TS魔女経営 桜温泉「命の湯」にようこそ! 作:破壊神アリエス
―――体が熱い…。まるで全身が火に包まれて燃えている様だ…っ!
―――熱い…熱い…痛い……い…た………。
―――こ、このままじゃ死んでしまう…っ!
―――た、助けて……っ! だ……誰か……たす……て………だ…だれ……………。
「ぎ……あああああああっ!!!」
凄まじい激痛と共に激しく体を起こし覚醒する桜。
「うわっ!?」
「えっ!? ………お、起きた…?」
そんな桜の付近にいた二人の少女が驚きの声を上げる。一人は桜の部屋を物色していたらしく、本棚に並んでいた本の一つを開いていた状態で、驚きの表情と共に桜に視線を向けている。
そして、もう一人…桜のベッドの横で尻もちをついている少女。恐らくは、寝ている桜を確認しようと近づいた時に、勢いよく起き上がった桜に驚いて後ろに倒れてしまったのだろう。
「はあっ、はあっ、はあっ…。んっ……て、天才…? な、何やってんだ俺の部屋で…?」
荒かった息を整えながら、その尻もちをついた少女…天才に不思議そうに問う桜。
「…いきなり人を天才呼びとか…。褒めるにしても唐突過ぎない?」
しかし、天才は訝し気に睨んでくる。どうも様子がおかしい…。
「い、いや、その天才じゃなくてお前の名前…」
「私の名前はジニーアスよ! そんな自己顕示欲の塊みたいな恥ずかしい名前、付ける訳ないでしょ! 頭おかしいんじゃないの!?」
尚も食い下がろうとする桜だったが、天才…いや、天才と生き写しの様にそっくりな容姿の少女は激怒しながら名乗る。桜の知らない名前を。
「ジニーちゃん、落ち着いて。どうやらその子も混乱しているみたい」
思考が追い付かないのか呆けた顔でジニーアスを見る桜と、いまだ憤懣やるかたない様子で桜を睨みつけているジニーアスだったが、そこにもう一人の少女から声がかかる。緑掛かった肩くらいまでの長さの髪に、それと同じ色のたれ気味の瞳がおっとりした雰囲気を醸し出している少女だ。
「とりあえず、その子をリーダーの所に連れて行こう。素性の分からない魔女をこのままにしておく訳にはいかないでしょ」
「そ、そうね…。悪いけど一緒に来て貰うわ。どこ所属の魔女か知らないけど、勝手に私達のテリトリーに侵入したうえ、第三倉庫をこんな訳の分からない部屋に改造した理由を話して貰うわよ」
緑髪の少女の言葉に落ち着きを取り戻したジニーアスが、桜の腕を掴む。
「な、ま、待てっ! ふざけたこと言ってんじゃねぇよ! ここは俺の部屋だっ! 勝手に俺の部屋に入ってきたのはお前らの方だろうが! さっさと出て行かないと警察呼ぶぞっ!!」
しかし、桜はその手を振り払い大声で主張する。二人の少女が何を言っているのかわさっぱりわからないが、今いる場所が桜の部屋なのは確かだ。故に桜が反発するのは当然と言える。
「………け、い、さつ…? って何よ? 自警団のこと?」
「自警団…って…。あんな強欲な連中に何を期待しているの貴女? 一応忠告しておくけど、自分の問題は自力で解決した方が身の為よ? 特に貴女は魔女なんだから、それくらいの力はあるわよね?」
だが、ジニーアスは呆けた様子で警察という日本人ならまず知っているであろう言葉に首を傾げる。緑髪の少女に至っては、憐れみの目で桜に注意する始末だ。
「警察だよけ・い・さ・つ! 大体俺は魔女なんかじゃねえ! っていうか女じゃねえ、男だ! 見りゃわかるだろ! なんだ魔女って、ファンタジーやメルヘンじゃあるまいし!」
まるでかみ合わない会話に、桜はイライラと怒りのボルテージを上げながら怒鳴る。だが、桜の男という言葉に、二人は俄かに目を見開く。そして…、
「ぷはっ、あははははっ! き、聞いたライミル!? い、言うに事欠いて男だって! こいつ自分の事男だと思い込んでるみたいよ!」
ゲラゲラと笑いだすジニーアス。見ると緑髪の少女…ライミルも小さく笑っている。
「な、なんだよ!? 何が可笑しいんだ!?」
唐突な嘲笑に流石に困惑を隠せない桜。そして、そんな桜にライミルが驚愕の言葉を突きつける。
「だ、だって…。男なんて数百年前に絶滅したのよ? 今この世界にいるのは魔女とゴブリンだけ。そんな事を言えば笑われるに決まっているでしょう? ふふっ、本当におかしな子ね…」
「―――………な……な、何を訳の分からない事を言ってんだ…?」
クスクスと、小さく…しかし不気味に笑い続けるライミル。その気味の悪さに気おされたか、桜も反論こそしようとするものの、先ほどまでの勢いがない。
と、そこにどんっ。と、何か重い物が地面に置かれた音がした。見ると、いつの間にか部屋の空いた場所に全身を移せるくらいの大きな鏡が置かれていた。その横には、設置したと思しきジニーアスの姿がある。
「ほら、そこまで言うなら確認してみなさいよ。自分の姿を」
「…お、お前。いつの間にそんなもの持って来たんだ?」
「魔法で取り寄せたに決まってるでしょ。そんなことどうでもいいからさっさと見なさいよ!」
先ほどまで影も形も無かった筈の大きな鏡に訝しむ桜だが、どうやらジニーアスは真面目に答える気はなさそうだ。
その答えに少し憮然としながらも、渋々鏡をのぞき込む桜。そこにはいつもの平凡な少年の顔…などではなく、鮮やかに輝く銀色の長い髪に、少し強気そうながらも、今まで見た事もない程の美貌の少女が困惑気に桜を見返していたのだ。
「うわっ!? だ、誰だお前っ!?」
「誰だって、アンタじゃん。何つまんない一人芝居やってんの?」
びっくりして飛びのく桜に、冷めた様子で突っ込むジニーアス。その言葉を受け、桜は再び恐る恐る鏡の前に出る。
桜が右腕を動かせば、鏡の美少女は左腕でその動きを正確にトレースし、体を動かせばその動きも正確にトレースしてくる。
顔を青ざめさせながら今度は自分の胸をわしづかみにする桜。すると、手で覆えない程の大きな二つの乳房がハリのある弾力で押し返してくるではないか!
「なんだよ…。なんだよコレ…っ!?」
桜の絶望の声が室内に響く。そして、その様子を二人の少女は不可解そうに見つめるのであった。