中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
ぎこちない始まり
シオリ達がアキラの見舞いに訪れてから少しばかり日が流れた。
何かの配慮か、それとも偶然か。
アキラとシオリの二人は同じ日に退院する事になった為、それならば早い方がいいだろうとシオリの休みは退院した次の日となり、今日がその約束の日であった。
――既にアキラの腕の再生治療は終わっている。
「その、別の日にしてくれてもよかったんだぞ? 昨日も少し話したけど、今日は色々やる事あるから――」
とはいえ、退院してすぐともなれば、シオリにだけ付き合う訳にもいかない。
無事に生きて帰れたなら顔を出してくれと言われていたシズカの元に早急に顔を出しておきたいし、戦場にまで駆け付けてくれたサラやカツヤ達、徒党の子ども達を引き連れてきてくれたシェリルにだって直接会って礼を伝えたい。
これ等は何よりも先にやらなければ気が済まない事だが――
それはアキラ自身の都合と心情の問題であり、シオリを付き合わせるような事ではないとアキラは思う。
「今回の件で世話になった方々へ挨拶に回りたいという話でしたね。確かにその方々の助けたい方はアキラ様だったのでしょうが、間接的とはいえ一番助けられたのは私ですので、ご迷惑でなければ共に伺いたいと昨日お伝えしましたし、納得して頂けたと思っていたのですが――」
シオリもアキラが何に申し訳なさのようなものを感じているのか、全てとは言わないが推測は出来ている。
だが、実際言葉にしたように今回の件で一番助けられたのは自分だという自覚がシオリにはあるし、そこに嘘はないものの――
(これから会う方、確かシズカ様という名前でしたね……。私の知らない女性です)
それはそれとして、アキラの女性関係が気になっており。
こういう事でもなければ、ほとんど知る機会がないであろうアキラの交流関係に触れてみたいというのも目的の一つであった。
「……本当にシオリがそれでいいんなら、俺は別にいいんだけど」
自分の都合に付き合わせる申し訳なさとは違う不満の色が、アキラの言葉に混じる。
その不満の理由どころか、自分が不満を抱いた事にさえアキラは気付かないが――
(好意からなのか、それとも最後に身を呈して庇った事に恩を感じて下さっているのかは解かりませんが――)
アキラの感情の動きに気付いたシオリは喜びで口元を緩ませた。
どうやら今回の件は、告白への返事をしてくれるだけの話ではないらしい。
アキラ本人に自覚があるかは解からないが、どうもデートに近い扱いのようだ。
誘った側としては楽しんでもらいたいという想いがあったのに、それが挨拶周りに付き合わせるという内容になってしまっては、不甲斐なさのようなものを覚えるのも仕方ないだろう。
「想いを寄せる方と出掛けられる機会なのです。多少の些事が混じるからといって、それで先延ばしに出来る程、我慢強くありませんので」
とはいえ、気付いたからといって、それを直接伝えるような真似をシオリはしない。
デートなんていう印象からは程遠いアキラが、それでも頑張って自分を楽しませようとしてくれていた。
その気持ちが見れただけで十分嬉しくて、指摘して揶揄うような空気にしたくなかった。
――そして、アキラがそういう気持ちを持ってくれていたならば、普段通りのメイド服に護身用のブレードを持った恰好でなく、服装を考えるべきだったかと僅かに後悔する。
後悔が僅かだけで済んだのは、アキラの方はウダジマの襲撃を一応警戒しており、強化服を着ている上に銃まで背負っていたからだが、それでもデートと思ってくれているなら少しでも綺麗な姿を見せたかった。
「え、と……」
けれど、自分が思っているよりずっとシオリは浮かれていたらしい。
ほとんど無意識にアキラの手に自分の手を重ねてしまった事に、戸惑うようなアキラの声を聞いて初めて気付く。
(失敗しました……)
触れるにしても、普段なら絶対に許可を取ってからにするだろう。
特にアキラは他人との不用意な接触を嫌がるタイプだ。
即座に謝ろうとするシオリであったが――
それよりも早くアキラが無言で手を握り返してきた。
「アキラ様、お嫌なら無理なさらないで大丈夫ですから」
おずおずとした不慣れな動きで、顔なんて見なくても緊張しているのが解かる。
気遣いは本当に嬉しいが、我慢させてしまう方が遥かに申し訳ない。
「……別に、シオリとこういう事するのは嫌じゃないよ」
ただ外を歩いているのに、武器以外のモノで手が塞がっているのに違和感があるだけだから、とアキラは付け加えて――
本当に嫌じゃないと告げるように握る手に力が込められた。
「……」
それがあまりに意外で。
けれど、それ以上に嬉しくてシオリは言葉が出て来ないまま、それでも気持ちを表すように手を握り返して。
二人は言葉もなく歩き始める。
落ち着かなくて、どこか気恥ずかしくて目も合わせられないのに。
けど、手を離す気は、どちらにも起きなくて。
「…………」
そんな初々しさすら感じる二人の後をアルファが追っていく。
邪魔にならないようアキラの視界に入らない背後で、表情を作る事すら忘れたような人形めいた美貌を携えて。
そこに敵意もなければ悪意もなく――
そのまま景色に溶け消えてしまいそうな儚さで、亡霊は静謐に