同僚がカップルしかいねぇセカイ抑止力機構   作:れあ

1 / 2
世界識別:1E5G60

「……ではこれより世壊抑止会議を始めます」

 

とある大広間の中央に設置された巨大な円卓。その一席の青髪の女が声をかける。それぞれの席には"一つの席を除いて"2人1組の男女が腰掛けていた。

 

「まずは皆さんよく集まってくださいました。断続的に続く世壊の浸食も、私たちが一丸となれば必ず――」

「ッケ、んな前置きはいいから早く敵の情報を言えや」

「ちょっとクロくん!そういう言い方はだめだよ!」

「ハイハイ……敵の情報を先に教えやがッてくださいませんか?」

「あんまり変わってなーーい!」

 

獣のようにはねた黒い長髪の男が声を上げると、傍にいる小さな桃髪の少女がそれを窘める。

 

「……ま、それは妾も同意見じゃな。とはいえ、悠長に話している時間があるということはそこまで対した敵ではないのじゃろ?」

「慢心は危険です師匠。どのような相手でも万全を尽くして向かいましょう」

「ほう、言うようになったものじゃな、カイ。今度の修行を楽しみにしてるとよい」

「なんという理不尽」

 

からからと笑う金髪の少女と、その隣には無表情ながら瞳の奥にはしっかり感情が灯っている灰髪の少年。

 

「騒がしいわね、手短に情報と討伐メンバーだけ聞かせてちょうだい」

「同感だね、早く終わらせてリンとの逢瀬の続きといこう」

「……してないし、しない。勝手なこと言わないで、パル」

 

不敵な笑みを浮かべる紫髪の男と、顔をしかめつつも頬を少し赤く染める緑髪の少女。

 

「みんな!久々に集まってくれて話が弾むのは分かるが、一旦姫さんの話を聞いてくれ!」

「……んん!では改めて、召集に答えていただいてありがとうございます。たしかに世壊発生時の取り決めにより全員を招集させていただきましたが、おっしゃるとおり今回の危険度はDランク。緊急を要するものではありません」

 

活力のある明るい赤髪の男と最初に声をかけた青髪の女が場を取り仕切る。

 

「種別は異形侵略系(Invation)、実体の一個体で推定100m近くの巨体です。軟体であり物理的干渉による損傷は難しく再生能力も確認されています」

「チッ、外れか」

「クロくん、物理特化だもんねー」

「モモてめェ……俺が殴ることしか出来ない脳筋だッて言いたいのか?」

「そ、そんなこといってないよー!クロくんは最強だもん!」

「……ッチ、わかってるならいいんだよ」

「フフ、そうモモをせめてやるな。物理がからっきしの魔法特化のそやつとお似合いではないか」

「るッせェ、ロリババア」

「草」

「黒犬と小僧、そこに直れ。お行儀の悪い獣には"躾"をしてやらんとな」

「ちょっとちょっとー!クロくんもカナさんも喧嘩はだめー!!」

 

 

『権能:時空干渉 範囲指定:動体停止』

 

 

お互いに構えたクロとカナ、そしてこっそり逃げだそうとしていたカイの動きが停止する。

 

 

「いい加減にしてちょうだい、いつまで経っても話が進まないわ」

「リンちゃんごめんなさい!クロくんがいつも騒がしくて……」

「……別に貴女が謝ることじゃないわ」

「ありがとうございますリンさん。ではこのまま続けますね。対象は現在、世界識別:1E5G60に発生。無人の大海に出現したようです」

「――その識別番号説明いるかァ?そんな記号言われてもどこかわかんねェよ」

「……そのくだらない文句を言うためにフィジカルで時間停止を突破しないでくれるかしら」

「まあ、言いたい気持ちはわかるけどな!一応役に立つやつもいるから我慢して聞いてくれ!」

「……特記事項としては対象に触れると細胞単位での浸食を受けるため、接触は非推奨です。多少の時間はかかりますが接触対象を自身と同質の物質に変化させる能力があるようです」

「ひぇぇ……」

「生物が接触するとどうなるんだい?」

「接触部位から全身が対象と同様に改変され軟体になります。臓器や脳まで全て同一の物質に変わるため、個体性はほぼ無くなると見ていいでしょう」

「そして改変された個体も浸食能力を持つ、かしら?大きさの規模といいだいぶ性質が悪いわね。対抗手段が無ければ滅亡一直線よ」

「そのために俺らが居るんだ!」

「そうだね、"その世界"では滅亡の危機でも、"各世界全体"で見ればだいぶ楽な方ではあるし」

「で、誰が行くんだい?」

「推奨される能力としては非接触型で広大な敵の消滅、排除の可能な人員ですね。正直どのチームでも問題なさそうですが一番適切なチームはリンさんとパルさんですね」

「じゃろうな、妾の権能じゃと物理的に消し飛ばすには少々効率が悪い。概念的なものじゃと早いのじゃが」

「ハン、それならもっと適任なヤツがいるんじャねェか。まだ顔見せてねェやつがよ」

「……そうですね"彼"であれば今回の件は容易いでしょう。しかし来ていない彼に頼らずとも遂行できるのであれば――」

 

「――対象を消せばいいんだな?」

 

円卓で唯一、一席のみの区域にいつの間にか一つの影が落ちる。目元まで深く被り込んだ黒色の外装。見た目とは真逆の銀髪の男はそう言い放った。

 

「――来ていたのですね、アルさん」

「俺が適任らしいからな」

「ケッ、コソコソ盗み聞きするくれェなら始めから座ッとけッてんだ」

「まあそういうでない、こやつはこの空間を苦手としているのは周知の事実じゃろうて」

 

いつの間にか時間停止を解除していたカナが固まっていた身体を解しながら言う。

 

「いつもここに来ると体調悪そうにしているからね」

「別に心配してもらうようなことではない、気にするな」

「ともかく、アルが向かってくれるなら一安心だな!」

「そうだね!」

「……ハン、物理が効かねェんじゃ仕方ねェ。譲ってやるよ」

「では今回の世壊、仮称:浸食軟泥はアルさんに討伐をお願いいたします。皆さんもそれでよろしいでしょうか?」

「手間がかからないにこしたことは無いわ」

「僕も異論は無いよ」

「問題ない、承知した」

 

一言返事をしたアルはその場から霞のように姿を消す。

 

「……ほら、こういうときに世界識別番号を説明しとかないと、スマートに退出できないでしょ?」

「どォでもいいわ」

 

 

 

 

 

 

とある世界、正確には世界識別:1E5G60の世界で海上。周りの海水を自身と同様の物質へと浸食しながら、陸地を目指し肥大化していく軟泥。それを上空で見つめる影。

 

「はぁ、相変わらずのゲロ甘空間だった……」

 

影、つまり俺、アルは既に疲労していた。

 

「なんだあのカップル限定空間。隙あらばイチャイチャしやがってくそうらやましい。なんで他のグループはシナリオエンディング後にヒロインとゴール済みみたいな世界観なのに俺だけ1人なんだ?誰とも関わらずエンドまで行ったからですね本当にありがとうございます」

「何がキツイって、ただイチャコラするだけならあー、バカップルだーで済むけど、なんか歴戦を乗り越えた絆を感じる信頼と好感度を感じる惚気みたいなのが無自覚に連発されるのが辛すぎ。全自動俺殺戮マシーンか?」

 

俺、アルは転生者だった。各世界で救世を成し遂げた者が招かれる世壊抑止の座。その各世界の実態は"セカイ系"シナリオの作品群だった。それぞれの世界に主人公候補、ヒロイン候補がおり、それらが手に負えない世界崩壊を世壊抑止のメンバーが防いでいる。なんでも各世界がそれぞれ意志を持つこの世界群は時折バグを起こして自己消滅しようとするらしく、それが増えていくと他の世界を巻き込むクロス終焉シナリオが発生するらしい。それを未然に防ぐのが俺らの役目ということだ。

 

で、募集条件である各世界で救世を成し遂げた者だけど、この世界たち、"愛する者のために"みたいな想いのバフがものすごくて、必然的に強力な力を持つのは強い想いで繋がれた2人みたいなことが多いんだよね。つまりどういうことか。

 

――同僚がカップルだらけになる。

 

あ、僕ですか?転生者特権か生まれた世界が推し作品だったので張り切ったらなんかそのままヒロイン主人公と関わりなく世界救っちゃったのでそもそも知り合いがいませんバカがよ。

 

「……とりあえず世壊消しとくか」

 

『権能:事象再生 偽展:CCC』

 

浸食されていた海が軟泥ごと黒色に染まり、次の瞬間、周囲の空間ごと海が穿たれる。穴に海水が流れ込み一時的に荒れるが、やがて何も無かったかのように元の穏やかな海へと戻った。

 

「……世壊討伐完了、周囲浸食残留、なし」

 

俺も報告しに戻ろ。




アル以外の人物設定

・「クロ」と「モモ」
王道バトルセカイエンディング。
クロはフィジカルで時間停止などの概念系も貫通する王道系主人公。多分ラスボスを万策尽きた後、気合いとモモへの想いだけで撃破した
モモは言動は幼いがあらゆる魔道を極めた魔法特化のヒロイン。元気だが体力はからっきし。
対侵略生物や破滅的物理現象など物理的に対処できる終焉担当。

・「カナ」と「カイ」
邪道バトルセカイエンディング。
師匠であるカナはラスボス系ヒロイン。カイはカナの弟子で元は感情が殆ど無い人形同然だった。お互いに契約関連の概念的な技術を得意とする。
なんやかんやあってカイは感情を獲得し、カナはカイに負けてグッドエンド。「その技法は!?」みたいなことがあったかも。
セカイ情報書き換えや認識災害など概念的侵略による終焉担当。

・「リン」と「パル」
雰囲気バトルセカイエンディング。
魔女であるリンと本来契約できないはずの強大な悪魔であるパルの物語。平凡な魔女のリンはある日小間使いの悪魔を召喚しようとすると何故か人の手に余る大悪魔を召喚してしまい……でもそれにはワケがありリンも実は……的な。
時間逆行、改変や歴史漂白など時間や並行世界関連による終焉担当。

・「姫」と「騎士」
抑止力機構の運営。概念的なものでそれぞれの名は消えているが、礎となった元の人物の人格が残っているので感情などはある。男女一組なのはセカイ法則により想い合う対象が居るほうが強力なため。
各世界で最初に世界同士が食い合うクロス終焉に巻き込まれかけ、その身を世界に明け渡した姫とそれに付き従い続けた騎士の物語があったらしい。
アカシックレコードを経由した世界の監視、観測、調査を担当。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。