TS魔女経営 桜温泉「命の湯」にようこそ! 作:破壊神アリエス
「和木天才じゃない…? で、でも、これは当時の人間達の中でも一番の勢力を誇っていた『魔女討伐隊』の正式な発表ですよ?」
「確かに見た目だけで言えば若いころの面影もない事もないが…なんか違和感がスゲエんだ。こう………なんて言うか………上手く言葉に出来ねぇけどなんか違う」
桜の否定の呟きに、やはり最初に反応したのはホスキーだ。しかし、桜は首を横に振る。
「上手く言えないけど違うって何よそれ…。大体、何でアンタがその和木天才とかいう奴の若い頃なんて知ってんのよ? まだ人間がいた頃なんて、何百年前の話だと思ってんの?」
とはいえ、上手く言語化できない以上信用などしてもらえるわけもなく、怪訝そうな表情のジニーアスから疑いの言葉が飛んでくる。
「だから俺はその何百年前の人間なんだよ! 何百年前の人間の男なんだ! そしてその俺の恋人がこの天才だったんだ! だから、あいつの事なら何でも知って……っ!」
だが、このジニーアスの物言いに感情が高ぶってしまったのか、早口で自分の素性を語る桜…だったのだが、最後の最後で言葉の勢いが鈍ってしまう。和木天才という人物の立場的に、本当に自分は天才の事を全部知っていたのか? という疑問が頭を過ってしまったのだろう。
そして沈黙が訪れる。周りの魔女達を見る限り、桜の言葉自体はとても信じられないが、ここで下手の事を言って逆鱗に触れるのは避けたい…と言った様子だ。
「何百年前か…。もしかしたら、本当かも知れないわね…」
と、その時だった。不意に魔女の一人…ライミルがそんな事を口にする。
「あ、いえね。彼女がこのテリトリーに突然現れた時、第三倉庫が変な部屋になっていたのだけど、そこに置いてあった物の悉くが本でしか見た事がない様な昔の珍しい物ばかりだったの。だから」
「へ!? そ、それは本当なんですか!? ごめんなさい、ちょっと会議抜けます!!」
そして、その理由を語るライミルだったが、それを聞くやいなやホスキーが脱兎の如く部屋を飛び出して行ってしまった。
あまりに唐突過ぎるホスキーの行動にその場にいる全員が茫然とホスキーの飛び出した扉を見つめていたが、ホスキーほどではないにしろやはり他の面々も気になったのだろう。一人、また一人と部屋を出ていく。第三倉庫を目指して。
「凄い…凄い凄い凄い!! お宝がいっぱいある!!!」
第三倉庫…改め桜の部屋に駆け付けた桜を含む魔女達。そこには、両手を組み感極まった様子のホスキーの姿があった。今にも昇天しそうなほどだ。
「お宝…って、この本とかか?」
「それはマンガと言うのです! 大昔の娯楽の一つですね!」
「なんか偉く難しい事が書いてあるけど、これも娯楽なの?」
「そっちの本は教科書と言う物です! まだ子供の教育が義務だったころに使われた教材ですね!」
「これはパソコン? でも、リーダーが使っている物とは微妙に形が違う…」
「これは文明が崩壊する前に使われていたパソコンの最後期の物でしょう! リーダーが使っているのは文献にあった最初期の物を無理やり再現した物なので、比べ物にならない程多機能で高性能だと思います!」
「この鏡張りのでっかい板と、その下においてある機械…かな? これは?」
「テレビとゲーム機…ですね! その二つを配線でつなげると、ゲームという娯楽が出来ます! 仮想の世界を仮想の人物を操作して目的に沿って生きていくという物ですね!」
ホスキーに続いて部屋の中を物色する魔女達。そして、その様々なものに興奮冷めやまぬ様子で説明していくホスキー。
「桜さんならこれらの機器の使い方が分かるんですよね!? ちょっと使ってるところを見せて貰ってもいいですか!!?」
そうしながら、桜にそれらの機器の使用を促す。どうやら、実際に動いているところを見てみたくて仕方がない様だ。
「あ、ああ…。………えっと…あ! そ、そうだ、電気がないとどれも動かないな…」
その勢いに押されるまま、まずはパソコンを付けようとする桜だが、程なくして電気が通っていない事に気づく。
「お、電気か!? なら私に任せとけっ!!」
桜のボヤキに気づいた一人の魔女が、高々と名乗りを挙げる。間髪おかずその魔女は右手を上げ、勢いよく下す。すると、パチッという微かな電気のはじける音と共に何とパソコンが動き出したのだ!
「へっへー! どうだ!? 電気の事ならこの通りさっ! この施設の電灯もリーダーのパソコンも私の魔法で動いてんだ! これくらい楽勝だぜっ!! あ、あと私サンドゥーアってんだ、宜しくな!!」
自慢げに握り拳を突き上げる魔女…サンドゥーアに桜も「助かった」と礼を言い、電源のついたパソコンのロック画面をパスワードを入れて解除する。
「よし、これで動くな…。一応動かし方も教えるけど、でも多分大したことはできないぞ。これもゲームか動画視聴用のやつだし、どっちもネットに繋がってないとまともに動かないからな」
「ネット…インターネットってやつですか!? それは治せないのでしょうか!!?」
「流石にネットは無理だろ…。回線…はもしかしたらさっきの電気みたいに魔法で何とかなるかも知れないが、繋ぐサーバーがもう存在しないだろうし…。そうなるとサインインもできないだろうしなぁ…」
ネットに興味があるのか目をキラキラさせて桜に詰め寄るホスキー。しかし、桜の返答に「そんなぁ…」と愕然とした表情を浮かべる。とはいえ、それでもこのパソコンにはまだ興味が尽きないらしく、いろいろ弄り始める。更に数人の魔女がそれを見つめている。
その後も、ゲームのつけ方遊び方、漫画やそれ以外の本、その他小物の説明などを頼まれた桜だが、その内説明はベッドの隅に放り出していたスマホへと移る。一日近くほったらかしにしていたが、充電はまだ残っていた。一切触っていないので、余計な電力を使っていなかったからだろう。
これ幸いと、説明にかこつけて当時の和木天才の姿、そして自分は男なのだと自分の写真を見せる。
「へぇ~…。これが若い頃の和木天才って人なんだ…」
「なんかジニーちゃんに似てる…っていうかそっくりだわ…」
「こうみると、あのお婆さんの面影があるから、あの写真も本人に見えるけど…」
「でも、実際にこう写真を取れる程に身近な人が違うって言ってるなら、違うんじゃない…?」
天才の方については色々な意見こそあれ、皆興味深そうに見つめている。が、一方の桜が男だというのはなぜか全く信じて貰えなかった。
「これが貴女…? そんな訳ないじゃない」
「本当なんだって!! 信じてくれよぉ!!」
魔女達の中では比較的長く一緒にいたシャードすら全く信じてくれない事に、桜は自分の写真を指差しながら情けない声を漏らしてしまう。
「違うの。そもそも男だと」
「桜さん!!!! 何ですかこれは!!!!?」
そんな桜に何かを説明しようとしたシャードだったが、唐突に響く甲高い叫び声。見ると、パソコンを弄っていたホスキーと数人の魔女が赤面して画面を凝視していた。その画面には…いわゆる成人向けの動画が堂々と再生されて…。
「しまったああああああああああっ!!!!!!」
咆哮と共に爆速でパソコンに駆け寄り、神速の操作でパソコンの電源を落とす桜。そう、桜は忘れていたのだ、何故パソコンの起動にパスワードを設定したのかを。
沈黙が訪れる室内だが、視線自体は桜に集中している。珍獣を見る目付き、やっぱり…と言った様子のジト目、明らかに赤面している者もいる。
が、ここでふと桜は思い立つ。起死回生の一手を!
「男だったから! 男だったからこういう動画にも興味があったんだ! これで分かっただろ!? 俺が男だって!!!」
開き直った様子で熱弁する桜。確かに、男である証としてこれ以上の物はなかなかないだろう。無論、尊厳的には回生どころか闇に葬られる事となるが…。
そんな桜に、ふぅ…とため息を一つ吐いてからシャードは口を開く。
「聞いて桜。そもそも男はこの魔女の住処付近にはいられないの。何故なら…男は何人の例外もなく死んでしまう筈だから」