中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
『突然、どうしたの?』
何の動揺も見せずに答えたアルファを、アキラも同じく何の動揺も見せず睨むでもなく静かに直視する。
「アルファ、そういう誤魔化しは無しだ。やったならやった、勘違いなら勘違いだって答えてくれ」
アキラが持つ嘘を見抜く力はアルファに拠るものであり、そのアルファ自身の嘘を見抜く能力なんてものは当然持っておらず、嘘を吐かれたのなら見破る術はない上に、証拠の一つもありはしない。
それでも、アキラは絶対の確信をもち、アルファを真っ直ぐに見詰めて動かない。
(いつから計画してたのかまでは解からない……)
アキラ自身に悪巧みする知恵や性根もなければ、見破る力だって同じくない。
その手の力に長けたシェリルやヴィオラどころか、下手すればその辺の子どもの方がまだマシなくらいに不得手な方だと言えるだろう。
けれど、そんなアキラだからこそ磨かれた力がある。
それは悪意や敵意といったものを感じる能力。
スラムは何の力も後ろ盾ない上に、策略を働かす頭もない子どもが一人で生きていける程、甘い場所ではない。
何度も騙され、叩きのめされた末に身に付いた独特の勘。
シェリルがシベアの残党に襲われる事さえ察知していた程の死の危険を嗅ぎ分ける感覚が、はっきりと告げているのだ。
間違いなくアルファはシオリを殺そうとしていた、と。
「……」
格納庫に静寂が訪れる。
誰も身動き一つしないまま、数秒の時が流れ――
『ええ、殺そうとしたわ。シオリが生きていれば私の依頼達成の最大の障害になると判断したから』
アルファは悪びれた様子も見せず、はっきりと告げる。
アキラの指摘は全て事実であり、自分は間違いなくシオリを殺そうとしたのだと。
「……どうして動く前に言ってくれなかった?」
いつから計画していて、どういう手段で殺そうとしたのかなんて事は、アキラにはどうでもいい話。
理由だって予想通りで尋ね返すまでもないが――
それでも納得出来なくて。
『言えば契約を破棄されると思ったからよ。そもそも今回の件は死ぬ可能性の方が遥かに高かった。そして、死んだら私が前倒しで払っている依頼料を踏み倒す事になると解かっていながらアキラは向かったわ」
「……ああ、言い訳のしようもない」
『それでまた同じような事されて死なれても困るから、今後はシオリとの付き合いを考えてなんて言えば、それなら私との依頼は破棄すると言われ兼ねないでしょう? バレないようにシオリを始末するのが一番依頼達成率が高いと思ったわ』
「そう、か……」
項垂れたように頷くアキラの姿に、アルファは疑問を覚えずには居られない。
(怒らない? 想定とは随分と違う反応ね)
シオリを殺そうとした事がバレた瞬間に、凄まじいまでの負の感情を抱かれるだろうと想定していたし、そのまま契約破棄されるだろうと計算しており――
怒鳴り付けるでもなく、傷付いた姿を隠しもせず項垂れるのは想定パターンの中にはなかった。
「……」
そして、シオリの反応もアルファの想定とは大きく掛け離れていた。
アルファの姿など欠片も見えていないだろうに。
まるで視線だけで射殺そうとでもするかのような形相で、アキラが銃を向けた先、つまりアルファの方を睨み付けている。
(シオリの今までの行動パターンから考えて、レイナを殺そうとしたのならともかく、自分が殺され掛かった事で、ここまで怒るとは思わなかったけれど――)
「アルファ。初めて会った時の頃を覚えているか?」
僅かに疑問を覚えたアルファの意識を、アキラの言葉が呼び戻す。
『全て覚えているわ。けど、それだけじゃどれの事を言っているかまでは解からないわね』
「えーと、信用出来るならアルファと契約する。少しでも怪しいと思ったら、そこで終了って言ってた頃の話なんだけど――」
それは本当に出会った頃の話。
アルファが自分を踏み躙り、騙そうとしている相手か解からず持ち掛けられた契約を断ろうとした時だ。
お試し期間として暫くサポートし、信用出来たら契約するし、怪しいと思った時点で終了だという約束を交わしていた。
『私との契約を破棄したいという事ね』
今回の件で信用出来なくなったという話なのだろう。
特段、アルファに驚きはなかった。
シオリの殺害計画がバレた時点で大なり小なり流れに違いはあれど、それでも契約は確実に破棄されるだろうと予測しており、今回の試行も失敗だったと認識して終わりを受け入れるつもりであった。
「いや、先払いで報酬は貰ってるんだ。アルファが破棄したいって言うならともかく、俺の方から契約を破棄する気は今のところはないよ」
けれど、アキラの口から飛び出したのは完全にアルファの想定していなかった言葉。
数万、あるいは数億以上の予測パターンのどれにも該当しないもの。
「もしアルファがシオリを殺す気なんてなかった。俺の勘違いだって言ってたなら、破棄してたかもしれないけど、俺を騙すならともかく、隠れて色々してるのなんて今に始まった事じゃないからな」
出会った時にウェポンドッグの群れに襲われたが、後になって考えればあの場所にあれ程の群れが居たのは不自然だし――
今回のシオリを救出した件やミハゾノ遺跡でのモニカとの戦いだってそうだ。
あまりにも都合が良いタイミングでアルファは現れたが、単に自分の価値を一番売り込める時まで姿を消していただけ。
アルファが裏でこそこそと何か企み、動いていた事に全く気付かない程にはアキラも鈍くない。
「出会った頃、指示に従わずに死に掛けた俺にアルファは言ったよな。自分の指示に不満があるなら、どうして言ってくれなかったのかって」
契約を破棄しないのも想定外なら、悪巧みに気付いていながら気にしていなかったのもアルファにとっては想定外でしかなく――
あまりに想定外過ぎる事態の連続に固まったまま動かないアルファを尻目に、アキラは話を続けていく。
「俺だって同じ事言いたいよ。そりゃあ今回は踏み倒す直前だったし、アルファの依頼だけを最優先もしてる訳でもないから心配になるのは解かるけどさ、変な事する前に相談してくれ。出会ったばかりで信頼も何もない訳じゃないんだから」
アキラが項垂れた理由は、ただ一つ。
相談もされない程に自分がアルファから信用されていなかった、それが悲しかっただけ。
確かに依頼を放棄すると疑われても仕方ない態度や行動を取ってしまった自覚はあるし、過去にあまりサラ達の事を気にし過ぎて自分の依頼をないがしろにするようなら看過出来ないと警告もされていたが――
それでも信用したら契約すると約束していたのだ。
自分と同じとまでは言わないまでも、少なからずアルファも信用してくれているだろうと無意識に思っていただけにショックは大きかった。
あれ、出会いってそんな感じだったっけと疑問に思った方。
出会いは小説の方の一巻でなく、漫画の方の一巻を参照してもらえれば幸いです。
漫画の方の出会いは色々な公式サイトで見られるので、気になった方はそちらをチェックし、その後コミックを買うのがお勧めです。