中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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二十三章 ボスと姐さん
ボスと姐さん


「解かりました。装備の件は私の方から手を回しておきます。丁度、いくつかの企業からアキラへ装備を提供したいという話が来ていますので、どうとでも出来ますから」

 

 その後も話は続き、何か困っている事はないかと訊ねられたアキラはシズカとの件をシェリルに話したところ、事も無げに頷かれた上に――

 

「大丈夫ですよ。シズカさんという方に迷惑が掛かるような事はさせません。むしろあまりの好待遇っぷりに恐縮されてしまうくらいの契約を取り付けるので安心してください」

 

 あまりに軽く言うものだから、絶対に迷惑を掛けるような事はするなよと釘を刺そうとしたのだが、シェリルから先回りするように付け加えられては文句の一つも出て来ない。 

 

「解かった。そこまで言うなら全部任せる。頼んだぞ」

 

 一方的な頼み事をされたのに妙に機嫌良さげなシェリルの姿に僅かに違和感を覚えるも、何か自分には解からない徒党の運営的な利益があるんだろうと判断し、深くは追及しない。

 

「はい、任されました。期待していて下さい」

 

 言葉の裏に隠れたアキラの反応を正しく理解して、シェリルは僅かに表情を曇らせつつも話を続けていく。

 

 自分の好意を理解してくれないのは今更で、その事に対して驚きも衝撃も少ない。

 

 ただ自分が無条件に優しくされる訳がないと当たり前のように感じている姿が、少し寂しかっただけ。

 

(……ここはシオリさんにも期待かしらね?)

 

 自分が他人に優しくしてもらうだけの価値がある人間だと、少しずつでいいから解かってもらう。

 

 まずは自分の恋路より、アキラ自身の為にもその辺の事を何とかしていこうと、シェリルは密かに決意する。

 

「それで他には何かないですか? 出来ない事や難しい事なら無理だと言いますし、言うだけならタダなので何でも言ってくれていいですよ?」

 

 それはそれとして、談笑や点数稼ぎが出来そうな機会も逃さない。

 

 シェリルは強かな乙女であった。

 

「他に何かって言われてもって、そういえば徒党の連中がシオリの事を姐さんって呼ぶんだけど、何か知らないか?」

 

 過去に何か困っているかないか聞かれた時、何もないと答えたら凄まじい必死さで食い下がってきた事を思い出したアキラは、とりあえず何とか一つ絞り出してみる。

 

 ――さすがに、こんなの聞いたところでシェリルにだって解からないだろうとは言ったアキラ自身思っていたが。

 

「少し長い話になりますけど、大丈夫ですか?」

 

 けれど、アキラの予想に反してシェリルは事情を把握しているらしい。

 

「えっと……」

 

 てっきりカナエがシオリの事を姐さんと呼んでいるところを見て、徒党の子ども達も真似しているくらいだろうと思っていたアキラは戸惑い。

 

 元々知りたがっていたシオリに確認の為に視線を向ける。

 

「それ程深い事情があるのですか?」

 

 これにはシオリも驚いたものの、自分の呼び方にどんな深い理由があるのかと興味を覚え、シェリルに話を促した。

 

「深いという訳ではないのですが、一言で説明するのは難しいという感じですね」

 

 基本的にはシオリを救出した戦いの時に、カナエがシオリの事を姐さんと呼んでいたのを子ども達が見て、それを真似ているという認識で問題ないとシェリルは告げる。

 

 ただ、どちらかと言えば話の中心になるのは姐さんと呼ばれているシオリ本人ではなく、アキラの方らしい。

 

「そもそもアキラは私の恋人という建前で、徒党の後ろ盾をしてくれているという事になっていますよね? 本当に建前だけで手の一つも出してくれてないのは寂しいですが、そこは今は関係ない話なので置いておきますけれど……」

 

 ここで重要なのは、じゃあシオリはアキラの何なんだという話である。

 

 好奇心の面が多少あるのは否定出来ないが、それ以上に徒党にとってアキラは生命線なのだ。

 

 それはシェリルが都市との関係を深くしたからといって急に認識が変わる訳もなく、シェリルからシオリに乗り換えようとしているなんて状況ならば命綱を失う直前なのも同然の状況になる訳で気になるのも当然なのだが――

 

「私が積極的にシオリさんを助ける場面を見た事で、どうやら私とシオリさんは同類のようなものだと解釈されたみたいですね」

 

「同類?」

 

「自分で言うのもアレですけど、アキラって建前では私の恋人って事になっていますけど、普段の私の態度って恋人へのモノって言うには素っ気ないじゃないですか。だから身体だけは、とても気に入っているみたいに解釈されていると言いますか……」

 

 普段の態度だけならば、警備で雇われているユミナへの方がよっぽど情が深いと思っていた子ども達は実のところ結構多い。

 

 けれど、思い入れも何もないならアキラがシェリルを手助けする理由がそもそもない。

 

 ならば裏で相当よろしくしているのだろう、と部下達が解釈するのは自然の流れだろうとシェリルは説明する。

 

「それで私はハンター稼業とか手伝えませんし、普段アキラと一緒に居られないですよね? それで外で急にしたくなった時の為に、普段から傍に置いているお気に入りがシオリさんだと解釈したみたいなんです」

 

 要するに拠点等の落ち着いた場所で楽しむ用の相手がシェリルで、外で連れ回して好きな時に楽しむ相手がシオリなのだろうと部下達は解釈した訳だ。

 

 ――シオリの服装も何かそういう店から派遣されてそうな雰囲気を醸し出しており、誤解を加速させた理由の一つだろう。

 

「ほら、それだと私もシオリさんもアキラのお気に入りっていう同類というか同格みたいな認識になっちゃいますよね? それなのに私はボスなんて敬った呼び方なのに、シオリさんだけ気楽に名前を呼ぶのは畏れ多かったみたいで……」

 

 その結果、自分達よりシオリは格上なのだと示す為の呼び名として落ち着いたのが『姐さん』という事なのだろう。

 

「推測だけで確認は取ってないですが、多分概ね合っていると思いますよ」

 

「…………」

 

 シェリルの言葉を聞かされたアキラは、何とも言えない表情で黙り込むしかなかった。

 

 確かに筋自体は通っているようには思うが――

 

(俺ってそんな女にだらしない奴に見られてるのか?)

 

 荒野に性欲処理用の女を連れ歩くとか、頭がおかしいにも程がある発想としか思えない。

 

 そして、自分はそんなに頭がおかしい程の節操無しに見えるのだろうかと悩む。

 

 ――そこに関しては、アキラさんだし逆に有り得るかと徒党の子ども達からは思われていた。

 

「えーと、その、シオリ。すぐにシェリルに誤解を解いてもらうから――」

 

「その、個人的には誤解は解かない方がいいと思います」

 

 そこで自分以上に文句を言いたいのはシオリの方だろうと思い誤解を払拭しようとするアキラだが、申し訳なさそうな表情でシェリルが提案を遮る。

 

「シオリさんとの誤解を解こうとすると、じゃあ結局アキラとシオリさんとの関係は何なんだって話になりますし、それでアキラとシオリさんが恋人同士だって事になると今度はそれじゃあ私とアキラとの関係の話にまで飛び火しないとは言い切れません」

 

 何度も言うようだが、これは下世話な話だけではない。

 

 徒党の子ども達からすれば、アキラの恋路は己の命に関わる重要な問題なのだ。

 

 直接アキラに聞くなんて事は恐ろしくて出来ないだろうが、それでも色んな方面から探りを入れずには居られないだろう。

 

「アキラはただ守ると約束してくれただけで恋人でも何でもない私を守り続けてくれています。その事を知ったら、約束さえ出来れば自分だってアキラに守ってもらえると思って、色んな人達が殺到する可能性があります」

 

「確かにそうかもしれないけど……」

 

 言い分自体は至極納得出来るものではあった。

 

 だからと言ってシオリが自分の性欲処理要員だなんて扱いを受けるのなんて、許容出来る訳もない。

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