中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「それで今後の予定についてなんですけれど――」
シオリの事に意識を割くあまり、本来の仕事をおろそかにするような分別のない無能とはシェリルは違う。
二人の様子は確認しつつも、それを悟らせないくらい自然な流れで現状の報告を始めていく。
「ああ、今そういう状況なのか……」
シェリルから聞かされた話を大まかに言えば、ウダジマの動きが解からないこの状況で荒野に出るのは危険な為、暫くハンター稼業を控えてほしいとイナベが望んでいるという事であった。
その間の収入源として、イナベから直々にシェリルの護衛をしてほしいという話が来ているらしい。
「スラムの統治を任されるに辺り、素性も解からないスラムの子どもでは対外的に非常にマズイですので、私は都市のお偉方の誰かがスラムの女と遊んで出来た子どもだったという情報が都市側から流されます」
遊んだ方は子どもが出来た上にスラムで生き続けていたなんて知らず、子どもの方は何かの切欠で自分の生い立ちを知ってしまった。
とはいえ、自分は都市の中枢に関わる者の親類だなんて主張したところで、スラムの子どもの戯言と門前払いを喰らうか、殺されて終わりだろう。
そこでその子どもは自分は他のスラムの連中とは格が違うのだ、と都市に示そうとしたのが今回の件であり――
晴れて認められ、居もしないお偉方の御令嬢としてスラムを統治する事になったという筋書らしい。
――ちなみにイナベは、お偉方の子どもを発見し、裏で援助していたという立場になるそうだ。
「そういうのってバレないのか?」
確かにそんな素性の人間という事になっているなら、アキラに大金を払って護衛させても問題ないだろうが――
随分と後付けというか、こじ付けの酷い話のように思う。
「まあ私はスラム生まれのスラム育ちで、私自身、親の素性なんて全く解からないですからね。実際にそういう可能性自体ないとは言えないですから、一概に否定し切るのも難しい感じです」
「いや、まあ確かにそうなんだろうけど……」
「スラムの子ども達は結構信じていますよ。やっぱりボスは元々の出来が違ったんだって感じで……」
生まれた環境自体は、シェリルも他の子どもも大して変わりはない。
それでも現状では、もはや比べようのない程の格差が出来てしまっている。
そんな中、自分達でももっと頑張っていれば、何かが少し違っていればシェリルのようになれたんだろうかなんて真っ直ぐに思える人間は少ない。
それよりは、元々の出来が違ったんだから仕方ないと諦める方が楽で納得出来る話だ。
「それに疑っている人だって声を上げて批難するのは難しいと思います。それは都市に喧嘩を売るのと同じ事になりますからね」
ここでシェリルの生まれた瞬間を知っており、こんなの出鱈目だと声を上げた者が居たとしよう。
その人間は即座に都市側から刺客を送られ、その話を聞いていただけの人間さえ場合によっては巻き添えに始末される。
力ある者が白と言った以上、それが黒だろうが何だろうが白であり、それに異議を唱えられるのは、より力のある者だけなのだ。
「……その話は私が聞いてよかったものでしょうか?」
この話に一番驚いているのがシオリだ。
ミズハを手玉に取り大企業さえ動かした手腕も見事なら、ある意味では本物の令嬢と言っていいレイナよりも、遥かにそれらしい気品と風格を持った振舞いを見せるシェリルの姿を助けられた時に見ており、シェリルの事は何か訳がありスラムに居るものの生粋の令嬢だと信じて疑っていなかった。
そこに次々と飛び出してきた新情報。
口を挟む場所がなく最後まで聞いてしまったが、明らかに部外者が知っていい話ではない。
「シオリさんとは長く密接な付き合いになりそうですからね。後からバレる可能性を考えれば、先に事実を知ってもらって口裏を合わせてもらった方がいいかと思いまして」
けれど、シェリルは当たり前のように告げる。
アキラの隣に居る以上、お前は部外者扱いなんてしてやらない。
この件で裏切れば自分だけじゃなくアキラも裏切る事になるから協力しろ、と。
「……強かな方ですね」
徒党のボスとしてシオリを利用しつつ。
いつか奪い取ってやるけど、今だけはアキラの隣に居る事を許してやるという女としての宣戦布告の言葉。
(なるほど。いくらアキラ様の助力があるとはいえ、その年でスラムの統治を任される訳です)
公私どちらも捨てる事なく見事に両立する姿は、スラム育ちの子どもと言われても尚、色褪せない知性と風格を感じさせるものであった。
「おい、シェリル……」
よく解からないが、シオリを何か悪巧みに巻き込もうとしている。
そのくらいは何とか理解出来たので、止めるように声を掛けようとするアキラであったが――
「……私の一存では判断し兼ねますので、お嬢様と相談して決めさせて頂きますが、お嬢様はアキラ様に借りを返す機会が来る事を望んで居られました。確定とは言えませんが、色よい返事を期待して頂ければと思います」
それよりも早くシオリが返答する。
聞いてしまった以上は、協力せざるを得ない。
それこそここで協力出来ないなんて言えば、都市を敵に回してでもアキラを裏切ると言うようなもの。
――そして、レイナはずっとアキラに迷惑を掛けっ放しなのを気にしているのは事実であり、何か借りを返せそうな事があったら相談してとも言われている。
「ええ、それで構いませんよ。主共々、良好な関係が築けると嬉しいですね」
概ね予想していた通りの言葉が返ってきて、シェリルは満足気に微笑む。
今の立場を考えれば防壁の内側の住人に一人や二人、イナベのような上下の関係ではなく、友人のような横の繋がりを確保しておきたかったのだ。
そして、白羽の矢を立てたのがシオリの主のレイナであり、荒野でシオリを助けた際に見掛けた時から伝手を得る機会を伺っていたのである。
――求めているのは権力や同盟者といった直截な利益に関わる人間ではなく、あくまで世間話が出来る程度の次元の相手。
これは対等な友人が欲しいとか、そういう甘い話ではなく、防壁の内側の世界の常識や価値観を推し量り理解していく為の人材を求めていたという意味だ。
どれだけ表面上の礼儀作法を身に着けたとしても、結局シェリルが知っているのはスラムの世界だけ。
防壁の内側での慣習や暗黙の了解、それこそ防壁内に居る人間なら当たり前に知っている事すら何一つ解からない。
その無知とズレが、今後は致命的なまでのアキレス腱になるかもしれない。
その可能性を少しでも減らす為、防壁の外と内を知っている人間と交流を持っておきたかったのだ。
「えーと、その、何か無理とかする事になるなら断ってくれて大丈夫だぞ?」
勿論、その辺の細かい話はアキラには一切解からない。
とりあえず何かシオリがやり込められたっぽい雰囲気なので、恐る恐るそんな提案をするアキラであったが――
「これから仲良くやっていこうという程度の話ですので、お気になさらず」
「アキラの大事な人だと解っているんです。酷い事なんてする訳ないじゃないですか」
当人達から気にするなと言われてしまえば、そもそも何も理解していないのだ。
これ以上の口出しなんて出来る訳もない。
「そ、そうか。問題ないならいいんだ」
とりあえず交渉事というのは、想像を遥かに超えて面倒臭いという事だけは理解して。
それならもう全部シェリルに任せておこうと思考を放棄し、用意されていたコーヒーにアキラは口を付ける。
(結構いけるな……)
それは確かに安物で決して上質な味ではなく、最近、食事の質を少し上げたアキラには物足りなさを感じさせるものであったものの――
苦さを抑えられ甘みを加えられた味は確かにアキラの好みを完璧に抑えていたらしく、意図せず僅かに頬が緩んだ。
「……」
そんなアキラの姿にシオリは僅かに目を細め。
シェリルは勝ち誇るように満足気に微笑んだのであった。
この中で二十二章に何か言いたい事があれば
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解像度が高い
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展開が上手い
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納得が多かった
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面白かった
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アキラ初々しかった
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シオリいいな
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シズカの描き方がいい
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ユミナ頑張ってるなあ