

 それと同時に、その場にいる全員の視線が事を成した本人である桜に集中する。畏怖の感情がありありと浮かんでいるその視線に、桜は思わず委縮してしまう。

 

「あ、あいつそんなに強かったのか…?」

 

 その緊張感に耐えられずについ口を開いてしまう桜。

 

「強い…なんてレベルじゃないわよ!」

 

「八大魔女の中でも、肉体的には間違いなく群を抜いてトップ! その剛体から繰り出される一撃は全てを粉砕すると言われている程なのよ!」

 

「実際、他の地域の魔女に攻められた時も、魔力を込めた拳の一振りで撤退させたという実話もある」

 

「防御面も完璧で、並の魔砲撃や精神魔法も全く通用しないの! 彼女に精神魔法を通せるのは同じ八大魔女の面々くらいよ!」

 

「八大魔女の中でも、一番敵に回してはいけない…とまで言われている」

 

「っていうか、なんでアンタそんな事も知らないの!? ホントにこの世界の魔女なの!?」

 

「あのリサ・トクガワに正面から拳の打ち合いを挑もうとしたのを見た時は、この人狂ってるのかと真面目に思った」

 

「あの化け物相手に、正面から拳の打ち合い!? アンタ何考えてんだよマジで!!」

 

 途端に四方八方から口撃を受けてしまう桜。それと同時に、あの巨人がどれほど恐ろしい存在だったかも改めて実感する。

 

「みな、そこまでだ。あまり彼女を責めるな」

 

「で、でも…」

 

「お前たちの為に言っているのだ。もし彼女の怒りを買えば、次の瞬間お前達は血煙にされるぞ。それとも、あのリサ・トクガワを一方的に仕留めたらしい彼女に、勝つ方法でもあるのか?」

 

 桜の一言で荒れてしまった周囲を宥めるシシハカル。ハッとした様子で押し黙る面々の中、ジニーアスだけ食い下がろうとするが、さらに続く脅しに近いシシハカルの言に、ジニーアスも押し黙ってしまった。

 

「………よし、みな落ち着いたな。では、戦況報告はここまで。いよいよ本題に入る」

 

 全員が静まったところで、それを確認したシシハカルが一つ頷く。そしていよいよこの会議の本題に入るらしい。一体どんな内容かと息を呑む桜だが、少しの間を置いてから…何とシシハカルが桜に頭を下げてきたのだ!

 

「今に至るまでの貴殿への無礼。どうか許してほしい」

 

「な……は、へ…?」

 

 唐突な丁寧な言葉での謝罪に素っ頓狂な声を上げてしまう桜。

 

「ほら、リーダーが拷問するとか言ったり、牢にぶち込んだりしたでしょ? シャードを見張りに付けたりしたのもあまりよろしくないと思うし…」

 

 そんな桜にライミルが補足を入れてくれる。…まあ、確かに牢屋に入れられた辺りは桜も腹を立てていたが、ここの魔女達にも都合という物があるだろうし、何よりリサ・トクガワという強敵に狙われて余裕がなかった…というのもあるだろう。

 

「あ、ああ…。いや、それはもういいよ。だからそんな畏まらなくても…」

 

「この世界に疎い様だから教えておくね。この世界は力ある者が全てなの。弱者に人権などない。それは、貴女が助けたあの人たちを見ても分かると思う」

 

 いたたまれなくなってシシハカルの頭を上げさせようとする桜だが、シャードから無表情ながらも厳しい言葉が投げかけられる。

 

 あの人たちとは、シャードにゴブリンとよばれた男の子たちの事だろう。彼らを例に挙げたということは、つまり今はシシハカル含むここの魔女たちが彼らと同じ状況だと言いたいのだろうか。桜の気分を害したら、理不尽に酷い目にあわされると…。

 

「―――顔を上げろ。そんな頭のおかしな暴君みたいにみられる方がよほど不愉快だ。あの巨人を倒したのは、あくまで男の子たちを助けるためだ。意味もなく暴力を振るったりなんかしねぇよ俺は」

 

「分かった…」

 

 一段声を低くして、唸るように声を出す桜。対して、シシハカルは理解の意こそ示すものの、上げた顔の二つの両眼は到底信用しているとは言えない、不安と疑いの色が浮かんだものだ。

 

 こうして、暫く場の雰囲気が険悪なものになったのだが、

 

「あ、あの! 次のお話に進んで良いですか…?」

 

 ここで一人の魔女が高らかに手を上げながら口を開く。会議の最初にシシハカルに質問した少女だ。机の前に分厚い本を置き、まん丸眼鏡に肩くらいのおさげの黒髪と、見るからに文学少女といった感じだ。

 

「あら、まだ何か話があるの?」

 

「はい! ズバリ、銀の魔女について…です!」

 

 不思議そうに聞くライミルに、文学魔女は興奮気味に肯定する。そして、銀の魔女…と言う言葉に桜も声こそださねど反応した。

 

「えーと話をする前に、貴女のお名前を聞かせて頂いても…?」

 

「俺の名前…? 桜………轟桜だ」

 

「ありがとういございます! 私はホスキーと名乗っています! 宜しくお願いします!」

 

 遠慮がちに名前を聞いてくる文学魔女…ホスキー。そして、桜から返答があると嬉しそうに自分の名前も名乗る。

 

「さて! 本題ですが、桜さんはあの八大魔女が一人、リサ・トクガワから銀の魔女とよばれたと聞きましたが、これは本当ですか?」

 

「あ、ああ…。確かに呼ばれたな…」

 

「ならば…ならば! 恐らく間違いないでしょう! 貴女はまさしくあの伝説の『銀の魔女』! 私達魔女の始祖と言われている科学者、和木天才に付き従った魔女! その強さはまさに筆舌に尽くしがたい程であり、八大魔女全員が束になって掛かっても手も足も出なかった…と言われたほどなのです!!」

 

「和木…天才だと!!?」

 

 桜と会話しながら、だんだんとヒートアップしていくホスキーだったが、その最中に出てきた恋人の名前に桜も思わず叫んでしまう。

 

「桜さん!? まさか、和木天才を知っているのですか!?」

 

「知ってるも何も、俺の恋人だ!! 答えろ、あいつは今どこにいる!?」

 

 同志を見つけた! と、言わんばかりにはちきれん笑顔で桜に向き直るホスキーに、しかし桜はそんなホスキーの両肩を掴み物凄い剣幕で詰め寄る。

 

「ど、どこ!? いえ、か、彼女自体は既に寿命で故人の筈です!! っていうか、和木天才が恋人!? えっ、桜さんってそういう性癖なんですか!? 既にこの世にいない同性が恋人とは、桜さんもレベルがお高いですね…」

 

「も、もうこの世にいない…? う、嘘だろ…?」

 

 しかし、返って来た絶望的な答えにがっくりとうなだれる桜。その絶望ぶりは、桜の目の前で訳の分からない解釈をしているホスキーの声が全く耳に入らない程だ。

 

「ちょっと待って、魔女の始祖って事はその人も魔女なんでしょ? 魔女に寿命なんてない筈だけど…」

 

「な、ほ、本当か!?」

 

 しかし、ここではいるジニーアスの疑問。微かな希望の灯に桜は縋るようにジニーアスの方を向くが、

 

「いえ、残念ながら和木天才の亡骸は確かに確認されています。これです」

 

 そう言って、目の前の本をパラパラとめくるホスキー。そして、とあるページで止まると、桜とジニーアス…のみならず、他の魔女達ものぞき込んできた。自分たちの始祖…という事で、大小の差こそあれ興味を持っただろう。

 

 その肝心のページだが、”和木天才の亡骸”という題名がつけられた、老婆が横に倒れている写真が載っていた。成程確かに老衰でこの世を去った…様に見える。

 

「こいつが…アタシらの始祖…」

 

「これが”老い”なんだ…」

 

「見るからに弱弱しい…こうはなりたくないな…」

 

 その写真を見て口々に感想を述べる魔女達だが、概ね自分たちの始祖への感想と、老衰という症状への感想に二分されている様子。

 

 が、その時だった。桜がポツリと呟いたのだ。

 

「―――違う。この婆さんは天才じゃない」

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