中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「……」
折角アキラと楽しく話していたのにと言いたげに、不満を隠す事無くシェリルがイナベを睨み付ける。
本来なら大問題で済まない次元の無礼だが、散々周りを無視して想い人との会話を楽しんでいたのだ。
今更、咎める気などイナベには起きもしない。
「そちらが派閥争い等に巻き込まれるくらいなら援助など要らないと考えている事は解った。だが、現状でそれは既に難しい話だ」
そこでイナベは自分と派閥争いを繰り広げていたウダジマが、今回の件でほぼ完全に失脚に近い立場に追いやられており。
その原因となったアキラやシェリルを強く恨んでいると告げる。
『それは自分達の派閥に入らないならウダジマとかいう奴を、俺達にけしかけるっていう脅しか?』
「そうではない。放っておいても君達が狙われるのは避けられないだろうし、その結果君達がウダジマを恨んで潰してくれるというなら私としては確かに有難くはある」
これは間違いなくイナベの本音であった。
僅かの会話ではあったが、都市の幹部だろうがアキラに敬ったり尊重する気配がまるでない。
それなら無駄に手綱を握ろうとするよりも、勝手にウダジマと潰し合ってでもくれた方が遥かに有難いというもの。
「だが、襲われると解っていて黙っていたのでは、私がけしかけたと思われるのも仕方ないだろう。だから事前に危険を教えるのは、私は敵ではないという誠意の証だと思ってほしい」
『なるほど。言い分は解った』
それでもイナベとしては、アキラと友好的な関係を築いておくべきだと判断した。
確かにアキラは相手が都市だろうが何だろうが、その手の権力への敬意もなければ恐れも抱かない人間ではあるようだが――
逆に部下と言っても過言でないシェリル相手にすら驚くほど丁重に接している。
ならば幹部としての権力を使って無理に言う事を聞かせようとせず、誠意をもって接すれば話自体は通じる筈だとイナベは推測する。
(むしろ扱い難さならば、このシェリルという少女の方が余程質が悪い……)
アキラは本当に礼儀を知らないだけだが、シェリルの態度の悪さの訳をイナベは理解しつつあった。
シェリルは、わざとアキラへの想いの強さを見せ付けているのだ。
いくら自分の手綱を握ろうとしても無駄。
またアキラが窮地に陥れば自分は何を捨ててでも助けに行くし、それはイナベの傘下に就いたとしても変わらない。
能力があっても暴走する味方など、それこそ下手な敵よりも厄介だろう?
だから今回の後始末をして手切れ金でも渡してくれれば、自分はイナベの味方にもならないが邪魔だってしない。
この傍若無人な態度は、シェリルからのそういうメッセージなのだとイナベは読み取っていた。
――事実、その推察は正しい。
ここでいう後始末とは単純な事後処理だけの話ではない。
都市の力でシェリル達を死んだ事にし、別の人間として他の街へと追放するという事まで含めた後始末であり。
しがらみ全てを捨て去り、アキラの足枷にならないようになる為にはそれくらいしか実際に道はないのだから。
「ウダジマが完全に失脚して、君達の安全が確保されるようになるまでの間で構わない。傘下に入る訳ではなく私の協力者になってほしい。勿論、協力者として出来得る限りの援助はしよう」
だが今ここでシェリルを逃がしてやる訳にはいかない。
そこでシェリルは無視して、アキラの方の手綱を握る事にしたのだ。
おそらくシェリルとしても自分がアキラの事をそこまで想っている事は、隠せるなら隠したかった筈だ。
それが最大の弱みになる事が解からない人種ではない。
だが、隠し切る方が難しいと判断したが故の苦肉の策だったのだろうが、それに惑わされてやる程、イナベは甘くはない。
「それは結局、権力争いに私達を利用しようとしているだけですよね?」
「そうだ。だがこれに関してはアキラを助ける為に君が私の名前を使って首を突っ込んだのが元々の原因だ。私としては君達がウダジマに狙われるのを見殺しにする理由はあっても、助ける義理も義務もない。協力し合おうというだけ誠意を見せているつもりだ」
シェリルが怒りを隠さない様子で睨み付けるが、イナベは気にも留めず話を続けていく。
今までの話に嘘はなく、それこそ非難される謂れなんて一切ないのだから。
『本当にそのウダジマとかいう奴は俺達を恨んでいるのか?』
「本当だ。私の話が信じられないというならば、ウダジマの手の者が君達に危害を加えるまで、協力関係の話は保留にしてもらって構わない。その場合でも君達が身を守れるように、ウダジマの動きが解り次第こちらから連絡するし、それとは別に今回の件の後始末は全て引き受けると誓おう」
シェリルの睨む視線が更に強くなる。
このままではアキラが丸め込まれてしまう可能性が高いが、それを止める為の手札が今のシェリルにはなかった。
『……こっちに都合が良い話ばかりに聞こえるけど、何か俺達を騙そうとしている訳じゃないよな?』
「逆だ。今回の件で君達の協力を望めなければ、私は破滅するしかない。そちらにとっては都合が良く聞こえるのかもしれないが、君達の協力を取り付けられない事の方が私には遥かに都合が悪いのだ。その辺りの話はキバヤシから聞いているのではないか?」
『……ああ。そういえば、シェリルを説得してほしいって頼まれてたっけ』
もはや勝負は大体決してしまった。
さすがに今回は状況が悪く、ここからシェリルの思惑通りに進めるのは不可能に近いだろう。
『とりあえずウダジマとかいう奴が襲ってきたら殺していい。都市の幹部なんて殺したら普通問題になるけど、その辺の後始末はそっちがしてくれるって話でいいのか?』
「……まあ、そう思ってくれて構わない」
かといってイナベの思惑通りに全て進んでいるかといえば、そうでもなかった。
ウダジマとしては今回の意趣返しに、あまりイナベに協力するならばと脅しを掛け、アキラ達に積極的にイナベに協力するのを阻止したいだけの筈なのだ。
だが、アキラは脅しを掛けられた時点で全力でウダジマとの戦いを始めるだろう。
協力関係と宣言したとはいえ、やはり周囲から見ればアキラ達がイナベの手の者と思われる事は確実。
イナベとしてもそこまでの事は望んでいないというか、さすがに政争相手を武力で排除したなんて体面の悪い事は避けたいのだが――
(止めれば、こちらに敵意を向けかねないな……)
アキラという人間の事を僅かながらに知ったイナベには解ってしまった。
止めようとした方が却って厄介になり、事を大きくする人種なのだと。
これにはイナベも苦虫を噛み潰すような気持ちであった。
「それではウダジマがそちらに手を出せば、そこから協力関係を始めるとして。今回の件の後始末や報酬の話をしていこうか」
とはいえアキラの方は手綱と呼ぶには頼りないが、ある程度動きを縛る事が出来た。
次はシェリルを納得させるべく、イナベは話を続けていく。
イナベが自分が幹部であるという立場を利用せず、大きく譲歩したからだろう。
話し合いは何とか全員が納得出来る程度の結果に落ち着くのであった。
この中で二十章に何か言いたい事があれば
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シェリル良い感じ
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