母親を死喰い人に殺されたセルウィン家最後の生き残りは、カロー家の養女になる。   作:蕩けたバター

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セルウィン家を探索していると、とても広い図書室を見つけます。その中を歩いていると、中途半端にはみ出た赤い本が目に入りわ綺麗に整頓された本棚の中に何かをアピールするかのように、中途半端に差し込まれた赤い本。彼女は気になってその本を押し込んでみました。するとその瞬間、2つの本棚が左右に動き、隠し扉が現れたのです。


セルウィン家訪問②/クリスマス休暇明け

大きな屋敷なので部屋の数が多いが、どの部屋にも高そうな調度品が置かれており、財力の高さがうかがえる。

 

 

「あ、見て!この部屋図書室だわ!」

 

 

読書好きのヘスティアが少し嬉しそうな声で私達を見ながら1つの部屋を指さす。

彼女の元へ向かい中を除くと、何百もの本棚が置かれており、まるで魔法省付属図書館のように広かった。

そしてその部屋だけは空気が澄んでおり、埃ひとつ無い程清潔に保たれており、異様に綺麗に整えられていた。

 

 

「どうしてここだけ綺麗なままなの?」

 

 

「分からないわ。」

 

 

ヘスティアが不思議そうな声で話し、フローラはお手上げだと言わんばかりにため息をついた。

 

 

「凄いわ。こんなに多くの本が置かれているなんて…セルウィン家は知識人が多いのかしら?」

 

 

「あ、この本!絶版された"500の呪い集"だわ!」

 

 

「凄いわね。この本、禁書に指定されていたはずよ。ホグワーツの禁書棚のリストに載っていたわ。」

 

 

中に入ると、一般的な呪文学や魔法薬学、変身術に関する本から古代魔法、錬金術に関する書物が並んでいる。

他にも、世間には公表されないような歴史的価値のある本、禁書に指定されており読む事が出来ない本、絶版された伝説の本当にと、様々な書物が保管されており、この部屋の価値はマネーでは測れないだろう。

 

 

暫く見て回っていると、私のトランクの中に追加されていた本棚と同じ本が並べられた本棚を見つけた。

もしかしたら、父がここの本棚をトランクの中に再現したのかもしれない。

この部屋が綺麗なのも、父が一度この部屋に入っていると考えれば辻褄が合う。

 

 

それから約1時間が経過した頃、そろそろフローラ達の元へ戻ろうと思い入口へ向かって歩き始めると1冊の本が目に入る。

色褪せた赤い表紙に金色の文字が掘られた古そうな本が、本棚から少しはみ出している。

綺麗に並べられた本棚に相応しくない。

私はその本を押し込んだ。

すると、突然本棚が音を立てて動き出す。

 

 

「な、何これ?!」

 

 

「どうしたの?!」

 

 

「何この音?」

 

 

私の叫び声を聞き付けたフローラ達が慌てた様子で走ってくる。

本棚が左右に移動し、その間から緑色の綺麗な扉が現れた。

 

 

振動のせいか、先程押し込んだ赤い本が床に落ちる。

慌ててそれを拾い本を開くと、中には人名と思われる名前が刻まれていた。

そしてページを捲っていくと最後に"エスメラルダ・ダイアナ・セルウィンと書かれており、それ以降は白紙になっていた。

どうやら、あの赤い本はこの部屋に入る為の仕掛けだったようだ。

 

 

「どうしたの?…って、本棚の間に扉が?」

 

 

フローラが目を丸くして驚き、本棚の間に現れた扉を見つめている。

 

 

「…古い屋敷なら、こういう仕掛けがあるのも理解出来るわ。」

 

 

ヘスティアの発言に頷き、私はじっと扉を見据えてから口を開いた。

 

 

「入ってみよう。入ってみないと、何があるか分からない。」

 

 

「そうね。」

 

 

フローラが私に同意を示し、ヘスティアもすぐに頷く。

ドアノブに手をかけ扉を開くと、そこには大鍋、魔法陣、古代ルーン文字で書かれた書物が並んだ本棚、不気味な薬品が並ぶ鉄製の棚が置かれていた。

 

 

「な、何これ?不気味だわ。」

 

 

フローラが額に手を当てて顔を顰める。

薬品棚にはホルマリン漬けにされたカエルやヘビ、何かの臓物と思われるものまで置かれていた。

 

 

「この大鍋、随分古いみたいね。」

 

 

「この鍋を使って魔法薬を作っていたのかしら?」

 

 

「そうみたい。」

 

 

大鍋の下に描かれた大きな魔法陣には古代ルーン文字ではなく、ヒエログリフが使われていた。

 

 

「ヒエログリフよね?これ…なんの魔法陣なのかしら?」

 

 

「分からないわ…エジプトに関する書物があれば良いんだけど、この部屋にそれらしいものは無さそうね。」

 

 

古代魔法陣に使われる文字は基本的に古代ルーン文字だが、ヒエログリフが使われているという事は、この魔法陣はエジプトのものという事になる。

 

 

「あら、これってフェリックス・フェリシス?」

 

 

ヘスティアが薬品棚から1つの小瓶を取り出す。

 

 

「本当ね…金色だわ。」

 

 

どうやら、以前この部屋を使っていた者が作った物のようだ。

 

 

フェリックス・フェリシスは、幸運の液体とも呼ばれる上級魔法薬であり、服用すると効能が切れるまで、全ての物事が成功する効果を持っている。

しかし、過剰に摂取すると自己過信や傲慢さ、無謀さを引き起こす為、摂取量には気を付けなければいけない。

また、クディッチの試合前に飲む事は禁止されている。

 

 

「この薬は…人魚の秘薬?愛の妙薬を超えていると言われてきた、伝説の惚れ薬よね?」

 

 

フローラが手に取った小瓶には、人魚の秘薬と書かれたラベルが貼られていた。

しかし、実際この薬は惚れ薬では無い。

以前読んだ古代ルーン文字で書かれた錬金術の本には、人魚の秘薬は若返りの薬だと書かれていた。

若返りに際して寿命が伸びる為、命の水と似た効果を持っている薬だ。

その事実を話すとフローラは目を丸くして驚き、そっと小瓶を棚に戻した。

 

 

「…そんな価値の高そうな薬が入った瓶、落として割ったら大変だわ。」

 

 

「そうね。フェリックス・フェリシスも戻しておくわ。」

 

 

その後、隠された部屋の中を調べていると、表紙に雫型の青い宝石が埋め込まれた青い本を見つけた。

本の中身を確認しようとするが、何故か開く事が出来ない。

 

 

「この本、ページが捲れない。どういう事だろう?」

 

 

「貸して!」

 

 

本をヘスティアに渡すと、彼女は力一杯本のページを開こうとするが、本はビクともしない。

まるで硬い鉄の塊のようだ。

 

 

「私でも無理だわ。鍵がかかっているわけでもないし、解錠呪文は使えないわよね。」

 

 

「アロホモーラ…ダメね、効果は無いみたい。」

 

 

魔法を使っても本を開く事は出来ないようだ。

読めないので意味が無いので本を元の場所に戻す事にした。

しかし、その瞬間本の中から小さな紙切れがバサリと落ちた。

 

 

「何かしら…海に沈める?まさか、この本を沈めろってこと?」

 

 

紙切れには"Submerge it in the sea"と書かれている。

この本を海に沈めれば何かが起きるのかもしれない。

 

 

「何見てるの?エスメラルダ。」

 

 

後ろからヘスティアに声を掛けられた。

 

 

「この紙が、開かずの本から落ちてきたの。ほら、これ見て。」

 

 

紙切れを手渡すと、ヘスティアは少し何かを考え込んだ。

そして、薬品棚から大きな瓶を取り出し、私に手渡した。

私が首を傾げると、ヘスティアは口を開く。

 

 

「この瓶のラベルに書かれた文字は薄くなっているけれど、薄く"sea"って書かれてる。もしかしたら、この瓶の中身は海水なのかも。」

 

 

瓶のラベルに顔を近付けると、確かに薄く"sea"と書かれている。

この瓶はかなり大きいので、本一冊を浸せる量の液体は入っている。

 

 

「この本を全て浸せる程大きい容器はないかな?」

 

 

「探してみましょうか。」

 

 

その後、私とヘスティアは大きな容器を探した。

しかし、大鍋以外に本を浸せる程の容器は見つからなかった。

 

 

「この大鍋を使うしか無さそうね。」

 

 

「止むを得ない、この鍋を使って沈めてみよう。」

 

 

大鍋に海水が入っているであろう大きな瓶を近付け蓋を開ける。

潮の匂いが部屋いっぱいに広がる。

中に入っている液体を大鍋の約半分の位置まで注ぐ。

 

 

「どうやら、この瓶の中身は本物の海水みたいね。」

 

 

「じゃあ、入れるよ?」

 

 

青い宝石の埋め込まれた面を上にして、ゆっくり青い本を液体の中に沈めていく。

すると、火をつけていないのに突然ぶくぶくと海水が泡立ち始め、大鍋の魔法陣が青い光を放ち始めた。

 

 

「きゃあっ、何これ?!」

 

 

フローラが悲鳴を上げ鍋から距離をとる。

 

 

「…これ魔法陣じゃなくて錬金陣なんじゃない?!」

 

 

「え、どうしよう…あの本消えちゃったりしない?」

 

 

私達は慌てふためき、どうすることも出来ず大鍋が落ち着くのを待つ事しか出来なかった。

数分後鍋の中の泡立ちが収まり、青い煙が立ち込める。

その煙の中から、表紙が青い本が浮かび上がってきた。

 

 

「一体、何がどうなっているの?」

 

 

ヘスティアが戸惑いながら本を見つめる。

しかし、そんな疑問を無視するかのように本の表紙が開かれ文字が浮かび上がった。

 

 

『約束の子…現れ……血を捧げ………さすれば……アトランティス……』

 

 

ところどころ霞がかかっており、文字が読めない。

約束の子が現れ、何かに血を捧げるとアトランティスに行ける、という事だろうか。

正直何を言いたいのかさっぱり理解出来ない。

 

 

「…なんて書いてあるの?一体どこの言語なの?」

 

 

ヘスティアが訝しげな表情で浮かび上がった文字を見つめる。

 

 

「約束の子、現れ、血を捧げ、さすれば、アトランティス…って書いてあるみたい。」

 

 

「よ、読めるの?!エスメ。」

 

 

ヘスティアが驚きの声を上げる。

確かに、この文章は見た事のない文字で書かれており、私も今日初めて見た。

しかし、私は何故だかこの文字を見た時1部の文字が読めたのだ。

どこで見たのかは思い出せないが、私はこの文字を少しであれば読めるらしい。

 

 

「どういう事なの?セルウィン家の人間にしか読めない文字なのかしら?何かの暗号?」

 

 

ヘスティアは興味深そうに浮かび上がった文字を見つめ、フローラは不思議そうな顔で彼女の様子を見つめていた。

 

 

それよりも今は本の内容だ。

 

 

「アトランティス…ねぇ?」

 

 

"アトランティス"という言葉にヘスティアが反応する。

アトランティスとは、古代ギリシアの哲学者プラトン著書『ティマイオス』及び『クリティアス』の中で記述した伝説上の広大な島、および、そこに繁栄したとされる帝国を指す言葉だ。

海底都市、アトランティスは実在しないと言われているが、その真実を知る者は誰もいない。

 

 

「…とにかく、そろそろ戻りましょう。ここにいたら、何が起こるか分からないわ。」

 

 

「そうね。そろそろ戻らないと、お母様達が心配するかも。」

 

 

ヘスティアの言葉にフローラが同意し、私も彼女の言葉に頷いた。

部屋の片付けを行い、私達は大広間へ戻る事にした。

 

 

部屋を出る前、浮かび上がった青い本が目に入った。

その本は開かれたまま、おお鍋の上に浮かんでいた。

私は本を掴み、鞄の中に仕舞った。

そして、フェリックス・フェリシスと人魚の秘薬もこっそり鞄に入れた。

隠し部屋の仕掛けを元に戻す為、赤い本を元あった場所に置くと、大きな音を立てて本棚が動き、隠し部屋が奥に隠れた。

 

 

その後、私達は実家に戻り勉強をしたり、お茶会をしてクリスマス休暇を楽しんだ。

 

 

 

それからホグワーツに戻って数日が経過した。

マルフォイが消灯後にホグワーツを出歩いた事がバレて罰則を与えられたりしたが、それ以上にスリザリン内ではポッターやグレンジャー、ロン、ネビルが罰則を与えられ、大きく寮のポイントを引かれた事で大盛り上がりだった。

 

 

とある日、私は調べ物をする為図書室に向かった。

 

 

「すみません、海に関する本って置いていませんか?」

 

 

「海に関する本ですか。漠然としていますね。少しお待ちになって───」

 

 

マダム・ピンスに尋ねると地理や魔法海洋生物に関する書籍を紹介され、それらを読んだがアトランティスに関する記述は一切無かった。

 

 

「他にはありませんか?」

 

 

「そうですね、間接的に、もしくは一部に海に関する記述がある本は幾らでもあるでしょうが、海に関する記述のみを取り扱っているものは、今紹介したもので全てです。」

 

 

「そうですか…ありがとうございます。」

 

 

マダム・ピンスに礼を告げ、私はスリザリン寮に戻る事にした。

 

 

「うーん…どういう事なんだろう?」

 

 

スリザリンの談話室に戻って上質なソファに座り、セルウィン家から持ってきた青い本のページを捲るが、何が書いてあるのかさっぱり分からない。

あの時浮かび上がった文字も、セルウィン家からカロー家に着いた頃には消えており、この本を解読する事は不可能だ。

 

 

「何を考え込んでいるんだ?カロー。」

 

 

背後から声が聞こえた。

振り返ると、そこにはノットが分厚い本を持って立っていた。

 

 

「あ、ノット君。実は、この本を解読したいんだけど、言語が分からなくて。」

 

 

「とても綺麗な青い宝石が埋め込まれているな。アクアマリンか?…少し見せて貰っても良いか?」

 

 

「うん、勿論だよ。どうぞ。」

 

 

彼に本を手渡す。

ノットは本を開き、中に書かれている文章を確認し始めた。

しかし、数秒後彼も分からないといった様子で首を横に振った。

 

 

「この言語は初めて見た。紙はかなり古いものだ。一体どの年代の本なんだ。歴史的価値のある書物だな。」

 

 

「ノット君でも分からないんだ。じゃあ私にも分からないなぁ。」

 

 

「どうして、この本を解読しようとしているんだ?」

 

 

「実はね、クリスマス休暇で私の生家であるセルウィン邸に行ってきたんだけど…」

 

 

私はセルウィン邸で起きた隠し部屋や謎の本、浮かび上がった文字について話した。

 

 

「なるほどな。約束の子、現れ、血を捧げ、さすれば、アトランティスか。普通に考えたら、約束の子が現れた時、何かに血を捧げればアトランティスへの道が開かれるとか、アトランティスに導かれるという意味じゃないのか?」

 

 

「私も初めはそう思ったんだけど、その情報についてもきっとこの本に書いてあるんじゃないかって思ったんだ。それに、何に血を捧げたらいいのかすら分からない。私にはどうにも出来ないよ。」

 

 

海底都市、沈んだ遺跡、アトランティス。

行けるものなら行ってみたいが、そこに行く為には何かに血を捧げなければならない。

それに、約束の子というワードについても私は知らないのだ。

 

 

「君は、これが無謀な挑戦だと知りながら、好奇心を満たす為に本気になれるんだな。」

 

 

ノットが私の目をじっと見つめて話す。

 

 

「確か、セルウィン家には海水が入った瓶があったんだろう?」

 

 

「ええ。海水の中にこの本を沈めたら、大鍋の下にあった錬金陣?が光り出して、海水が泡立ち始めたの。その後、文字が浮かび上がってきたのよ。」

 

 

私がそう言った時、彼はフッと目を細め、僅かに口角を上げた。

 

 

「そういう事か。錬金陣が発動したという事は、青い本が海水に反応したという事だ。その中に血を捧げる…つまり血液を加えれば、何かが起こるんじゃないか?」

 

 

ノットの言葉に私はなるほどと納得した。

確かに、錬金陣が反応して文字が浮かび上がった事も直接的に関係していると考えるのが自然だ。

ただ浮かび上がった文字について考えたり、青い本について調べるだけでは何も出来ない。

供物ではなく、錬金術の材料という発想は凡人の私には思いつかないものだ。

 

 

「なるほど!血を捧げるって意味は、供物とかじゃなくて、錬金術の材料に血液が必要だって解釈も出来るのね。流石は、ノット君。本当に頭が良い人ね。」

 

 

「別に、これくらい少し考えれば思い付く。」

 

 

私は彼を誉めると、ノットは謙遜しながらも口角は上がっていた。

どうやら、彼は褒められたら嬉しい普通の少年らしい。

ただし、表情や態度の変化は乏しいが。

 

 

「だが奇妙だな。錬金術の材料に本を使うなんて聞いた事が無い。」

 

 

「確かにそうね。錬金陣にはヒエログリフが刻まれていたの。」

 

 

「ヒエログリフ?エジプトと関係があるのかもしれないな。」

 

 

彼は顎に手を当て何かを考えるように黙り込んだ。

その後、私もパラパラとページを捲ってみるが、何が起きる事は無かった。

青い本に埋め込まれた青い宝石が誰にも気付かれない程度に、ひっそりと煌めくだけだった。

 

 

暫くするとフローラが猛スピードで走って談話室に戻って来た。

その後を追い掛けるようにマルフォイ、ヘスティアも息を切らしながら走って談話室に入ってきた。

 

 

「あ、エスメ!大変よ!大変よ!」

 

 

「待て、落ち着けよ!フローラ!」

 

 

「待ってフローラ!」

 

 

私に気付いたフローラが、慌てた様子で私の元へ駆け寄ってくる。

 

 

「まあ、どうしたの?フローラ。」

 

 

「賢者の石、賢者の石がホグワーツにあるの!」

 

 

脈略のない言葉に私は苦笑した。

 

 

「慌てないで。賢者の石がなんで学校にあるの?」

 

 

そう私が尋ねると、フローラではなくマルフォイが口を開いて話し始めた。

 

 

「今年のホグワーツ夏季休暇の間にグリンゴッツに強盗が入っただろう?グリンゴッツにはマルフォイ家の金庫もあるんだが、713番金庫に何者かが侵入したと父上が仰っていたのを思い出したんだ。」

 

 

マルフォイの話を聞いたノットは納得したように口を開いた。

 

 

「そういう事か。確か、グリンゴッツには賢者の石が保管されているという話は有名だ。グリンゴッツに強盗が入ったという話は世間に公表されたが、何が盗まれたかについては誰も知らない。なら、グリンゴッツの金庫の中身は、盗まれる前にどこかに移されたと考えるのが自然だな。」

 

 

「なるほどね。であれば、学校に賢者の石が…いや、ケルベロスが賢者の石を守っていると言う方が正しいかしら?」

 

 

ヘスティアがそう言うと、マルフォイとノットが私にじろりと睨んだ。

 

 

「話したのか?カロー。」

 

 

「あはは、睡眠妨害されちゃったからね。」

 

 

「いいか?フローラ、ヘスティア。絶対にこの事は誰にも「言わないわよ。」そ、そうか。」

 

 

マルフォイがほっとした様子で近くの椅子に項垂れるように寄りかかる。

バレれば、この話が外にバレればスリザリンは減点されてしまうだけでなく、停学や退学等の処分が下される可能性もある。

彼は人一倍、寮杯にこだわっていた事もあり、だからこそフローラ達の言葉に安堵したのだろう。

ヘスティアとフローラに3階のケルベロスについて話したが、現に2人はこの瞬間まで誰にも秘密を漏らしていない。

充分信用に足る人物だ。

 

 

「だけど、狙うって一体誰が?」

 

 

「流石にそこまでは分からない…誰か来たようだ。この話は一旦辞めよう。」

 

 

その後、私達はそれぞれの個室に戻る事にした。

 

 

「賢者の石…かぁ。」

 

 

「まさか、見に行くなんて言い出さないわよね?エスメ。」

 

 

フローラが咎めるような口調だが、私は何も答えずに笑って誤魔化した。

 

 

「こら!誤魔化さないでちょうだい!」

 

 

「あはは、冗談だよ、冗談。流石に一人で見には行ったりはしないよ。」

 

 

フローラは怒った様子だが、彼女は本気で怒っている訳ではなく、じゃれ合い程度の怒り方だと理解しているので怖くもなんともない。

フローラはプンプン怒りながらトランクケースの中に入って行った。

彼女の様子にヘスティアはため息をつき、私に向き直って悪戯を仕掛ける子供のような笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

「で、いつ行くの?」

 

 

彼女に嘘も誤魔化しも通用しないようだ。

 

 

「バレてた?行く気満々だって事。」

 

 

「バレたも何も、隠そうともしてないじゃない。『一人で見に行ったりはしない』って事は、複数人なら行くって事でしょ?」

 

 

「…うーん、まだ決めてないけど今日の夜にでも行ってみたいけど、ヘスティア一緒に行かない?」

 

 

私が彼女にそう提案すると、彼女は思案顔で黙り込んだ。

それから数分後、彼女は楽しそうに笑って口を開いた。

 

 

「良いわよ。でも、2人だけだと何かあった場合先生を呼びに行けないわ。最低でももう1人は必要ね。」

 

 

確かに、何か起きれば私とヘスティアで対処しなければならない。

私達は1年生内で優秀な部類に入るが、難しい魔法が使える訳では無い。

片方が大人を呼びに戻り、もう片方が対処をするなんて器用な事出来るわけが無いのだ。

 

 

「誰を誘うべきかな?」

 

 

「この事実を知っている人間…グリフィンドールの3人は論外、フローラは冷静さに欠けるから却下。というかあの子は絶対反対するわ。」

 

 

「違いないね、フローラは優等生タイプだもんね。」

 

 

「こうなると、ドラコかノットしか候補が居ないわ。」

 

 

「あら、いつの間にマルフォイを下の名前で呼ぶようになったの?そこまで親しかったっけ?」

 

 

ヘスティアがマルフォイを下の名前で呼ぶ所は見た事がない。

いつの間に親しくなったのだろうか。

 

 

「親しい訳では無いわ。でも、ずっと一緒に生活していたんだから、自然と下の名前で呼び合うようになるのはおかしな事じゃないでしょ?」

 

 

「まあ、それはそうだね。おかしくは無いと思う。」

 

 

結局はぐらかされてしまった。

ヘスティアは本当によく頭が回る。

 

 

「ドラコ…はああ見えて優等生タイプだから誘うのはやめて起きましょう。ノットを誘ってみない?」

 

 

確かにドラコを誘ったところで、むしろ私達が止められてしまう可能性が高い。

寮杯に力を入れている彼は元々の性格が真面目だからか、きちんと教育を受けてきたお坊っちゃんだからか、非行に走る事は無い。

彼を誘うのはリスクが大きすぎる。

だからといってノットが不真面目かと言えば、そんな事は無い。

彼こそ、スリザリン一の優等生であり、最も学力が高い生徒だ。

しかし彼には知識欲がある。

もしかしたら賢者の石についても興味があるかもしれない。

私はその一抹の望みに賭けるヘスティアの思考は嫌いじゃない。

むしろ好きだ。

だから彼女の考えにすぐ同意を示し頷いた。

 

 

「分かったわ。じゃあ、とりあえず談話室に戻って彼を呼んできて貰おうか。」

 

 

そう言い談話室に向かおうとした時、突然彼女が私の肩に手を置いて制止した。

 

 

「どうかした?」

 

 

振り返り彼女の顔を見ると、彼女真剣な表情で話し始めた。

 

 

「談話室でこの話をする訳にはいかないわ。だから手紙を書いて、それを渡しましょう。晩餐の後…薬学教室近くの空き教室で彼の返事を聞く。それなら、周りにバレる事は無いはず。」

 

 

確かに、談話室には私達以外の生徒もいるはず。

誰にこの話を聞かれるか分からないので、内緒話には適していない。

ヘスティアの慎重な発言に同意を示し頷いた。

 

 

「そうね、ヘスティアの言う通りだわ。じゃあ手紙を書いて誰かにそれを渡してもらいましょうか。」

 

 

その後ヘスティアがノット宛の手紙を書き終えたタイミングで、私達は談話室に向かった。

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