TS魔女経営 桜温泉「命の湯」にようこそ!   作:破壊神アリエス

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風呂入ろう!

「魔女様…何処かに行くの?」

 

 不意に立ち上がり、何処かへ行こうとする桜に男の子が不思議そうに声を掛ける。

 

「ああ、ちょっと川を探しにな。えっと…お前名前何て言うんだ?」

 

「僕はまだ名前がないんだ。名前が貰えるのは無事に大人になった後だよ」

 

 その問いに答えるついでに、男の子の名前を聞く桜だったが、返って来たのは予想外の言葉。

 

「大人になるまで名前がない…?」

 

「うん。子供自体はエルダ様やミーミ様、シャロン様が生んでくださるけど、大人になるまでに死んじゃう子が多すぎて名前を付ける意味がないからだって…。あと、あの人がシャロン様」

 

 そして語られる絶望的な理由。確かに、あんな酷い食生活に耐えられる子供など、ほんの一握りしかいないだろう。その話の流れで、集団の中心だった女性の名前も判明する。

 

「魔女様。あの残ったやつはどうすればいいですか?」

 

 厳しい現実に顔をしかめている桜に、男の子は続けて質問する。残ったやつ…すなわち巨大豚の残骸だが、あえて残したのは頭部丸ごとと食道から繋がる部位だ。どちらも食べられそうな気はするが、頭部はどの辺りが食べられるのか良く分からないし、食道から繋がる部位は排泄物が詰まっている可能性が高い。

 

 どちらも、安心して食べようと思うならきれいに洗うのは必定だろう。その為にも、やはりきれいな水が欲しい。

 

「―――そうだな。後で俺が処理しておくから、お前はお父さんに焼肉の残りを食わせてやってくれ」

 

 そういうやいなや、桜は再び北へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 そして場所は再び北の森の中。幸いなことに、森の奥へ向かうように歩いていると、川を見つける事が出来たのだ。

 

「おおっ、川だ…きれいな水だっ! うう、まさかこんな普通の川の水が、ここまで貴重に見える様になる日が来るとはな…」

 

 その澄んだ水面を感動の面持ちで凝視する桜。今まで当たり前のように使っていた物が如何に大事な代物なのかを実感するのは、やはりそれが全て失われてしまった時だろう。

 

 が、ここである考えが桜の脳裏に浮かぶ。一人で水浴びするだけならこの場で済ませてしまえばいい。しかし、出来るならあの集団の人達にも体を洗ってもらいたい…という物だ。特に、男の子の父親には体を洗って欲しい。食事もそうだが、不潔なのも体によろしくないだろうからだ。

 

 更に、水浴び以外の用途でもきれいな水が欲しいのは先ほど認識したばかりだ。という訳で出来るだけ大量にこの水を持ち帰りたい。問題はその持ち帰る方法だ。

 

「ど…どうすればいい…? 俺の服を袋代わりに…いや、それでも全然足らないな…。水を凍らせる…? 火は出せたんだから多少の量ならできそうな気はするけど、大人数が入れるレベルの広さの風呂に必要な量を凍らせるなんて出来るか…?」

 

「今度は何を悩んでるの?」

 

 うーんと唸りながら渋い顔で両腕を組んでいる桜に、唐突にかかる声。

 

「シャード…ついて来てたのか。いやな、この水を何とか持ち帰れないかと思ってよ…」

 

「持ち帰る…こういう物を移動させるのはジニーアスがいれば便利なんだけどね。あの子は空間を操る魔法にかなり精通してるから」

 

 自分の影から聞こえるシャードの声に、桜は恋人と瓜二つの顔を持つ少女を思い出す。空間を操る…成程、あの大きな鏡を突如桜の部屋に置いたのも、その魔法の効果で何処からか取り寄せたのだろう。

 

 そうして、暫く自分の影を凝視していた桜だが、そこでピンとある閃きが。

 

「なあシャード。お前は今俺の影の中に入っているけど、その影の中に水を入れる事って出来ねぇのか?」

 

「………貴女本当に突拍子もない事を思いつくね。どうだろう、やった事ないからやってみないとわからない。影を川に合わせてみて」

 

 シャードの指示に従い、川と影が合わさるような場所に移動する桜。すると、影の中に水が飲みこまれていくではないか!

 

「おお、出来てるっぽいか!?」

 

「出来てる…けど、このままじゃ私が溺れてしまう」

 

 興奮気味に尋ねる桜に、抑揚なく答えるシャード。と、同時にシャードは影から姿を現す。そうして、暫く川の水を影の中に取り込んだ後、桜は帰路に付こう…とした。

 

「えっと………帰り道、どっちだ?」

 

「やっぱり、道も分からずテキトーに川を探し歩いてたんだね…」

 

 眉を八の字にして辺りをキョロキョロ見回す桜に、呆れた様子でため息を吐くシャード。その口ぶりからして、どうやら桜が迷う事を予想していた様だ。

 

 そんなシャードに桜は口惜しそうに「ぐっ…」と声を漏らすが、シャードは構わず右手を天に掲げる。すると、手のひらから小さな光の球が現れ、その球の一か所が尖ったのだ。その指し示す先にシャードは左の人差し指を向ける。

 

「帰り道はあっち。さあ、帰ろ」

 

「そ、それも魔法か…? は~、随分便利なもんだ…ん? ちょっと待て。確かこの辺りって、道具だろうが魔法だろうが位置が分からなくなったって言ってなかったか?」

 

「それはそうなった当時の話。この付近で生活する以上、魔法技術を改良するのは当たり前。あと、移動するときは注意して。今、貴女の影は私の魔法効果内にあるけど、私が影から離れたら魔法が解ける…つまり中の水も全部溢れ出してしまうから」

 

 感心しながらも質問する桜に、シャードは簡潔に答え、ついでとばかりに水を影の中に入れ続ける為の注意点を語るのだった。

 

 

 

 

 

 シャードの案内を受け、元ホテルだった建物の前にまで戻ってきた桜。残念ながら例の集団からはまだ警戒の目で見られているが、そんな中あの男の子だけは喜んで迎え入れてくれた。

 

「魔女様! おかえりなさい!!」

 

「おう! どうだ、お父さん肉食ってくれたか?」

 

「うん! 最初は食べようとしなかったけど、無理やり食べさせたんだ! そうしたら、お父さん夢中になって全部食べちゃったよ!」

 

「そうか! そりゃよかった! シャード、浴場へ行こう! 大量の水を貯蓄できるのはあそこしかないと思う!」

 

 男の子と目線を合わせ楽しそうに会話した後、シャードと共に浴場へ向かう桜。男の子も興味津々な様子で二人について来る。

 

 そして浴場。それなりに荒れてはいるがパッと見る限り浴槽は五つ。そのうち二つが例の汚水塗れなので、使えるのは残り三つだ。

 

「やっぱ、大人数が使う風呂なら大きい方がいいよな…。よし! シャード、空の浴槽の中でまずは一番でかいやつに水を目いっぱい入れて、残った水は他の浴槽に入れるぞ!」

 

「分かった。じゃあ出す場所に影を合わせて」

 

 シャードの協力のもと、浴槽を水で満たしていく桜。そして、それを終えた後、大きい方の浴槽にそっと右手を入れる。

 

「火を出した時と同じ要領…でいいのか?」

 

 そう呟いた後、目を閉じ念じる桜。すると、程なくして水が湯気を上げ始めたのだ!

 

「お、おお…。あったけえ……ふ、風呂だ! 風呂が出来たぞ!!」

 

「わ、わーい!? やったー!?」

 

「―――随分都合のいい魔法だ。どうやらこの子、かなり深く魔女言語(ウィッチコード)に適合しているみたい。少し調べた方がいいかも…」

 

 思い通りに風呂が完成した事に大喜びする桜と、意味は分かっていないのだろうが桜が喜んでいるので、一緒に喜んでくれる男の子。そんな中、桜をじっと見つめながらシャードは誰にも聞こえないように呟いていた。

 

 

 

 

 

 一人目の入浴者は男の子の父親だと定めた桜。やはり嫌がられてしまったが、そんな彼を担いで浴場へ移動させ、一言断りを入れてから服を脱がし、風呂にゆっくりと浸からせた。

 

「…あ、ああ。な、なんだ…このお湯は…? あったかくて、気持ちよくて、い、痛みが…痛みが引いて行く…」

 

「い、痛みまで引いたのか…? た、確かに風呂は気持ちいいけど、効果が劇的すぎるな…」

 

 苦悶に歪み続けていた表情が、みるみる内に安らかなものに変わっていく。それは、見ている桜の方が驚くほどの壮大な変わりようだったのだ。

 

 しかし、ここで桜が暴走してしまう。なんと、おもむろに服を脱ぎ始めたではないか!

 

「まあ効果云々は今はいいや! あー早くさっぱりしてぇ!」

 

「魔女様! ボクも入りたい!」

 

「よっしゃ! 一緒に入るか!」

 

 などと会話しながら男の子の服も脱がせ、一緒に風呂の中に入っていく桜。

 

「かーっ! こりゃ確かに気持ちいい! シャード、水はこぶの手伝ってくれてありがとな! どうだ、お前も一緒に…って、あ!? そうか、女性用も作らないと駄目だな! すまん、すぐに作るからちょっとだけ待ってもらっても良いか!?」

 

「それはいいけど、何で貴女は入ってるの? 貴女も女性でしょ?」

 

 上機嫌な様子でシャードに礼を言ったりなんぞしていた桜だが、ここでシャードから冷静なツッコミが入る。

 

「ああ~? 何言ってんだ、俺は男…」

 

 へらへら笑いながら自分の体を見下ろす桜。その視界に入って来るのは、男にはありえない立派な丸みが二つ…。

 

「……………………っっっ!!!?」

 

 たっぷり間を置いた後、大慌てで自分の胸を隠す桜。どうやら、ここで自分が性転換していたことを思い出したようだ。その赤みを帯びた頬を見る限り、かなり恥ずかしい様子。

 

「魔女様の体、凄く綺麗だよ…?」

 

 身を庇うように俯く桜、ずっと視界を明後日の方へ向けている父親、そして呆れた様子で桜を見ているシャード…という微妙な空気の中、不思議そうに声を掛けてくれる男の子。

 

「…そうかい。ありがとよ」

 

 対して、桜はぶっきらぼうな返事を返すのが精いっぱいなのであった。

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