中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「……今の言葉に私の打算がないとは言いません。名実共にアキラとシオリさんが恋人同士だと認知されれば私が入る隙間がなくなるから誤解が解けるのは困りますし、そういう関係だと思われていた方が私としては有難くあります」
「……そうなのか?」
「はい。例えば事実無根の事で誤解されているのは申し訳ないので、実際に手を出してみませんかと提案し易くなりますし、それこそアキラとシオリさんさえよければ今すぐ二人同時に楽しんでほしいくらいです」
実際、そういう展開を望んでいたからこそ、工事中の仮住まいでしかないというのにわざわざ大きい高級ベッドを運び入れ、簡易とはいえシャワールームを仮住まいに設置しており――
徒党の子ども達は間違いなく、今アキラ達は『そういう事』の真っ最中だと思っている筈だ。
「ですが、アキラがどうしてもそんな誤解は許せないと言うなら、私の方でどうにかします」
誤解されたままの方が徒党のボスとしても、アキラに恋する女としても何かと都合は良いのは事実。
けれど、アキラの不興を買ってまで噂を守る必要なんてないし――
何よりそんな打算や駆け引きだけの付き合い方をアキラとしたくはなかった。
アキラに好かれ関係を進める為なら百の策を巡らせ、千でも悪巧みをしてみようとは思うが、それでアキラを騙したり縛り付けるような真似は絶対したくない。
(そういう面倒臭い付き合い方は、イナベやヴィオラとでもしてればいいのよね……)
少なくとも打算も何もなく自分を守り続けてくれたアキラに対して、そんな対応は失礼にも程があるし。
シェリル自身、アキラの前だけは素直な一人の人間で居たかった。
――それはそれとして、素直に欲望のまま、アキラを手に入れる為の策略自体は張り巡らす事を止める気はないのだけれども。
「それでどうしますか? 誤解を解いた方がいいなら今すぐでも解きに行きますし、誤解じゃなくて真実にしてくれるなら今すぐにでも奉仕しますよ?」
出来れば後者を選んでほしい。
それでも、アキラの嫌がる事はしたくない。
シェリルは本心から告げ、アキラを求めて言葉を紡ぐ。
「アキラ様に問題がないのでしたら、私は誤解されたままで構いませんよ」
シェリルの言葉に答えるように口を開いたのは、アキラではなくシオリであった。
特に不快感等を感じている様子もなく平然と放たれた言葉にアキラが驚く。
「嫌じゃないのか?」
「身体だけの関係と思われるのは確かに気に掛かりますが、それでも私とアナタとの仲が深いモノであると周知される事自体は、私としても望ましい事ですので」
今はアキラと共に居るシオリだが、今日が終わればレイナの護衛に戻る事になり、アキラの傍に居られる機会は、それ程多くはないだろう。
それならば、どのような形であれ自分とアキラの仲が認知されている方がマシというもの。
(これで貸し借りなしです)
けれど最大の理由は、女としてシェリルに借りがあったからだ。
自分の遺言めいた言葉がどれだけアキラを傷付けていたのか、シェリルに聞かされていなければ、おそらくシオリは一生気付く事は出来なかっただろうし。
アキラとシオリの関係は擦れ違ったまま終わりを迎えていたかもしれない。
(それを解からない方ではないでしょうに。それでも傷付いたアキラ様を放っておけず私に誤解を解くように促してくれたのです……)
そんな大きな借りを抱えたまま、シェリルに誤解を解いてもらうのは、あまりにも気が引ける。
――というのも、誤解をシェリルに解いてもらうという事はシェリルの口からアキラの本命はシオリであり、シェリルは横恋慕しているような状態だと語らせるようなもの。
そこまで厚顔無恥な事はシオリには出来なかった。
「むしろ先程も聞きましたが、アキラ様は嫌ではないのですか? これではアキラ様が女性にだらしない人だと誤解されたままになってしまいますが……」
「まあ、アレだ。いい気がしないのは確かだけど、二人がその方がいいって言うなら気にする程でもないよ」
「噂を聞いて他の女性が色仕掛けを仕掛けてくる可能性等もありますが……」
「その時は俺にはシオリが居るからって答えさせてくれ」
そもそも色仕掛け云々に関しては、既にキャロルが思い出したように仕掛けてくる状態であり、はっきり断れる理由が出来る分、却ってアキラとしては有難いくらいだ。
「私の名前を出してくれてもいいですよ?」
「シェリルにそういう迷惑を掛ける気はないよ」
むしろ自分の名前こそ虫除けに使ってほしいとばかりに、シェリルが自己主張するがアキラは考えるまでもないという態度で申し出を拒否する。
そこには明確なまでにシオリとの意識差があったが――
(ま、今はこんなものかしらね?)
現状では一歩も二歩どころじゃなく遅れを取ってしまっている事なんて、シェリルだって解っている。
だからアキラから釣れない態度を取られたところで、今更衝撃を受ける事も立ち止まる事もないというか、自分が恋人になれたなら、アキラはこんなに一途に愛してくれるのかと、シオリから奪い取れた後の未来を想像して意気を上げたくらいだ。
(思ったよりは手強い感じね)
それよりもシェリルが驚かされたのは、シオリの強かさの方である。
遺言の件で恩を感じてくれており、その返礼として誤解をそのままにしてくれたのは真面目そうな雰囲気から予想はしていた。
それでも女としての対抗心みたいなものは強い雰囲気があったし、三人で一緒に楽しみましょうなんて事を自分が言えば、アキラさえいいなら私だって構いませんなんてムキになって言い返してくれるだろうと思っていたのに――
(そこには一切触れない、か)
そんな事を言ったところで、じゃあ今から三人で楽しむかなんてアキラが言う可能性なんて万に一つもないだろう。
けれど、シェリルもそういう事をしてもいい相手だとシオリから直々に許可をもらったという事実だけは残る。
それならば肉体的な誘惑は格段に、やり易くなっていた筈だ。
(さすがに貸し一つでそのラインは越えさせてくれる程、甘い女じゃないみたいね……)
もし積極的に誘惑出来るのならば、アキラの気持ちを自分に向けられる自信が今のシェリルにはあった。
これは別に自分の魅力にそこまでの自信がある訳ではない。
というか、そんなものは今まで一切靡いてくれなかったアキラの前では木っ端微塵に吹き飛んでいる。
あるのは己への自信でなく、アキラとシオリの間に感じる隙間に割り込む自信。
自分への借りが理由で誤解をそのままにしてくれたとはいえ、アキラとの仲が周囲に広まってほしいという言葉もシオリの本心からの言葉だったとシェリルは気付いている。
それならば予想通り、普段はアキラとシオリの活動は別々であり、それ程一緒に居る時間は多くないだろうし、これからも特に変わる予定はない筈。
その上、シェリルが見たところ、確かに二人は憎からず想っているようには感じるが、まだ確固たる絆が結ばれているようには見えない。
(それなら定期的に会える私に分があると思ったんだけど……)
おそらくシオリはそこまで理解しているからこそ、アキラさえよければ三人で楽しみましょうという言葉には触れなかったのだろう。
三人でなんて破廉恥だなんて常識的な言葉で断ったとしても、シェリルと比べられるのを避けたように見えたり、アキラとそういう事をするのに抵抗があるように見えるし。
かといって、シェリルの申し出を受けるような言葉を言ってしまえば先述した通り、シェリルはそういう事をしてもいい相手だとシオリ自ら許可した事になってしまう。
(癪だけど今回は負けにしといてあげる)
そんな中、あえて無視して触れないという道を選んだシオリに、シェリルは内心だけで称賛の声を送り、ここは引く事にする。
焦ってアキラやシオリの印象を悪くする意味なんてない。
現時点でシオリからアキラを奪い取る術がない以上、ここは耐え忍び奪い取れる機会を待つ事こそが最善の選択なのだと解からない程、シェリルは愚かではないのだから。
「シオリさんも何か困っている事や協力してほしい事があれば、言うだけならばタダですから遠慮なく伝えて下さいね。アキラの大切な人なんですから余力があれば優先して対応させて頂きますので」
それでも最後の悪足掻きとばかりにそれだけ告げると、シェリルは極上の笑顔を浮かべる。
それは年頃の男なら見惚れずには居られない程に完璧な笑顔であったが――
「お気になさらず。アナタにそこまでして頂く義理は私にはありませんので」
シオリは冷ややかに聞こえる程静かに、シェリルの申し出を断ったのであった。
この中で二十三章に何か言いたい事があれば
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解像度が高い
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展開が上手い
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納得が多かった
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アキラもっと頑張って
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これが正妻戦争ってヤツか……
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シオリの反応がいい
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シェリルが色々元気で嬉しい