TS魔女経営 桜温泉「命の湯」にようこそ! 作:破壊神アリエス
「あ~? なんだてめえらは~?」
旧ホテルから突然飛び出してきた桜とシャードの二人に、相手側の魔女集団の一人が訝し気に口を開く。
「奴らは貴女や私、ジニーアスの様な不思議な魔法は使えないけど、代わりに魔力で身体能力を極限まで強化している。そこから繰り出される一撃の重さはさっき見たと思うけど、あの強靭な肉体には生半可な攻撃も通用しない事を覚えておいて」
しかし、相手の言葉を無視して相手の注意点を述べるシャードと、黙って頷く桜。そして、その敵対的な目線を受け、相手の魔女達も桜達が自分達と戦うつもりなのを理解したようだ。
「カッカッカ…! 小さき者の分際で随分と勇ましいもんだ! ではその勇ましさに免じて、このオレ様が直々に粉々の挽肉にしてくれよう!」
そう言いながら、魔女集団の中から出てくる一人の魔女。赤い髪をモヒカン刈りにし、顔という顔に紫色のけばけばしい化粧をしている、威嚇特化のいでたちだ。
「ぬうぅぅぅぅんっ!!」
出てくるやいなや、先制攻撃的に手にした武器を大上段から桜達めがけて振り下ろしてくるモヒカン魔女。その一撃を、桜は大きく横に飛びのいてかわす。
「逃げ回ったところで無駄………ん? な、なんだ…?」
避けた桜の方に視線を向けるモヒカン魔女だが、そこで動きが止まる。更に、困惑気にもがき始めるがモヒカン魔女の体は動かない。まるで全身をガムテープで壁に貼り付けて固定されているようだ。
「さあ、今のうちに攻撃して!!」
そんな中響くシャードの叫び。察するに、恐らくモヒカン魔女の最初の一撃の隙にモヒカン魔女の影の中に入り込み、以前の牢屋で桜の動きを止めようとしたあの魔法を使っているのだろう。
シャードの合図に呼応するように、態勢を立て直した桜が「おらぁっ!!」と言う裂帛の掛け声と共に、モヒカン魔女の顔に右の拳を叩き込んだ!
が、ここで予想外の事が起こる。桜の一撃を受け吹き飛ばされ壁に叩きつけられた後、地面に倒れるモヒカン魔女。だが、一向に起き上がる気配がないのだ。
「………き、気絶してる…?」
モヒカン魔女の影から這い出て、その様子を窺うシャード。震える声色から、この魔女を一撃で…? と言う驚愕と困惑の感情がありありと滲み出ている。
そして、それは桜も一緒のようだ。自分の倍近いガタイの相手を一撃で仕留めたなど、にわかには信じがたいようで、やはり困惑気に自分の右の握り拳を見つめている。
だが、この光景に一番驚愕しているのは魔女集団なのは言うまでもない。
「二、ニーナッ…!?」
「バカな、ニーナが一撃で…!?」
「…っ、こ、この野郎っ…!!」
「舐めやがって…! 全員で掛かるぞっ!」
「俺達に逆らったこと後悔させてやるっ!!」
モヒカン魔女がやられた直後こそ動揺し狼狽していたが、すぐに怒りが感覚を支配した様で、憤怒の形相と共に、一斉に桜に襲い掛かって来たのだ!
「いけない…っ!」
慌てて助けに入ろうとしたシャードだったが、すぐにその必要はないと悟る事となる。
魔女集団の嵐の様な連続攻撃を、時にかわし時に受け止め、その隙を縫って一人、また一人と一撃のもとに打ち倒していく桜。まさに無敵の存在だ。
遂には、大した時間もかからずに魔女集団全員を一人で倒してしまったのだ。
「―――貴女、何なの? 一体何者なの?」
そんな桜に近づき、厳しい面持ちで詰め寄るシャード。しかし、桜としても答えようがない問いに、気まずそうに黙るしかない。
だが、その答え…の一欠けらが思いもよらぬ所から投げ掛けられる事となる。
「虫の知らせに様子を見にくれば…これは一体…?」
不意に響く低い声。慌てて声の方に振り向く桜とシャード。
そこにいたのは…簡潔に言えば巨人だ。桜の二倍以上の背の高さに、腕、足、胴体といった体の全ての筋肉が、まるで格闘漫画に出てくるパワーキャラの様な異常な膨れ上がりを見せている。顔つきも角刈りの髪に鋭く細い目つきと、威圧感満載だ。
その謎の巨人は少しのあいだ周囲を見回していたが、やがてその両目は桜を捉える。直後、巨人の両目は限界まで開かれた。明らかに動揺している。
「―――まさか…。まさか、貴様…銀の魔女…か…?」
「銀の魔女…?」
震える指を桜に突きつけて聞いてくる巨人だが、何のことかわからない桜は首を傾げるしかない。
「とぼけても無駄だ。例え我の記憶は封印されていようとも、無様な負けを晒し屈辱に打ち震えたであろう我が心が!! その屈辱を晴らす機会に巡り会えた事を体の芯から歓喜する我が誇りが!! 貴様を打ち倒せと獣の様に叫んでおるわ!!!」
冷汗の様な物を搔きながらも、歓喜の笑みに歪んだ表情で桜に向かって叫び睨む巨人。その時に前に突き出した拳をグッと握りなおした様子を見ても、最早この巨人との戦闘は避けられないだろう事を予想させる。
「気を付けて。あの人は、この世に八人存在する大魔女の称号を与えられたうちの一人…”
「ト、トクガワって…」
「そう、『魔女・徳川幕府』のリーダーも務めている。正直、こんなところまで出張ってきているなんて完全に予想外だった…」
その巨人…リサ・トクガワの素性を桜に説明するシャードだが、その顔色は完全に真っ青に染まっている。それ程までに恐ろしい難敵なのだろう。
僅かのあいだ対峙していた桜とリサ・トクガワだが、まず動いたのはリサの方だ。悪鬼を思わせる凶相と共に猛然と桜に突撃し、右拳による大ぶりの一撃を桜めがけて突き出した!
その一撃を横に体を移動させてかわす桜だが、驚くべきはその拳に込められた威力だろう。拳から発生した風圧だけで、桜の近くにいたシャードが苦悶の声と共に後ろに倒れてしまったほどだ。もし、この拳が直撃でもしようものなら一体どうなる事か!
だが、ここで桜が予想だにしない行動に出る。二撃目を放とうとしているリサに対し、なんと桜も拳で迎撃しようとしているのか、右腕を後ろに思い切り引いたのだ!
それを確認したシャードは止めようとしたのか慌てて立ち上がろうとするが間に合わない。激突する桜とリサの拳! その衝撃はすさまじく、バゴオォォン!! という地面が揺れたのかと錯覚する程の激突音と、周りの瓦礫を吹き飛ばす衝撃波。それらがシャードに容赦なく襲い掛かり、彼女は吹き飛ばされてしまった。
そして拳同士の決着は…
「ぐ、ぐくっ…!」
右手を押さえ苦し気に声を出すリサ。なんと、桜の拳はリサの拳を正面から打ち破ったのだ! そして、その隙を突いてリサの懐に潜り込み、腹部に右拳による渾身の追撃を決める桜。
「ごぼぁっ!? ……あ、が、はあっ、ぐ、ぐぎぐぐ、ぐうっ…!」
殴られたわき腹を庇い、苦しそうに息を漏らすリサ。だが、彼女はまだ倒れていない。既にふらついている足を、気力だけで支えているのだ。
「ぐ、ぐふ、ふふふ…っ! つ、強い…何という強さか…。こ、これが銀の魔女…。だが!! まだ我は負けておらん!! この”
高らかに宣言して左の拳を構えるリサ。その輝く拳からは、まさしく全身全霊を込めた最強最後となりえる一撃が放たれる事が予想される。
対して、桜もその場にグッと構える様子を見せる。撃ってこい!! と言わんばかりに。
「逃げも隠れもせん…という事か。ならば、いざ尋常に勝負っ!! ぬうああああっ!!!」
一瞬だけ満足げに微笑んだ後、一転覚悟の形相と共に左の拳を撃ちだすリサ。その一撃は、微動だにしない桜の体を確かにとらえた。
会心の一撃に笑みを漏らすリサ。だが、その表情は直後に歪む事となる。その会心の一撃をまるで意に介さず反撃してくる桜の姿を見る事によって。
リサの顔面に桜の拳がめり込み、そのままリサは気絶してしまった。
ふう…と一息ついてから、衝撃でいまだ立ち上がれないでいるシャードに歩み寄り、無言で手を差し出す桜。その手を取って何とか立ち上がるシャードだが、少し足がふらついている。
「ねえ、銀の魔女って何? 貴女はその銀の魔女なの?」
そんなシャードからの直球の質問。しかし、その答えが欲しいのは桜の方であることは言うまでもない。
「応援要請があったから急いで準備してきてみたけど、まさかもう終わっているなんてね…」
と、ここで不意にかかる声。見ると、怪訝そうな様子のジニーアスと数人の魔女と思しき女性達が立っていた。
「話を…聞かせてくれるかしら?」
険しい顔色で口を開くジニーアスに、桜は少しの逡巡の後、おもむろに頷いた。