同僚がカップルしかいねぇセカイ抑止力機構   作:れあ

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元々1話ネタのつもりだったんですが、思ったより評価してくださるかたがいらっしゃるので嬉しくて書いてみました。
……すみません、もしかしたらだいぶ毛色というか期待と内容が違うかもしれません。
連番が分かりにくいので前回のサブタイトルを微修正しました


世界識別:2N5R4D

「醜い……どうして世界はこんなにも醜いのか!!」

 

鳴動する大地、罅割れゆく天空、眼前の光景を世界の終焉といわなければなんというのか。その天地の狭間に一人君臨するものはそんな終末(終わり)を賛美するように嘆く。

 

「あぁ、崩れゆく世界はこんなにも美しい……。日々穢れゆく大地、蔓延る人類(害虫)、この世界は一度滅びることで真の姿を取り戻す!!」

 

それは創世神話の真逆、破滅により世界の終局を告げる世界終末(ラグナロク)。何かを新たに生み出すためには何かを終わらせなければいけない。そんな自然の摂理をこの魔王は世界単位で行っている。

 

「今ココに、終末は成った。安心しろ!この我が、滅びの先に新たなる世界を創世――」

「ごめんね!!!」

 

突如、魔王の数十倍以上の大きさを誇る火球、もはや小さな太陽と紛う業火が襲いかかる。

 

「――なにものだ」

 

"この世界"の人間では塵も残さず消し炭になるであろう炎の直撃も、世界の破壊者の前では降りかかる火の粉にすぎない。すでに世界の崩壊は始まっている。ここに来て無駄なあがきを見せに来た愚か者を見るべく顔を向け――

 

「うッせ、サッサと沈んどけ」

「ゴハァ!!」

 

またもや突如現れた黒色の迅影に吹き飛ばされる。それは魔王がこの世で受けたどんな衝撃よりも重い一撃であった。

 

「おィ、モモ!ぜんッぜん効いてねェぞ!手加減してんじャねェだろうな!」

「そんなことしてないよ!ただお話中だったから全力でやるのも……」

「それを手加減してるッてんだよ!!」

 

辺りは未だ世界が終わる音が鳴り響いている。だがこの二人はまるで日常の一幕のように掛け合いを続ける。それは魔王が飛ばされた方向から灼熱の黒炎が放たれても終わらなかった。

 

「だいたい開幕終わらせればアイツも苦しまなかッたんじャねェか?」

「でも、気がついたら死んじゃったってなんか可哀想じゃない?」

「勝手に憐れまれてるほうがカワイソウだわ。天然のドSか?」

「違うもん!」

 

黒炎はクロの身体に触れた瞬間、抵抗され黒炎のほうが怯えるように消失する。モモに飛来する黒炎は不可視の守りによって弾かれる。そのまま大地に落ちた黒炎は大地すら食らいつくし燃え上がる。

 

「……貴様ら……何者だ!」

 

遙か彼方まで飛ばされていたはずの魔王は何かしらの方法で転移したのか二人の前に再び現れた。

 

「私はモモ、こっちはクロ!」

「おィ、律儀に答えんなや」

「世界の終わりを止めに来ました!」

 

大真面目に答えるモモに対し、魔王は一瞬顔をしかめると、思わず抑えきれぬと言わんばかりに嗤った。

 

「ふはは!世界の終わりを止めに来ただと?――とっくに手遅れだ!"この世界は既に終わっている"!」

 

世界が軋む音がする……いやこれは既に崩れた世界が擦れる音だ。もはやこの世界の人類の生存は絶望的であり、滅亡の残痕が崩壊しているに過ぎない。そう、既に"終末は成ったのだ"

 

「まだ"終わってないよ"。だって貴方が居るんだもん」

「――なに?」

「本物の世界の終焉は、こんなものじゃないよ。文字通り世界の全てが無に消えるの」

「――――」

 

何を言っている、そんな一言すら絞り出せないほどの重圧が魔王を捕らえる。さきほどまで町娘のごとき希望に満ちた瞳が、今は"何処か遠い場所の絶望"を写している様に見えた。

 

「……喋りすぎだ」

「――くっ!」

 

迅影が魔王に突き刺さる。先ほどとは違い攻撃を受け止める魔王だが、その表情は苦悶に満ちている。

 

「なんだ、結構耐えんじャねェか。腐ッても"世壊"個体だな」

「貴様ぁ、人間(ゴミ)ごときが我に楯突くな!」

 

お互いの拳が交差する。それぞれの肉体が衝突するたびに崩れた世界が軋み、歪んでいく。魔王が腕を振るうたびに空間をも蝕む焔が流れ、それを当然のようにクロは片腕でなぎ払う。その腕で魔王に殴りつけると大地が揺れ動くような衝撃が辺りを揺らす。だが、魔王は先ほどまでと違いダメージを受けた様子もなく笑みを浮かべる。

 

「あん?」

「……ふん、所詮人間よ。どれほど力をつけようと、我には無意味だ」

 

魔王の体表に文様が浮かび出る。これまで殴りつけるたびに出ていた衝撃がだんだんと小さくなっていく。

 

「……物理無効の類か」

「じゃあ私の出番だね!」

 

魔王の周囲の地中から楔が次々と射出される。楔は魔王の身体を雁字搦めにし拘束していく。

 

「この程度の拘束など――なに?」

「動けないでしょ!」

 

クロと打ちあえる膂力を持つ魔王にとってこの程度の拘束は藁にも等しいはずが、魔王は指一つ動かせない。

しかしそれも一瞬のこと。魔王が全身に纏わり付いた"呪い"を全て解析して紐解く。

 

「ふん、小癪な真似を」

「む、気づくのが早いね」

「我は魔王、魔の頂点ぞ。呪いで我を拘束しようなぞ片腹痛――」

 

瞬間、魔王周辺の空間が切り取られる。世界から離脱したその空間は傷跡を埋めるべく修正力によって空白に上書きされていく。

 

「――それで終わりか?」

 

だが、魔王は存在を失わない。世界の修正力より魔王の存在力のが上回っている。世界の干渉すら意に介さず、そのままモモへ一足で跳躍する。

 

「鬱陶しいな女、まずは貴様から」

「行かせねェよ」

 

が、クロがその間に割って入る。

 

「ふん、暴力しか扱えぬ蛮族が、もはや貴様は戦いの舞台に上がる資格すら――」

「――資格がなんだッて?」

 

魔王の文様がクロの打撃を受け止めた瞬間、はじけ飛ぶ。物理干渉を拒絶するその術式は、クロの攻撃を"認識できなかった"。

 

「くっ、術式を超えてくるとは……だが、当たらなければ――ヌグッ!?」

 

魔王はその身で受けていたクロの攻撃が自身に通じることを認識して初めて回避を試みる。しかし、避けようとしたクロの攻撃がブレ、気がついたときにはその身に攻撃を受けていた。避けれど避けれど蜃気楼でも見ているかのように気がつけば拳を身に受けている。この現象を魔王は知っている。

 

「(可能性世界からの確率収束――いや、過程観測阻害による逆因果の応用……まさか、肉体のみで世界法則を凌駕するというのか!)」

 

基本的にこの世界の異能は"事象の書き換え"により成立する。"書き換え"、つまり書き込み可能な世界記憶(アカシックレコード)によって成立するこの世界は、クロの常軌を逸脱した物理攻撃を処理することが出来ない。結果、空間が歪み、物理攻撃であるはずのクロの攻撃は認識不明のまま破壊力だけが情報として残る。認識できない故に回避不可能防御不可能。ただ処理が終わった後に圧倒的破壊力によって攻撃が行われたという結果だけが残る。

 

「(――くっ、このまま打撃を受け続けると流石に我も不味い……とりあえず一度体勢を立て直して)」

「逃がさないよ」

 

クロが魔王と戦闘している間に準備していたモモの魔法が展開される。転移阻害、認識阻害、行動阻害、対象補足、魔法阻害……おびただしいほど幾層にも重ねられた結界の檻が"この世界全域"を覆う。

 

「き、貴様ぁ……!」

 

詰んでいた。同等の肉体能力に回避防御不可の前衛、そして同じく同力量以上の後衛魔術師、どちらかであれば相手にない技法で落とせただろうが、同力量が2人、単純に戦力差が二倍である。世界を恨み全てのその他を排斥した魔王は孤独を選び己で全てを極めようとした。単純な話だ、同じ極みにいるものであれば2人居る方が強い。そんな算数にもならない当然の話である。

 

「――もうよい、貴様ら共々道連れだ」

 

魔王から空間を歪ませる波動が幾重にも放たれる。波動はまるで包み紙にナイフを走らせるように世界に文字通り引き裂く。当然世界の修正力によりその穴は修復されるが限度がある。これを繰り返した結末は当然、世界まるごとの死だ。

 

「ふはは、ふはははは!!小娘、貴様は本物の世界の終焉を知っていると言ったな、ではこれから再びその終焉を見せてやろう!」

「チッ、やけになりやがった」

「ク、クロくん!」

 

モモの脳裏に故郷世界の終焉が過る。崩落し収縮する世界。あのときも今と同じように2人で戦い、世界が耐えられなかった。少し慢心していた。抑止力の一員となって世界を救う内に2人の力があればもう負けることは無いと思っていた。"世壊"は文字通り世界を壊す存在。そんな存在が格下であるわけがないのである。

 

「はははは、この世界に来たのも元の世界が消えたせいか?貴様らが来たせいでまた一つ世界が消えるのだ!」

「……っ!」

「そして既に我は世界と同化した。我を滅ぼせば同時に世界も消える。滅び行く世界をその目で眺めながら己の無力を――グバァ!」

「――ゴチャゴチャ長々とうるせえなァ!」

「き、貴様ぁ、さっきから我の話の途中でいつもいつも――」

「てめェぶっ飛ばして世界治しャはい終わりだろゥがよ!」

「――!」

 

さらっと世界と同化、概念と化した魔王を殴り飛ばすクロ。そしてクロの言葉を聞いてモモは俯いていた顔を上げる。

 

「モモ、なにウジウジ悩んでんだお前らしくねェ。俺はこいつをぶッ飛ばす、オマエは世界を治せ」

「で、でも、魔王を倒したら――」

「俺を信じろ。俺はお前になら出来ると信じてる」

「――」

「――それとも俺が信じられねェか?」

 

 

 

 

「――――ううん、世界でいっちばん、信頼してる!!!」

 

 

 

 

モモから、そのあまりの高密度さにより"可視化された"魔力の本流が溢れ出る。まるで星と希望と詰め込んだような光の息吹。その魔力によって難解な文様が記された魔方陣が湧き出るように展開され、世界を覆い尽くしていく。魔王によって切り裂かれ解れていく世界の紐を一つ一つ掬い上げて、世界が崩れ去る寄りも早く"世界を元の形へ編み直していく"。

 

「ば、ばかな。ただの空間とはワケが違う。世界そのもの、この世の法則、理自体を破壊したのだぞ!もはやそれは人の領域を遙かに――」

 

世界の姿が舞い戻る。鳴動する大地は嘆きをやめ、全てを受け止める母なる大地に。罅割れゆく天空はその傷を癒やし地上を見守る蒼空の揺り籠へと。世界の傷のみではなく、"魔王に齎された終わりを全て修復する"。

 

「ありえない、ありえない!!……小娘!貴様は――」

「遺言は十分だなァ?サッサと消えて土に還りやがれ!!」

「っ!こ、この害虫どもがぁあああ!!!」

 

少女は世界を編み直し、男は世界の異物を取り除く。少女の修復が人の領域を超えた創世神の御業だとすると、世界という理を全てではなく破壊すべき対象のみを壊す破壊神の御業であった。本来、抑止の執行者とはいえ、どうあがいてもただの人間に可能な荒行では無い。

魔力がいくらあろうと、世界を編み直す行為は不可能である。一度破損した世界の理を復元する行為は世界を新しく創り出すに等しい。

そしてクロが成った一撃は確かに世界と同化した魔王のみを打ち抜いた。クロには殴る以外の手段を持っていない。いくらクロが身体操作や能力に秀でていても、"世界と完全に同化した"魔王のみを破壊するなど不可能であった。

 

 

 

 

だが、この世界は――――想いが全ての理、法則を凌駕するのだ。




「報告、世界識別:3N5R4D。種別:現地到達系(Attainer)。最上位の魔法と身体能力を併せ持つ個体戦力としての完成体」
「状況に応じた魔法や術式による対応力、全てを撥ね除ける天性の肉体。世界の秘奥に至った一個体が世界の終末を願ったために発生」
「世界の終焉と創成を繰り返すことによるエントロピーの減少、および枯渇による世界の縮退の危険により世壊認定」

『世壊』
抑止力とは逆の世界の自滅機構(Apoptosis)により引き起こされる世界を終末に導くモノ。概念であったり生命体として侵略したり、世界意志そのものに働きかけたりと多様にある。本来、自滅機構(Apoptosis)は外世界からの侵略や世界の腐敗を防ぐための防御機構であったが、永遠に繰り返される白紙化や終末の中で、世界の原型ごと終わらせる存在を創り出してしまうようになった。それが「世壊」である。

『世界識別:3N5R4D』
ファンタジーっぽい世界。よくある感じに絶望した魔王が起こした、世界転覆の規模がでかすぎたので抑止力案件に。優秀すぎた魔王がこれまでの繰り返される勇者と魔王の物語に絶望した……みたいな話があったかもしれない。


『甘ーーーーい!!!!』
別の世界にて単独で淡々と世壊を撃破した灰色の叫び
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