TS魔女経営 桜温泉「命の湯」にようこそ! 作:破壊神アリエス
とある通路を三人の少女たちが歩いている。先頭にライミル、最後尾をジニーアス。そして、その間に挟まれ連行されている形になっているのが銀髪の少女…桜だ。その桜は、今起きている事に理解がまるで追い付いていないのか、半ば放心状態となっている。
そうして歩くことしばし。ライミルは一つの両開きの扉の前で立ち止まった。
「リーダー。例の部屋で発見した魔女を連れてきました」
「ご苦労。入室を許可する」
ライミルの言葉に、扉の向こうから低めの女性の声が返って来る。と、同時に扉は自動的に左右に開いた。室内の中央には来賓用と思しき机とその周りをソファーが囲み、更にその奥に事務用とみられる少し広めのデスクがあり、その上に一台のパソコンが置かれている。そして、そのパソコンに何やら打ち込んでいる一人の女性がいた。
紫色の髪に細く鋭い目つき。いかにも堅物、そして冷酷、現実主義者…といった感じの女性だ。その女性が少しの間パソコンに何やら打ち込み続けていたが、やがてその動きを止めゆっくりと立ち上がった。
「ようこそ侵入者。私はこのテリトリー『
ただでさえ細い目をさらに細めて詰問してくる女性…シシハカル。しかし、いまだ急激な変化によるショックから立ち直れていない桜は、何と答えてよいかわからず視線を右往左往させるだけだ。
「ふん…。だんまりか。できるなら拷問にかけてでも情報を吐かせたい所だが…。今は少し時間が惜しい。ジニーアス、ライミル、こいつは地下の牢屋に放り込んでおけ。それが終わったらミーアとカレナを呼んでもう一度ここに来い。奴らがここに向かってきていると情報が入った。対策を練るぞ」
「分かりました。ほら、こっちよ」
雰囲気通りの冷酷な指示を出すシシハカルに、ライミルは一つ頷いてから再び桜を連行する。
いくつかの階段を降りながら歩くことしばし。今度はシシハカルの言った通りの牢屋に連れてこられる桜。一見普通の鉄格子の牢屋だが、その格子は微かに緑色に発光している。
「はい、この中に入っていて。シャード、見張りをお願いね」
「見たらわかると思うけど、この鉄格子には魔封じの印が刻み込まれてるから、どんな魔法を使ったところで無駄よ。大人しくしてなさい」
ライミルが桜を牢屋の中に押し入れ、ジニーアスが忠告しながら扉の鍵をかける。そうして、二人はすぐさま踵を返し牢屋を後にしてしまった。
「何だよ…。なんで俺がこんな目に…」
一人取り残された桜は、やってられない! とばかりに勢いよく腰を下ろし、改めて周囲を見回す。どうもあまり整備されてない様で、汚くかび臭い。まあ、桜的には牢屋などそんなに綺麗なイメージは無いが…。
ぼんやりと天井を見上げる桜。考えるのは、何故こんな事になったのか…なのだが、あまりにも情報が少なすぎる。なにしろ、寝ていたらこうなっていたのだ。こんな流れで状況を把握しろと言うのはあまりにも無理がある。
唯一手掛かりになりそうなのが、あの今思い出しても身の毛もよだつ全身の激痛だ。男から女になってしまったのも、恐らくはあの激痛が原因だろう。
…とにかく情報だ。何でもいいから今の状況を少しでも理解できる情報が欲しい!
「…そうだ。こんなところで落ち込んでいる場合じゃねえ。早く帰って、天才に会いたい…!」
記憶の中で微笑んでいる恋人の笑顔を思い出し、スッと立ち上がる桜。その表情には先ほどまでの消沈した感じはなく、決意に満ちていた。
そして、その顔つきと共にまずは牢屋の鉄格子に手をかける。見るからに太く頑丈そうなうえ、ジニーアスの言葉を思い出すに、何やら仕掛けも施されている模様。
流石に無理かと思いながらも、一応かけた手に力を入れて横に引っ張ってみる。すると、驚いた事に鉄格子はあっさりとひん曲がってしまったではないか!
「あ…? な、なんだこれ…?」
あまりにあっさり壊れてしまった鉄格子に拍子抜けする桜だが、ふと我に返り牢屋の外に出る。良く分からないが、とりあえず脱獄には成功したようだ。
と、その時だった。
「驚いた…。あのリーダー直々の魔封じの印が施された鉄格子を、こんなにあっさり壊すなんて…」
不意に桜の背後からこのような声が聞こえてきたのだ。
「誰だっ!?」
慌てて振り返り怒鳴る桜。しかし、背後には誰もいない。更に周囲を見渡すが、やはり人影すら見つからない。だが、桜の耳は続けてこの謎の声を捉える。
「うん、脱獄された。―――うん、あまりにもあっさり壊されたから、びっくりしてすぐに連絡できなかった。どうする?」
どうやら誰かと連絡をしている様だ。相手は…会話内容からしてさっきの二人か、でなければあのリーダーと言われていた女性だろう。
そして、桜は気づいた。この声は牢屋を照らす照明によって生み出された、桜の影から発せられている事に。
「うん、じゃあすぐに来て」
驚き固まる桜だったが、謎の声のこの言葉にハッと我に返る。恐らく今、この謎の声は応援を呼んだのだ。ならば、程なくして再びさっきの二人か…いや、下手をすると更なる増援が来るかもしれない。
「くっ!」
と、うめき声を漏らしながら辺りを見回す桜。だが、この牢屋の出口は先ほど降りてきた階段しかない様だ。今すぐに上っても応援と鉢合わせしてしまうのは目に見えている。
「なら、一か八かだっ!」
そう言って桜は牢屋の壁に近づき、なんとその壁に渾身の右ストレートを叩き込んだのだ! 先程の鉄格子も、話を聞く限りではかなり頑強だった筈。それを壊せたというのならこの壁も…! という算段だ。
ドガァッ!! という轟音と共に粉々に吹き飛ぶ壁。そして、運のいい事にその先に通路が続いていたのだ!
すぐに通路に飛び出した桜だったが、
「逃がさない…。影縛りっ!」
「ぐあっ…! か、体が…う、動かな…い…っ!」
再び聞こえてきた謎の声。その直後、桜の動きは固まってしまった。
「無駄だよ。私の影縛りは破れは…」
「があああああっっっ!!!」
得意げに声を発する謎の声だったが、桜が渾身の力を込めて前進しようとすると、バチッ! と、電流がはじけたような音と共に再び動けるようになったのだ!
「なっ…!? わ、私の影縛りをこうもあっさり…!?」
驚愕の声を上げる謎の声。それを他所に、桜は通路を全力で駆け抜けるのだった。