TS魔女経営 桜温泉「命の湯」にようこそ! 作:破壊神アリエス
桜が男湯で恥ずかしい思いをしてから少し時間が経った。男湯の方は残った集団の面々に利用してもらう事になったのだが、桜も引き続き風呂に入りたいという事で、風呂以外の用途に使うつもりだった残った水の全てを、急遽女湯の浴槽に使う事となる。
そして今、女湯には五人の女性が浸かっている。桜とシャード、シャロン、残り二人は風呂は気持ちいいという事で呼ばれたミーミとエルダだ。
「これがお風呂…。確かに気持ちの良い物ですね」
「むふふ~ん! 体の奥底までポカポカあったか!!」
「お腹の子にも良さそうね」
その内の三人…一人はシャロン、そして背が少し低く子供っぽい子と、微かに釣り目気味の気の強そうな少女が楽しそうに会話している。この三人、表情や背丈こそ違うものの、黒髪であり目の色が反転しているのは共通している。
「えーと…。背が少し低めの君がミーミちゃんで、もう一人がエルダさん…だな」
「はい! アタシがミーミです! 宜しくね銀色の髪の魔女さん!」
その三人に、やはり女湯に入っている桜が遠慮がちに確認する。すると、背の低い少女…ミーミは元気に答えてくれた。が、警戒しているのかもう一人…エルダはジロッと桜に視線を向けたかと思うと、すぐにそっぽを向いてしまった。
「エルダちゃん…! ご、ごめんね銀色の髪の魔女さん。エルダちゃん、今大事な時期だからだいぶ気が立ってるみたいなの…」
エルダの様子に慌ててミーミがフォローを入れる。とはいえ、桜としても怒る気はない。何故なら、エルダのお腹…細身な彼女には不釣り合いなまでに膨れ上がっているそのお腹を見れば、彼女が普段以上に周囲に敏感になるのも無理はない。
そして、身籠っているのはエルダだけではない。初期状態なのでまだ目立ってはいないが、どうやらシャロンとミーミも身籠っている様なのだ。桜がシャロンと集団に初遭遇した時、シャロンだけは襲い掛かってこなかったのは、体にできるだけ負荷をかけたくなかったからなのだろう。
エルダとミーミが出てこなかったのも同じ理由で、ただ動くだけでも難儀する状態のエルダをミーミがつきっきりで寄り添っていたからだそうだ。
「勿論この子の事もある。けど…それ以前の問題として、この魔女…なんか目付きが嫌らしいのよね…」
そう言って、全身を腕で庇いながら桜を睨むエルダ。直後、桜は恥ずかしそうに俯いてしまう。その様子は、明らかに女性の肌を見て気恥ずかしくなる初心な青少年そのものだ。どうやら体こそ女になってしまったが、感性はまだ男のままの様だ。
とはいえ、男に体を見られて恥ずかしいという女の感覚も芽生え始めているのも確か。それが桜の混乱をさらに加速させる。
そもそもの問題として、これから桜はどちらの風呂に入ればいいのだろうか? 男の感性を維持したいのなら男湯だが、一度覚えた恥ずかしさはなかなか消す事などできないだろうし、他の男達も自分たちの居場所に堂々と裸の女に居座られたら気まずくて仕方ないだろう。
さりとて、女湯は女湯で必然的に右も左も女の裸だらけになるのだから、桜の精神衛生上良くない。無論、入り続ければいずれは慣れるかも知れないが、それはそれで男に戻った時問題になりそうだ。
「私達はここの殿方たちのお相手で忙しいので、できればそういう逢瀬は魔女どうしで…」
「そういう性癖の子も探せばいるかもしれないけど、少なくとも私の周りにはいない。貴女の性癖に文句を付けたりはしないけど、同じ性癖の子は自分で探して」
風呂のぬくもりだけでは説明できない程顔を赤くして俯き続ける桜に、シャロンとシャードからそれぞれ厳しいお言葉。しかし、裸を直視してしまう為に桜は二人に視線を向ける事が出来ず、結果的に反論も許されないのであった。
桜自身にこそ問題はあったものの、この桜特製風呂はシャードを含む全員から好評だった。なんでも、気分はさっぱりするし、湯につかっている間は何やら気力が湧いてくる…との事だそうだ。あの男の子の父親も、風呂に入った後はだいぶ容体が安定しているらしい。
更に不思議な事に、かなり汚かったあの集団全員が風呂に入った後も、湯は一切の濁りを見せずに澄んだままだったのだ。その輝いてすら見える綺麗な湯面は、一種の奇跡と見紛う程だ。
そんな事情もあってか、集団の中でも桜を受け入れてくれる人達が出てき始めていた。男の子が全面的に桜に懐いてくれている事も、この受け入れを後押ししてくれているのは間違いない。
しかし、ここで再び問題…というより、危機が桜と集団たちに迫ることとなる…。
全員が風呂を入り終え、桜に友好的になった人たちと今後どうするかを話し合っていた最中だ。突如、桜達のいる旧ホテルの外から爆発音が鳴り響いたのだ!
慌てて旧ホテルの崩れた壁の隙間から外を覗く桜。そこには、いかにもガラの悪そうな女が十数人、巨大な金づちを振り回しながら暴れまわっているではないか!
女とは思えないその立派な体躯から繰り出される一撃は、爆発音と共に全てを粉みじんへと粉砕する。恐ろしい程の怪力だ。
「あ~つまんねえな…。もっと壊しがいのあるもんねえのかよ…」
「無茶言うな。そんなもん、数百年前には無くなってるぜ」
「ちっ、しけてやがんな…。ゴブリン共はまともなもん作らねえしよ…」
「ま、その分はこの樹海の魔女共で楽しませてもらおうぜ!」
「だな~。魔女はこの世界で今一番壊しがいのあるもんだもんなぁ~!」
「けっけっけ…! せいぜいいい声で鳴いてほしいもんだなぁ…」
口々に物騒な事を話しながら旧ホテルに近づいてくる女達。凶悪な面構えもあって、まさに悪魔の集団と呼ぶにふさわしいものだ。
「な、何だあいつら…!?」
「アイツらは、テリトリー『魔女・徳川幕府』の魔女たちだね」
「と、徳川幕府!? え、こんな崩壊した世界でも徳川の血って受け継がれてんの!?」
「それは知らないけれど、大昔に国一つをまとめ上げて何百年も安定した政治を続けた徳川とかいう家名にあやかって、今の徳川…昔はオオサカとよばれていた場所を統治している魔女のリーダーが、そう名付けたらしい」
「あやかれれば何でもいいのかよ…。史実も家名も地理も何もかもガン無視だな…」
一緒に覗いていたシャードの解説に驚いたり呆れたりする桜。そんな事をしている間にも『魔女・徳川幕府』の魔女たちは破壊を続けながら旧ホテルにどんどん肉薄してくる。
「あいつら…ここに用でもあるのか?」
「多分、『冨士の魔境』の魔女の本拠地を攻める為の拠点が欲しいんだと思う。ここは周囲の残骸に比べたら幾分建物の機能を残してるから」
「シャードはあいつらと戦って勝てるのか?」
「流石に十人近い魔女を一人で相手するのは無理。一応、応援は少し前に呼んだけど、ここに来るには時間がかかると思う」
「ジニーアスに頼めばすぐ来れるんじゃないのか?」
「あの子の魔法も万能じゃない。魔女と言う特殊な物体を空間に通すにはそれなりの準備が必要」
ついで、状況を確認する桜だが、残念ながらかなりよろしくない様子。無表情ながらそれなりの量の冷汗をかいているシャードを見ても、厳しいのは一目瞭然だ。そして、桜の足に怯えながらしがみつく男の子と、すがるような視線を桜に向ける桜に友好的になった集団の一部。
更に、チラッと後ろを見た桜の視線が捉える。不安げな様子でお腹を庇っているエルダと、そんな彼女を左右から支え合うシャロンとミーミの姿。
「分かった。俺も手伝うから何とかこの場を死守しよう。とにかく、ジニーアスたちが来るまで持ちこたえれば何とかなるんだな?」
覚悟を決めた様子でコクリと頷いて口を開く桜だが、よく見ると体が僅かに震えている。あんな暴力的な奴らと真正面から戦おうというのだからやはり怖いのだろう。が、自分も不思議な力を手にしているし、何より男の子や他の人たちの期待にも応えたい…と言ったところか。
「うん、お願いね。あいつらは以前から虎視眈々とこの辺りを狙っていた迷惑な奴。このあたりで一回痛い目に合わせて追い払った方がいい」
そんな桜の背中に、ポンと軽く手を当てながら言葉をかけてくれるシャード。どうやら、桜の状態を正確に見抜き、鼓舞してくれている様だ。
「じゃあ、行くよ!」
「おうっ!!」
そうして、シャードの合図と共に二人は勢いよく旧ホテルを飛び出し、破壊を尽くす魔女たちの前に立ちはだかった。