中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「何でって、お前があの徒党の後ろ盾なんだろう? 元締めに確認を取るのが、そんなに不思議な事か?」
「いや、俺が後ろ盾だったのは少し前までの話だ。今は別の奴が後ろ盾をしている筈だぞ」
ユミナに後ろ盾は託していた。
ちゃんと引き継がれたかどうかまでは確認出来てないが、少なくとも自分はもうシェリルの後ろ盾ではない筈である。
「後ろ盾じゃないなら向こうが一方的にお前を慕ってるだけか?」
アキラの態度に嘘がないのはキバヤシには解った。
だが、シェリルが自分を犠牲にしてでもアキラを助けようとしたのは今回の件を見れば明白。
それならば今回の件は上下関係や組織の思惑ではなく、シェリルという一人の女の暴走という事になる。
「……」
黙り込むアキラの姿にそれじゃあ肯定しているようなものだと思いつつ、そこでキバヤシは再び僅かに目を細めた。
仮にこれが事実であったとしても、普段のアキラなら別にそこはどうでもいいだろ、なんて言い返して来る筈。
表面上は普段通り振る舞っているが、妙に覇気がない。
「それでこの女の説得をお前に頼みたい訳だが俺としても非常に困ってる。ただでさえ今回は完全にこっちが頼み込む立場な上に、交渉なんて面倒事を頼むんだからな。気付いてないようだからこれも言わせてもらうが、本来今のお前は面会相手すら制限される状態で、お前が助けた女の身内だからって都市の職員の同行もなしに会ったり話をしたりするのは非常に難しいんだ。そこを短時間とはいえ誰も同行もさせずに会話させた上、治療費等の決定も当人同士の話し合いを優先させるよう取り持った。それが物を頼もうとしている立場としては筋だと思ったからだ」
キバヤシは捲くし立てるように言葉を並べていくが、これはわざとだ。
こちらが話している間はアキラは基本、聞くに徹する。
だからこそ話の主導権を握りつつ、少しでも情報収集を進める為にキバヤシは言葉を多く並べ立てるのだ。
――この覇気のなさは、自分が何を見落としているのか確かめる為に。
「ああ、それも有難いと思っている」
「ついでに言えば、それでお前の機嫌が良くなって俺の頼みを聞きやすくなってくれてほしいという願望もあったが、どうやらそこは俺の見積もりが甘かったらしい」
「そういう事、自分でわざわざ言うかよ……」
「最初に言ったがお前相手に駆け引きなんてしたら無駄に面倒な事になるだけだからな。だからお前の方で条件を言ってくれ。勿論、嫌だ、出来ないというのは自由だ。こっちは今回、頼む立場だからな。拒否権はある。それでも頼む立場である事を理解した上で出来得る限りの筋は通しているつもりだ。どうすればやってもいい、になるのか。真剣に考えた上で答えてくれ」
駆け引きなんてせず自分のペースで問答無用で話を進めていくか。
あるいは筋を通し、順序立てて事を進めていく事こそがアキラとの話し合いでは一番重要だとキバヤシは思っている。
「急に言われてもな。治療費も報酬もレイナが払うみたいだし……」
事実、こうして筋を通されているからこそ。
面倒だし断ってもいいなら断る、とアキラは言えずに話し合いが続いていた。
おそらく他の都市の職員が交渉していたなら、とっくにアキラが怒り出して交渉にもならないか、断って話は終わっていただろう。
「お前が助けた女の様子が知りたいとかでもいいぞ? お前は絶対安静でベッドから動けないし、向こうも毒の除去がギリギリだったせいでまだ動かせないが、動画とかを撮ってくるくらいなら問題ないしな」
そこでキバヤシは自分が何を見落としていたかに気付いた。
都市との伝手やハンターランクにアキラが興味がないのは知っているから、その事を言い出さないのは別に不思議ではないし、治療費や報酬は別口から出る以上、金の話が出て来ないのも不思議ではない。
それでも自分が助けた女の話が避けているかのように一切出て来ないのは、さすがに違和感があった。
「俺が助けた女って……」
アキラの目が不安で揺れる。
あの状態から助かるのは、いくら何でも無理だ。
助けたじゃなく助けてもらったの聞き間違いか何かでサラやエレナの話をしているに違いないと生まれそうになる期待を必死で抑えるが――
「シオリっていうメイド服を着てた女だろ? それ以外に心当たりがあるなら、名前や外見的特徴を言えば探してきてやるが……」
キバヤシは何でもない事のようにシオリの名前を口にする。
それこそ生きているのが当たり前のように。
「生きてる、のか?」
「なんだ、レイナって女から聞いてなかったのか? その辺の話は真っ先にしているもんだと思ってたんだが――」
それならば俺から改めて経緯を説明してやろうとキバヤシは話を続けていく。
アキラが倒れてすぐ、シェリルの指示に従い各組織が毒を除去出来る回復薬を求めて動き出したのが――
「異例の速さで調達出来たのは間違いない。世辞抜きで大したもんだと思うが、それでも遅過ぎた。こっちの調達方法で手に入った回復薬は全て負傷者の治療に使われた」
「こっちの?」
「そうだ。特殊な回復薬だから誰も持ってないと思ったんだろうが、一人分ではあったが持ってた奴が居たんだよ」
各組織が回復薬を躍起になり遺跡やら都市やらに特殊な回復薬を求めたが――
そもそも、アキラと同じくその特殊な回復薬を持参してきていた者が居たのである。
「サラとエレナとかいうハンターらしいが、てっきりお前は知ってるもんだと思ってたよ」
戦いの前にシズカの店で弾薬を補充した二人であったが、その際、シズカはこんな事を言っていた筈だ。
――行くなら弾だけじゃなく他の準備もしっかりしてからね。
そうして、シズカが二人に託したのが先程の特殊な回復薬であった。
これがシズカの店にあったのも、二人がこの回復薬を購入したのも偶然ではない。
特殊な物だから無駄に高い。
その癖して、使い道が限定されているから需要はほとんどなく、注文されてる訳でもないのに仕入れれば確実に売れ残って赤字になるだけ。
そんな物を仕入れる必要なんて店の経営という意味で考えれば愚かでしかないだろう。
それでも、きっとアキラがすぐに手に入らないなら他の場所で買うと言っていた以上、今回の戦いでは絶対に必要になる。
もし入手が間に合ってなかったら。
あるいは、間に合っていたとしても数が足りなかったら。
その可能性を考慮し、シズカはアキラが戦いに向かってすぐ、特急で仕入れていたのだ。
もし誰か他に、この戦いに向かう者が現れてくれれば託せるように。
――無論、特急分の取り寄せ料金分が仕入れ額に上乗せされた訳だが、勝手に特急注文した挙句に放っておけば売れ残るだけの品を勧める訳だから、例え知り合いであるサラ達であっても採算度外視の赤字取引をせざるを得ないが。
そんな事は最初から承知でシズカは用意していた。
これはカートリッジフリークスの店主ではなく、ただシズカ個人が少しでもアキラに助かってほしいという願いからの行動で商売とは関係ない個人的な買い物でしかなかったのだから。
『だから言ったでしょう? 話は最後まで聞いた方がいいって。レイナ、何度もシオリの事話そうとしてたわよ?』
アキラがシオリの無事を確信すると同時にアルファから呆れたような声が飛ぶ。
事実、呆れていた。
レイナの話を何度も遮ってなければ、こんな回り道をする必要なんてなかったのだから。
『でも残念だって……』
『多分、残念だけどお見舞いに来られる程は回復していない、とかそんな事を言おうとしてたんじゃないかしら?』
『気付いてたなら教えてくれたらよかっただろう……』
『前も言ったけど、アキラが気絶している間の情報を知ってたら不自然でしょう? それでもさすがにどうかと思ったから自分で気付けるようにヒントだけは出してあげたじゃない』
『……』
言い返す言葉も出て来ないくらいアルファが正しくて。
それでも納得出来ないのも事実で黙り込んでしまうアキラであったが――
「それでどうする? 別に今回はこれで交渉が終わりって訳じゃないし、シオリとかいう女の様子を伝えてやるんだから徒党のボスを説得してくれと言うつもりだってない。これで機嫌が良くなって交渉に応じてくれるってんなら万々歳ではあるけどな」
そこで不貞腐れ拗ねていられる時間は残念ながらない。
というのも、珍しくキバヤシが自分から困っているなんて告げるくらい状況は切羽詰まっており、悠長に待ってくれなかったからだ。
「解った。とりあえずシオリの無事だけでも確認させてくれ」
「よし、任せとけ。どれくらいで回復して、いつくらいから見舞いに来られるかも完璧に確認してきてやろう」
それだけ告げるとキバヤシは足早に部屋を去る。
悠長にしている時間こそないが、焦ってアキラとの交渉が打ち切られる方が遥かに問題だ。
その優先順位を間違えず、その上で気難しいという表現では生温い厄介なハンター達が何を求め、何が本物の逆鱗なのかを観察し予測する。
それが出来るからこそ、キバヤシは今日もハンター達の調停者として活躍していた。
この中で十九章に何か言いたい事があれば
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シオリ生きててよかった
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ここでシズカを持ってくるの凄い
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確かにキバヤシあれで結構考えてそう
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アキラよかったな