中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
シェリルへの不信
(あんな服を当たり前のように着る人間が、遺物販売店用の商品を失ったからって、そこまで動揺するものかしら?)
ミズハは悩んでいた。
というのも、カツヤとユミナの二人から警備失敗時のシェリルの様子を聞かされたからだ。
(あのカツヤが自分の失敗を引き摺るよりも、無償でも何でもいいから俺に出来る事でシェリルさんに償わせてくれ、なんて言い出すからにはシェリルさんがカツヤにさえ解る程、ショックを受けていたのは間違いないわ)
けれど、それはおかしい筈なのだ。
軽く見積もって四億は降らない額のお金を見ても、何の動揺も見せずに「これだけですか」とシェリルは吐き捨てていた。
それが倉庫一つに収まる程度の遺物を失ったくらいで、カツヤに見抜かれる程の動揺を見せるだろうか?
(しかも、そんな無茶苦茶な事をカツヤが言い出したのに、傍に居たユミナは何か言いたげにしてただけで止めはしなかった)
ミズハはユミナという人間を、ある意味ではカツヤよりずっと高く評価していた。
考えなしで突っ走りがちなカツヤと違い、ユミナは状況を判断し冷静に行動する能力に長けている。
それもミズハが見た限り、年齢を度外視しても相当に高い能力を有しているように思えた。
(そのユミナでさえ、カツヤを止めようと思えないくらいシェリルさんは動揺した)
つまり、遺物を失った事はシェリルに取って相当な痛手だったというのは、ほぼ間違いない。
(あの倉庫の大きさから見て、一億前後。良くても二億くらいの価値の遺物しかない筈。それとも特別質の良い遺物を保管していたのが、あの倉庫だった?)
仮にそうだと判断してもミズハは納得出来ずにいた。
(そもそも防壁の向こう側の人間が、そこまでお金に固執するかしら?)
一番の疑問はそこなのだ。
シェリルが着ていた服は遺物に資産的価値を見出している者なら、絶対に有り得ない方法で仕立てられた代物だ。
つまり、お金には興味がない。
そこまでいかなくても、それこそ遺物販売くらいで出るお金なんて端金に過ぎず、そこまでのショックを受けるとは思えないのだ。
(それを言い出せば、そもそも何で、そんな人間がスラムで遺物販売店なんてやろうとしてるのかって話になるんだけどね)
そもそも始まりから矛盾だらけ。
疑い出せばキリがない。
(軽く調べても疑うどころか、むしろ本当にどっかの世間知らずな金持ちの御嬢様にしか思えないのよね……)
ならばとばかりに判断材料を増やそうと、シェリルがボスを務めている事になっているスラムの派閥とやらを調べてみれば――
スラムの子どもたちに食事を与えるだけでなく、読み書きさえ教えているという情報が飛び出す始末。
どう考えても金を持て余した人間の慈善事業だ。
(仮にシェリルさんがスラム出身から成り上がった人間だとしても、スラムのガキが自分と似た境遇だからって、それで同情してそこまでする訳もないしねえ……)
ミズハはスラムの孤児を見下している。
歯に衣を着せぬ言い方をすれば、薄汚いゴミ共という評価でさえ生温く全員死んだ方が街も綺麗になるだろうとさえ思っており――
そんな人間が自分の私財を削ってまで誰かを助けるなんて信じるくらいなら、金持ちの道楽と思った方が、よっぽど信用出来た。
(理性はシェリルさんに投資すべきだと言っている。けど、勘が何かを見落としているって言っている気がするのよね)
ミズハだって数多の戦いを潜り抜け、今の地位を築いた戦士なのだ。
アキラやカツヤ達のようにモンスターと直接戦うという方向ではないものの、それでも本当に命の奪い合いとなる事も珍しくない権力争いを生き抜いてきた強者なのである。
その磨き抜かれた勘が、警鐘を鳴らしている。
シェリルには何かがある。
それがミズハの決断を先延ばしにさせていた。
(シェリルさんの身元さえ解れば、迷う必要なんてないのだけど……)
それこそ投資の価値があると確信出来れば、警備失敗の詫びという口実に、たっぷりと恩を売り込む。
逆に価値無しと判断出来たなら、警備の失敗を機に気まずくなったという雰囲気を装って、このまま手を引けばいい。
(さて、どうしたものかしらね……)
近い内に、警備失敗の補償についての話をする為にシェリル達と会わなければならない。
先延ばしにするのも、そろそろ限界だ。
決断の時が迫る中――
ミズハの情報端末に連絡が入る。
「シェリルさんに付いて、情報があるのだけど買う気はないかしら?」
それは情報屋であるヴィオラからの通信であった。